おじさんは異世界で暇を持て余す
本日二度目の更新となります。
前話を読み忘れてはおりませんか?
学院に平和が戻った。
召喚獣の一件は召喚主側が召喚獣の必要性を再確認した結果、召喚獣の待遇改善を行うことを決めた。もちろん全ての召喚主が変化を受け入れているわけではないが、いずれは折れるだろう。
マイコニドの一件もキノコ栽培の隠蔽に成功し、全ての責任は巨大キノコに押し付けた。
その巨大キノコも学院の隅に植えられ、バロンを始めとする講師たちが定期的に調査と研究を楽しそうに行っている。
意外だったのはウドの器用さ。私たちがマイコニド討伐から帰る頃には、ウドは帰る途中で抜き取った木々を器用に組み合わせて柵を作っていた。それにより巨大キノコの根元から生まれるマイコニドは外に出られず、シャクドウを筆頭とした定期的に暴れたい戦闘を得意とする召喚獣の餌食となっている。
ただ胞子はどうしても飛んでしまうため、近くには状態異常対策をしている人か、召喚獣しか近寄れないようになっている。
そんな中で私は。
「おばちゃん、うどん美味しくなっているね。出汁変えた?」
「当り前さね。改良に改良を重ねて美味くするのは当然。今は麺の改良を行ってるよ」
休日のおっさんの如く、のんべんだらりと過ごしている。
王都であれば観光などは出来たのであろうが、学院は慣れ親しんだ町。竜の鱗を対価としてマイケルに西と東の情報を集めてもらっている以上、もうやることがないのだ。
「あ、そういえば薬草学の講師が竜茸っていう滅茶苦茶美味い食材を隠し持っていますよ。北で食べたんですけどね、すっごい美味しかったですよ」
「へえ~、そうなのかい。皆、行くよ。脅してでも奪い取るよ」
おばちゃんの集団がぞろぞろと移動を開始した。あの集団に問い詰められたら命以外は全て差し出してしまうだろう。
ずずず、と汁も飲み、後悔する。
うどんなのにうどんじゃない感が強くなっている。
やや甘めで旨味のある汁に、僅かに塩味がする麺。舌がおかしくなったかと思ったが、麺単体で食べてみてもやはり僅かに塩味がする。
だがそれが上手く調和していて美味い。だが、求めるものとは違う。
見た目はうどんなのに、想像とは違う味で美味い。
それが余計に郷愁を煽る。飯を食べ終えて泣きそうになったため、おばちゃんたちに餌を与えて移動してもらった。
涙腺、弱くなったな。
「トモダチ?」
「ああ、グレイか。うどんを食べに来たのか? おばちゃんたちは今いないんだが」
「大丈夫、もう食べた。シャクドウとキジュツがまた喧嘩を始めたから逃げて来ただけ」
不意に声を掛けられ驚いたが、すぐに涙を拭っていつも通りに振る舞う。
しかしシャクドウとキジュツはまた喧嘩をしているのか。
波長が合ったのか、それとも合わなかったのか、マイコニドの一件以来シャクドウとキジュツは顔を合わせるたびに喧嘩している。言葉も通じないのに。
いや、キジュツの言葉を使わずに相手を煽る技術が高い所為だ。
最初の頃は皆がはらはらしながら見守っていたが、今ではいつものことと認識されてウド以外は誰も心配していない。むしろ迷惑とすら思っている。
「そうか、大変だったな。……しかし暇だな」
「そうだねえ」
学院の講師たちはいつもの授業の他に巨大キノコの調査と研究で大忙し。召喚獣も自由になったおかげで色々と満喫している様子。
しかし最初から自由で、学院からの依頼を達成したのでやることがない私たちは暇の一言。
召喚獣と言う立場上、リリーナやポーラが来ない限りこの町から大きく離れるわけにもいかない。
「そうそう、聞いた? 予定では今日ぐらいにあっちは王都に到着するんだって」
「……向こうの方が移動は短いはずだ。そうか、ゆったりとした移動だったんだな」
こちらは超が付くほどの特急で学院まで運ばれたのだが、向こうはゆったりとした移動で王都に向かっていたのだろう。羨ましい。
となると、リリーナたちは王都で表彰などの要件が終わってから学院に来て転属先に移動の流れか。
つまり。
「まだまだ暇か」
「そうだね。マイケルももう少し情報を集めるのに時間がかかるって言うし。あー、いずれしないといけない公爵への科学の成果。実験して今のうちにいくつか用意しておく?」
「そうだな。いつ必要になるか分からないし、手札は出来る限り増やしておきたい」
火薬や蒸気機関などの影響力の大きなものは怖いから駄目だとして、公爵が納得するような適切なもの。……それって何だ。
暇を持て余したおじさんと宇宙人の科学の時間が始まる。




