宝石箱
「ゆっくりお眠り。僕が君の静かな寝息に気付かぬ程に。ゆっくり…ゆっくり…お眠り」
桜の咲く前、3月の卒業式シーズンに私は1人で中学の門に別れの花を抱え立っていた。
誰も迎えにくるわけもなく、さよならを言う友達もいない。この制服も今日限り。よく頑張った3年間だった。今日の青く透き通った広大な空だけが私の毎日を「おめでとう。よく頑張ったね」と唯一讃えてくれているように思えた。
私は3年間通った門を通って家までの帰路に立った。
今日が最後になるこの帰り道は思い出がとても深い。
嫌なことも良かった事もいろいろあったなぁと思い出す。
常にいじめられてたわけではないが、1人が多かった私は、気付かれないように気配を消すように、毎日をひっそりと過ごしていた。たまに何かしらの状況で、標的になってしまう事もあったけれど、個人的にはなんとか無事に3年間やり過ごせた方だと思う。
中学を出てからしばらく行くと、線路際の道に出る。私はだいぶこの道に救われた。電車が通るたびに、その日の嫌だったことが音と共に1つ1つ去って行っているように思えた。右へ左へと走り去る電車は、素早さと共に力強く軽快に走り抜く。柵につかまり、たくさん行き交う電車をいつまでも見ているのが本当に大好きだった。この道とも行き交う電車とも今日でお別れ。電車に(ありがとうございます)と心で唱えお礼を言うと、私は再び帰路についた。
あと少しで私の家につく。
卒業式でもらった花や紅白まんじゅうや、卒業証書など、それを家に持ち帰ったところで、感動してくれる人は帰っても誰もいない。
私はずっと1人だ。
寂しいと思ったことはないけど、誰かいたらどうだったのかなぁっと思ったことは何度もある。
私の母は、私が6年生の頃病気で死んでしまった。
それからは父と一緒にいたのだが、父が海外転勤になってしまった。私はここに残ることを選び、父は一通り私に教えると、遠い海外へ行ってしまった。
家に着くと、鍵を開け中に入ろうとした時、ポストの中に手紙を見つけた。
送り主は父。
「ただいまぁ」と玄関のドアを開けると、リビングに駆け込み、荷物をその場に置くと、すぐさま手紙を開いた。
「姫美卒業おめでとう。元気か?父さんは元気だぞ心配すんな。しっかり者とはいえ、お前のことが心配でなりません。早く日本にかえってお前と暮らしたいと思っています。
高校の事よく頑張ったな!さすが父さんの自慢の娘だ。いろいろ苦労かけてしまっているが、もう少しの辛抱だ。頑張れ姫美!あっそれから、お前はもう16になるからいいだろう。母さんから死ぬ前に託されたものがある。お前が16歳になった時に紫色の小さな宝石箱をお前に渡してほしい。と頼まれていた。なんだか父さんは分からん。それは、母さんの宝箱に入っていると思うからお前に託す。では元気でな。また、手紙待ってます。 父 より 」
「父さん。こんなタイミングで手紙送ってくれているなんて。誰も…」
寂しいなんて思ったことはなかった。嘘。
涙が溢れて止まらなかった。
「父さんありがとう。」
父さんはテレビもないようなところで仕事をしている。転勤時、私を連れて行こうとしたが、反面、私が現地で暮らせるかも心配していたため、父は悩んでいた。私は6年生という歳ではあったが、自立が出来ないものだとは思わす、1人になる事を選んだ。
「お母さんが宝石箱を私に?なんだろう?」
亡くなった母の物はこれまで見たことがなかった。
どこにあるのかも分からないが、おそらくは父の部屋の押入れだろう。母の物が残っていたなんて。
私は父の部屋に行き、押入れを探し始めた。




