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(旧)天下一の向日葵  作者: 茶眼の竜
第一章 転生天下人
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十五日目 褒美と約束

弥三郎(やさぶろう)と共に入城した俺に、最初に待ち受けていたのは門番による罵倒(ばとう)だった。


「弥三郎様!ご無事でしたか!!早く殿に知らせよ!」

「はっ!」

「ささ、弥三郎様こちらに。」


弥三郎は今来た小姓(こしょう)に連れられて城に入っていった。俺もその後をついて行こうとした時、俺の前に2本の槍の壁が立ち塞がった。


「貴様はなんじゃ。弥三郎様の後をコソコソと付け回して。」

『いや、だいぶ堂々としていると思うんだけど。なんならここまで隣を歩いてきたの見えなかったのか?』

「俺の名は桃岡(ももおか) 菊吉(きくよし)と申します。弥三郎様を助けた褒美を頂きに参りました。」


2人の門番は顔を合わせ大爆笑した。


「ははははは、貴様如き小童(こわっぱ)が助けただと?偽りを申すならもう少しマシなことを言え!」

「いえ、事実です。このままでは弥三郎に置いていかれます。ここを通していただけませんか?」

「農民風情が!貴様のような奴、ここを通す訳には行かん!これ以上居座るのなら切り捨てるぞ!」


門番は顔を赤くしてこちらを睨んでくる。それに答えるようにこちらも睨み返した。


「農民だからなんだ。お前も俺と同じ人間。生まれが違うだけで何が違う。」

「どうやらこのガキには理解出来ぬようだな。ならば死ね!」


そう言って腰に指していた刀を抜き、俺に斬りかかってきた。


「ーーまてっっっ!!」


その声は城に入っていった弥三郎だった。


「貴様ら何をしておる!菊吉は僕の友だ!その子に手を上げる意味分かるな?」

「な、この農民風情が...友ですか?」

「風情とはなんじゃ!貴様こそ足軽風情が僕に楯突こうと申すのか?!」

「し、しかし...。」


そう言って刀を下ろし俺を通してくれた。弥三郎がこんな大きな声を出したのが初めてなのか、そいつはもちろん周りにいた小姓がとても驚いていた。


「僕を拐った(やから)を森で縛っている。今すぐ捕らえに行ってきてくれ。」


弥三郎はそう言い残して俺と共に小姓について行った。


「もぉ少し早く助けてくれたら良かったのにー。」

「ふと後ろを見たら姿が見えなかったのだ。嫌な予感がして戻った時、足軽が斬りかかっていたので声を出した。お主、危うく斬られるとこだったんだぞ!」

「ははは...。」

「笑い事ではない!」


実際止められる自信はあった。そんな話をしながら弥三郎の後をついて行くと、こじんまりとした部屋に着いた。


「ここは?」

「ここは僕の部屋だ。」


そこには50冊ほどの本と(すずり)、筆、紙があった。床の間には掛け軸がかけられていて、その下にはとても高そうな壺が置かれていた。そして障子を開けると、とても綺麗な庭が広がっていた。


「すごい...。」

「ふ、ふ、ふ。我が屋敷の庭師はとても腕があってな。父上がなんとか土佐まで呼んできたのじゃ!」


そんなたわいの無い話をしていると小姓がやって来てーーー。


「若様、殿がお呼びです。」

「うむ。」

「...その、お連れの方もご一緒にとのこと。」

「わかった。行こう菊吉。」


そう言って、俺を連れ出し、小姓の後をおった。小姓が、確認を取る上少々お待ちくださいと言い、先に行った。


「殿、若様とお連れの方がお見えです。」

「通せ。」


その命令の元、(ふすま)が開かれ、よく大河ドラマとかで見る大名が座っている部屋に通された。ただ一つ違うとすれば、右側に広がる庭だ。それは弥三郎の部屋で観たものよりはるかに綺麗だった。たが、俺は庭に見とれる暇もなかった。


「父上、紹介致します。こちらが僕を助けてくれた桃岡 菊吉です。」


そこには、異様な威圧を放っている男がいた。顔には複数の古傷があり、沢山の死地を超えてきたのがわかる。髪は赤紫色で少し淀んでいる。そう、この男こそ弥三郎の父、長宗我部(ちょうそかべ) 国親(くにちか)だ。


「桃岡 菊吉、苦しゅうない。面を上げ。」


俺は礼儀も作法も知らない。だが前世で見た大河ドラマを真似してそれっぽく振舞った。


「お初にお目にかかります。此度はこの様な場を設けていただき、有り難き限りでございます。」

其方(そなた)が弥三郎を救ったとは真か?」

「父上!!」


やはり国親も俺が助けたと言うことを信じていないようだった。


「恐れながら、真にございます。農民ではありますが、日頃から鍛錬をしております。」

「ほう。それはなぜじゃ。」


俺は国親と目を合わせて言った。


「私には夢があります。戦に出て、武功を上げ、天下に名を轟かせたいと思うております。」

「農民からか、そのようなこと出来ると思うておるのか?」

「はい。」

「そうか。」


俺の意思が伝わったのか、国親は笑みを浮かべた。


「わはははは、良かろう。其方の事を信じるぞ!」

「有り難きお言葉。」

「褒美をやらねばいかんな!何が望みじゃ?」


最初に受けた威圧感はもう無く。笑みを浮かべた国親はどこにでも居そうなおっちゃんになっていた。


「今私は、10になったばかりでございます。3年後、元服の儀を終えた暁に家臣として迎えていただきたく思います。」

「農民から家臣へか...。」


少し国親の顔が曇った。


「一気に家臣に迎えることは、ちと厳しい。まずは足軽として仕えよ。褒美の件は一つの貸しとして、わしの心に留めておこう。」

「承知致しました。」

「弥三郎もそれで文句はあるまいな。」

「はい、父上。」


そこで国親との対面は終了した。


「いやーまさか菊吉があそこまでかしこまった喋り方を出来るなんて思ってもみなかったよ!どこで知ったんだい?」


嫌なところを突いてくる。剣術の件といい、弥三郎は勘が良いのか悪いのか。


「父に教わったんだよ。覚えておいて損は無いからなと。」

「ふーん。ま、いいか!それよりこれから城を案内してあげるよ!」

「いや、すまないが流石に帰らないとまずいかも。」


空は赤みがかって日が沈みそうだった。


「もう夕刻か。菊吉、今日は楽しかったぞ!」

「こちらこそ!君と出会えてよかった。」


国親との対面を終えた足で門まで歩き、弥三郎と別れの挨拶をした。


「弥三郎、また会おうな。」

「すぐ会えるさ!」


そう言って俺は城を後にした。

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