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第83話 (カールハインツ視点) バカクズ太子は悪役令嬢に怨憎を向ける

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

婚約した時には、あんな女だとは思わなかった。


王族として、王太子として、次の国王として、常に役割を果たすことのみを求められ続け、息が詰まるような思い。その辛さを、共有しろとは言わなかった。婚約者として、少しでも理解して欲しいだけだった。


『わたくしにすらできたことが、何故殿下にはできないのですか?』


俺がその思いを吐露した時の、あの女の返答。すげなく蔑むような口調、凍り付くような目。その返答を受け、俺は悟らされた。同時に、絶望した。


“この女は、絶対に俺に安息を与えてはくれない!”


真っ暗闇の中に叩き落とされたような気分だった。この時に味わされた絶望が、怒りと怨みへと変わるのに大した時間はかからなかった。


そして忌々しいことに、俺は全てにおいてあの女に勝てなかった。学業も、魔法も、剣技も、体術も…何もかも!!


王立初等学園、王立中等学園の定期試験や魔法考査であの女の後塵を拝する度に、剣技や体術であの女にいいように痛め付けられて地べたに這いつくばる度に。


『わたくし如きに遅れを取っておられるようでは、良き国王には到底なれませぬ。もっと、ご精進下さいませ』


あの蔑むような口調と、凍り付くような視線を添えて言われるのだ。その度に二重指数関数的に俺の中で膨れ上がっていく屈辱と憎悪、そして怨讐。


気が狂いそうだった。俺を追い詰め苦しめる女に、俺は何もかも勝てないのだ。誰か、俺をこの絶望地獄から救い出してくれ!


◇◆◇


そんな中、俺は終生の友とすべき得難い知己を得た。クロード、オスカー、マルクス、レオ。彼らは、俺の辛さを、苦しみを、怒りを、屈辱を、憎悪を、怨讐を、そして絶望を理解し、共有してくれた。


ところが、あの女は彼らすらも俺から奪おうとしたのだ。


『殿下、あの者どもは必ずや殿下にとって害となり、国を害います!何卒、何卒、あの者どもをお遠ざけ下さい!』


あの女が平生の、鼻で木を括ったような態度をかなぐり捨て、這いつくばって懇願する姿を見るのは心地よかったが、その内容は実に気に食わなかった。お前は、俺を追い詰め苦しめるだけでは飽き足らず、俺から親友までも奪おうとするのか!この絶望地獄の中に、俺を死ぬまで閉じ込めておくつもりか!


その途端、これまでの鬱屈が爆発した。俺はあの女の胸倉を掴み、唾すら飛ばして憤激の絶叫を上げていた。


『やかましいッ!!アナスタシア、お前は一体何様のつもりで俺の交友関係に嘴を差し挟むつもりでいるんだッ!!』


その日以来、あの女は何も俺に言わなくなった。実にせいせいしたことは確かだが、婚約者という関係上、あの女の顔を見なくてはならないのはこの上なく忌々しく苦々しい気分だった。


いつの日か、あの女を放逐し、更には犯した罪に相応しい報いをくれてやる。俺の辛い思いを理解せず、俺を追い詰めて苦しめ、屈辱と絶望を俺に味わわせた罪は、死で贖うことすら許さない。必ずや、生きたまま地獄に堕としてやる。


◇◆◇


高等学園に入学して、俺は一人の少女と出会った。姓名は、エイミー・フォン・ブレイエス。桃色の髪と緑色の瞳を持つ、小柄で痩身の少女である。髪の色と合わせた桃色の縁の眼鏡をかけた、庇護欲を唆る華奢で可憐な容姿。


その容姿に似合わず、彼女は凄腕のヒーラーだった。思い出すも忌々しい、あの魔法実習の授業。そこで俺は魔力の制御に失敗してB級炎魔法を暴走させてしまい、火傷を負ってしまった。後で聞いた話だと、結構酷い大火傷だったそうである。


その大火傷を、エイミーが治癒してくれたのだ。火傷痕を少しも残すことなく。


そのことに礼を言うと、彼女はあの女に依頼されたから俺を治癒した、礼は自分でなくあの女に言って欲しい、と言った。あの女に比べ、何と奥ゆかしいことか。それにしても…つくづく憤ろしいのはあの女だ!俺に恩でも着せるつもりか!?


その後暫く、何やら彼女は俺を避けている様子であった。奥ゆかしい彼女のこと、身分違いだから席を同じくするのは畏れ多いと思っているのだろう。だからこそ、俺は彼女に目を付けたのだ。彼女なら、あの女と違い俺を見下す態度は決して取るまい。それを証明するように、彼女は俺から逃げるような態度を取り続けていた。


それが一転したのは、エイミーのペンとノートが台無しにされるといういじめを受けた日の翌日。それから彼女は少しずつ、俺に打ち解けてくれるようになっていた。だが、それ以来彼女に憔悴が目立つようになってきた。


あの女が小賢しくもエイミーへのいじめを許さない、と宣告したにも拘らず、彼女はいじめられ続けていたらしい。あの女の金魚のフンが、エイミーに言いがかりをつけて跪かせていたこともある。自分が口に出した言葉を裏切り、あまつさえ自らは手を下さずに金魚のフンに手を汚させるとは、つくづく見下げ果てた性根だ。


それだけでなく、俺がエイミーと親しく会話を交わしているところにあの女がしゃしゃり出てきて、ネチネチと説教をするようになったのだ。まるで昔に戻ったようで、苦々しく忌々しい記憶が蘇る。


その時のエイミーの姿はあの女の剣幕に怯えているかのようで、何とも痛ましかった。彼女を、あの女の悪意から守ってあげなくては。心から、そう思った。


◇◆◇


夏休みの自由研究のために近所の遺跡探索を行った際に、画期的な出来事があった。エイミーが、俺たちを名前で呼んでくれたのだ。語尾を伸ばす喋り方も、彼女の雰囲気に似合って愛らしい。呼びかけ方だけでなく、嬉しいことに身体の接触も増えた。その度にあの女は口賢しく説教を垂れるが、エイミーは「友人同士のスキンシップだ」と言って譲らない。


そう、これは友人同士のスキンシップなのだ。あの女は下衆な欲に囚われているから、俺たちと彼女の友情を邪推して捉えているのだ。


その後も、彼女の存在が俺たちに与えてくれた裨益は絶大であった。特に文化祭の展示は、彼女のヒーラーとしての知識と経験の集大成と言っても過言ではあるまい。もはや、あの女など必要なかった。


だが、相も変わらずエイミーに対するいじめは続いていたようだった。それが顕現したのは、あの女の金魚のフンが、剣技の試合に事寄せてエイミーに暴行を働いた事件。その事件の話を聞いた時、俺は勘付いた。これは、あの女の差金だと。


俺たちは早速あの女を廊下に呼び出して難詰した。ところが、あの女は自分の罪を問いたければその証拠を出せ、などと盗人猛々しいことを言う。…ふざけるな!お前のような、悪魔のように狡猾な女が証拠など残すわけがないだろうが!!


残念ながら授業開始時間に至ってしまったため、あの女に泥を吐かせることはできなかった。だが、必ずやお前の悪事を白日の下に曝け出し、その大罪に相応しい報いをくれてやる!覚悟しておけよ!!


◇◆◇


そして、とうとうこの日が来た。学園の、卒業・進級祝賀パーティー。この日、俺は重要かつ重大な発表を行う。あの大罪人を断罪し、婚約破棄を宣告してその上で学園から追放してやるのだ。


既に、学園から追放されたあの女を押し込め、修道院に追い遣る馬車は用意してある。そして、その馬車は道中でならず者どもに襲われ、あの女はこれまで俺やエイミーに対して犯してきた大罪の報いを受けるのだ。


その辺りの手配は、既にマルクスが付けてくれている。流石は “賢者” の加護を持つ男、素晴らしくいい手回しだ。


本来なら、俺たち自身であの女に『そういう罰』を与えてやりたいところだったが、あの女は恐ろしく慎重で用心深く、俺たちが『そういう罰』を与えられるような隙を全く見せなかった。だが、学園から追放されることが確定してしまえば放心状態に陥り、そのような用心をすることも叶うまい。


…そうか、あの女の追放を確定付けた後で適当な場所にあの女を監禁し、パーティーが終了次第俺たち5人であの女に『そういう罰』を与えてやってもいいな。その上で、あの女をならず者どもに下げ渡すのだ。


実に良いことを思いついた。後でマルクスに相談してみよう。


ただ、このようなことをエイミーに言うわけには行かない。彼女はとても優しい少女だから、あの女に対してもそのような仕打ちを加えるのを(よし)としないだろう。


そう、本当にエイミーは優しい少女なのだ。彼女と出会うことができたのは、俺にとって無上の僥倖であったとすら言える。あの大罪人ではなく、彼女こそ将来の王妃、そして国母となるに相応しい。


パーティーに招待する来賓は、親ラムズレット閥の者は注意深く外してある。あの女の味方は、親ラムズレット閥に属する教師とあの女の金魚のフンくらいだが、それくらいなら大した障害にもならない。


認めたくはないが、確かにあの女は強い。一対一であれば、あの女に勝てるものはいないだろう。だが、俺たち5人でかかれば話は別だ。


あの女を挑発して怒らせ、俺たち5人の(いず)れかに決闘を申し込ませた上で、決闘を申し込まれた者の共闘者として立候補してやる。そして、決闘の場であの女を、数に物を言わせて叩きのめしてやるのだ。


既に、反ラムズレット閥の一員に決闘の立会人となってもらうように話を付けてある。よしんばこちらが不利になったとしても、こちら側には傷回復用のポーションを飲ませてくれるようになっているのだ。


一日千秋の思いでこの日を待ち続けた。今から、あの女の破滅が待ち遠しい。


◇◆◇


無様かつ無惨に破滅しろ!アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット!!

あれ…?…おかしいな…

何か、書いていてバカクズ太子にシンパシーを抱いちまったような…


…えっと、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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