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もうすでに手遅れな気もする


時間は進んで今は放課後。

この学園では、生徒は必ずどこかの部活、もしくは同好会に所属しなければならない決まりがある。そのため私も例に漏れず放課後、部室というか、同好会に宛がわれた教室へとやってきた訳だけど…。


「はぁ~…。」


もう駄目だ。さっきからため息が止まらない…。乙女ゲームの世界ってせわしないんだね…。自分がなってみて初めて気づいたよ、この忙しさ。正直気づきたくはなかった。

授業中、いつも真面目な赤井くんが月島さんとアイコンタクトをしては微笑み、それを見た周りの女子たちがざわつく。アイコンタクトによって照れた月島さんを見て男子もざわつく。そして皆ざわつく。なんだこれ。赤井くん、数年ぶりに可愛い幼馴染みに再会できて嬉しいのはわかった。

だけどね、授業は受けよう。


そこに加えて、珍しく授業に出てきた紫村が度々月島さんにちょっかいをかける。授業中でもお構いなしだ。それを見た女子がまたざわつく。男子とも中々話さない紫村が女子にちょっかいをかけるなんて今までなかった。

紫村は軽音部に所属しており、文化祭や、その他学校行事になるとステージに立つため学園ではちょっとしたアイドル扱いなのだ。まぁなんせ顔が良くて演奏も出来るときたらな、そりゃモテますよね。

でもね、君も授業は受けようね。



付け加えておくと、ふつう奨学金枠の一般生徒というのは表だって苛められたりすることはないけれど恋愛対象として見られることは無いに等しい。何故ならば、この学園にいる生徒のほとんどはお家柄のよろしい方々なので、恋愛相手もそれ相応でなくてはならないのだ。

しかし、赤井くんは奨学金枠の一般生徒でありながらお嬢様方からの人気が凄い。

まぁ、とんでもないイケメンでありながら質実剛健という言葉が似合い、勉学にも秀でているなんていう良物件中々無いですしね…。バレンタインには一個何十万円というチョコをお嬢様がたから渡されて目を丸くしていた。

そして月島さんも奨学金枠の一般生徒ではあるが、やはり彼女もとてつもなく美人だ。男子がざわつくのも仕方がない。


紫村に至っては家柄も悪くなく、顔も良くて音楽もできる。サボりや遅刻癖も恋愛フィルターをかければ魅力の一つに変わるらしい。どこが魅力なのかわからん。遅刻癖は本当に魅力か?

デートに一時間遅れてきた挙げ句に「そっちが勝手に早くきたんじゃん。」とか言いそうだよあの人。

あれか、但しイケメンに限るってやつか。


まぁつまり世の中顔が大事なわけだ。

絶望的だよ本当。



「はぁ…。」


ため息を漏らしながらも手は針を動かし続ける。慣れって凄いなぁ…。


ちなみに私は手芸同好会に所属している。因みに私が会長ですよ。どやっ!

……まぁメンバーは私も合わせて二人しか居ないんだけどね。

ちなみに、ぶっちゃけると、この同好会は私が自分で手続きをして設立した会だ。お嬢様、お坊っちゃまばかりが通うこの学園には手芸が趣味だというような生徒はほぼおらず、こういう同好会や部活は存在していなかったからね。

(あと他の部活とかは裕福な家庭に合わせてあって、入部費が馬鹿みたいに高い。ありえないよ。だって入部費だけで5万とかとったりするんだよ?ありえないから。)


というわけで、この同好会はこの金持ち学園のなかではかなり異色なわけなんだけど…、どこにでも奇特な人間というものは一人ぐらいはいるらしい。



「ごめんなさぁい、遅れましたぁ~…♪」


噂をすればやってきた。二人目の同好会メンバー…



「あー…、いや、そんな明確に時間決めてある訳じゃないから気にしないでいいよ黄山くん。」



黄山くん―――。

そう、お察しの通り攻略対象の一人、黄山悠である。

世界有数の財閥の御曹司であり、この学園において絶対的権力を持つ生徒会の書記という役職を担っている高校一年生だ。


どうやら彼の趣味は裁縫だそうで、手芸同好会に参加している。


私としても同好会のメンバーが増えるのは嬉しいし、むしろ歓迎ではあるんだけどね…?


「あのねー?タローさんがね、お腹減っちゃったって言うから、お菓子を買ってきてたのー。そしたらね、遅れちゃったー…♪」


この子、乙女ゲームに一人はいる電波枠なんだよ…。何言ってるかわかんねぇ…!

ちなみにタローさんっていうのは彼が常に抱えているデカイうさぎのぬいぐるみのことだ。

男子高校生が常にぬいぐるみ抱っこしてる正直キツい絵面な気がするんだけど…、でもこれがまた普通に似合うから問題なんだよ。あれか、但しイケメンに限るってやつか。世の中結局顔なんだよ。


「タローさんってお腹減るの…?」


その子ぬいぐるみだよね…?


「へるよー♪ね、タローさん♪………ん?今度は眠いの?もー、タローさんったら、お腹一杯になってからすぐ寝ちゃうと牛さんになっちゃうって龍が言ってたよぉ…?」


あ、やっぱ駄目だわかんねぇ。


「あー…、じゃあタローさんのことはここに寝かしてあげたら?」


こうなりゃヤケだと、タローさんのために即席でベッドを作って差し上げた。

使わない布を敷き布団と枕にして、掛け布団として私が高1の冬に作成した膝掛けを歴代作品たちを入れている段ボールから引っ張り出した。

それを見たとたん顔を輝かせる黄山くん。すげぇ、元から輝くようなお顔が更に輝きを放って直視が難しいレベルに達している。イケメンすげぇ。


「すごぉい!!タローさんよかったねぇ!!雪ちゃん先輩ありがとぉ♪」


「うん、どういたしまして。」


あと出来れば君も私の下の名前を勝手に呼ぶのはやめてほしい。廊下とかで呼ばれると君のファンクラブの人からの目が痛いんだよ。


タローさんを布団に寝かせている彼を見ていると、また自然とため息が出た。


攻略対象だと気づかないうちに関わりを持ってた人ってどうすればいいんだろう…。赤井くん然り、黄山くん然り…。

スタ☆メモのプレースタイルってヒロインが友達に協力してもらいながら攻略対象を落としていく形だし……。このまま私が自分で攻略対象たちと仲良くしてると、ほぼ確実にヒロイン、月島さんに協力することになると思うんだよ…。

教室での出会いのイベントがほぼ強制的に始まったところを見ると、何かイベントの発動条件が揃うと不可避で発生するっぽいし…。

発動条件がわかってたらいいんだけど…、そこまでまだ思い出せない…。


「はぁー…。」


「??雪ちゃん先輩元気ないのー?だいじょうぶ?」


「いや、あー…、うん。大丈夫、元気だから。心配してくれてありがとうね。」


はぁ…。見てる分には可愛いし、私としてもこの学園に入って初めてできた後輩を可愛がりたい気持ちはあるんだけどね…。


「なんか、ごめん…。」


「????」



私は君のことを可愛がってあげられそうもない。

うん、この一年のシナリオが終わったら仲良くしようね、黄山くん。

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