Step.2 粉も混ぜましょう 狼尾未来③
お疲れ様です。Step.2最終部分です。
「ポストに手紙が入っていたぞ」
「悪いな、あと、水くれないか」
「…………」
布団を敷き、服を脱がし、傷を手当てして、柊サマンサを寝かしたところで、未来は思った。親切に付け込むやつはクズだ、と。そういえば孤児院に転がり込んで飯を喰らっている千堂も、クズだ。自分の周りには、人の良心をいいように利用するクズが集まってくるのか。未来は溜息をつき、台所に行くと、蛇口を捻ってコップ一杯分の水を汲んだ。柊に渡すと、特に礼を言うこともなく、ぐいっと半分まで一気に飲んだ。
「……それで、あんたどうする気だ。俺を」
柊の目には油断がなかった。顎でひとを使っていても、彼は未来を完全には信用していない。泥棒稼業で生活していた彼にとっては、抜け目のなさが命をつないできたのだ。
「別に、殺すつもりはないといったろ。この……チップとやらを依頼主に届けたら、終わりだ。そうだな朝ごろには出ていく。あとは自分で勝手に治れ」
「ふうん……あんたそれがどれほどの価値だかわかってる?売るところに売ったら、そう、俺のルートを使ったほうが高く売れると思うぜ」
未来は、冷たい視線を浴びせる。
「……あまり調子にのるな。俺の雇い主は、炎帝府だ。その気になればお前を牢獄にぶち込めるんだぞ。わかったら、その口を閉じて死んだように眠れ」
柊は、つまらなそうに寝返りを打ち、未来に背を向ける。
「あんた、なんで炎帝なんかに雇われてんだ。世の中楽しく生きるのに、権力の笠なんて邪魔なだけだろ。それとも、なにか守りたいもののためにやっていることなのか」
「……悪いか。守りたいものがあるのが」
「いや、よくわからないな。俺にはないし。ま、後ろ盾はデカけりゃいいだろうな、そりゃ」
未来は床に腰を下ろし、柊の後頭部を睨む。
「お前は嫌味がいいたいのか」
「そういうわけじゃないよ。……ただよ、確認したいんだけど。お前いままで何人殺した?」
未来は、口を開かない。答える義務はない。
「いつからやってるのかは知らねえけど、一人じゃきかないよな。今日だって、俺は本気でお前を殺そうとしていた。あの場で行われたのは、対等な命のやり取りだ。お前は俺を殺していたかもしれないし、俺もお前を殺していたかもしれない。こうやって、隣で話せる関係になることなんて、普通ないはすだ」
「……俺の恩情で生かされた奴が言うことか?」
「だが、助けた。甘いやつだな、お前は。……そんなに割り切れてないんじゃないか。守るために人を殺すことを。」
再び無言になる未来。言い返したくても、言葉がまとまらない。核心をついているというほど、柊の指摘は的を射てはいないが、すべてを否定するほど的外れでもない。確かに、未来には心の中に迷いがあった。仕事をこなすたびに血に染まるこの手に、子どもたちを抱きしめる資格はあるのだろうか、と。
柊は、寝返りを打ち、未来のつま先に顔を向ける。そして首をのばして、未来の表情を伺う。
「なあ……提案なんだが」
「……何。これ以上の世話は焼かないけど」
未来は上の空に答えた。
「突拍子のない話ではあんだけどさ。ちょっと京都に行かないか?」
「……は?」
未来の呆けた顔に、柊はひそかに笑った。
〇
とある廃ビルの会話。
「目が覚めましたかな」
「ここは……」
「覚えておられませんか。無理もありませんな。あれほど手ひどく、無様に徹底的にぶちのめされては、記憶も飛ぶというものでしょう」
「ちっ……思い出しちまったよ。情けねえ。……そういうあんたも血だらけのようだが?」
「身に起きたことは、同上ということですな。ふふふ負け犬二匹で傷でも舐め会いますか」
「気色の悪いことを言うな。偶然同じやつに、似たような用が、同じ日にあっただけの縁だ」
「ふむ?なかなか運命的では?」
「とにかくだ。なれ合うつもりはねえ。俺は帰らせてもらうぜ。……そういえば、ここは風犬のねぐら、だよな。なんで俺たちはここに放置されている?」
「さあ?知りませんな。他人様に教える高等な情報など持ち合わせてはおりませぬ」
「……知ってそうな口ぶりじゃねえか」
「お聞きになりたいならお座りなさい」
「むかつく爺さんだな。……で?」
「案外素直な若者ですな。風犬どのは知りませんが、彼女とともにいた少年、奈保くんと言いましたかな。彼がどうやら横着してそのまま私たちを放っておいたようなのです」
「まじで大した事ねえ情報じゃねえか」
「いやいや。あなたの今後の選択によっては、大きな意味を持ちますよ」
「はあ?どういうことだ」
「風犬どのに、リベンジしたくはないですかな」
「……あったりめえだ」
「よい心意気ですな。話が早い。風犬殿はわかりませんが、私、あの少年が私たちを放ってどこに行ったかを盗み聞きしたのですよ。彼を追えば、風犬どのに会えるとは思いませんか」
「……別に、どこかにいったのなら待っていれば帰ってくるんじゃねえの」
「それはどうですかな。彼らがアジトを捨てて、移住した可能性も高いですよ。なんせ、ひっきりなしに我々のような挑戦者や復讐者が訪ねてくるのですから、どこかへ隠れたくなったのかもしれません」
「一理はあっても推測の域を出てねえ」
「しかし、彼女らを追うのに、ここで待ちぼうけですか?特攻隊長の名が泣きますな」
「……さっさと言え。奈保ってガキはどこに行った」
「はい、喜んでお教えしましょう。京都です」
「京都……?大移動だな。ここから半日はかかるぞ」
「そうですねえ。入念な準備をして向かわなくてはいけませんね」
「……まったくだ」




