ご注文はカンチョーですか?
ご〇うさのチ〇が頭に乗せている白い奴と似ているが、額には鋭利な角が生えていた。一般的にはアンゴラウサギと言った方が分かりやすい。瞳はつぶらなのだが、危険極まりない角のせいで台無しである。
「さっそくモンスターか。えっと、こいつは」
「モンスター図鑑だね」
ノータイムでクロナはおっぱいからモンスター図鑑を取り出す。ここで、どうしてクロナがそんなものを持っているか解説せねばなるまい。
アシュリーの尾行を開始する直前。どんなモンスターにも対応できるよう、モンスター図鑑と浄化魔法の基本構文が掲載されている教文を携帯しようとした。しかし、主に図鑑が重すぎるため、素直に持ち歩いては邪魔にしかならない。
そこで助け舟を出したのがクロナだった。
「死神七つ道具、無限胸パッドを使えば万事解決だよ」
「本当かい、クロナ」
「どんなに重い物でも、このパッドの中に入れればあら不思議。どこへでも軽々と持ち運べるんだよ。今なら私のおっぱいを揉める権利も付けてお値段……」
「いや、調子に乗らなくていいから」
深夜の通販番組になりかけたのでツッコんでおいた。ちなみに100万ネフスで売りつけようとしていたらしいが、実際に購入する輩が出て来そうで怖い。
閑話休題。死神手帳で慣れているのか、クロナは手早く図鑑のページをめくっていく。
「見つけた。アルミラージ、Eランクのモンスターだね」
アルミラージ
危険度ランクE
頭の角はすごく痛い。焼いて食べるとすごく旨い。
説明文が韻を踏んでいるのが小賢しかったが、幸いにも雑魚モンスターのようだ。前にゾンギエフが落とし穴に嵌めて捕まえようとしていた奴である。
ジャイアントキリングを狙う優としては物足りない相手だが、肩慣らしにはちょうどいいだろう。食用として利用されているのなら倒しても問題ないはずだ。優はランスロッドを構える。
すると、敵意を察知したかアルミラージは素早く身を隠す。臆病風に吹かれて逃げたか。優が勝ち誇ってランスロッドを地面に突き立てる。まさにその時だった。
「ふごぉぉぉぉぉぉおぉ!?」
奇声を発しながら尻を抑える。一瞬だけ激痛が走ったのだが、すぐに痛みは引いていった。振り返るとアルミラージがつぶらな瞳を潤ませていた。
いたずらされていなかったら「可愛いね」で済んだが、ろくでもない攻撃をされた後では小憎たらしかった。
「こいつ、カンチョーしやがった」
ウサギにしては巨体にも関わらず、あっという間に優の背後に回ってカンチョーをお見舞いしたのだ。小学生の頃にやられた経験があるが、まさか異世界に来てカンチョーされるとは思ってもみなかった。
いたずらが成功して味をしめたのか、アルミラージは次なるターゲットに狙いを定める。しかし、それが運の尽きだった。なにせ、絶対に標的にしてはいけない相手だったからである。
アルミラージは素早く背後に回り込み尻をロックオンする。そして、額の角で一点突破。……するより前に首が飛んだ。
「ユー君。こいつ痴漢してきたから首を飛ばしたけどいいでしょ」
「お前な。先に倒しちゃったら俺に経験値が入らないだろ」
「え~。ユー君は私がカンチョーされてもいいっていうの。どうしてもしたいなら80万ネフスで許したげる」
「誰がやるかよ!」
ともあれ、死神にカンチョーをするという愚行を犯したためにアルミラージは生涯を閉じることとなった。死神手帳には「食用故にいつ死んでもおかしくない」と記されているため問題ない。
アルミラージは討伐できたものの、別の問題が発生していた。
「しまった。アシュリーさんを見失っちまった」
戦闘に夢中になったせいで、けむに巻かれてしまったのである。洞窟に行くとは聞いていたが、土地勘のない優が探し出すにはヒントが少なすぎる。
大人しく家に帰りなさいと言う啓示か。仕方なしに引き返す。否、あっさり諦めるような優ではない。
「クロナ。死神の道具の中に人を探せるコンパスあったよな」
「ユー君ミツケールのこと? あるけど、どうすんの」
「そいつでアシュリーさんを追跡できないかな」
「できるけど、目標を変更すんの面倒くさいのよね。わざわざちみっこを探すのに使うのもな~」
探知機を取り出したものの、使用は躊躇している。人探しにおいてGPSほど強力な武器は無い。どうにかして協力を仰がねば。
下手をしたら逆効果になるかもしれない。しかし、クロナに媚びるのはなんか嫌だった。それに、「あ、UFO」に引っかかったぐらいだ。もしかしたら術中に嵌ってくれるかもしれない。
「アシュリーさんを探せると言ったが、ハッタリじゃないのか。ユー君ミツケールとか大層な名前つけてるから、本当は俺しか探すことができないんだろ」
「失礼しちゃうな。ちゃんと他の人も探すことができます~」
イーと歯を剥き出しにした。丹念に歯磨きしているのか、無駄に白かった。
手早く探知機をタッチすると、針が目まぐるしく回転した。勢い余って壊してしまったのではないか。ならば、余計なことをしてしまったことになる。
しかし、それは杞憂だった。次第に針の動きが落ち着いていき、ある一点を指し示した。草ボーボーの獣道ではなさそうだ。しかも、優がいる地点とは違う方向を指している。余程のひねくれものでない限り、アシュリーがいる場所を教えてくれていると認めるしかない。
「どうよ、探知機の威力は」
「うん、スゲーな(主に探知機が)。こいつさえあれば探し物のクエストは楽勝じゃん。さっそく行こうぜ」
先導に立った優に遅れまいとクロナも付き従っていく。途中、藪を突いて蛇のモンスターを出したり、樹木を蹴って猿のモンスターを落としたりしたが、どちらも優が意気込んでいる間にクロナが首を狩った。デスサイズが血塗られているのにランスロッドが潔白のままというのは不満が募るばかりであった。




