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ネフティーヌ様が日本最強生物と名高いアレだった件

「アシュリーさん。あれがネフティーヌ様ですか」

「いや。あれはネフティーヌ様の使徒。ネフティーヌ様は多忙だから、信者との交信は自らの思念体である使徒を通して行われる。これによって、一度に数十人と会話できるという」

「まんま聖徳太子だな」

 優が呆れつつも感心していると使徒が口を開いた。


「汝、迷える子羊よ。ネフティーヌ様の名のもとに懺悔せよ。さすれば道は開かれん」

 荘厳な口調に自然と頭が下がる。いざ懺悔せよと催促されても、唇が重たくなるばかりだ。なんて、躊躇していたのだが、

「ネフちゃんに聞きたいのよね。ユー君をどうして転生させちゃったのかってね」

 クロナがコギャル同士で会話するノリでぶっちゃけた。


「この死神! ネフティーヌ様の前で無礼だぞ」

 アシュリーが吼えかかるがクロナはどこ吹く風だ。使徒もまた、友達口調で絡まれるとは思ってもいなかったのだろう。しばらく考える素振りをしていたが、やがて優の方へ手を指し伸ばした。

「ユーとは伏見優なる少年のことか」

「そうだよ」

「待っておったぞ。その少年には色々と話しておくべきことがある。よかろう、わらわが直に赴くとしよう」

「ネ、ネフティーヌ様が降臨なさるのですか」

 アシュリーが驚愕で身体を震わせていた。優もまた信じられないとばかりにカーテンを凝視している。神様は概念だというのが通念であるが、よもや実際にやってくるとは。日本の昔話でお釈迦様と対面したじっちゃんばっちゃんはこんな気持ちだったのだろうなと軽く感動した。


 全身ローブの女がすっと消えていくと代わりに彼女の二倍ほどの身長がある巨人が姿を現した。後光のせいで長時間直視していると目がチカチカしてくる。それでも、色白の素肌に黒の艶やかな長髪。人生の酸いも甘いも知り尽くした底知れぬ微笑を浮かべる美魔女につい釘付けになるのだった。

「彼女が、ネフティーヌ様」

 あまりの圧巻に優は腰が抜けそうだった。アシュリーに至っては一心不乱に祈っており、声をかける余地がなかった。


 ネフティーヌは身を屈めると、自らを慕う矮小な人間たちに御言葉を投げかける。

「あっらー、優やあらへんか。ひっさしぶり、っていうか、数日振りやあらしまへんか。元気しとったか」

 雰囲気ぶち壊しだった。


「えっと、どうして関西弁なんですか」

「うちは元からこんな口調やねん。威厳を保つために思念体は真面目な口調にしとるけど、肩が凝るであかんわ」

 つい素朴な疑問をぶつけてしまった優だが、あっけらかんと返答された。あまりの軽口に神様というか大阪のおばちゃんにしか見えなかった。


「ネフちゃん、本当に大変なことしてくれちゃって。私に断り入れずにユー君を変な世界に送るなんてメッだかんね」

「別にええやないの。偶然拾った魂をどうしようとうちの勝手やねん。一介の死神ごときがわーわー喚くんやあらへん」

「ふんだ! ネフティス様に言いつけるもんね」

「卑怯もん! ネフティスはんは関係ないやろ。あのお人は面倒事が嫌いやから、まとめて消されるで」

 優の理解が追い付かない間にクロナはネフティーヌとコントを繰り広げる。神様からありがたい言葉を頂戴していたはずなのに、大阪のおばちゃんとコギャルの小競り合いを見学しているのは何故だろうか。


「ああ、忘れとったわ。伏見優って言うたわね。ごめんな、きちんと説明しとくべきだったのに、あんさんずっと気絶しとったやろ。ろくに話す機会もなくうちの世界に放り込んでまったわ」

「気絶している間に何てことしてくれてんですか。っていうか、クロナ。お前、この人と知り合いなのか」

「言ったでしょ。大抵の神様とは知り合いだって。特に、ネフティス様は懇意にしてもらったかんね。親戚にあたるネフティーヌとは腐れ縁なのよ」

「クロナ、うちにも様をつけんかい。ごめんな、この小娘、しつけがなってないんや。あんまり失礼が過ぎるとお尻ぺんぺんしたるで」

「え~、やだ。ユー君の前でやらないでよ、エッチ!」

 ちょっぴり期待した優であった。


「ほんで、うちが転生させたったってのはクロナから聞いたやろ」

「はい。どうしてそんなことしたんですか」

「あんさんがうちの好みだったからや」

「……は?」

 とてつもなく私的な理由が聞こえてきたが空耳ではないだろう。


「信じられないでしょ。この面食い神様はユー君がイケメンだからってだけで自分が管理する世界に転生させちゃったのよ」

「いや、俺言うほどイケメンじゃないだろ」

 チャームポイントがあるとすれば生まれながらのくせっ毛と背の順で後ろから三番目に並ぶくらいの長身ぐらいだ。ジャニーズ事務所に履歴書を送ったら書類審査で落ちる自信がある。

「もう、謙遜しちゃって。めんこいわ~。そや、桃ちゃん食べるか」

 さりげなく東北の方言をかましながら、ネフティーヌは懐からみずみずしい桃を取り出す。おっぱいから出したらどうしようと思った優だった。クロナほどではないが、ネフティーヌもまた豊満な双房を誇示している。


「おいしそうな桃ですけど、食べちゃっていいんですか」

 そこらへんのおばちゃんではなく、腐っても神様からの贈り物である。裏があると用心してしかるべきだ。

「問題あらへん。蟠桃ばんとうや」

「なんですか、それ」

「知ってる。孫悟空が食べちゃったっていう、不老不死になれる桃でしょ」

「なんてもん食わせようとしてんですか!!」

 仙人のごちそうをポイッと渡してくるあたり、神様恐るべしである。恐れ多いと返却すると、ネフティーヌはしぶしぶ懐にしまった。

「まあ、食わせる必要も有らへんがな」

 小言でそう呟いたのだが、優たちには聞こえていないようだった。

【急募】大阪のおばちゃんに勝てる生命体

人間に勝てる生命体なら腐るほどいるという野暮なツッコミは無しよ。

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