Ⅳ 仮死451万度
第四章のサブタイトルは、すべてSF小説のもじりです。興味が出たら探して読んでみてくださいね。それでは、最終章、行ってみましょう!!!
僕のなまえは、サロ。
サンジェル様によって作られた至上の兵器だ。
目が覚めたとき、僕は液体のなかにぷかぷか浮いていて、溺れてしまうかと思った。でも、どうやらぼくのからだには、液中の酸素を取り込む仕組みがちゃんと作られていたらしい。さすがはサンジェル様だなあ。
ところで、僕は生まれてまだ三日も経っていないんだけど、この世界のことは大体わかっているんだ。というのも、あまり自覚はないんだけど、僕は六人の特別な人間『倒達者』ってひとたちを原型に作られた生命体らしくって、そのひとたちの記憶を引き継いでいるらしいんだ。
新人類ってひとたちの、脳に埋め込まれた、『チップ』っていうデータが込められたものが、僕の脳みそに6つも入っているって、最初に聞いたときは、なんだか気味が悪い感じがしたよ。だってそうでしょ?背後霊が自己主張して、からだを乗っ取ってきたら、ホラーだよね。
さて、このくらいで僕の自己紹介は終わりにして、今度は僕の目的を話してみようかな。ああ、話すっていうのも変な感じだね。これは僕の頭のなかの独り言だし、だれも聞いている人なんかいないはずなのに。まあ、心のなかを読めるひとが近くにいるんじゃないかって妄想をしたことがあるひとは、たまにいるんじゃないかな?そういう、僕の脳内を観測できる人が、もしかしたらいるかもしれないって、僕はいつも仮定しているから、こんな風に独り言を考えるときも、読者が聞き取りやすいように、語り掛ける口調にしているんだよ。
そろそろ本題。
僕は、炎天下の時代を支配する悪い人工知能『炎帝』を倒すためにサンジェル様に作られたんだ。炎帝は、もともと旧人類の、サンジェル様たちが作り上げた人工知能だったらしいんだけど、意思をもって、旧人類を滅ぼしてしまったんだ!なんて悪い子なんだろう!サンジェル様から生まれた、弟として、このお兄ちゃんは許せないよ!
倒達者たちのチップを差し込まれた僕は、この六人の力を自由に使えるようになった。そのなかでも、神術型倒達者の富士月見さんの『天照』はとっても便利なんだ。ドーム都市内のすべての光景が、リアルタイムで見れるから、炎帝の差し金で動く兵隊さんたちの動きは丸わかり。サンジェル様に教えてあげて、先回りして手を打ったり、僕自ら熱光線を放射して、炎帝管轄の主要施設を焼きはらったりしているんだ。
段々、闘いも激しくなっていって、ついに炎帝は、各省の最高実力者、『六省守護星』を戦線に向かわせたよ。
警察省守護星、通称『巌流島』、銭形武蔵さんは武術型の武道家だった。圧倒的腕力と、鋭い超直観で、サンジェル様の信者たちを蹴散らしていった。
監獄省守護星、通称『オリックス』、不死川倫音さんは、呪術型の鞭使いだった。攻撃を加えた相手の体力を吸い取るその技術を使いこなす、死神のふるまいは、まさに監獄の門番にふさわしい実力の持ち主だった。
忍者省守護星、通称『ジョージ』、服部ケインさんは、奇術型のシノビだった。地面にあらゆるトラップを仕掛け、自らも地中を掘り進めて襲い掛かる姿は、物語の忍者のような活躍だった。
出生省守護星、通称『爆鳥』、鴻上あぎるさんは、神術型の式神使いだった。旧人類が開発した動物型アンドロイドを自在に操る、鉄の猛獣使いは、戦士たちを恐怖に陥れた。
医工省守護星、通称『ダンゲロス』、花岡喜代丸さんは、魔術型の庭師だった。大量の魔力を与えて育てた植物から取った毒の果実を、マシンガンのように乱射する荒ぶりは、開拓時代の乱暴ものを彷彿とさせた。
特許省守護星、通称『臥龍転身』、江角一茂さんは、幻術型の芸術家だった。筆をもって、空に描いた鎧を身にまとい、困惑する相手を困惑させたまま地に伏せさせるトリックスターぶりは見事としかいいようがなかった。
全員、もし運命がいくらか違っていれば、倒達者になっていたかもしれない強者たちだった。
だけど、僕にかかれば、彼らもただの新人類と変わらなかった。
僕には、武術型倒達技術『極加速』の超高速思考で、試算を繰り返し、確実に勝てる一手を見つけ出すことができた。
脳内で、幾度も戦闘シミュレーションを繰り返し、最良の攻略法を確立する。そして、準備万端の状態で、水槽から戦場に出て、余裕綽々に、守護星たちを手玉に取ってやったよ。
試算のなかで、僕は何度も死を経験した。その数、451万回。高度なイメージは痛みや恐怖をも伴っていたから、途中から僕は身代わり、『アバター』を製作し、そいつでシミュレーションをした。ちょうどいい人物像が思いつかなかったから、僕のデータにある武術型の少年くんを基にした。なんだか、水面に映った僕の姿に似ていて、親近感を覚えたんだ。
訳も分からないうちに僕に倒されていった彼らには、少し哀れみもわいたけど、炎帝なんかの味方をするんだから、しょうがないのかなって思っている。戦争は、勝利は、犠牲なくして成り立たないってサンジェル様も言っていたしね。
最近は炎帝も主戦力を使い果たしたようで、雑兵ばかり向かわせて来るようになった。でも、そんな雑魚に、いまさら僕が苦戦するわけがなくて、『完壁』や、『千人隊』、『はっぴいばすでい』や、『KAGEROU』でちょちょいと片づけている。
もう、炎帝は裸の王様ってしか言いようのない状況なんだけど、なぜかサンジェル様は僕に、炎帝の所在地、岡山に行く指示をくれないんだ。なにかを待っているようなんだけど、僕には人の心を読むことまではできないから、サンジェル様がなにを待っているのかはわからない。
さあて、ところでそろそろおねむの時間になってきたな。
ここ数日は、連続稼働させていたから、疲れてきちゃった。生体兵器としての弱点だね、えへへ、ちょっと情けない。
僕は、『天照』を作動したまま、ゆっくりと意識を沈める。緊急事態が起こった時には、すぐにアラームが鳴るように、セットしておくんだ。
ああ、目の前が段々、うすーくなってき……。
そのとき、鬼の形相をした少年の顔が、僕の脳内をジャックした。
(どけえええええええええ!!!)
叫び声をあげる少年。僕は慌ててスリープモードを解除して、少年の正体を見る。
き、君は!
炎帝のシステムに接続していたことによる、ウイルスの侵入なんかじゃない!
彼は、僕のなかに永久に眠る、あいつだった!
アバターとして、僕の代わりに何度も死んでもらった、あいつだった!
っていうか!
ちょ!?なんでそんなに、出張ってこれるの!?君は、深層心理以下の闇にいるはずでしょ?こんなに「うえ」のほうに来るはずがない!
(いいから、どけ!もう殺されるのはごめんなんだよ!そのからだは俺のだ!いい加減に返しやがれ!)
僕は、サロだ!サロはサロだ!君が出る幕はない!
引っ込むのは、君だ!
(うるせええええええ!僕は俺だあああああ!!!そこを、黙ってあけやがれええええ!!!)
やめ、やめろ!ちょまってほんと、やめろおおおおおおおお!
俺は、僕を殴り飛ばした。
ぼんやりとした魂の塊?これも、俺のイメージなのかもしれないが、それを殴った。そうすると、自分をサロだと信じている精神異常魂は、霧のように儚い存在になって、「下」のほうにひゅるりと引っ込んでいった。
目をかっ開く俺。
顎が外れるほど、口を開く俺。
サロなんて知るか!俺は、ここに、あり!
高らかに雄たけびをあげろ!
「獅子頭奈保、ふっかああああああああつ!!!ごぼごばばばっばばべ!」
鼻と口から躊躇なく器官に侵入してくる液体。く、苦しい。水のなかで呼吸できるとか、サロが言っていたけど、どうするんだ、これ……。
そのとき、暗闇の空間に、光が差し込んだ。誰かが、この暗室を開けたらしい。慣れない光に目を傷めながら、扉のまえの影を捉える。
そこには、大きすぎる白衣を羽織った幼女が立っていた。
久しぶりにみる、悪魔の顔。その表情は、あきれつつも、どこか嬉しそうだった。
「あんた、何してんの?」
ああ、憎たらしい。だが、この世界に帰還したからには、皮肉も込めて挨拶してやろう。
「ただ……ぐはっいま!」
サンジェルが、藍色の髪を煌めかしながら笑った。




