お嬢様は王都を堪能する
「この度の功績、誠に見事であった。これからも王国の為尽くしてほしい」
「ありがたきお言葉! これからも微力ながら王国に尽くします!」
これでようやく表彰式も終わり。
何だか凄く無駄な時間を過ごした気がする。
王城から王都にある公爵邸に戻り、一息吐く。
はっきり言ってやることがない。
おじさんと別れてゆっくりと王都に向かい、王都に着けば今度は表彰式よりも先に事情を聞くためボルダー辺境伯だけ王城に向かい、その間に久しぶりの王都を観光した。
三日が経ち、ボルダー辺境伯の説明が認められて竜は存在することになった。それでようやく呼ばれるかと思えば、今度は私たちの功績はどれほどの価値があるかで審議することになり、その間に父と母と共に親子水入らずの時を過ごした。
そしてようやく表彰式が終われば、こんどは学院の安全の確認が不完全なために出立が先延ばしにされた。
もう観光は終わった、親子水入らずの時間も過ごした。やることがない。
と、思っていたのは私だけだったようで。
「はい? 父上が私を?」
父から呼び出しを受けた。それも以前のように庭や談話室ではなく、執務室に来るようにと。つまり、仕事に関する呼び出し。
何だろうと思い向かえば。
「ああ、リリーナ。急に呼び出して済まないね。さあ、そこに座って」
紙をびりびりに破いて捨てていた父がいた。
何の紙を破いていたのか、気になるも父が不要と思った以上は知る必要はないと考えて記憶から捨て去る。
「さて、まずはどうでも良い通達をしよう。リリーナの転属先は東になった。もちろん、ポーラ令嬢も同じ東だ。他にも何か言っていたな。確か『急な転属で準備もまともに出来ないと考え、一月の猶予を与える。ルルクス伯爵領内で速やかに準備を整えるように』だったかな。ふふふ、少し娘たちが功績を上げただけで王宮は大騒ぎだ。一月の猶予を与えると言いつつ、準備する場所は指定してくるんだ。完全に時間稼ぎと足を引っ張るつもりだね。ああ、安心して。ルルクス伯爵は豪快な人だが、下らないことに手を貸す人ではない。邪魔はないよ。さて次だが」
父の言葉を聞き、呼ばれた理由を理解した。
数日前の家族水入らずの時は私の赴任先の話を一切しなかったし、おじさんのことについても一切聞いてこなかった。家族だけの時間を過ごした。
しかしここでは初めに転属先の話。となれば次の話は赴任先だった北か,ここにはいないおじさんの話。
「学院の安全が確認されたから、明日には出立できるよ。まあ、元々安全なのは確認されていたんだが、やや状況が特殊でね。念のための安全確認を行っていたんだ。そういえば、学院で起きた問題は、彼が解決したらしいよ。なにやら学院に大きな利益を与えたとか」
学院。おじさんたちが呼ばれて向かった場所。大急ぎだったのは知っているが、何が起こっていたのかは知らない。でもおじさんはそれを簡単に解決したようだ。
おじさんの無事を聞き、ほっと安堵する。父もその報告を聞いて上機嫌の様だ。
「ふふふ、彼はあちこちで利益を出してくれる。そういえばボルダー辺境伯から感謝状が届いていたな。領地改革に、基地の待遇改善、竜と友好関係を築いたとか。凄く褒められている。リリーナ、一応聞いておくけど、これ事実かい?」
「全てかどうかは分かりません。私が巡回などを行っているときにボルダー辺境伯領を見て回り、帰ってきたらボルダー辺境伯の召喚獣となにやら行っていました。竜との関係についてはほぼ事実かと。おじさんは竜の頭に乗って竜の寝床まで行っていました。あ、そういえば確かにボルダー辺境伯に領地の改革や、基地の待遇改善方法があると言っているのを見ました。となると全部事実だと思います」
そう考えるとおじさんは本当に凄い。私の知らない間に色々と動いていたのか。私なんて慣れない巡回と熱の魔石の採掘、兵器の組み立てくらいしか覚えたものがないのに。
「なるほど、後で裏取りはさせてもらうけど事実か。ならもう少しこっちにも利益を、と言いたいけどこれ以上は王宮の馬鹿に騒がれるのも嫌だな」
そう言って父が見つめるのは、執務室の片隅にある竜の牙。
竜の存在の証明としてボルダー辺境伯は竜の鱗を提出した。大小さまざまな鱗全てに濃密な魔力があれば、並の生き物ではないことの証明となり竜の存在が認められた。
その結果、ボルダー辺境伯の所には錬金術師を始めとする研究者が昼夜を問わず訪れて、竜の鱗をねだっているらしい。
そんな中で鱗よりも膨大で濃密で異質な魔力が込められている竜の牙の存在が明らかになればどうなることやら。
王に献上を仄めかしてくる馬鹿も現れるだろう。馬鹿の対処など利益はなく面倒なだけ。
「ふーむ、表立って色々と用意してくれるより隠してこれを渡した方が力だと思ったのかな。……あ、これはリリーナの物だった。ただここに預けているだけ。厳重に保管しておくよ。さすがに使い道が思いつかない」
竜の牙。馬車で共に運ばれているときは邪魔だと思っていたが、想像以上に邪魔、というか厄介なものだったようだ。まさか父ですらもてあますとは。
「確認することはこれだけかな。リリーナは何か聞きたいことはあるかい?」
「東と言えば、姉上はまだ戻らないのですか? 私の卒業と共に戻ってくると思っていましたけど」
「……ああ。まだもう少し力を借りたいと東から連絡が来てね、向こうの情勢が落ち着くまではと期限を付けて残ったよ。もしも会ったら、ゆっくり帰っておいでと伝えてくれるかな?」
「分かりました。それともう一つ、数日前にこの話をしなかったのは――」
「ははは、考えてごらんよ。我らが愛娘、リリーナの召喚獣は私よりも年上の男性です、なんて妻に教えられないだろう。あ、だから秘密にしておいてね」




