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おじさん北の前線基地に到着する

 北の前線基地に向かう馬車に乗る。


「あれ?」


 乗客は自分たった一人。強いて言えば北で生きていくために作ってもらった木片の束がある。

 馬車内の半分以上を木片で埋めている状況。確かに狭いかもしれない。しかし乗り込むときに見た限りでは貴族である召喚主たちですら狭そうで、召喚獣に至っては馬車に乗れない者は走って、乗れる者も無理矢理詰め込むといった徹底ぶり。

 なのに何故私だけ一人快適に過ごせているのか? いや、馬車は揺れるし風は寒いし快適とは程遠い環境だが。


 移動の休憩中にグレイにその理由を尋ねてみると。


「トモダチの所為」


 私の所為にされた。


「トモダチが卒業式で誰とでも会話が出来るのを見せたでしょう? その所為で召喚主が召喚獣経由で情報を盗られるのを警戒、いやもはや恐怖してトモダチに近づかないようにしている。あとこれからはボクもそっちの馬車に乗るね。圧死させられるかと思った」


 ふむ、どうやら卒業式の影響が思ったよりも出ているようだ。しかし問題はない。そんな過剰反応も最初だけ。ずっと続けられるはずもなく、いずれは薄れていく。


 同乗者にグレイが加わり、馬車は北を目指す。

 移動ばかりの日々が過ぎ、気温が寒くなり雪が降り始めた頃、山が見えてきた。あの山を越えた先に北の前線基地がある。

 山を越えるには谷間を通る必要がある。しかしこの谷間こそが、この北の大地を支える最も重要なところ。


「トモダチ、谷間の壁に鉱石があるんだけど、見たことがない。宝石の類かな? 輝いている。……あれ? 自ら光を発しているように見えるけど」


「そうか、あれがマイケルさんから聞いていた魔石と言うやつか。あれ一つで熱を持つらしく、一つならほんのり暖かい程度だが、十個集めて持つと火傷するほど熱くなるらしい。北では服に仕込んだり、部屋を暖めたりと必需品となる。熱の魔石だとか、火の魔石だとか色々と呼び名があるが、重要なのは溜め込んでいる熱を全て発した後でな」


 私がマイケルなどから仕入れた情報を元に、馬車から見られる光景にガイドの真似事をしていると景色が一変した。


 谷間が広がった。それも突然に。

 未だに両脇には山があり、断崖絶壁が見えるが一気に遠くなった。まるでか細い支流から大河に繋がったかのような変化。


「ええ? おかしな地形だな。どうしてこんな形になったんだろう」


「聞いた話ではこの地形は最初からあったらしいぞ。昔にでかい生物が谷間を通ろうとして頭を突っ込んでこんな地形が出来たんじゃないか、って面白おかしく話していたな」


 まあ、そんな憶測が出てくるくらいにはこの地形は不思議だ。馬車一台が通れる谷間から突然、巨人が何人も同時に歩き回れるほど広くなるのだから。


 この不思議な地形に来たということは、この先に。


「北の前線基地が見えたぞ。降りる準備をしろ」


 前を走る馬車から声が響く。良かった、仕入れた情報は今まで間違っていなかった。ならば他の情報もほぼ正しいだろう。


「準備? トモダチ、この木片を運ぶの手伝おうか?」


「それは助かる。すぐに組み立てるわけにもいかないし、外に放置するわけにもいかない。寒さに強い素材にしたとはいえ、油断は出来ない。倉庫がどこかに案内してもらえればそこに置いて、後で組み立てよう」


 持ち運びやすいように木片を整理していると、外が騒がしくなってきた。

 どうやら前線基地に到着して入ろうとしている様子。しかし騒がしいのは他が原因だった。

 門の横で白黒のピエロの仮面をかぶり、ストライプの服を着た女性が大声で話していた。

 最初の内は何を言っているのか分からなかったが、近づいたことで翻訳能力が働いた。


「ようこそ、極寒の大地へ。私は邪神の眷属、ピエロマスクと申します。この言葉が分かる同じ世界出身の召喚獣がいれば後で話をしましょう。邪神様以外の眷属は今すぐに首を出せ。殺すから」


 うーん。単なる挨拶かと思えば後半がかなり物騒な内容だった。

 召喚主以外の会話相手が欲しいのだろうか。それならば同じ世界出身の者を探すしかない。しかし、敵対関係なのか同じ世界出身者を殺すと公言するとは。


 怖いなあ。


 あまり関わらないでおこう、と思ったが馬車から顔を出していた所為で目が合った、気がした。

 下手に刺激しないように笑顔で手を振る。


 ピエロのお姉さんも手を振ってくれた、かと思えば何も持っていなかったはずの手がナイフを持ち、こちらに投げつけてきた。

 咄嗟にグレイが光線銃でナイフを消してくれたから助かったが。


 いやはや、ここは怖いところだ。


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