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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第2章
17/21

17. まどろみの夢

 女性陣がお風呂場へ向かった後、ニクスは以前使っていた部屋を訪れていた。

 中の調度品などの配置に変更はない。懐かしい香りがする。

 ここに入るのも三年ぶりぐらいか。あの頃は魔装士になるため、必死だったとはいえ、今感慨にふけるぐらいには、余裕が出てきたのだろうか。

 

 ニクスはソフィーにしごかれた時のことを思い出す。よくあれに耐えていたと自分でも思う。とはいえ、今自分が死なずに済んでいるのも、ソフィーが鍛えてくれたからだろうとニクスは思っていた。

 ニクスは椅子に座ると、紙とペンを取り出す。夕食までまだ時間があるのなら、ついでに昨日と今日のことを整理してもいいかもしれない。


 問題が発生したところから順に書き出す。花畑、ローブの魔導士、巨大な何かの出現、異空間に引きずり込まれ、神と名乗る存在がラピスの体を乗っ取った。そこまで振り返り、ペンが止まる。


「何故、ラピスを乗っ取れたんだ……」


 ここでの疑問は無視できない。しかし、現状ではあまりに判断材料がなさすぎる。

 ひとまず、ニクスは続きへペンを走らせた。

 神の取引に応じ、扉を開ける。奥に進むと、そこには眠っている少女。彼女の姿を見たとたん、映像が頭の中に流れ込んできた。そこに浮かんでいたのは黄金の目をした少女。そして、スティアという名前。


 あの時の映像、色々とあったから反芻してなかったが、映像での彼女は虚ろな目をしていたように思う。それに――。


「なんというか、今の彼女と映像の中の彼女、ほとんど同じだったような気がするが、どこか違う気もするんだよな……」


 現在の彼女の目は金色。あの時見えた映像の瞳の色は黄金に輝いていた気がする。その色はまるで、ラピスが乗っ取られた時と同じようだった。となると、彼女は乗っ取られていたということなのだろうか。そもそもあの時見た映像は何だったのか。……考えても答えは出なさそうだ。先に進めよう。


 彼女の前で神へ提案を持ち掛け、ラピスの体を返してもらう。そこで、違和感を覚えた。

 あの時言った自分の言葉が脳裏をよぎる。


 ——俺が魔力を流さないと目覚めさせられないんだろ? 俺がいなくてもできるなら、ラピスの体でできたはずだしな。

 

「……そもそもあの時、最初から俺の体を乗っ取ってれば、やつは障害もなく、目的を達成できたんじゃないか? 俺じゃなく、何故ラピスを乗っ取った。俺は乗っ取れなかったのか?」


 なら、先ほどのラピスが乗っ取られた件、何かしらの答えは出せるか?

 ラピスとの相違点を考える。血筋は同じだから除外。大本の魔力量にはあまり違いがない。あとは――。


「一番の相違点があるな」


 確か研究員曰く、魔素の影響を受けない体、だったか。それなら、研究に協力した時の資料をあされば、特異な部分が見つかるかもしれないが……当事者であっても開示してもらえるのだろうか。こういう時、知り合いがいれば楽なんだけどな。あいにく、魔究士に知り合いはいない。

 

「どちらにしても、それは俺を乗っ取れなかった可能性があるだけで、ラピスを乗っ取れた理由にはならない」


 不要とまでは思わないが、対策するために研究資料を調べるかどうかは考える必要がありそうだ。無駄に突っ込んで、怪しまれるのは避けたい。ひとまず、次に進めよう。

 スティアに触れようとしたところ、ローブの人物が現れる。そのまま戦闘。あの時の回復力。まるで、魔物のようだった。

 だからこそ、とっさに魔物という言葉が出てしまった。だが、見た目は完全に人にしか見えなかった。いや、顔がなかった時点で人とは言えないか。

 人のようであり、魔物のようにも見える。一瞬、医院でのスティアの診断が頭をよぎった。

 

 ――今までの定義で言うなら、異形化していない時点で魔物じゃない。だが、魔核が存在しているため、魔物ともいえるという感じかな。

 

 魔核、か。ニクスは魔核と心臓が連結しているというソフィーの話を思い出す。

 神も、"彼女は死んでいない"と言っていた。

 いや、彼女は人だ。やつと同じじゃない。


「はぁ……」


 ニクスは少しばかりため息を吐いて、ペンを置き、背中を椅子に預ける。

 考えることが多すぎるせいか、頭の芯が妙に重い。

 軽く窓の外に目を向けると、すでに夜の帳が降りてきていた。瞼もやけに重く感じる。

 疲れている、のだろうか……。瞼の裏にスティアの顔がちらつく。

 ニクスの思考は溶けるように沈んでいった。


 ***


 淡い金色が目の前で激しく揺れている。

 視線をわずかに下げると、繋いでいる手が目に入った。

 どうやら、走っているようだ。わずかしか光が当たっていない通路を少女に手を引かれ、駆けている。

 背後から複数の足音が聞こえてきた。その中には金属が擦れるような音も混じっている。


「こ、こっち!」

 

 少女は少年の手を引いたまま、通路の先にある扉に駆け寄った。彼女は扉を強引に引き開け、そのまま中へ滑り込む。

 少女はすぐに扉を閉めると、焦ったように首を巡らせながら口を開いた。


「な、何か、ふさぐもの!」


 辺りを見回すと、木箱が目に入った。少年は指をさしながら少女に声をかける。


「あれ」

「え、あ!」


 少女は木箱に駆け寄り、少年に声をかけた。


「て、手伝って!」


 少年はうなずき、少女と一緒に木箱を扉の前まで押しやる。突然、剣が扉を突き抜けてきた。


「ひゃっ!」

 

 少女は尻餅をついてしまう。彼女はそのまま這いずるように少年に近づき、彼の腕を抱きしめた。

 扉の向こうから男の怒号が聞こえる。


『さっさとしろ! でないと——』


 その言葉に被さるように、落ち着いた声が割り込んできた。

 

『でないと、何?』

『だから——お前は! クロノ——ル!』

『久しぶ——伯爵』


 二人の声は扉越しのせいか、ところどころ聞き取れない。

 

『襲撃者はお前だったのか! な、何故だ!』

『何故? ——人を使わないんじゃ——の?』

『——誰だ! 誰がお前に漏らした!』

『どうでもいいことだと思うけど』


 落ち着いた声ではあるものの、最後の言葉ははっきりと聞き取れた。その声はどこか静かな怒りにも満ちていた。


『お前ら、何をしている! さっさとこいつを殺せ!』

『遅いよ』


 クロノの言葉とともに扉の向こうで激しい音が響く。その後、静寂に包まれた。隣にいる少女から戸惑った視線を向けられる。

 すると、扉ががたがた揺れた。

 彼女が少年の腕を抱く力が強くなる。


『ありゃ、そっか。なるほど。何か置いてあるのか』


 扉がノックされた。


『おーい、ここを開けてもらえる?』


 少年は少女に軽く視線を向けた後、彼女の手に自分の手を重ねる。


「だい、じょうぶ、だよ。たぶん」

「え」


 少年は彼女の腕をゆっくりとほどくと立ち上がり、扉のほうに近づいた。


「あ! だ、だめ!」


 少年は木箱をどけ、扉を開く。

 その奥から現れたのは、黒い髪に黄金の瞳を持つ中肉中背の男。彼は微笑みながら手を差し伸べ、口を開いた——。


 ***


 ——音がする。一定の間隔で、何かを叩くような。

 ニクスはまどろみから覚醒するように、徐々に瞼を持ち上げた。視界に映ったのは、天井。

 もしかして、寝ていたの、か……?

 ニクスは凝り固まった体をほぐすように身じろぎする。

 何か夢を見ていたような。思い出そうとしても思い出せない。

 

 コンコン。


 という音に続いて扉のほうからクラウスの声が聞こえてきた。


「ニクス様、いらっしゃいますか?」


 ニクスは慌てて、椅子から立ち上がり、扉を開ける。


「すみません、気づきませんでした」

「いえ、大丈夫ですよ。夕食が出来上がりましたので、お越しください」


 もうそんな時間なのか、結構寝ていたのだろうか。


「分かりました」


 ニクスはそう答え、部屋をあとにした。

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