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変態イビルウィスプ

随分と寄り道をしたが、二人が到着したのは自然にできたと思われる洞窟だった。洞窟内の鉱石は武器の材料として重宝されるので、お使いクエストとして多くの冒険者が訪れている。しかし、平原よりも危険度が高いモンスターが生息しており、冒険者が犠牲になる事例も多い。なので、討伐クエストの舞台としてもメジャーとなっていた。


 いかにもなダンジョンを前にして勇んでいた優は及び腰になる。引き返そうにも、探知機はまっすぐに洞窟内を指し示しているのだ。クロナに挑発をしかけた手前、臆病風に吹かれてなどいられない。

「よっしゃ、いくぞ!」

 大仰に鼓舞すると、優は洞窟内に足を踏み入れるのであった。


 実のところ、洞窟に入る瞬間まで優は失念していたことがあった。観光名所になっているところは別として、自然そのままの洞窟には光源が用意されていないのだ。なので、真っ暗闇のまま進まざるを得なくなる。

 対応策としてはランプで照らすのが王道だ。しかし、ランスロッドで所持金を使い果たした優にそんな文明の利器を買う余裕はない。このままでは秘伝マシン05を使わずにイワヤマトンネルを抜ける苦労を味わうことになる。かと思われたのだが、

「もう、暗いな。懐中電灯使わないと進めないじゃん」

 クロナがあっさり灯を用意してくれた。


「お前のおっぱいって、懐中電灯まで入ってんだな」

「三日分の食料や水。毛布にティッシュペーパーにトイレットペーパー。常備しておくんは基本だかんね」

「それって災害対策の常備品なんじゃ」

 死神ならば大地震が起きても余裕で生き抜いていけそうだが、念には念を入れているということだろう。人間である我々も見習わなくてはならない。


 予想外の形で役立った懐中電灯で優とクロナはアシュリーを追跡する。明確に階段があるわけではないが、下層に向かっているというのは把握できる。一切舗装されていない通路を進むだけで精いっぱいで、外敵と戦う余裕などなかった。

 しかし、モンスターは優たちの事情などお構いなしだ。狭い通路を塞ぐように青白いもやみたいなモンスターが通せんぼした。ウィルオウィスプとそっくりだが、一回り大きく邪悪そうな笑みを浮かべている。単純に考えればウィルオウィスプの上位種だ。下級のアンデットとはいえ決して油断はできない。


 とりあえず実態を調べようと優はモンスター図鑑をめくる。だが、そうしている間にクロナはデスサイズを構え、謎の霊魂に喧嘩を売った。

「とっくの昔に死んでるのに、いつまでもここに居ちゃダメだかんね。最近の霊媒者はパンチ一発で除霊してくるから、さっさと地獄行った方が身のためだよ」

「そんな除霊するのはゆらぎ荘に住んでるやつだけだと思うぞ」

 明らかに優たちの言葉は理解していないが、挑発されていることは受け取ったらしい。謎の霊魂は牙を剥き出しにして襲撃してくる。


 丸呑みにされてジエンド。なんて、あっさりいくわけがない。クロナは流れるような手つきでデスサイズを出現させると鮮やかに一閃をお見舞いした。優の出る幕もなく勝負は決してしまったか。


 否。霊魂は驚いた素振りをしたものの、全くダメージを受けていない。ムキになってクロナはデスサイズを振るうが、霊魂はむしろ喜々として刃に飛び込んでいく始末だ。一撃必殺でモンスターを屠ってきたクロナの主力武器を耐えるなんて、実はとんでもなく強い奴なのではないだろうか。だとしたら、優のランクアップ作戦にふさわしい相手となる。


 自然とクロナがデコイになってくれているので、優はモンスター図鑑で敵の正体を探る。以前、ウィルオウィスプが掲載されているのを発見したので、上位種も収録されているはずだ。

 優の予想通り、霊魂と酷似したイラストを探り当てる。上位種という予想はあながち間違ってはいなかったようである。


イビルウィスプ

危険度ランクD

しょうもないイタズラを仕掛けてくるけど、物理攻撃が全く効かないから厄介だぞ。でも、浄化魔法には滅茶苦茶弱いから「セイント」を覚えていれば負ける相手じゃない。


 クロナは力任せにデスサイズを振るっているだけなので、物理攻撃を仕掛けていると判断されてしまう。いくらとんでもない攻撃力を誇っているとしても、物理攻撃そのものを無効にされては分が悪すぎる。

 しかし、図鑑はきちんと打開策を開示してくれた。

「クロナ、魔法の教本を出してくれ。そいつがあれば勝てる」

「分かった」

 イビルウィスプに翻弄されているため、半ば投げ捨てるように教本を渡す。実戦で試すのは初めてだが、やるしかない。


「あいつの弱点は浄化魔法だ。俺がセイントを発動させるための呪文を唱える。その間、あいつを足止めしといてくれ」

「ええ、こいつと遊んでなきゃいけないの」

 不満丸出しだったが、イビルウィスプの方からじゃれてきた。すかさずデスサイズを一閃するが、すり抜けてしまいダメージは無い。


 ここのところ毎日呪文を唱えているので、つっかえることなく読み進めていく。問題はクロナがきちんと時間稼ぎをしてくれるかどうかだが。

「ねー、ちょっとやめてよー。そんなとこ引っ張らないで」

「汝、魔力の恩恵を受けんとするものよ。大いなる流れに身を任せよ」

 優が呪文を唱え始めた矢先、イビルウィスプはクロナの着物を引っ張った。それも裾というやたら際どい所を。


「滅撃にあたり障壁となるのは邪念なり。邪な心を捨てよ。そして、祈るのだ」

「や~だ~。もう、あんたなんかにパンチラを披露するつもりはないんだからね」

 執拗に裾をめくろうと付きまとっている。どうやら、ひときわ性欲が強い個体らしい。クロナの異常な攻撃力からすればとっくの昔に壁に叩きつけられているはずだが、物理攻撃無効の特性が優位に働いてしまっているようだ。


「己が無力を認めてこそ、多大なる力が得られん。解放せよ。汝には力がある。理を知り、御言葉に従いし者のは力が宿る」

「ちょっと~いい加減にしてよ~。あ~ダメ、ちょ、マジで。ゆーくーん! こっち見ないで~」

 優は心の中で絶叫した。

(うっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)

 しかし、実際に声には出せない。なぜなら、これまで唱えて来た呪文が水の泡になってしまうからだ。

 もう少しで詠唱が完了するのだが、クロナもまた下着が御開帳寸前となっていた。いくら平生を保とうとしている優でも、御開帳してしまったら自我を保てるかどうか分からない。まさに時間との勝負。


「そなたの導きにより、粛清を与えるのだ。今こそ叫べ。生を受けた瞬間を想起し、身に受けた魔導を放出するのだ。滅するがいい。己が心のままに」

 競り勝ったのは優だった。ランスロッドの先端に光が宿る。発動準備完了なのは確認せずとも分かる。

「覚悟しろ、イビルウィスプ! 俺の魔法でお前を祓ってやる」

「遅いよ、ユー君」

 喜々として蹴りをかましてイビルウィスプを引きはがす。勢いからして、本気になればいつでも脱出できたのではないだろうか。ちゃっかり舌を出した辺り確信犯だろう。


 目標を失ったイビルウィスプは不本意そうに優へと標的を定める。対して優はランスロッドを大きく振り回し、少年漫画の主人公になった気分で見栄を切った。

「喰らえ、俺の必殺技。セイントォォォォォォ!」

 初級の浄化魔法だが、勢いだけは最終回間際にラスボスに放つ必殺技顔負けだ。ひょろひょろした光線がゆっくりと進んでいく。さすがにこんなのが命中するほどイビルウィスプはどんくさくはない。あっさり回避される。


 と、思われたのだが、

「ウギャアアアアアアアアア!」

 あっさり直撃した。クロナが苦戦していたのが嘘のように、イビルウィスプの全身が消滅していく。やがて、ランスロッドの先端の光が消えるのと同時に、敵の姿も跡かたなく消え去っていった。


 優が一息ついていると、クロナが勢いよく飛びついてきた。

「すごいよ、ユー君! もう少しで下着見られるところだったし」

「ま、まあな。エクソシストとして当然のことをしたまでだ」

 どや顔をするが、優はまだエクソシストではない。小型犬のごとくすり寄っていたクロナだったが、ふと思いついたように優から距離を置いた。もじもじと股を摺り寄せている。

「ねえ、ユー君。もし、どーしてもって言うなら、ちょっとだけなら、見てもいいんだよ」

 流し目で誘ってくる。もちろん、ただのハニートラップだ。優の事だから、「ば、ばか、変なこと言うんじゃねえ」と大慌てするはず。……するはずだった。


「そんじゃ、見せてもらおっかな」

「ほへ!?」

 予想外の回答にクロナは蒸気する。ちょっとめくりかけていた着物の裾を慌てて引っ込めた。

「なんて、冗談だよ」

 舌を出す優。いつもからかわれてばかりなので、ちょっとした仕返しをしただけだったのだが、

「も、もー、ゆーくーん! 冗談が過ぎるよ、バカ―!」

「いて、コラ! お前、攻撃力10000もあるのに本気で殴るな!」

「防御力1000000もあるのに痛いわけないじゃーん。もー、バカ―、バカ―!」

 馬鹿を連呼してポカポカしまくっていた。フグの顔真似でもしているかのように両頬を膨らませており、未だに股を閉じ合わせている。もし、近くにアシュリーがいたなら「乳繰り合ってんじゃない」と制裁を加えていただろう。


 ちなみに、そんなに遠くない位置でアシュリーは交戦中だったのだが、イビルウィスプにてんやわんやだった優たちが知るところではない。

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