おじさんは異世界で準備を終える
「マイケルさん、今回は本当に助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ、私は信頼できる服屋を紹介しただけですから。それに、何でも新しいやり方を教えたと聞きましたよ」
「ははは、私は単にこんな方法はないかと提示しただけですから。それに採用したのはこちらのご主人。私の力など微々たるもので……。あの、そろそろよろしいでしょうか? 今はあまりマイケルさんと会話をする内容が少ないのですが」
卒業式が終わった翌日、私は服屋に来ている。というのも、私が借りた礼服を返してスーツを返してもらうためだ。
ただ服とは買う物であり、借りるものではない。しかし貴族を相手にすることが出来る礼服となれば良い値段する。たった一度しか着ないと思われる服にそこまで金をかけることも出来ないので、マイケルに紹介してもらった服屋の主人に貸す商売の仕方を教え、最初の顧客として自分を売り込んだ。
補償金の代わりにスーツを預け、礼服を借りた。そして今は礼服を返し、スーツを取り戻そうとしているのだが。
「い、いやだ! もっとこの服を見るんだ! 調べるんだ! ただの糸じゃねえ、革でもねえ! こんなの、知らねえ! 見てえ、もっと見ていてえよお」
その服屋の主人が先程から私のスーツを握って放さない。握ると言っても皺にならないように丁寧な持ち方で、不思議と預けた時より綺麗になっているように見える。
「あー、腕の良い職人ではあるんですけどね。少々変わり者なだけで。あの、そろそろ本当に返して頂けませんか? セーイチさんにも都合があるでしょうから。というか本気で返してください。貴方を紹介した私の責任になるんで」
まさかこんなことになるとは。素直に金銭を保証金として渡しておくべきだったか。
それからしばらく服屋の主人とマイケルの壮絶な争いの末、何とかマイケルがスーツを奪取。服屋の主人はまさかの男泣き。
なんとも申し訳ない気持ちで店を後にする。
まあ、絶対にこのスーツは譲らないが。
マイケルから北にいる信用できる商人について情報をもらい、別件の方を片しに行く。
かなり無理を言ったのだが。
「来たな? 出来てるぞ」
小人は要望通りの物を作ってくれていた。
地面に転がる数々の木片。これを組み立てることで極寒の北の大地に行っても戦える武器となる。
「ありがとうございます。まさか本当に作り上げてもらえるとは」
「呼んだからな。仲間を」
小人の後ろに続々と新たな小人が姿を現す。小人は召喚されやすい。つまり、この世界には多くの小人がいる。助けを求めれば応じてくれる。
素晴らしき協調性だ。
「それでは報酬は、皆さん同じで大丈夫ですか?」
「「「良いぞ、もちろん」」」
威勢の良く返事をする小人たちを手の上に、そこにも乗せきれないものはポケットや腕などを使い運ぶ。
行き先は巨人、ウドの下へ。
「ウド、前に話していた件で来たのだが。暇、そうだな」
「セーイチ? おお、セーイチより小さいのが一杯いるなあ」
興味深そうにウドはこちらに顔を運び間近で見てくる。しかし近寄ってくるのは巨人の顔。声は腹に響く振動となり息は突風となる。
それに小人たちは飛ばされそうになりながらも興奮気味に騒ぎ出すので、やかましいことこの上ない。
「すげえ! すげえ! 大きい人より大きい人だ!」「大きい人が小人みたいだ」「知ってるぞ、あれは山って言うんだ」
うん、本当にうるさい。特に首の辺りに捕まっている奴らが。
とっとと約束を果たそう。
「ではウドさん」
「ああ、そうだったな」
下ろされたウドの両手に乗るとウドが一気に頭の上まで持ち上げてくれた。
「さあ、約束の凄く高い場所だ」
小人への報酬は凄く高い場所。小人にとってこの世界は大きすぎる。しかしどこに行っても必ずそこよりも高い場所があった。そのため、小人は本当にどこよりも高い場所に行きたいと要求してきた。
本当に高い場所となればそれこそ山頂か、グレイに宇宙船でも作ってもらう必要があるが、小人が求めたのは周りを見ても他に高い物がない場所だ。
ならばウドの手に乗り両手を挙げてもらえば問題ない。それだけで周りの建物を超すことが出来る。
「高いなあ。飛びたいなあ」
「そうだなあ、楽しいだろうな」
なにやら怖いことを言い始めた小人を無視して、そろそろ降ろしてもらおうかとウドに声をかけようとした直後に。
「まだだ! もっと高いところがあるぞ!」
どこかの小人がそう叫んだ。
すぐに辺りを見回すもそのような建物も何もない。ここより高い場所はないはずと思ったのが、すぐに理解した。
小人の目が全て私に向けられていたために。
私の手や腕にいた小人たちは耳や口を引っ張りながら頭頂を目指し、私から離れてウドの指先まで行き、外の景色を楽しんでいたものは一斉に戻ってきて、足元から懸命に上り始めた。
非常に痛い。皮膚を、髪を、あちこちを遠慮なく引っ張って上る小人。しかし払いのけるわけにもいかず、座ったり倒れたりすれば足元と小人が危ない。
ただひたすらに激痛に耐え、小人が飽きた時を狙ってウドに降ろしてもらうほかなかった。




