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第19話:世界の果て

ボクとアスタロトは心臓と脳。


「おかしいわ。この世界が再創世されてから、もう数千年の時を経てるはず。だったら、神の血肉である心臓と脳も世代を越えて、死に絶えてるはずよ」


確かに神の心臓も脳も神の血肉だ。


だったら、再創世されて数千年も経っていたら死に絶えているはずだ。


「エテルナ、君は死にかけたことはないかな?あるいは死んだことはないか、と言うべきかな?」


ボクは故郷を失い、一人になって空腹で死にかけた。


死にかけたところに神様から力を貰って元気になったんだ。


「私は一度死んだことがあるのだよ…」


アスタロトは一度死んだ。


けど、生きている。


アスタロトはボクが驚いてる様子を笑っている感じだ。


「一度死んだときに神の声、いや違うな。正確には血肉に刻まれた記憶の声を聞いたのだ。そして、私は叡智の力を手に入れた。すなわち、神の力を得たことで人の肉体から神の脳で作られた肉体に変換されたわけだ」


じゃあ、ボクは人の肉体から神の心臓で作られた肉体に変えられたということなんだ。


「なぜ、神様は心臓と脳を他の血肉と同じようにして人間を作らなかったわけなの?」


リーゼの言うように、なぜ、神様は心臓と脳を他の血肉と一緒にして人間を作らなかったのだろうか。


「リーゼロッテ、君が自分達も血肉だから共食いをするのではないか、と言ってたね。まさしく、神はそれを防ぐために血肉を何世代もかけて死に絶えさせた後に心臓と脳をつかわしたのだ」


「神の血肉が暴走するから死なせた後に心臓と脳を使ったということなの?」


「その通りだ。心臓と脳、特に神の心臓の力は神そのものと言っていい。神が死してもなお、神の血肉を暴走させる危険があったからだ。だが、神の血が薄まれば、神の心臓の影響を受けることはない。故に心臓と脳は何世代も越えた先につかわれたわけだ」


神様はそこまで考えて、心臓と脳を何世代も先で使った訳なんだ。


じゃあ、ボクは純粋な神の血肉ということなの。


「そう、君と私は純粋なる神の血肉で作られた人間だ。この世界で完全なる神の子なのだよ」


そうか。


ボクはもう死んだお母さんの血を引いてないってことなんだ。


ふとボクの手に触れる物があった。


リーゼの手だ。


リーゼはボクの不安を感じて握ったんだ。











「それが貴方の言う世界の真実なの?」


「そうだな、世界の仕組みについての説明は終わりだ。さて、ここからが本番だ。私の叡智の力はご存じの通り、世界の過去、現在、未来の全てを見渡せる」


アスタロトは世界の過去も現在も未来も見渡せる。


けれど、一つ気になったことがあったんだ。


過去は世界の始まりまで見渡せるとして。


未来はどこまで見渡せるんだろうか。


「過去は世界の始まり。そして、未来は…」


ボクとリーゼは息を呑む。








「もちろん、世界の終わりまでだ…」








ボクは一瞬意識が飛びそうになった。


何となくだけど、そうなのではないかと思ったんだ。


だって、神様の世界のことまで見渡していたんだから。


「貴方は世界の果ての何を見渡したというの?」


リーゼの体が震えているのを感じた。


さすがにアスタロトの話に向き合う覚悟を決めたとは言え、まさか世界が滅ぶなんて話を聞かされたら動揺すると思う。


これがアスタロトが言う世界の真実なんだ。


けど、どうやって世界が滅んだのだろうか。


もう神様は死んだと言っていたし。


神様よりも強い者が現れて、世界を壊したんだろうか。


「君達はセフィロード軍と戦う時に肌で感じただろう。未来の兵器の恐ろしさを…」


未来の兵器。


神官様がはった結界をガラスのように砕いた爆風。


人を塵のように吹き飛ばした威力。


弓矢よりも早い飛び道具。


どれもがアスガルド軍にとって脅威の兵器だった。


「もしかして、その未来の兵器が世界を滅ぼしてというの?」


「いかにも、その通りだ」


アスタロトはリーゼの問いにあっさりと認める。


「リーゼロッテ、君は未来の兵器の恐ろしさを身をもって知ったはずだ。何しろ、命を落としかけたのだからな…」


リーゼの手を握る力が一瞬強くなり、体が固まったかのような感じがした。


アスタロトは拳銃という兵器で一瞬でリーゼを死ぬ寸前までに追い遣ったんだ。


アスタロトのいる所から僅かな金属音がしてくる。


アスタロトは何かを持ったんだ。


固まってたリーゼは今度は震えだしてきた。


しかも、かなり激しくだ。


「震えなくていい。以前にも見せたね。拳銃だ。これは君達アスガルド軍を苦しめた兵器よりも稚拙だと言ったことを覚えてるかな?」



『これは拳銃と呼ばれる物で先ほど紹介した兵器とは比較にならないほど稚拙な物だ』



「貴方は稚拙だからこそ、子供でも簡単に扱える。………だから、簡単に人を…殺せるって言ってたわ。それがどういうことなの?」


リーゼは震えながらも気丈にもアスタロトに質問を返していく。


ボクの手はリーゼの手の汗ににじんでいた。


「私はこうも言ったね。未来の兵器はエテルナの神の力の前では玩具に等しいと…。だが、私は神の力よりも、この拳銃の方が恐ろしいと思ってるのだよ」


神の力よりも拳銃の方が怖い。


拳銃は恐ろしいけど、神の力よりも強いなんて思えない。


「なぜなの?どう考えてもその武器が神の力よりも強いとは思えないわ。未来の兵器なんて神の力に比べると玩具に等しいはずなんでしょう」


ボクも本当にそう思う。


なぜ、アスタロトは拳銃が神の力よりも恐ろしいのだろうか。


「物事は捉え方により、見えてくる面が異なっていく。そして、強さと怖さは同義では無い。さて、リーゼロッテ、くどいようだが、神の力の前では未来の兵器は玩具に等しいと言う。では、玩具とは何だ?」


「玩具は子供が遊ぶときに使う道具よ」


「そうだ、遊び道具だ。そして、拳銃は人を殺す兵器だ。子供が遊ぶための道具と人を殺すための兵器、この二つを結べば、どうなるのか?」


アスタロトは一息ついた。


「子供が遊びながら人を殺すことが出来る道具となるのだ。確かに神の力は拳銃とは比較にならないほどに強大だ。だが、それを扱えるのは選ばれし者、神とエテルナのみだ。玩具は誰でも扱える。そう、誰でも容易く人を殺す力を手に入れることが出来る。故に私は思う。拳銃は神の力よりも恐ろしいとね…」


誰もが簡単に人を殺す力を手に入れることが出来る。


それはとても恐ろしいことだ。


アスタロトの言うとおり、神の力を使えるのはほんの一握り。


だけど、拳銃は誰でも使うことが出来るから怖いということなんだ。


「確かに剣や魔法は素養と日々の訓練により、戦場で活かされていく。拳銃のように簡単ではない。けど、簡単に殺す力が得られるのと世界が滅ぶのとどう結びつく訳なの?」


簡単に殺すことが出来る兵器。


これがリーゼが言うように世界を滅ぼす力にどう結びつくんだろうか。


「大いなる力には大いなる責任が伴う。さて、子供に大いなる責任を背負うことが出来るのか?それは否だ。責任を背負えないからこそ子供なのだ。その子供が大いなる力を扱えばどうなる?」


「取り返しのつかないことになるわ。自分の力がどのような結果になるのかを考えずに使うのだから…」


責任を持つことは自分の行った結果を受け入れられる強さを持つことなんだ。


「未来の兵器は責任と力を釣り合わせることが困難な代物なのだよ。なぜならば、眠りながらでも指先一つで数百万もの人間を容易く殺せるものがあるからね…」


「指先一つで数百万もの人間を殺せる?!そこまでの力があるというの、未来の兵器は?」


寝ながら指先一つで数百万の人間を殺せる兵器。


滅びの魔法を遊びながら使って、たくさん殺すような兵器ということなんだ。


「未来の兵器で人が責任を背負えないほどの力を手に入れて世界を滅ぼしたわけだ。人は未来の兵器の力に溺れてしまったのだよ。神が力と叡智に溺れて世界を滅ぼしたようにね…」


これが世界の真実。


世界はいずれ滅んでしまう定めということなんだろうか。


「だが、滅びの未来は遙かに先のこと。私やリーゼロッテも生きてはいないほどの遙かに先の未来だ」


だったら、リーゼは何も心配する必要は無いんだ。








「だが、エテルナ、君は違う。老いることも無く死ぬことも出来ない君はいずれ滅びの世界へと歩むことになる」








そうだ、ボクは死ねないんだ。








「未来の兵器によって人間が滅ぶだけでない。動物はもちろん、草木の一つも繁らない死の大地となるのだ。君はその世界で永遠に一人となって生き続けることになるだろうね…」








ボクにとって、この世で一番最悪の世界。
















「これが世界の真実だ…」

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