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第21話:疑神セフィロード

ボクはいつの間にか知らない場所にいた。


しかも体が横になっている。


何だか暖かい。


これはベットの中。


もしかしてボクはアインシュタイン家に帰ってきたのだろうか。


けど、アインシュタイン家のベットとは肌触りや匂いが違う。


ここはどこのベットだ。


ボクはなぜここで寝てたんだ。


ボクは確か。




『エテルナぁあああああああああああ!』





『おやすみ、エテルナ…』






そうだった。


ボクはリーゼから引き離されてアスタロトにさらわれてしまったんだった。


なんだかボクはとらわれのお姫様みたいだ。


だったらリーゼは王子様で。




「やあ、眠り姫はお目覚めかい?」




アスタロトは魔女だ。




「まだ横になっているといい。随分と眠っていたね。まあ、君の可愛い寝顔が見れたから良いけどね」


アスタロトは柔らかい声でボクに話しかけてくる。


リーゼと話しているときは段違いだ。


「今はじっくりと休むといい。何か欲しい物があったら言ってくれ。すぐに用意をしよう」


アスタロトは別人のように親切な感じだった。


いつもリーゼを害虫や愚者とか言って偉そうな感じなのに。


そういえば、リーゼは。


リーゼはどうしたんだ。


「安心するといい。リーゼロッテには危害を加えないことを約束する。ただ、彼女には私が目的を果たすまで大人しくしてもらうだけだよ。私の神の脳の力でね…」


神の脳。


神の血肉で作られた人間を支配する神の力。


脳が命令して体を動かしていくかのように。


けど、そんな凄い力があるのになぜ今まで使おうとしなかったんだろうか。


「ふふっ、エテルナ、神の脳は実はそこまで万能では無いのだよ。私の神の脳と君の神の心臓がなぜ、他の神の血肉と違い、何世代も先に使わされたかを説明したはずだけどね」


そうだった。


確か再創世された世界で神の心臓によって神の血肉が暴走することを神様が恐れていたんだ。


だから、神の血肉が何世代も越えて、死に絶えるのを待ってから、神の心臓と脳を使わしていたとアスタロトは説明してたんだ。


「思い出したようだね。そう、神の脳もまた神の血が薄い者、あるいは神の血が無い者には影響を与えることができない。つまり命令しても効果が無いということだ。神の脳の場合、悪用されないように何世代も先に使わされたのかもしれないね」


確かに神の血肉が死に絶えてない時に使わされたら、言葉通り、一人の手によって世界を簡単に支配出来てしまう。


そういえば、リーゼは戦場でボクを守るために結界魔法を使っていた。


リーゼも神の血がまだあったということだ。


「そうだ、眠っているところで悪いけど、まず服を着替えようか。君の服は私の精で、もうボロボロになってしまってるからね。君は風邪を引かない体だと分かってるけど、見ているだけで風邪を引きそうに思えてしまう。さあ、ついてきてくれ」


ボクはアスタロトの攻撃魔法で服がボロボロになっているのを思い出した。


ボクは不滅の体だから風邪を引いたりはしないけど、他の人から見たら風邪を引きそうな格好になっているんだろう。


「服がある部屋に案内しよう」


ボクの手をアスタロトが握る。


アスタロテの手の感触に似ていた。











「君は実に着映えが良いね。まさに貴公子というべきかな。お伽噺の王子も君の前では霞んで見えてしまうよ」


ボクはアスタロトに促されるままに服を着替えた。


意外に着心地が良かった。


アスタロトはボクを貴公子だと言った。


貴公子は貴族の子供か何かなんだろう。




『大丈夫よ、エテルナだったら見た目だけでそこらの貴族よりもよっぽど貴族らしいですもの』




リーゼもボクをそう言って笑ってくれた。


リーゼは今どうしてるんだろうか。


リーゼに逢いたい。


リーゼ。


「泣いているのかな?」


ふとアスタロトの声を聞き、ボクはびくっとした。


ボクの目に涙が零れている。


いつの間にかボクは考え事していて周囲のことに無頓着になっていたようだ。


ボクの頭に何かが触れる。


アスタロトの手だ。


ボクの頭を引き寄せて何か柔らかいものに押し当てられる。


アスタロトの胸だった。


ボクはアスタロトに抱きしめられてるんだ。


初めて出会ったときには蛇が締め付けるように抱きしめてきたのに。


なんでこんなに優しく抱きしめてくれるのだろうか。


「エテルナ、君が何を想っているのかは分かっている。今はそれでいい。でも、いつかきっと、君の見えない目が私の方に向いてくれるのを待っているよ…」


普段のどこまでも偉い感じのはずのアスタロトがこんなにも弱々しい声を出すのを初めて聞いた気がする。


怖くて酷いことをしてくるアスタロト。


今、ボクを弱々しく抱きしめてくるアスタロト。


いったいどっちが本当のアスタロトなんだろうか。










ボクはアスタロトにハープを手渡されていた。


「アスタロテに聞いたよ。これは君の大切な宝物なのだろう」


ボクはハープの手触りを確かめていた。


いつもリーゼに聞かせていたハープ。


今も変わらずボクの手の中にあった。


「君のハープを聞かせてくれないか?」


アスタロトがボクにハープを弾くように言ってきた。


でも、手が動かない。


ハープを弾いてしまったらリーゼのことを思い出してしまう。


あの暖かかったアインシュタイン家で過ごした日々を思い出してしまう。


ボクの手は動けなかった。


「まあいいよ。少し君のハープを私に貸してもらえないかな?」


ボクはなぜかアスタロトに大切なハープを渡してしまった。


多分、ハープを持ってたら、リーゼとの思い出に潰されるんじゃないかと思ったからだ。


「さて、久しぶりだから上手く弾けるかどうか分からないけどね…」


アスタロトがハープを弾こうとしてるんだ。




『だって、昔の姉様みたいにハープを聞かせてくれたし…』




確かアスタロトもボクと同じようにハープが弾けるとアスタロテが言ってたのボクは思い出した。


アスタロトの方からハープの音色が聞こえてきた。


とても綺麗な音色だった。


どこまでも透明で消えてゆくような。


なぜか切なくて。


なぜか寂しい。


そんな音色。


音楽は人の心を映し出す鏡だと聞いたことがあった。




『私にとって姉様は誰よりも強く優しい天使だったの…』




これがアスタロトの心なんだろうか。


ボクはつい拍手をしてしまう。


「喜んでくれて何よりだよ。ふふっ、アスタロテ以外に聞かせたのは君が初めてだよ」


アスタロトはボクの拍手に喜んだみたいだ。


今のアスタロトはアスタロテに似て、とても優しそうな感じだった。


けど、アスタロトは今の世界を壊して神様の世界を復活させようとしている。


リーゼも殺そうとしていた。


なぜ、今のような感じでいつも振る舞わないのだろうか。


最初からこんな感じだったら。


「いつか君と二人でハープの二重奏をやってみたいね。君とならきっと綺麗な音色が出せると思うよ…」


アスタロトはそう言って、ボクにハープを返してくれる。


ボクがアスタロトと一緒にハープの二重奏。


少しやってみたいと思ってしまったボクがいた。










ボクはアスタロトに案内されていた。


ボクに何かを教えたいようだ。


「エテルナ、今日は楽しかったよ。私が神の叡智を授かってから、これほど充実した気分になれたのは初めてだったよ…」


アスタロトは喜んでるけど、どこか悲しげに言っていた。









「この神聖セフィロード帝国は再創世神話を聖書として、神の世界の復活を夢見ている国なのだよ。まあ、そう仕向けたの私だけどね…」


アスタロトはセフィロードの最高神官で一番偉い教皇の二番目ぐらいに地位にいるらしい。


再創世神話の教えにより、神様の復活を夢見ている教徒は人間の血肉を捧げることによって果たされてると信じてる。


人間を殺して、神様を復活させるなんて狂っているとしか考えられない。


だから、セフィロードは狂信者の国だと言われているらしい。


けど、実際に神の血肉を集めることで神様の復活が可能だとアスタロトは言っている。


アスタロトはいったいどこにボクを連れて行くんだろうか。











「ここが君に来て欲しかった場所だよ…」


ボクはアスタロトに案内された場所に立つ。


何だが生臭い匂いがしてくる。


それに微かな熱。


足下がぶよぶよした感じで気持ち悪い。


足下。


そういえば,この感触どこかで。


「これこそがセフィロードの中枢となる場所であり、神が降臨する祭壇なのだよ」


神が降臨する祭壇。


神様が復活する場所ということなんだろうか。


「そして、君の手前にある物が玉座。君が座する場所だ」


玉座。


ボクが座る場所。


玉座は王様が座る椅子だ。


だったら。


ボクが。


王様。


「教皇なぞ飾りに過ぎない。エテルナ、君こそがセフィロードの王となるのだよ…」


どうしてボクが王様にならないといけないんだ。


「君の神の心臓は神の血を作り出す物。神の血こそが神を復活させる糧となるのだ。それに君はもう気づいているはずだ。この場所がどのようにして作られたのかを…」


床のぶよぶよした感触。


生臭い匂い。


微かな熱。


まるで部屋全体が生き物のような。



まさか。



全部。



全部。




人間の血肉。




この部屋全てが神の血肉で作られていたんだ。


「そうだ、これほどの規模の物を作り出すのは苦労したものだよ。だが、アスガルド軍とセフィロード軍の尊い犠牲のお陰で完成させることができたのだよ…」


この祭壇を作るために一体どれだけの人の血肉を使ったんだろう。


衝撃の事実をアスタロトは淡々と言っている。


さっきまでは優しかったのにどうしてここまで残酷になれるんだろうか。


分からない。


分かりたくない。


「全ては君が神になるためだ」


ボクが神。


ボクにはそんな力は無い。


「この部屋の血肉はセフィロードの隅々まで行き渡っている。つまりセフィロードという国は人の血肉で作り上げた国なのだよ…」


セフィロードは人の血肉で作り上げた国。


ボクはそんな国に今いるんだ。


狂信者の国なんて生易しいものだと思った。


ボクをそんな血で染まった国の王になれとアスタロトが言ってる。


ボクは絶対なったりしない。


この国は狂っているよ。


「神の世界が復活した時、このセフィロードは世界の中心となる。そして、君はその王となり、神となるのだ」


怖かった。


ボクは血肉の大地を当ても無く歩いたことがあったけど、そのときにはリーゼがいた。


けど、もうリーゼはボクの側にはいない。


「ふふっ、このセフィロードそのものが君となり、神となるのだよ。私はこれを疑神と呼んでいる。つまり神に似せた神だ」


疑神。


神を似せて作った神。


途方もない話だ。


「かつての神の力には及ばないが、それでもこの世界を浄化するだけの力は秘めている。神は自らを見渡せなかったからこそ滅びの道を歩んだ。ならば、私が神の姿を映し出す鏡となり、戒め、導いていくのだ。そして、神の過ちを私と君で正すのだ!」


ボクは逃げようとした。


けど、足に何かが絡みついてくる。


「この部屋は生きてるのだよ。そして、神の心臓の還りを待っていたのだ。さあ、玉座に座るのだ。共に天の頂へ飛び立とうではないか!」


離せ。


離して。


ボクの体が引き寄せられていく。


神の祭壇に。


玉座に。





助けて。



助けて。




助けて。






リーゼ。



















「今こそ、神の復活の時だ!」

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