十六日目 特訓の日々
次の日、いつものように俺は森へ山菜を取りに行った。だが、今日は1人だ。蘭は頬の傷が癒えるまで家で待機だそうだ。
「菊吉ー!」
その声を聞いて驚いた。いるはずもない人からの呼びかけ。驚かない方が難しい。
「弥三郎?!なんでここに居るんだよ!」
「其方に会いたくて城から抜け出して来たのだ。」
「そう言ったって...。」
「まぁ良いでは無いか!ほら、共に稽古をしようぞ!」
なるほどこいつの目的は俺から剣術を学ぶことか。と言われても昨日の今日で剣術が完成するはずもなく、今日は普段と同じ練習をしようと思っていた。それにしても弥三郎が妙にキョロキョロしている。
「そんなに見渡して何を探しているの?」
「今日は蘭殿はおらぬのか?」
「来てないよ。家で大人しくしてる。」
「そうか。」
その残念そうな顔を見て、本当に俺に会いに来たんだよな?って疑いそうになった。いや、実際疑っていた。
「菊吉、始めよう!」
それからは楽しい時間を過ごした。5年前に若虎とした組手を弥三郎とした。だがレベルの桁が違う。指南役から刀の使い方を教わっている弥三郎は強かった。
「はは、楽しい!やっぱり試合は最高だ!」
「試合?なんのことじゃ?」
「いや、こっちの話だ!」
俺たちはひたすら刀を交えた。時間を忘れ、何度も何度も...。
「お主はやはり強いの。」
「弥三郎だって刀を扱うの上手いじゃないか。」
「お主ほどではござらんよ。それにこの頃は槍の稽古しかやっておらん。」
「これから戦に出るなら槍の使い方も何とかしなくてはなぁ。」
「そんなことより早く僕に剣術を教えておくれよ!」
「いや、まだどんな風にするか決めてないんだよ。昨日の今日では出来ないよ。」
「夕刻だな。僕はそろそろ帰るよ。外に出ていることがバレたら大変だからね。」
結構時間たってると思うんだけど大丈夫かな?と思いながら弥三郎を送ろうと立ち上がったがーーー。
「見送りは結構じゃ。僕1人で帰れる。」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だ!」
そう言って弥三郎は城の方向へと姿を消して行った。
「あ、やべ、山菜全然取れてないじゃん!」
その日は家に着くと最初に母さんからお叱りの言葉を貰った。そして次の日。
「やぁ、菊吉!」
「今日も来たのか?!」
「なんだ、不満か?」
「そんなことは無いよ。」
次の日も弥三郎は来た。毎日では無いが週に4回ほど、頻繁に訪れるようになっていた。そして蘭の傷が癒え、監視役が再開した頃。
「蘭殿!!」
「や、弥三郎様?」
「久しいな!どうだ傷の具合は?」
そう言って弥三郎は蘭の頬に手をやる。
「跡が残っておるな。」
「もう大丈夫です。痛みはありません。」
2人の周りがキラキラして見える。2人の世界に完全に入り切ってるなこれ。
ごほん!と俺が咳払いをすると弥三郎はパッと手を引っ込め何事も無かったかのように接してくる。
「やぁ、菊吉。今日も来たよ!」
「見りゃわかる。結局君は俺目的なのか?それとも蘭目的なのか?」
「うう、もちろん両方さ!」
「なんだそりゃ。まだ山菜を取り終わってないから少し待っていてくれ。」
それから山菜を取り終え、組手をした。それが1週間、1ヶ月、半年と続いて行った。とても充実した日々だった。楽しかった。今まで1人で特訓をしてきたから、誰かと一緒にするのがとても楽しかった。そんな日々が続くと思っていた。だが、ある日を境に弥三郎は姿を現さなくなった。




