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Fainal Step ケーキを切り分け、召し上がれ?

ここまでお疲れ様でした!

 楊枝妃が、休憩室で居眠りしていた蟻沢春の尻を叩く。


「ほらっ起きなっ!あんたに荷物が届いてるよ!サンジェルから!」


 けだるそうに目を開けると、テーブルのうえには、大きな箱が置かれていた。


「サンジェルから……?私、あの人と手切ったつもりなんだけどなあ……。で、なんすか、これ」


「人の荷物なんだから開けてないさ。あと手紙も入ってたよ。はー、紙なんて贅沢なもの使って……」


 楊枝妃は、皮肉を吐き捨てながら、休憩室を出ていった。蟻沢は目をこすり、伸びをする。すると、鼻腔に甘い香りが注ぎこむ。


「…………?」


 その香りは箱のなかからした。食べ物だろうか、と蟻沢は包装をはがし、箱を開ける。


「これは……」


 そこにあったのは、ホールケーキであった。生クリームでコーティングされたスポンジに、イチゴがいくつか乗っている。手紙を読むと、そこにはこう書いていた。


『今日あんたの店に来る客に配っていって。ご褒美だから。追伸、一切れ食べてもいいよ』


「…………」


 自分あてのものではなかったのか。少し意気消沈してしまう自分の意地汚さに自己嫌悪する蟻沢だった。




       〇


 コンコン、とノックをして、個室を叩く。


 どうぞ、という声がしたので、蟻沢はドアを開く。


 そこには、三人の人間がいた。


 老人と、ゴスロリ服と、少女である。


 どうやら、老人とゴスロリは、少女を勧誘しているらしい。


「なあー未来―いい加減折れてくれよー。即決した俺がバカみたいじゃねーか」


「ほら、柊君もこう言っていることだし、歓迎するよ。うちのマボロシ探偵社はきみをまっているよ」


 にこやかな二人に対し、少女は仏頂面であった。


「別に。そんなに嫌なわけじゃないんだけどさ。結局、探偵社なんて言ってるけど、万事屋なんだろ?炎帝にやとわれて仕事すんのと、やること同じじゃないか」


 ぎくり、とする老人。汗を流している。痛いところをつかれたらしい。


「いやいや、その、えーと君に任す仕事は、ちゃんと選んで決めるから……ていうか、君が気に食わなければ断っていいから……」


「就職先も鳥取なんだろ?霧島孤児院から離れなくちゃいけない。美影さんになんて説明するか……」


 事情を知らない蟻沢にとっては、聞き耳を立ててもなんの益も得られそうになかったので、ホールケーキから三切分切り取り、配布する。


「おや、これは?注文しておりませんが」


「……サンジェルから。ご褒美だって」


 ゴスロリが、微妙な顔をした。なにか、あったのだろうか。しかし、すぐに明るい顔を装い、少女に薦めた。


「そっか。じゃあ、ありがたくいただくぜ。なあ、未来」


「……保奈って呼んでっていってるのに」


 少女は、急にしおらしくなった。ここで、蟻沢はゴスロリがよく見ると男であると気が付く。ははあ、なるほど。


 はん、と蟻沢は鼻を鳴らして、出ていく。


 このバカップルが。





 隣の部屋をノックすると、今度は幼い声色の返事が返ってきた。


「はーいどうぞー蟻沢でしょー」


 扉を開けると、そこには藍色の髪の幼女が手を振っていた。


 ほかに、顔に火傷のあとがある女性、白衣を着た細身の男性。そして、軟派な雰囲気のシャツの男がいた。


「やほー蟻沢久しぶり」


「……私抜けたこと、伝わってます?」


「なあに、ケーキ配るくらいいいじゃん。さて、千堂君、土方君。心は決まったかな?」


 白衣の男性は、ふむ、と言って頷いた。


「どうせ行く当てもなかったからな。倒達者の研究までできるというなら、願ってもない話だ」


 シャツの男も、頷く。


「まあ、俺ももともと研究職ですし……。霧島孤児院の支援をしてくれるのも、ありがたい話ですからね。お受けします」


 サンジェルは、二人の回答に、満足げに頷いた。


「それはよかった」


「ところで、那須ちゃんってどうしてます?あの子、ブレーメンがなくなって大丈夫ですかね。マネージャーの雀鬼ちゃんも、……亡くなった、と聞いていますし」


 サンジェルは、バツが悪そうに頭を書いた。


「あー。それなんだけどね……正直、まだしばらくは心身療養が必要かな……。天宮シオリの担当医だった女を探して、面倒見させてるんだけど、うーん、正常に、打算的に言えば戦力になるにはもっとかかるかな。あ、富士月見のほうは、砂川によって、人格矯正中だからもうすぐ使い物になるよ」


 相変わらす、物騒なことを口走っているサンジェルに、蟻沢は気分が悪くなりながら、ケーキを切り分けていた。四人分切ろうとすると、サンジェルは私の分はいいよ、と言ってきたので、三人分の皿を出す。


「うちにはオーブンがあるからね……。あ、これ炎帝には内緒だからね。ふふ旧人類のとっけーん」


 蟻沢は、オーブンという聞きなれない言葉に、首を傾げるが、おそらくこのケーキを作った調理器具であろうと推測する。獅子頭奈保や、狩場瑠衣という初期の倒達者を覚醒させるための焼きごてを用意するために用いられたことは、蟻沢は知らない。


 その、件の狩場瑠衣は、頬の火傷のあとを撫でながら、サンジェルを睨む。しかし、蟻沢がケーキを渡すと、すっと憎しみの表情は消え、申し訳なさそうな顔になった。


「あ、あの蟻沢くん……さん。その以前は手首を切断してしまい、ごめんなさい」


「は?」


 蟻沢は狩場の発言を考える。そして、たどり着いた。この女は、まさか。


「おまえ、仮面の奇術師……っていうか、狩場瑠衣かよ、コノヤロー」


 狩場は、縮こまる。


「いや、すまない。あのときは……。そ、そうだ。君のために義手を作ったのだ。いま君がつかっているBondの急場しのぎのものではないぞ。もっと自由に動かせるようになる」


 ケーキと交換に、蟻沢は、一組の義手を受け取る。


 本音は、文句を言いたかったが、狩場瑠衣を滋養風犬に売ったようなことをした蟻沢にとっては、これ以上突っ込みにくかったので、これで手打ちにすることにした。


「……受け取っとくよ。あんたも苦労人だな」


 ぺこぺこと頭を下げる狩場に、蟻沢は随分と丸くなったものだと驚く。


 事の顛末を知っている身としては、可哀そうなやつである。





 三部屋目。ノックをすると、少年の焦ったような声がした。


「た、助けてください!」


 いやいやながらドアを開けると、そこでは、ポニーテルの少女と、制服の少女の喧嘩が繰り広げられていた。


 ポニーテール、風犬が唸り声をあげる。


「おい、忍者!奈保ちゃんから離れな!ぶっとばされんうちに!」


 制服の少女は、からだを震わせながら、少年、獅子頭奈保の腕から離れない。


「いいんですか、私を殴ろうとすれば、獅子頭さんにも危害が……」


 蟻沢は、その状況に笑いをこらえる。


「ふはっ。おい、奈保。お前相変わらずだなっ!あー面白ろ。やれやれ!喧嘩しろい!掃除は後で私がやっとく!」


「ちょ、止めてくださいよ!あいたたたたた!伊豆さん、そこ火傷の場所です!」



 蟻沢は、笑いながらケーキを切り分け、テーブルに置いて去る。


「ご褒美らしいからなー床に落とさないように気をつけろよー」


「蟻沢さーん、待ってくださいよ!」


 少年の声に耳を貸さず、蟻沢はドアを閉める。


「まったく、青春だねえ」


 可愛いやつらだ。……一面を見れば。


 その場を立ち去ろうとすると、廊下から、こちらにやってくる少女を見つける。


「あれ、お客さんの部屋はあっちですよ」


 彼女は、最初の部屋にいた、老人とゴスロリ服に勧誘されていた少女であった。中性的で、かわいらしい顔立ちが、どうしたことか、怒りに染まっている。


「ちょっと、この部屋から兄貴の声がしたもので!殴る用があるんです!」


「……あー、そう」


 獅子頭奈保の妹。名前は知らないが、存在は聞いたことがある。生まれてすぐ、武功会での受け入れが拒否され孤児院に預けられたという。なにかのきっかけで再会したのだろうか。


 まあ、それこそ首を突っ込むことではない。


 蟻沢は、ドアを開き、少女を中に入れた。


「兄貴いいいいいい!」


 ドアを閉めて、怒声を閉じ込める。


 なかの様子はどうなっているのやら。死人がでなければいいが。





 ケーキは残り三人分だった。自分を含めれば、二人分。果たして、次の扉には誰がいるのか。


「お、春」


「ん、風太。来てたのか」


 そこにいたのは、蟻沢春の恋人、滋養風太であった。風犬の兄であり、数か月まえから交際が始まっていた。 


 風太は、全身に包帯を巻いていた。聞くと、仕事で大やけどをしたという。この時代に火傷とは。サンジェルの関与を疑う。


「いやあ、生きてるのが奇跡だったらしいぜ」


「はー?危ないまねすんなよ、風太。兄妹そろって健康体なのはいいけどさ、さっさと引退しろ」


 頭をかく風太。蟻沢はにやりと笑う。


「あ、引退したら私と店でも経営するか?」


「あーいや、それもいいんだが、実は部下ができたばかりでな」


 そのとき、ドアが開き、松葉づえをついた女が現れた。


「ただいま戻りましたわ、旦那ぁ。あれ、なんすか、その女」


 女は、蟻沢に匹敵するくらいに崩れた言葉遣いだった。風太は女を紹介する。


「こいつ、忍者省出身だったんだけど、今回の仕事を通して、警察省に映ることになったんだ。なんでももっと現場で暴れたいとか」


「伊豆アバレっす」


「……蟻沢春です。風太の恋人の」


 すると、伊豆アバレは目を丸くした。


「えー?先輩、彼女いたんですかい!?うわっマジですかい。狙ってるのに」


「あ……?」


 蟻沢は、言葉尻を見逃さなかった。狙ってる?現在進行形、だと。


 風太を睨む蟻沢。風太は首を振る。やましいことは、ないと顔がいっているが、怪しい。


 伊豆アバレは、ここで火に油を注ぐ。


「いやーやっぱり一緒に戦場をかけると、仲が良くなるっているかー」


「黙れ。消えろ。ぶっ飛ばされないうちにな」


 蟻沢は、ついさっき聞いたようなセリフを口にした。



 

 燃え盛るような憎悪もロウソクへの着火に利用してしまえば、ケーキを彩る華となる。


 はっぴいばあすでい、どこかの誰か。


 彼ら、彼女らの命の炎は、君のテーブルを明るくできたかな。




 第二章 大炎上バースデーケーキ 完















 閉店後、暗がりの休憩室に、三人の人間が集まっていた。


 そのうちの一人、ねこかだらけのオーナー、楊枝妃が口を開く。


「サンジェル。あんたには恩があるから、これまで付き合ってきたけどね、さすがに今回のは簡単に首を縦には振れないよ」


 老婆の厳しい視線に、幼女、サンジェルは、ふっと笑う。


「だったら、約束するよ。これを引き受けてくれたら、本格的に私は、ねこかだらけ、もとい経営会社の愛りんから手を引く」


「……それほどのことなのかい、その計画は」


 楊枝は苦々しい顔をしていたが、条件をのんだ。


「まあ、安心してくださいよ、楊枝さん。僕が全部終わらせるんで」


 フードの少年が、楊枝に笑いかける。


 少年の名前は、翼。姓はない。


 サンジェルは、翼に尋ねる。


「あら、そう。今回の旅で、収穫はあったの」


 翼は、不敵にほほ笑む。


「任せてくださいよ。滋養風犬なんて……簡単に、殺せます」







第三章 滋養風犬暗殺計画。


Cominng soon…….

第三章も読んでくれたら嬉しいです。

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