アシュリーの逆鱗
「クロナ! お前、どうしてここにいるんだ」
「私にはユー君ミツケールがあるって言ったでしょ。ろくに機能しなくて苦労したけど、大方の位置さえ分かれば、いくらでも探し出せるわ」
GPSという鬼ごっこにおける最強のチートアイテムを所持している相手だ。逃げ切れると考える方が愚策だったかもしれない。殺人パンチを受けた直後に彼女と対面する羽目になろうとは、泣き面に蜂もいいところである。
だが、優とて対策を怠ったわけではなかった。含み笑いを浮かべるとアシュリーの肩に手を添える。
「残念だったな、クロナ。俺を殺しに来たのだろうが、そうは問屋が卸さないぜ。なぜなら、こっちには最強のエクソシスト先生が付いているんだ。その気になればお前なんか一瞬で消せるんだからな」
「うむ。アンデット相手なら負けない」
優のよいしょを受け、アシュリーは意気揚々と拳を構える。ちなみに、アシュリーがアンデットを消せると知っているのは、アシュリーが「セイントセイバー」を唱えた時には既に覚醒していたからである。
紹介されたアシュリーをクロナはしげしげと観察する。なぜだか不機嫌そうな顔になり、品定めするかのように唸っている。
「アシュリーさん、早くこいつを祓ってください」
「モチロン。と、言いたいところだが、すぐには無理」
優が依頼の遂行をせがんだところ、意外にも難色を示された。
「どうしてだよ。こいつは俺を殺そうとしたんだぞ」
「現時点では優がそう言っているだけで確証はない。エクソシストは罪を犯していないアンデットを浄化できない。決定的な現場を抑えることができたのなら話は別」
「わざと殺されかけるなんて嫌ですからね」
クロナを浄化させたが優も死んでしまったでは意味がない。だからといって、クロナに「俺を殺すふりをしてくれ」なんてお願いしても聞き入れてくれないだろう。
懊悩していると、クロナが唐突にアシュリーを指差した。
「ねえ、ユー君はこういうのが趣味なの?」
「いきなりなんてことを聞いてるんだよ」
「間違っても手を出したりしてないよね。ユー君の趣味をとやかく言うつもりはないけど、その子は止めといた方がいいと思うよ」
「盛大な勘違いをしているようだが、アシュリーさんにはお前を祓ってくれと頼んだだけだからな。それ以上のことはしていない」
ここで優が「まったく、小学生は最高だぜ」と言い出したら言い逃れはできなかったが、もちろんそんな間抜けは犯さなかった。もちろん、優のストライクゾーンに小学生は含まれていない。
「さっきから何の話をしている。ものすごく失礼なことを言っていないか」
蚊帳の外にされかけたアシュリーが抗議する。ここで黙っていればいいものの、クロナはとんでもない爆弾を投下してしまう。
「べっつにー。ユー君があんたみたいなちみっこいのを誘惑してないか確認したかっただけ」
「ちみっこい。それは私のことを言っているのか」
「うん」
素顔で失礼極まりない発言をかますクロナ。すると、アシュリーは優のジャージの袖を引っ張った。
「優よ、一つ聞きたい」
「どうしたんですか」
不穏な空気を感じ、優は身構える。頭一つぐらい身長差があるはずなのに、金剛力士像が隣に立っているような感覚だった。
「私はこいつを殺すことはできない。でも、片腕を消すぐらいはしてもいいか」
「怖いよ! アシュリーさん、急にどうしたんですか」
クロナを殺してくれと依頼しているも同じだったのだが、いざ直接的な言葉が出ると怖気づく優であった。
「へえ、やるつもりなんだ。どうでもいいけどさ、そろそろユー君と離れてくれる? ユー君、ロリ趣味はないそうだよ」
「優は私の依頼人。一緒にいても問題はない」
「あっそ。えっと、アシュリーって言ったっけ。うわあ、まだ寿命先じゃん。どっしよっかな、デスサイズを使うわけにはいかないし」
死神手帳を片手にクロナは嘆く。女同士の不穏な争いに優は口出しすることができない。そして、忘れてはならないのは、経営する民宿が惨状の舞台にならんとしている宿屋の主人が一番悲惨だということだろう。
アシュリーは再度表音不可能な速度で祝詞を唱える。両手で構えているワンドがほのかな輝きを放った。
「すごい。ねえ、それ新しいプ〇キュアのおもちゃ?」
「優、あの女は何を言っている。プ〇キュアとは新種のモンスターか」
「説明するの面倒くさいですけど、魔法少女の一種です」
「魔法少女? 魔法使いの仲間みたいなものか」
厳密に言うと、主に肉弾戦を挑む魔法少女なので、格闘家の仲間とした方がふさわしい。一応、「キュ〇ップ・ラパパ」と魔法の呪文を唱えて戦うシリーズも存在する。
全く危機感が無いクロナへアシュリーは浄化の魔法をぶつける。
「セイント!」
ワンドから放たれた光線はあっけなくクロナの全身を包んだ。件のゾンビのように片腕が消滅する。そう思われた。




