第75話 ヒロインは文化祭の出し物の準備をする
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
『前略 アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様』
『平生より、わたくしのことをお気に掛けて下さいますこと、誠にありがたく、心よりお礼申し上げます』
『本日は、朗報をお伝えさせて頂きたく、書簡をお送りさせて頂きます』
『アナスタシア様とわたくしの目的に、賛同し協力してくれる者が現れました』
『その者が信頼に値すること、わたくしの身命にかけて保証致します』
『その者の名を明かすことは本人の希望もありできませんが、かのクズどもが5人どころか100人集まろうとも敵にならぬほどの剛の者でございます』
『このことをお伝えするか否か迷いましたが、アナスタシア様の御心が少しでも安らけきものとなりましたら無上の幸甚と思い、お伝えさせて頂きました』
『わたくし如きは取るに足らぬ力しか有しおりませぬが、アナスタシア様には誠に頼りになる味方がおります。何卒ご安心下されたく、お願い申し上げます。
エイミー・フォン・ブレイエス』
◇◆◇
初秋の残暑はいつの間にか吹き飛び、秋の風と晴天が肌に心地よい季節となった。そして、王立高等学園ではこの時期に文化祭が行われる。そして、文化祭に当たっては全学生が何らかの出し物を出すことが義務付けられている。一人でやるもよし、グループでやるもよしだ。そして、その出来栄えに対する評価は夏休みの自由研究と同様、次年度のクラス分けの評価基準とされる。
次年度のクラス分けがどうとかいう話はわたしにはあまり関係ないが、夏休みの自由研究ではとんだ奇禍に見舞われて自分のやりたいことができなかった…じゃなくって、思いがけずカール様のグループに入れて頂き、自分の分に過ぎた高い評価を頂くことになってしまった。わたしは何も貢献してないのにと思うと気分悪…もとい、光栄すぎて落ち着かない気分であった。
そこで、文化祭では自分の分に合ったことをやろうと思ったのだが…
「エイミー、また俺たちと一緒に文化祭の出し物をやらないか?」
クロード様や諸公子様方を引き連れた、カール様からそのような不愉快…ゲフンガフン、有り難いお言葉を賜ったのである。わたしは引き攣りそうな頬を辛うじて笑ませ、可愛ぶりっ子な声を出した。
「ありがとうございますぅ。カール様のグループに、参加させて頂きますぅ」
カール様は、その精悍で秀麗な顔に笑みを浮かべた。他の若様方の歓迎のお言葉を頂き、わたしもその有り難いお言葉に対し笑みを以て応える。その笑顔が、引き攣っていなかったことを願いたい。
◇◆◇
カール様たちに作業部屋に案内して頂くと、そこには先客がいた。アナスタシアである。彼女はそのスタイル抜群の肢体に冷気を纏わせ、カール様を問い詰めた。
「殿下、集合時間は15時だった筈です。今は既に15時10分を過ぎていますが?」
ゔぇっ?何それ!?まさか、カール様はわたしを迎えに行っていて、それで集合時間に遅れちゃったっていうことなの!?そのことに思い至り、思わず可愛ぶりっ子を忘れて素で応えてしまった。
「あ、アナスタシア様、申し訳ございません!カール様は、わたしをお誘い下さって、それで集合時間に遅刻なさってしまったんです!どうか、カール様や若様方をお責めにならないで下さい!!」
わたしに向き直って応えるアナスタシアの声は、どこまでも冷たい。
「エイミー・フォン・ブレイエス、私はお前の発言を許していない。そもそも、畏れ多くも王太子殿下の御名を、それも愛称でお呼び奉るとはどういう了見か?」
ま、マヂ怖ぇ。冷徹な、氷の彫像のような美貌から、冷気とともに凄まじい瞋恚の感情が伝わってくる。アナスタシアは、カール様や諸公子様方の遅刻に一番怒ってるんだよね!?わたしの不敬非礼に対する怒りは、そのおまけだよね!?
「アナスタシアッ!俺は、お前のその態度が気に入らんと言っているんだ!たかが10分程度遅刻した程度で鬼の首を取ったように責め立てやがって、しかもそのことを庇ってくれたエイミーにまで八つ当たりするとは、それこそどういう了見か!」
アナスタシアの迫力に比べると、カール様はちっとも怖くない。それは、カール様がわたしのことを思い遣って下さってるから…ってことにしとくの!それに、遅刻のことだって、たかが10分程度なの!カール様がそう仰るんだから、それで正しいの!…そう思い込まなくっちゃ、マヂで気が狂いそうになるわ!!
「…まぁいい。たかが10分程度とはいえ、遅刻したのは俺たちの落ち度だ。だが、エイミーに対する態度は看過できぬ。この場で、エイミーに謝罪しろ」
…そ、そうなの!カール様が仰ることだから、それが正しいの!もうこの空間訳が分からんとか、そんなこと思っちゃダメ!!
カール様のそのお言葉を受けて、アナスタシアはわたしたちに向けていた冷たい視線をふ、と外して溜め息を吐いた。
「…承知致しました、殿下。…エイミー・フォン・ブレイエス嬢、すまなかった」
「エイミー、君が許せないというのであれば、許さなくてもいいんだよ」
アナスタシアの謝罪の言葉に、被せるようにカール様がわたしに優しい言葉をかけてくれる。発言を許してもらったものと勝手に解釈して、わたしは口を開いた。
「そ、そんなぁ…わたしが殿下のお名前を、それも略称で呼んでしまったことが悪かったんですぅ…アナスタシア様は、何も悪くないですぅ…」
これはわたしの本当に、本ッ当に偽らざる本心である。
「エイミーは本当に優しいな。アナスタシアとは大違いだ…エイミー、俺のことをカールと呼んでくれても構わないんだよ。むしろ、俺は君にそう呼んでほしい」
「おい、カールだけずるいぞ。俺だって、エイミーにクロと呼んでほしいんだ」
「エイミー、俺のことはこれからレオと呼んでくれないか?」
「…マルクス、僕たちは仲間外れだね…」「…オスカー、悲しいですね…」
両殿下や諸公子様方が、口々にわたしへの親愛を語って下さる。その様子は、まるで失笑しか出てこないコントのようで…違う!違うの!今のわたしは、皆様から親愛のお言葉を頂いて感動に打ち震えているの!決して、おぞましさに怖気を震っているんじゃないの!その辺勘違いするんじゃねぇぞわたし!!
「あ、ありがとうございますぅ。そこまで若様方に仰って頂けて、エイミー・フォン・ブレイエスは幸せ者ですぅ」
そう言ってくねくねと身体を捩らせるわたしと、両殿下や諸公子様方を見るアナスタシアの目には、あたかもつまらなすぎて殺意を覚えるレベルのコントを見るかのような光が宿っていた。
◇◆◇
結局、その日の会合では、カール様のグループは治癒魔法についての展示を行うことが決定された。要は、わたしが活躍できる場を作って下さったということらしい。このことに関しては、素直に感謝したい。それに、C級治癒魔法まで使えるというアナスタシアの識見は、この展示にあたって大きく貢献してくれるだろう。
まだ時間に余裕がある。ならば、この展示の内容をどのようなものにするか、ある程度の指針を固めてもいいだろうとわたしは考えていた。治癒魔法の基礎や初歩について展示し、これまで治癒魔法とは縁のなかった人にも治癒魔法について興味を持ってもらうのか、あるいは治癒魔法の歴史や治癒の原理について展示した内容にするのか、その辺について話を進めようと考えていた。
ところが…何について展示を行うか決めた時点で、カール様やクロード様、そして諸公子様方はその日の仕事は終わったとばかりにわたしにいちゃつきかかったのである。…光栄に思わなくてはならない。そこまで、皆様はわたしを愛して下さっているのである。断じて、「これからやることは目白押しなんだからさっさと準備進めろやボケェ!」などと、思ってはいけないのである。
◇◆◇
「エイミー、この展示は “癒し” の加護を授かり、S級治癒魔法まで使えるという君のために行うものだ。遠慮なく、俺たちに指示を出してほしい」
カール様のそのありがたいお言葉を受け、わたしは貴顕の皆様に方針をどうするか聞いてみることにした。ある意味本当にありがたいが、ものすげぇプレッシャーでもある。この展示作りが、ただ貴顕の若様方がわたしにいちゃつきかかるだけの場所で終わらないように、わたしが主導する必要があるのだから。
それは、ただわたしが若様方にいちゃつきかかられるのが迷惑千万だというだけではない。 “癒し” の加護を授かったヒーラーとして、治癒魔法の展示を行うからには誰に見られても恥ずかしくないものを作りたいのだ。そうでなくては、天国のバインツ侯爵閣下に顔向けができない。
…はッ!?今わたし、変なこと言ってなかったか!?わたしは、貴顕の若様方にご寵愛頂いてるんだぞ!?それを恥じらいつつもありがたく受け入れなくちゃならねぇのに、迷惑千万とか考えるんじゃねぇぞ!ちゃんとその辺認識しとけよわたし!
「は、はい、それではぁ、皆様がこの展示をどんな風なものにしたいとお考えかぁ、わたしにお教え頂きたいと思いますぅ」
そのわたしの言葉に、カール様やクロード様、そして諸公子様方は呆けた顔を向けておられる。どいつもこいつもアホ面晒しやがっ…違うの!断じて違うの!貴顕の若様方は、そんなお顔も凛々しくて美しいの!アホ面なんかじゃ、決してないの!
「どんな風にって…治癒魔法について展示すればいいんじゃないのか?」
クロード様が、精悍で端正な顔の満面に疑問符を貼り付けて仰ったお言葉に、諸公子様方が同意の言葉を口々に発された。
「クロードの言う通りだ。治癒魔法について展示すれば、それでいいと思うぞ」
「僕も、それでいいと思うんだけどね」
「私も、それで構わないと思うんですが」
「エイミー、この字は何て読むんだ?教えてくれないか?」
…思わずわたしは、アナスタシアに救いを求めるような視線を向けてしまった。
頑張れヒロイン、負けるなヒロイン、
展示の未来は君の手にかかっている!
ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、
本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。
厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも
頂きたく、心よりお願い申し上げます。




