第1話 召喚
目を、開けると。
白い、部屋だった。
天井も。
壁も。
床も。
境目が、わからないほど。
均一に、白い。
窓は、ない。
扉も、ない。
どこから、光が、差しているのかも。
わからないのに。
影ひとつ、なく。
隅々まで、明るい。
……気味が、悪いくらい。
◇
そして。
その、白い部屋に。
私を、含めて。
十三人が、いた。
全員、初対面。
全員、状況を、飲み込めていない顔。
何人かは、もう、立ち上がって。
きょろきょろと、周りを、警戒している。
何人かは、まだ、へたり込んで。
自分の、手のひらを。
ぼんやり、眺めている。
……年格好は、ばらばら。
服装も、ばらばら。
革の、鎧をつけた、男。
ローブ姿の、耳の、尖った、男。
かと思えば。
私と、同じような。
どこにでも、いる。
制服姿の、少年も、いる。
共通しているのは。
誰もが。
「ついさっきまで、別の場所にいた」という。
顔を、していること。
◇
私も。
その、一人だ。
ついさっきまで、私は。
……。
――まあ、いいわ。
どこに、いたかなんて。
この際。
どうでも、いい。
(というか。
思い出そうと、すると。
なんだか、頭が、もやっとする。
まあ、いいや)
私は。
立ち上がって。
スカートの、埃を、払った。
埃なんて。
ついて、いなかったけれど。
こういうのは。
仕草が、大事なのだ。
ゆっくりと、部屋を、見回して。
十三人ぶんの、視線が。
集まりつつあるのを、確認して。
それから。
髪を、軽く、かき上げた。
……舞台は。
整って、いる。
◇
『――ゲームへの、参加者。十三名の、転送を、確認』
声が、した。
どこから、というのが、わからない。
部屋そのものが、喋っているような。
あるいは。
頭の中に、直接、響いているような。
奇妙な、声だった。
抑揚が、なく。
性別も、わからない。
全員が、一斉に。
天井を――
正確には。
天井で、あるはずの、白い、虚空を――
見上げた。
『これより、ゲームを、開始します。ルールを、説明します』
部屋が。
静まった。
さっきまで。
警戒して、動き回っていた者たちも。
足を、止めて。
聞いている。
……当然だ。
この状況で。
唯一。
こちらに、情報をくれる、声。
聞き逃す、わけには、いかない。
◇
『参加者は、十三名。全員、異なる、世界より、召喚されています』
異なる、世界。
その、一言で。
部屋の、空気が。
わずかに、揺れた。
ローブの、男が。
小さく、息を、呑むのが、わかった。
革鎧の、男は。
「やはりな」という、顔を、した。
……なるほど。
この中には。
私のような。
「令和の、日本」から、来た、人間ばかりじゃ、なく。
そもそも。
住んでいた、世界からして。
違う、連中が、いるらしい。
革鎧に。
尖った、耳。
剣を、提げている、者も、いる。
……異世界、というやつ、だ。
私はと、言えば。
驚きは、しなかった。
(いえ。
本当は、ちょっと、驚いた。
けど。
顔には、出さない。
驚いた顔って。
格好、悪いから)
異世界。
けっこう。
むしろ。
好都合だ。
育った世界が、ばらばら、ということは。
ここにいる、全員が。
互いの、手札を――
常識すら――
共有して、いない、ということ。
ルールを、一番、早く、飲み込んで。
一番、賢く、立ち回った者が。
この盤面を、制する。
……ならば。
私だ。
決まっている。
◇
『クリア条件は、二種類です』
声は。
淡々と、続ける。
『一つ。最後まで、生き残ること。他の、参加者が、全員、退場した時点で、生存している者を、クリアとします』
最後まで、生き残る。
つまり――
殺し合え、ということだ。
誰かが、息を、呑んだ。
誰かが、後ずさった。
剣を、提げた、男が。
ゆっくりと。
柄に、手を、かけたのが。
視界の、端に、映る。
『二つ。あなた、個々に、与えられた「役割」を、達成すること。役割は、あなた自身にのみ、通達されており。達成した時点で、その参加者は、クリアとなります』
役割。
私の、頭の中に。
いつのまにか。
一文が、浮かんでいた。
文字が、見えるわけじゃ、ない。
ただ。
「知っている」という、感覚だけが。
後から。
ねじ込まれたように。
そこに、ある。
――ああ。
これが。
私の、役割。
……。
読んで。
私は。
ほんの少しだけ。
首を、かしげた。
なんだか。
ずいぶん。
地味な、役割だ。
……まあ、いい。
役割なんて。
どうでも、いい。
どうせ、私は。
もっと、華々しい、勝ち方をするんだから。
(この時点で。
自分の、役割を。
きちんと、読み込む気が。
まったく、ないのが。
私という、女だった。
……そして、それを。
私は。
まだ、知らない)
◇
『最後に、一つだけ。この場で、共有すべき、事実が、あります』
声が。
少し、間を、置いた。
まるで。
この一言が、一番、効くのを。
知っている、かのように。
『――このゲームに、おいて。物理的な、攻撃は。最も、弱い』
しん、と、した。
意味が。
すぐには。
わからなかったのだろう。
剣を、提げた、男が。
眉を、ひそめた。
「……どういう、意味だ」と。
誰かが、呟いた。
声は。
答えない。
ただ。
同じ言葉を。
もう一度。
繰り返した、だけだった。
『物理的な、攻撃は。最も、弱い。以上で、ルールの、説明を、終わります。健闘を』
そして。
声は。
消えた。
あとには。
白い、部屋と。
十三人と。
張り詰めた、沈黙だけが。
残された。
◇
――そう。
そう、こなくては。
私は。
口の端が、上がるのを。
抑えなかった。
物理攻撃が、一番、弱い。
剣も。
拳も。
腕っぷしも。
この部屋では。
意味を、なさない。
つまり――
強さは。
見た目じゃ、決まらない、ということだ。
筋肉の量でも。
武器の、切れ味でも。
体格でも、ない。
なら。
何で、決まるか。
……決まっている。
頭だ。
盤面を、読み。
人を、読み。
駒を、動かす者。
誰と、誰を、戦わせ。
誰を、いつ、切り捨て。
誰を、自分の手で、握っておくか――
それを、設計できる者が。
この、十三人を、支配する。
腕っぷしの、馬鹿どもが。
勝手に、潰し合うのを。
一段、高いところから。
眺めて。
指を、鳴らすだけで、いい。
……それが。
できるのは。
この中で。
ただ一人。
私だけ、だ。
◇
剣も。
魔法も。
持たない。
令和の、女子高生。
けれど。
それが、どうした。
この盤面において。
力こそが、最も、無価値だと。
運営、自らが。
宣言したのだ。
ならば。
力を、持たない、私こそが。
最も。
強者に、近い。
……理屈は。
通っている。
私は。
いつだって。
理屈が、通っている。
(――ちなみに。
私の、能力は。
「他人の、感情の、揺れが、なんとなくわかる」。
それだけ、だ。
攻撃も。
防御も。
できない。
……でも。
それが、どうした。
最強の、頭脳に。
最強の、能力は。
いらない。
私は。
そう、信じている。
心の底から。
疑いもせず)
◇
十三人が。
じりじりと。
互いの、距離を。
測り始めた。
誰も。
まだ。
動かない。
当然だ。
ここにいる、全員が。
それぞれ。
「自分の、切り札」を。
隠している。
剣を、提げているからといって。
そいつの、本当の力が。
剣とは、限らない。
むしろ。
わざと、剣を、見せて。
本命を、隠している、可能性すら、ある。
物理が、最弱だと、言われた以上。
見えている、武器ほど。
信用できない。
……だから。
この、最初の、沈黙は。
探り合いだ。
誰が、最初に。
手札を、切るか。
切ったやつが。
真っ先に。
狙われる。
――ならば。
切らせれば、いい。
私、以外の。
誰かに。
◇
私は。
一歩。
前に、出た。
全員の、視線が。
こちらを、向く。
何人かが、身構えた。
「まさか。
こいつが、最初に、動くのか」という。
警戒。
私みたいな。
武器も、持たない。
鎧も、つけていない。
どこから、見ても。
か弱い、女子高生が。
私は。
その、視線を。
たっぷり、浴びてから。
にっこりと、微笑んで。
言った。
「はじめまして、皆さん」
声を、張る。
舞台女優のように。
朗々と。
「令和の、日本が、生んだ、天才、美少女。――湊ミライよ。以後、お見知りおきを」
◇
……沈黙。
誰も。
聞いて、いない。
正確には。
聞いては、いたけれど。
誰一人として。
私の、自己紹介に。
価値を、見出さなかった。
この、命のやり取りが。
始まろうとしている、場面で。
名前と。
盛りに、盛った、肩書きを。
堂々と、名乗る、女。
しかも、本名。
革鎧の、男が。
心底、どうでも、よさそうに。
視線を、私から、外した。
ローブの、男は。
「関わらないで、おこう」という、顔で。
半歩、下がった。
制服姿の、少年は。
おどおどと。
目を、伏せた。
――ちょっと。
反応、くらい。
しなさいよ。
いや。
いい。
反応が、ないのも。
それは、それで。
想定内だ。
(想定内、ということに、しておく)
むしろ。
いい。
名乗ることには。
意味が、ある。
この場で。
堂々と。
本名を、名乗れる、ということは。
正体を、隠す、必要が、ない。
つまり。
後ろ暗い、ところが、ない。
少なくとも。
そう、見せられる。
隠すという、発想を、持たない、という顔を、することが。
私にとっては。
一番、自然な。
「擬態」なのだ。
……だって。
隠す、というのは。
目立たない、ということだから。
私が。
一番。
耐えられない、ことだから。
◇
――さて。
私は。
あらためて。
残る、十二人を。
見回した。
この、十二人が。
これから。
生き残りを、かけて。
殺し合う。
裏切り。
騙し合い。
潰し合う。
そして。
その、すべてを――
私が。
動かす。
誰と、誰を、ぶつけ。
誰を、泳がせ。
誰を、最後まで、盤上に、残すか。
この、閉鎖空間で、起こることの。
ことごとくが。
私の、設計した、通りに。
転がって、いく。
十二人の、運命が。
令和の、女子高生ひとりの。
手のひらの上で。
踊る。
……ああ。
想像しただけで。
背筋が。
震える。
これだ。
この感覚のために。
私は。
生きていると、言っても、いい。
人を、動かし。
盤面を、握り。
すべてを、見通す者として。
この場に。
君臨する。
全能。
そう。
全能感。
神の、視点。
それを、味わえるなら。
召喚だろうが。
殺し合いだろうが。
喜んで。
乗って、やる。
◇
(……ちょっと。
お腹、すいたな)
いけない。
いけない。
君臨する、神が。
空腹で、集中を、乱すなんて。
あって、いいはずが、ない。
私は。
小さく。
頭を、振って。
邪念を、追い払った。
……そう。
私は。
これから。
この盤面の。
支配者に、なる。
誰にも。
気取られず。
涼しい、顔で。
全員を。
手のひらの上で。
転がして、みせる。
――そのために、必要なのは。
まず。
情報だ。
十二人が。
それぞれ。
何を、隠しているか。
誰が、嘘を、つき。
誰が。
本当のことを。
言っているか。
それを、見抜く。
幸い。
私には。
そのための。
力が、ある。
(攻撃は、できないけど。
それが、どうした。
さっきも、言ったでしょう)
◇
物理が、最弱の。
殺し合いの。
閉鎖空間。
異世界から、集められた。
十三人。
その、全員が。
これから。
知略の、限りを、尽くす。
極限の、頭脳戦。
――そんな、盤面のど真ん中で。
私は。
静かに。
微笑んだ。
誰も。
まだ。
気づいて、いない。
この中に。
すべてを、支配する、天才が。
もう。
立っている、ことを。
……そして。
私、自身も。
まだ。
気づいて、いない。
その「天才」の。
差配が。
これから。
どれほど。
……とんでもない、方向に。
転がって、いくのかを。
これは。
そういう、ゲームだ。
(第1話 了)
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【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
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・ここは異世界召喚のデスゲーム(13人)。
・クリア条件=①最後まで生き残る ②役割を達成する。
・重要ルール:物理攻撃が最も弱い。
=強さは腕力でなく「頭」で決まる(と私は読んだ)。
・私の能力:他人の感情の揺れがわかるだけ。攻撃不可。
=最強の頭脳に最強の能力は不要(と信じている)。
・私の役割:……なんか地味だったので、よく読んでない。
・方針:誰にも手札を切らせ、私は一段高みから支配する。
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