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プロローグ

以前読んでくださった方も、初めての方も、楽しめるように頑張りたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

 

「殿下、どうか今宵は私と踊ってはくださりませんか」


 とある夜会で煌びやかに着飾った令嬢達が、その中心にいる一人の青年に自分の存在をアピールしようと迫っていた。 


 グランバニア王国の王太子、ヴァルトス=ヴィ=グランバニアは’氷の王子’と称されるほどに臣下に対しては表情を動かさない。そして、非常に厳しく敵と認知した者には容赦をしない、というのはこの国では有名な話だ。それは、彼に寄ってくる貴族の娘たちに対しても同じだった。しかし、光に当たると藍色に変わる黒髪、何処までも広がって透き通る空と同じ色の瞳、そして驚くほど整った顔立ちを見て彼に関心を持たない者は居ない。

 令嬢達の中心にいる青年こそ、このヴァルトスである。

 今回の夜会も例の如く寄ってくる貴族やその令嬢達に辟易しながら、やんわりと令嬢達の誘いを断り、外の空気を吸うためにヴァルトスはテラスへと出た。


「大丈夫ですか、兄上」


「ああ、フォルセか。……大丈夫か、と問われれば大丈夫だが。」


 テラスへと出たヴァルトスを追って声をかけたのは彼の腹違いの弟であるフォルセ=リ=グランバニアだ。同じ髪と瞳を持っている兄とは真逆と言われるほどに優しく、柔らかい表情を崩さない。言わずもがな、彼も令嬢達にとっては自分をアピールする格好のターゲットである。


「そうですね、兄上はそう答えるでしょう。何か飲み物を持ってきますね。それで一息ついてください。」


 そう言ってフォルセは会場へと戻っていった。彼等の護衛に暫くテラスへ人を近づけるなとの命を下して。その様子を見ていたヴァルトスは苦笑する。フォルセはいつでも兄であるヴァルトスを補佐出来るようにといつも傍に居るのだ。そして、その仕事ぶりは有能であるとしか言えない程素晴らしく、将来ヴァルトスが王位に就いた暁には宰相になるだろうと言われている。まったくよくできた弟だ、とヴァルトスは微笑む。その表情は、彼が真に心を許した者にしか見せないものだった。


 ヴァルトスはそのままテラスから見える美しい庭へと視線を移した。この時期はバラが素晴らしく咲き誇るものだというのに、この庭には薔薇らしいものは全く見当たらない。代わりに、月の光をはじいて輝いているように見える白いアイリスが咲き誇っていた。


「……?」


 その庭の端で何かが動いたような気がして、ヴァルトスはじっとそちらを見つめる。すると、そこには銀色に輝く髪を持つ少女が居た。彼女はそのままアイリスが咲いている所へと寄って行き、それを一つ摘むと、庭の中心にある噴水へと寄って行った。その端にちょこんと座るとアイリスをその顔へと寄せて、それから噴水にその花を浮かべ、じっと見つめていたのだ。


 ヴァルトスは息を飲んだ。それは、ヴァルトスの瞳には少女の姿が神秘的なほど美しく、そして悲しいほどに儚く映ったからだ。気付いた時には、彼の身体はその少女に近づこうと動いていた。……その時だった。


「ダ、ダラムアト伯爵が身罷りましたっ!」


 夜会の会場がざわざわと騒ぎ出したのだ。その騒ぎの内容を聞いて、ヴァルトスは驚いて会場を振り返る。ダラムアト伯爵は先程ヴァルトスが挨拶を交わした、今夜の社交パーティの主催者だった。王の臣下としても信頼があり、ヴァルトスも一目置いていた。その彼が、身罷ったと?

混乱に陥っている会場を縫ってフォルセがヴァルトスの下へ駆けてきた。


「兄上」


「この騒ぎの内容は真実なのか?」


ヴァルトスの問いにフォルセは頷いた。


「一度休憩にお部屋に戻られた際、首をやられたようです」


 フォルセはそう言って、手で首を斬る真似をする。ヴァルトスは眉間に皺を寄せた。今日はもう夜会はお開きだろう。これからその現場を見て王に報告、そして真相を掴まなければならない。思考を巡らせてヴァルトスはため息をついた。


「兄上、とにかく行きましょう」


弟の意見に頷き、そして先程まで見ていた景色に再び視線を向ける。


---まるで幻であったかのように、少女の姿は何処にも無かった。



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