6.鮭
今回、同行したYさんのお話です。
出張前夜。
遅くまで外で飲んでいたY氏が家に帰ると、凍結された鮭が2尾、鎮座しておりました。との事。
さて、これはいかがな物か?
まず――
某国工場社長と仲が良い。仕事をする上で人同士の繋がりを大切にするのが某国品質。
そして世はネット販売社会。
某国社長はYさんが某国へ出張するタイミングに合わせ、ネットで物品を注文し、Yさん宅へ送付依頼していました。
日本で捕れた立派な鮭を2尾!
ここから導き出される解答は……
「今出張の際、ついでに持ってきて♪」
酒を飲んでいたY氏ですが――、既に深夜で明日の朝は4時出発ですが――、奥さんのご機嫌がマイナスに振れていますが――
これも仕事!
既に満杯となっていたトランクに詰め込もうとしたところ――、
鮭の全長がトランクの全長より長い!
入らない!
仕方なく出刃包丁で、各々二つに切断する計画を立てました。
奥さんの協力を得られなかったY氏は、泣きべそをかきながら淡々と作業に没頭します。
脂だの鱗だの血だの臭いだの冷凍で木材並みに固いだの、散々な目に会い、作業を終了。
ビニール袋で二重に包み込み、冷凍庫へ安置しました。
作業中、溶けてパーシャル状態になったけど衛生面で大丈夫なんだろうかといった思い等はことごとく忘れる事にして就寝。
翌日、凍ったと思えなくもない、何となく柔らかくなった鮭をトランクに詰め込み出発。
空港の検査で刎ねられ、処分する事になるだろうと軽く考えていたところ、無事に通関をパス。
日本の空港はザルなんでしょうか?
こんなんで良いのか日本?
つーか、保冷剤無しで鮭は大丈夫なのだろうか? 主に衛生面で。
Y氏宅から空港まで2時間。手続きやなんやかやで3時間。目的地某国広州まで飛行機で4時間ちょっと。空港から工場まで2時間ほど。
合計11時間。
最低11時間は常温に晒される事に。
まあ、私が食べる訳ではないので他人事なんですが……。
この程度の事、某国社長が考えなかった訳でもないだろうし……。
いやホント大丈夫かよ?
で、某国にて、
工場で某国社長は受け取りを拒否。
トラブったんじゃ無くて、次の日、ベトナムの子会社へ一緒に行くから、そこで受け取ると。
それまでY氏に持っていて欲しいと。
工場で仕事する事5時間。
ビニール袋でグルグル巻きにされた物体を横目に、びくびくしながらの仕事です。
いや、ほんと、私は知らないからね。
ホテルに入るなり、備え付けの冷蔵庫へ入れたそうですが……。
某国ホテルの冷蔵庫って、パワーが不足している事で有名。
常温のコーラを入れっぱなしにしても、冷えてくれない冷蔵庫に合掌。
翌朝。
ホテルから搭乗まで3時間。ハノイまでのフライトは4時間。
工場へ直行するかと思いきや、メシ食ってハノイ周辺を観光。
某国社長さん、冷凍風鮭の事を忘れてませんか?
憶えてる? そうですか。
工場に着いたのはベトナム到着の8時間後。
最期に冷蔵庫から離れて15時間経って、鮭の冷凍切断身は無事、依頼主の手元へ渡りました。
現地は亜熱帯。Tシャツでも熱く感じる気温。
大丈夫なんでしょうか?
何度目の「大丈夫なんでしょうか?」発言なんでしょうか?
私は上手い具合に体調を崩しましたんで、早く休ませていただきました。
鮭はどうなったんでしょう?
夜に工場の幹部みんなで食べたそうです。
日本の鮭は美味しかった! とのこと。
日本の冷凍技術は素晴らしい! とのこと。
豪快な社長ですな!
いやぁね……。何が言いたいか、っていう……と
より大勢の人が平和なら、私はそれで良いんです。




