表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/255

第84話 (カールハインツ視点) バカクズ太子は悦に入って悪役令嬢を断罪する

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

「アナスタシア、今この時を以て、お前との婚約を破棄する!」


この言葉をこの女に叩き付ける瞬間を、どれほど待ち望んでいたことだろうか!これで、お前は将来の王妃、国母ではなくなるのだ!屈辱に歯噛みするがいい!


「…殿下、本気で仰っていらっしゃいますか?」


俺の予想に反して、この女は変わらぬ無表情のままだ。…気に入らない!少しくらい狼狽すれば、可愛げもあろうものを!


「ふん、相変わらず理解の悪い女だ。この国の王妃、国母に相応しいのは “癒し” の加護を授かり、慈愛に満ちた心優しいエイミーのような女性だ。お前のような、性根の腐った悪女ではない!」

「お、お待ち下さいッ!」


割り込んだエイミーの声は、狼狽を極めている。そのような姿でさえ愛らしい。可愛げのない鉄面皮を崩さぬこの女とは、雲泥の差だ。


「き、貴顕のお二方の会話に割り込む非礼、何卒お許し下さい!わたくしは治癒魔法の他には何らの取柄もなく、礼儀作法も貴族の何たるかも、果ては国の何たるかも弁えおらぬ身、斯様な者に、王妃、国母など到底務まりませぬ!何卒、何卒その儀はご容赦下さいませ!」


とうとうエイミーはその場に跪き、床に敷かれた絨毯に額を擦り付けて懇願してしまった。何と慎ましいことか。この女に彼女の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。


「殿下、エイミー嬢は斯様に申しておりますが?」


いけ好かない冷たい声に、不快感が増幅される。


「黙れ!真にセントラーレン王国に必要なのは、エイミーの優しさなのだ。小賢しい理屈を捏ね回すお前など必要ない!」

「その通りです。そもそも殿下も私たちも、アナスタシア嬢がこれまでエイミーを陰険にいじめてきたことを知っています。そのような醜悪な毒婦が国母となるなど、おぞましいにも程がありますね」

「その通りだ!陰険悪辣な魔女め!」

「こんな性悪女が隣国の王妃だとか、マルクスの言う通りおぞましい限りだ。俺はカールの英断を、断固として支持するぜ」

「積悪の報いだね。ま、誰にも同情されないだろうけど」


マルクスが丁度いい塩梅で割り込んできた。その後にレオ、クロード、オスカーが続く。ふん、無様なことだ。お前には、誰も味方はいないということを思い知れ!


◇◆◇


「…そうですか。では、婚約破棄によって如何様(いかよう)な結果が(もたら)されようとも、その結果に対する責任は殿下がお取りになるのですね?」


はっ!何を言い出すかと思えば…


「何を訳の判らぬことを…これだから、頭でっかちのラムズレットは困るのだ。ザウス王国に対する盾にしかなれない田舎者なのも頷ける」

「殿下、わたくしのことは何と仰ろうとも構いません。ですが、ラムズレット公爵家に対する暴言は看過できません。只今の発言、お取り消し下さい」


形ばかりは整った眉をピクリと動かし、抗議の言を発する。…ほう、怒ったか。


「なぜ取り消す必要がある?事実を言っただけだ」

「殿下の仰る通りだ。そんなザマだから、田舎者の家の出の悪辣な姦婦は殿下に愛想を尽かされてしまうのだ」


マルクスに耳打ちされていたレオが、いいタイミングで割り込んでくれた。


「レオナルド・フォン・ジュークス、お前もラムズレット家を侮辱するか?」

「何を訳の判らぬことを…俺は、殿下が仰ったことを肯っただけだ」

「そうか…ならば、ラムズレット家よりジュークス家に対して、然るべき形を以て抗議をさせて貰うまでのことだ」

「実家の権力を使うなどと、卑怯だとは思わないのかい?」


レオが巧妙に煽り、オスカーがそれに続く。いいぞ、もっと怒らせてやれ!


「話にならんな。失礼させて貰う」


だが、この女は鉄面皮のまま踵を返して出口に向かおうとした。…気に入らない!


「待て!オスカーの言う通りだ。貴族としての誇りがあるのなら、親に泣きつく前に、自力で解決しろ。それまでは、この場から去ること罷りならん!」

「…一体何を仰っておられるのですか、殿下?」


ふん、判らぬか。つくづく、理解の悪い事だ。


「お前は、レオの発言に侮辱されたと感じたのだろう。ならば、貴族として為すべきことがある筈だ。お前は、何のために手袋を携行しているのだ?」


この女の顔に、感情の揺らぎは見られない。…つくづく忌々しい!


「少なくとも、斯様なことで軽々に使うためではありません」

「ほう、お前は家の誇りと名誉をかけて決闘を申し込むこともできぬか」


そう言って、殊更に嘲笑してやった。そこにマルクスが口を開く。


「ラムズレット公爵閣下は誇り高く、剛毅沈着なお方ですがアナスタシア嬢はその娘とも思えない卑怯、怯懦っぷりですね。本当は、アナスタシア嬢は公爵閣下の娘ではないのではないですか?」


…!よく言ってくれた!流石は “賢者” の加護持ちだ!


「…あぁ、成程。ならば、こいつが貴族としての誇りも名誉も持ち合わせないのも致し方ないな。この女は、本当はラムズレット公の娘ではないと見える」


明らかに空気が変わった。眼前の悪女の肢体から、冷気が漏れ出てくる。


「それは…どういう意味でございますか?」

「返す返すも察しが悪い。お前の身体の中に、ラムズレット公の血は一滴も流れていないのではないか、と言うのだ」


冷気が強まった。いいぞ、もっと煽ってやる!


「お前の出来の悪い頭でも理解できるように言ってやる。お前の父親は、ゲルハルト・クライネル・フォン・ラムズレット公ではなく、何者とも知れぬ何処ぞの馬の骨ではないか、とこう俺は言っているのだ」

「!!…ッ、殿下!何を仰っているか判っておいでですかッ!!?」


明らかな怒気が、この女の無駄に作りだけはいい顔を彩った。そこに、レオとマルクスが巧みに嘲笑を向ける。


「成程、殿下の仰る通りだ。この毒婦を産んだ女なら、夫に対する最悪の裏切り行為をしてもおかしくはない…いや、確実にしているだろうな」

「ラムズレット公爵閣下がお気の毒ですよ。夫人に裏切られた上に、()さぬ仲の、それも最低の性悪女を娘として押し付けられるのだから。…否、公爵閣下も他所に愛人を囲っていらっしゃるかもしれませんね。こんな姦婦の両親です、お互い同士を裏切り合っていたとしても納得ですねぇ?」


毒婦の肩が震えている。白皙の頬を赤らめ、感情を宥めるように長く息を吐いた。


「…マルクス・フォン・バインツ、レオナルド・フォン・ジュークス、先の下劣極まる侮辱は到底看過し得ぬ…取り消して貰おう…!」

「はっ…何故取り消さねばならない?お前のような下衆な女狐を産んだ阿婆擦れ、、何を言われても当然だろうが」

「レオの言う通りです。両親を侮辱されたことを憤る前に、自分が産まれ出たことをこそ恨み嘆くべきですね」


よし…あと一押しだ。俺は内心の歓喜を懸命に押し殺し、口を開いた。


「レオの言う通りだ。高貴なる者の言は汗の如し、と言う。それを取り消させるためには、どうすればいいか、愚かなお前でも判るだろう」

「…決闘を申し込めと、殿下は仰るのですか?」


それだ!その顔だ!お前の屈辱に歪む顔を、何よりも俺は見たかったのだ!


「自分で考えろ。人に教えて貰わねば判らんのか?愚劣もここに極まれり、だな」


そうだ。お前は、自分の意志でレオないしマルクスに決闘を申し込むのだ!


「…ッ…!畏まり…ましたッ…!」


悔しさを絞り出すように声を発し、左手に着けていた手袋を取り出してレオに投げつける。手袋はレオの逞しい胸に当たり、そのまま床に落ちた。それをマルクスが拾い上げ、ひらひらと姦婦の前に見せびらかす。


「落とし物ですよ、アナスタシア嬢」

「…ッ!お前たち、どこまで私を侮辱するつもりだッ!」


とうとうここまできた…!愚か者め、その手袋はお前の破滅の一里塚だ!


「俺の親友のレオが決闘を申し込まれたとあっては、到底看過できぬな。レオ、安心してくれ。その決闘、俺が共闘者として立とう」

「殿下、ありがとうございます」


俺の目の前で、あの憎らしい女狐が驚愕の表情を浮かべている。ああ…最高だ!この日のために、俺はこの女に打ち据えられる屈辱の日々に耐えてきたのだ!


「なッ…!殿下!?婦人に決闘を申し込むように命じておきながらご自身が共闘者に立たれるなどと…正気ですか!?」

「お前は何を言っているんだ?お前が勝手にレオに手袋を投げつけたのだろう?心許す友人など1人もおらぬお前には判らぬやも知れんがな、俺はレオの親友として、お前が申し込んだ決闘においてレオの共闘者として戦うだけの話だ」


怒りに赤らんでいた毒婦の顔は、今や蒼白になっている。オスカーの言葉ではないが、積悪の報いだ!ザマを見るがいい!


「私も殿下と同様、レオの共闘者に立たせて頂きますよ」

「レオは俺にとってもカールと同様に大切な親友だ。共闘者に立たねば男が廃る」

「当然、僕もレオの共闘者に立たせて貰うよ」


これほど当初の策通りに事が進むとは…流石はマルクス、素晴らしい知謀だ。 “賢者” の加護は伊達ではない。


姦婦は蒼白な顔色のままダンスホールを見回す。だが、俺たちに逆らってまでお前の味方になろうとする奴など、この場にはいない!ザマを見ろ!


どうやら人望もないと見える。そう思い、そう口に出そうとした時。


◇◆◇


ぺちょ。そんな音でも立てたような風情で、何か布のようなものが俺の顔の左側に貼り付いた。これは…一体何だ?


それからは、何やら甘酸っぱい匂いが漂ってくる。その匂いに官能を刺激され、排尿機関に血が通うのを知覚した。


貼り付いたものを左手に取り、その形状を目で確かめる。これは…靴下?なぜ靴下が俺の顔に貼り付いたのだ?それが飛んできたであろう左側に顔を向けると。


エイミーが何かを投げつけたような姿勢を取っていた。その可憐な顔は怒りに満ち溢れ、眼鏡の奥の緑色の瞳には敵意が横溢している。そして、その右足には…何も着けていなかった。すんなりと細く白い、形のいい素足が外気に晒され、ローファーは傍らに脱ぎ捨てられている。


つまり…これはエイミーの靴下か?思わず、俺はそれの匂いをもう一度嗅いだ。


彼女はその愛らしい口の端をおぞましいものでも見たかのように歪め、激しい怒りと敵意に尖った声をその可憐な口から発した。


「ふ…不肖、エイミー・フォン・ブレイエス!アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様の共闘者として、王太子殿下に決闘を申し込みますッ!!」

この描写で56話のバカクズ太子の行動に

整合性を持って頂けたら、応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ