第48話 第二軍団
本当に久しぶりの投稿になってしまいました。
申し訳ございません。
戦闘が行われている前方の砂煙を目指して、私達は馬を急がせました。
近づくにつれて前方の状況が視認できるようになると、アレンさんの大声が私の耳に響きます。
「ミユ様! “第二軍団”の旗です!!」
「えっ? 第二軍団?」
聞き慣れない単語から、一瞬頭に疑問符が浮かんでしまいましたが、すぐにこの世界で教えてもらった知識から、状況を推測することができました。
(第二軍団……とりあえず“味方”ね。……だけど、おそらくギンガー男爵の一件が何らかの形でマリクさんに漏れて、彼を捕らえに来た部隊……といったところかしら?)
ここはカダイン伯爵領のど真ん中、敵勢力などいるはずが無い地点です。
……とすれば、“第二軍団”というのは、カダイン伯爵領軍ということになります。
第一軍団長はギリアム・マクベインさんだったと記憶していますが、第二軍団長さんとは面識が無いかもしれません。
もしかすると、先日の“軍事演習”の時に挨拶を受けているのかもしれませんが、あの時はガイア様との“一騎打ち”イベントがあって私には余裕が無かったこともあって記憶に残っていないのでしょうか。
それにしても、いったいどこからギンガー男爵の情報が漏れたのでしょうか?
一つの可能性を考えながら後ろを振り返りますが、すぐに向き直って頭を切り替えました。
「とにかく、急ぎましょう! 怪我人が出る前に戦闘を停止させないと!!」
「はい! 了解いたしました!!」
10馬身くらい先行しているハロルドさんを追いかける形で、アレンさんと私が乗った馬が追走し、その少し後方にガッシュさんがつけています。
馬から振り落とされないように、アレンさんに必死につかまりながら「お願い! 間に合って……」と心の中で祈りました。
◆◆◆◆◆◆◆
<バダット視点>
俺の名前は、バダット・バラクーダ
カダイン伯爵領の“第二軍団長”を務めている。
第二軍団長に就任したのは30歳の時だから、もう20年目になるだろうか?
今は我が軍の主であるマリク・カダイン伯爵の命を受け、領内を移動中の“裏切り者”ギンガー男爵を排除する命令を遂行しているところだったのだが――――――
「親衛騎士長ハロルド・ギンガーが命じる! 今すぐ戦闘を停止せよ!!」
戦闘が行われていた現場へ、一人の騎士が駆け入ってくるやいなや、大声量が辺り一面に響き渡った。
その影響で一瞬にして辺り一面に静寂が訪れると同時に、戦闘を行っていた我が軍の兵士達の視線が俺に向かって注がれる。
(やれやれ……冗談かと思っていたが、本当に間に合いやがった……)
最初に到着した騎士に続いて、2頭の馬が立て続けに駆けこんできた。
若い女を後ろに乗せた騎士と、次は俺と同じ歳くらいの“良く知っている男”が乗っている。
若い女は事前に“奴”からもらった情報通り“聖女”様に間違いない。
騎士のほうは誰だかわからんが護衛だろう。そして、俺が“よく知っている男”……ガッシュの奴が、こちらをチラリと一瞥した後、聖女様の指示に従って、負傷しているギンガー男爵の一行の救済活動を開始した。
俺は手に持っていた抜き身の剣を鞘にしまうと、右手を高く上げて軍全体に戦闘停止を命じた。俺個人としてはギンガー男爵をこのまま始末したかったが、“聖女”様達が間に合ってしまったのであれば仕方がない。
「ふぅ~っ」と溜息をつきながら、聖女様一行が、ギンガー男爵とその配下たちを治療して回るのを黙って静観することにした。
(………流石は“魔王様”の“姉君”ということか……)
軍事演習の時にサーペント家のお坊ちゃんとの一騎打ちを拝見した時も、その膨大な魔力量に驚いたが、こうしてすぐ目の前で“癒しの力”を披露されると圧巻というほかない……。
部下たちも目を見開き、口をポカンと開けてその光景に見入っている。
(さて……どうしたものか………)
この事態を演出したガッシュの奴を睨みつつ顎に手を当てて頭をひねった。
奴は俺の視線に気が付いたのか、口の端を上げながら楽しそうな視線を返してきやがった。
(くそっ! 少しは俺の立場を考えやがれ!!)
満足そうな奴の顔に腹が立ったが、この事態は普通に活動していれば接触することのない“聖女”と“俺達”が繋がりをもてる好機には違いない。マリク様の命令に反することになるが、奴の描いた茶番に付き合うしかないようだ。
そう、『死神の巣(俺達)』の未来のために――――――――――
◆◆◆◆◆◆◆
<ガッシュ視点>
第二軍団長のバダットが、こちらに何か文句を言いたそうな視線を送っている。
奴としてみれば、自らの“保険”のために姉君様とユウト様を騙し、利用しようとしたギンガー男爵を始末し、主であるマリク・カダイン伯爵の命令を完遂したかったであろうが、ここは我慢してもらわねばなるまい。
我々『死神の巣』の計画はすでに動いているのだ。
ユウト様を立派な魔王に育成する計画と並行して、秘密裏に世界に散らばっている闇属性所持者たちへの連絡も進めている。
この吉報が同胞たちに届けば、間違いなく皆“狂喜乱舞”し、速やかに魔都の建国候補地への人員移動を開始することだろう。もちろん今後のために諜報活動員を各所に必要数残す必要はあるが、それでも数万人規模の移動になると思われる。
そうなると、リーフラッド公国やメルガト帝国では、急な人口減少等に疑問を抱き、我々の計画を察知する危険性もあるが、現在彼らの諜報活動・情報網を支えているのは、我々であるから、彼らが独自の諜報員を育成するまでの数年間は脅威になることもあるまい。
とにかく今は、アストリア侯爵家、カダイン伯爵家、水の神殿との同盟関係を強固なものとしつつ、ユウト様と姉君様の周りに我々の息のかかったものを多数配置していく方針で進めたいと考えている。
できるだけ自然な形で―――(無理かもしれんが……)
そして今回の件は実に都合が良かった。
ギンガー男爵の下手な小細工のおかげで、「裏切り者を早期に発見し通報する」ということにより、カダイン伯爵家に同盟者としての我々の力を示すことができたし、また我々の同胞である第二軍団長バダットと姉君様の顔つなぎの機会ができた。
さて、後はバダットと姉君様のやり取りを見守るだけなのだが……どうなるか……
◆◆◆◆◆◆◆
<ミユ視点>
先行したハロルドさんに遅れて現地へ到着した私とアレンさん、そしてガッシュさんは、急いで馬から飛び降ると、負傷しているギンガー男爵の護衛や家人達を治療して回りました。
幸いなことに、第二軍団の軍団長が命令してくれたようで、私達の治癒作業の邪魔にならないように、騎兵たちが少し移動して距離を取ってくれました。
それでも、第二軍団の騎兵約50騎に囲まれながらの治癒作業は、心臓に悪いですよ……。なんというか……“視線が痛い”……そんな感じです。
“私の経験”から例えると……夏に薄着をして外出した際、行き交う男性から感じる胸元への熱い視線とでも表現すれば良いのでしょうか………。
―――すいません! 嘘をつきました!
私はそんな視線を感じた経験はありませんでした!
………はぁっ……自分で言っても落ち込みますね。
まぁ、何にしても、第二軍団の総兵力は1,000名だったと思うので、全軍に囲まれるよりも今の状況は遥に良いのでしょうが……。
(―――――――ふぅっ、終わったぁ……)
20名中15名いた負傷者の治癒作業が無事完了しました。
馬車から飛び降りた際に足を捻ったという最も軽傷だったギンガー男爵の治癒を最後にしたのですが、彼が一番大騒ぎだったのには辟易しましたが……。
何はともあれ、命にかかわるような重傷者がおらず、一人の死者も出なかったことに、まずは一安心というところです。
ギンガー男爵は、しきりに“今回の件”の言い訳を聞いてもらおうと、私が癒しの魔法をかけている間にも一生懸命声をかけてきましたが、残念ながら私はこれから自分自身の言い訳を第二軍団長に主張しなければなりません。
すでにギンガー男爵と第二軍団が接触してしまった以上、私たちが計画していた“何もなかったことにする計画”はご破算です。何とか穏便に事を済ますためには、私が泥を被るほかはないように思います。
(ハァ…………)
さて、この場はハロルドさんを残し、親子二人で解決してもらうことにして、私は第二軍団長のいる場所へとゆっくりと歩いていきました。
「私は、カダイン伯爵の元でお世話になっている『ミユ』と申します。貴方様は、第二軍団長様とお見受けしますが、どのような経緯でこの場にいらっしゃったのでしょうか?」
普段使わないので、少々変な敬語遣いになりながらも、「なぜこんな所にいて、ギンガー男爵を襲撃しているのかわからない」といったように首を傾げて見せる。
「ふむ……私はカダイン伯爵より、第二軍団長を拝命しておりますバダット・バラクーダと申す者です。以後お見知りおきください。そして、ミユ様のことは良く存じております。確か今は、サーペント伯爵領へ『お届け物』の任務中だったと記憶しておりますが……」
(うぐっ!)
にこやかに微笑みながら厳しい返しをするところは、さすが熟練の軍団長といったところでしょうか。早くも私の背中に冷たい汗が流れはじめました。
「我々、第二軍団はカダイン伯爵より直々の命を受け、許可なく重要な軍事物資を移動および着服しようとしているギンガー男爵を処断するべく参ったしだいです。」
「……そのような虚偽の情報がどこから流れたのでしょうか?」
「確か……エミール殿と言いましたかな? ミユ様の護衛と聞き及んでおりますので、虚偽の報告とは考えられないかと……」
「なっ!」
なんと! マリクさんに情報を届けたのはエミール君だったのね………そういえば姿を見かけないと思いました。……そしてエミール君を動かしたのは……!
ジロリと後ろに視線を向けると、ガッシュさんがスッと目を逸らしました。
「な、なるほど……じ、実はギンガー男爵にユウトへの荷物をお願いしたのは私なのですが、お願いするはずの荷物を間違えてしまって……そういうわけで、ギンガー男爵の嫌疑についてはエミール君の誤解なのです。」
自分で言っていても穴だらけの言い訳ですが、幸いな事にバダット軍団長は「なるほど……」と頷いてくれています。
―――が、しかし……
「ミユ様、エミール殿が誤った報告をマリク様に連絡したことが事実だとすると、何故ミユ様ご自身がこの場へ足を運ばれたのですかな? また、ギンガー男爵が途中の橋を落としたのは何故でしょうか?」
(………つ、詰んだよぉ……)
ダメだ! ……もう相手を納得させられるだけの言い訳を思いつかない……というか、なんの準備もしていなかったのだから当然といえば当然なのだけど……。
背中だけでなく、ジワリと額に汗がにじんできたのがわかる。
目にも悔しさからか、涙がにじみ始めてきました。
しかし、ここでバダット軍団長のほうから意外な発言がなされました。
「フフフッ 少し意地悪をし過ぎましたかな? 我が軍にとってミユ様はカダイン伯爵領をお救いいただく『聖女』にほかなりません。お味方することはあってもご機嫌を損ねて敵に回すような真似はいたしませぬ。」
「えっ!! そ、それでは……」
軍団長の嬉しい言葉に目の前が急に明るくなりました。
「はい、マリク様の命に反するのは心苦しいですが、今回の件は私のほうからマリク様に事情を説明して何とか不問となるように請願いたしましょう。後でミユ様にマリク様からのお叱り等があるかもしれませんが、ギンガー男爵家に厳しい処分が出ないように助力することをお約束いたします。」
「あ、ありがとうございます!」
やったよ! 私の力で解決したわけではないけれど、私がマリクさんに怒られるだけで全てが丸く治まるなら安いものです。
それにしても、バダット軍団長……なんて良い人なのだろう。
初対面なのに、何の見返りもなく、ここまで私にやさしくしてくれるなんて………。
―――と思っていたら
「ところでミユ様。最後に一つお願いがあるのですが………」
(あ、あれ? やっぱり何か条件が?)
「先の軍事演習で、サーペント家のご子息に一騎打ちで見事勝利されていた実力をもう一度拝見したいと思うのですが………いかがでしょうか?」
(えっ? えぇっ!!)
冗談じゃありません! あんなことは二度とご免です。第一、優斗もいないのに何でそんな危ないことを好き好んでやらなければならないのでしょうか。
何か適当な理由をつけて断らせていただきましょう!
「残念ながら別のお願いと変えていただけると助かります。私のような若輩ものでは、軍団長様のお相手などできませんから………」
「いやいや、そのようなご謙遜を………それにご安心ください。ミユ様にお相手していただくのは、私ではなく将来有望な若者達ですので―――」
(なっ! なんですって!!)
バダット軍団長が私に向かってニコリと微笑むと同時に、3人の若い兵士が前へと進み出てきました。3人とも私と同じくらい……20歳は超えていない屈強な兵士という感じです。
「あ、あ、あの……ですね………今日は……ちょっと都合が悪い……といいますか………」
しどろもどろになりながら返答に窮していると、ふと素敵なことを思い出しました。
「そ、そうです!! 今日は私“愛用の杖”を持ってきていないのです。あれがないと思うように魔法が使えなくて………」
そう、軍事演習での一騎打ちの時に使用していたドラゴンの骨を削って作ったという杖を今日は持ってきていないのです。代わりに持ってきているのはトイレで使用する『水洗ステッキ』です。むしろこちらのほうが“愛用の杖”と言えなくもないのですが………。
「むぅ……愛用の杖を……?」
「残念ながら……。急いでいたもので、このようなものしか持ってこなかったのです―――」
そう言いながら、上着の右ポケットに入っている『水洗ステッキ』を取り出し、軍団長と若い兵士達の前に掲げました。
すると………
「「「「!!!!!!!!!!!!!」」」」
『水洗ステッキ』を見て、驚愕の顔を浮かべる兵士たち………何か信じられないものを目の当たりにした表情です。
「……えっ?」
私は何が起きたのかわかりませんでしたが、ゆっくりと『水洗ステッキ』に目を向けると、そこには“白い布切れ”が引っかかっていたのです!
………そう、私のパンツが――――――
「~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!」
あまりの衝撃に、悲鳴が言葉になりません。
慌てて上着の右ポケットに『水洗ステッキ』とパンツを突っ込むと両手で顔を隠しました。きっと皆に見えている耳は真っ赤に違いありません。
「こ、これは……違う、違うのです。あの、その………」
必死にこの場をやり過ごすべく言い訳を考えますが、そんな都合の良いものを思いつくわけもなく、無意識に誰かの助けを求めて視線を彷徨わせました。
そして、そんな視線を受け止めてくれたのは、ガッシュさんでした。
「む、むぅっ……そのぉ………何だ、バダット軍団長……貴公が選別した兵士はどれもミユ様の相手を務める資格がないようだな。ミユ様がそのことを教えてくださったように思うが……」
「はぁ? 何を………んっ……なるほど! そういうことか………確かに今のミユ様の“物”を見て、こいつらは“兵士の顔”から、ただの“男の顔”に変わってしまっているな……。これでは、まだまだ未熟と言わざるを得ないな」
「どうだろうか? バダット軍団長、その未熟な兵士達を教育のためにミユ様の傍で鍛えさせては?」
「なるほど、戦闘経験以外に精神面での鍛錬が積めますな……。ミユ様、もしよろしければ、それを私からの“お願い”に代えさせていただけませんか?」
何やらガッシュさんと軍団長さんの間で、強引に場がまとめられているようですが、これに乗らなければ私一人の赤っ恥は決定です。すかさず同乗させていただきます。
「そ、そうですね……3人がよければ私の護衛として歓迎します」
――――というわけで、私のおかげで乱れてしまった場の空気は何とか静まり、第二軍団は撤収、ギンガー男爵はハロルドさんに色々と言い含められつつ領地へ帰り、私たちは新しく増えた護衛3人と一緒にベルの町へと帰還しました。
帰還したベルの町で、リアナとカレンのメイドコンビだけでなく、何故かベルの町までやってきたマリクさんにも長時間説教されて散々だった話は、機会があればまた語りたいと思います。
その翌日、ベルの町を出立し、サーペント伯爵領に一番近いソールの町へと到着したのは、予定よりも1週間遅い日となってしまいました。
次回は、『ソールの町』になりますが、
また掲載まで時間がかかりそうです。ごめんなさい。




