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死神の七つ道具

 指定された森はナハトの町の北東に位置している。馬車で向かえばすぐだが、いかんせんお金に余裕がない。現場まで歩き続け、一時間以上消費してしまった。

 度々他の冒険者とすれ違うが、賑やかな町と比べると物音もなく静寂に包まれている。背の高い樹木に囲まれ、昼間だというのに薄暗い。優雅に森林浴といきたいところだが、モンスターが潜んでいると分かっているためにのんびりできそうになかった。


「ルーニアさんの話だと、そこらへんに生えてるそうだが」

「ひょっとして、あれなんじゃない」

 依頼書を片手に右往左往していると、クロナが樹木の根元を指差した。十センチほどの赤い房のキノコが密集している。間違って変なキノコを持って行ってしまったら元も子もない。イラストを何度も確認したところ、紛れもなくベニマダラオオダケだった。

「あっさり見つかっちゃったね。ユー君ともっと旅行できると思ってたのに残念だな」

「クロナ、お前な。遊びに来ているんじゃないんだぞ。さっさと持って行って次の依頼を受けようぜ」

 優とクロナは黙々とキノコを籠に詰めていく。単純作業の間はつい無口になってしまう。例に漏れず、両者は手を動かすのに夢中で口の方は疎かになる。


 ただ、クロナにお口チャックしろと強要するのは無理な話だった。また、彼女が飽き性だったのも災いしたかもしれない。

「もう、退屈だな。せっかくデスサイズを振るう機会があると思ったのに」

「縁起でもないこと言うなよ。お使いクエストはいかにモンスターと出会わず手早くクリアできるかが重要なんだからな」

「むぅ。あまり活躍させる機会が無いとデスサイズが錆びちゃう。ユー君、研ぎ石持ってない?」

「そんなもん持ってるわけないだろ」

 むしろ、日常的に研ぎ石を持っている人なんて包丁職人ぐらいだ。仕事放棄してデスサイズを弄んでいるクロナをよそに、優は一心不乱にキノコを集める。


 とはいえ、さすがに退屈してきた。なので、前から疑問に思っていることをぶつけることにした。

「クロナ、前に死神に七つ道具があるとか言ってただろ。そのカマも道具の一つなのか」

「そだよ。死神としての任務を遂行するためにハデス様より賜る秘密道具。せっかくだから、ユー君にはお披露目してあげようかな。これが説明書ね」

 当たり前のようにおっぱいから紙を取り出して優に渡す。仄かにいい匂いがするがクンカクンカするのは止めておこう。そこにはアイテムのイラスト付きで簡易な説明が書き連ねてあった。


デスサイズ:対象の攻撃力を3000上昇させ、次の能力を付与する。このクリーチャーがバトルする時、バトルの前に相手クリーチャーを破壊する。


死神手帳:ページを1枚めくり、相手クリーチャー一体を指定する。あなたはそのクリーチャーの寿命を知ることができる。


処刑対象者探知機:相手クリーチャー一体を指定し、その現在地を自エリアに表示する。


無限胸パッド:手札をすべて捨てて胸の中に収納する。このバトル中、あなたは任意のタイミングでこのカードの効果で捨てたカードを手札に加えることができる。


翻訳指輪:相手クリーチャー一体を指定する。そのクリーチャーの話す言語を任意の言語に変更する。


???:???


ユー君への愛:プライスレス


 一瞥したところ、色々とツッコみたいところが出てきたが、とりあえずこれだけは言っておきたかった。

「なんで説明文がカードゲームっぽいんだよおおおおおおお!!」

 理解できなくはないが、無駄に分かりにくくなっている。むしろ、デスサイズ以外は無理がありすぎる。

「多分、ハデッさんの趣味なんじゃないの。しょっちゅうスマホ向けゲームとかカードゲームとかのモデルにされてるからやってみたらハマったとか」

「冥府の最高神のくせに何やってんだ」

 事実、大抵のソシャゲの最高レアカードとしてハデスが実装されている。その理論でいくとゼウスもソシャゲに夢中になっていそうだが、考えないでおこう。


「それぞれの道具について言いたいことは山ほどあるが、律儀に語っていくとキリがなくなりそうだな」

「私はいつまでもユー君と話せていられるなら大歓迎だよ」

「俺は別に歓迎していないがな。まあ、いいや。すっ飛ばして聞くが、最後の方にある戦時中の墨塗り教科書みたいな部分は何だ」

「それは恥ずかしいから秘密」

 恥じらって胸を抑えるクロナ。あえて情報開示しないということは、余程危険な道具なのだろうか。それこそ、地球破壊爆弾並の大量殺戮兵器ということもありうる。

「秘密って言われると余計知りたくなるんだよな。なあ、少しぐらい教えてくれたっていいだろ」

「やだよ。ユー君のエッチ。ユー君ってムッツリだと思ってたのに、意外と積極的なとこあるんだね」

「そもそも、秘密の道具の正体がどうしてエッチに繋がるんだよ」

 発言した瞬間、優は一つの可能性に行きついた。もしかして、十八歳以下は触れることすら許されない卑猥な道具ではないのか。調子に乗ったクロナがどえらい道具を出されたら、それはそれで困る。


「秘密にしておきたいなら仕方ないな。次行こう、次」

「急に素直になったわね。ひょっとして、エッチなこと考えてんでしょ」

「ち、違うわ! それで、最後にあるプライスレスはどういう意味だよ。明らかに道具じゃねえだろ」

「愛するがゆえにじっくり殺すが私のモットーなの。どうでもいい相手だったら、出会って数秒で殺してたわよ。ユー君に猶予を与えたのは私の愛だかんね」

「その割に出会って早々殺そうとしていたような」

 本当にどうでもいいのなら、優が寝ている間にデスサイズでグサッと行っていたということだろう。とりあえず、確かなことは、

「七つ道具とか言ってるけど、実質六個しか無くね」

「細かいことは気にするな」

 どや顔を決められるが、単に六個しかないのを七個だと虚勢を張っているだけだろう。

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