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(総合評価1,000pt到達謝恩) おまけ・その5 (エイミー視点) 転生モブ令嬢は聞くに堪えない悪口雑言罵詈讒謗の報いを受ける (第6話)

このおまけは、総合評価1,000pt到達謝恩で書かせて頂きました。

時系列的には、本編125話でヒロインが悪役令嬢の実家の

王都邸を辞してから、悪役令嬢と町人Aと一緒に

恩師のお墓参りに行くまでの間の時間帯になります。

極弱火ながら、ざまぁに挑戦させて頂いております。

お楽しみ頂けたら幸いです。

この日のお昼の、西ザウス地方の郷土料理でのランチがパァになってしまった代わりに、わたしはラムズレット公爵家の王都邸でお昼ご飯をご馳走になることになった。アナが、「エイミーに糠喜びをさせてしまったことへのお詫びにもならぬが、是非そうさせてくれ」と言ってくれたためである。


ランチがパァになってしまったのはアナのせいじゃないが、タダ飯を断るのはわたしの人生の三大信念に反する。曰く、『タダ飯断るなかれ』だ。


あと二つのうち一つは、『ひんぬーはステータスであり希少価値である』というものだ。何となく何かのパクリっぽいが、わたしの胸部装甲の貧弱さをご存知の諸賢であれば、わたしがこの信念を持つのもご理解頂けよう。


最後の一つ、わたしにとって最重要の信念は…言うまでもねぇか。昨年の、学園の卒業進級祝賀パーティーでわたしがやらかした醜態と、その後の学園の反省室でのわたしの行動をご存知の諸賢なら、すぐお判り頂ける筈だ。


◇◆◇


とまれ、そんな事情により現在わたしはラムズレットの王都邸、その食堂にいる。そこで、アナと一緒にお昼ご飯をご馳走になっているのだ。メニューは柔らかい白パンとサラダ、そして(かつ)てアナがオーベルシュタインさんを介してわたしに寄越してくれたラムズレット公爵家秘伝の牛テールスープである。


他人様(ひとさま)の奢りで外食できなかったことと、ノスタルジーを満足させられなかったことは確かに残念ではあったが、この美味しいテールスープを頂けたのだから収支はどっこいどっこい…いや、イカレポンチのエンガチョに変な絡まれ方しちまったんだから、最終収支はやっぱり大幅の赤字だな。


…まぁそれはともかくとして、だ。


これまでこのラムズレットの王都邸で引き籠らせて頂いていた時にはご馳走に(あずか)れなかったものの、ラムズレット公爵閣下にお父様やお母さん共々ご招待を頂いた夕食会で頂いたサラダやローストビーフ、それにラムズレット公爵閣下の大好物だというテリーヌも美味しかったが、わたしはこのスープが一番好きだ。


アレンさんは、ローストビーフが一番の好物だったみたいだが。やはり彼も成長期の男子とあって、肉料理がお好みなのだろう。フリードリヒ公子様に勧められるままに、ローストビーフを凄まじい勢いで平らげていた。


そのアレンさんは、現在この食堂にはいない。このラムズレットの王都邸内に設置された、懲罰対象となる行動をやらかした者を閉じ込めておくための地下室で、とある任務に当たっているのだ。


彼は、お母さんのカテリナさん共々ラムズレット公爵家の庇護を受ける立場であると同時に、ラムズレット家の家中として公爵閣下の暗器の任に就いている。つまり、諜報や暗殺など、あまり表には出せない部分の仕事を担っているのだ。


そして…その裏に置くべき仕事の中には… 拷 問 も入っている。


アレンさんは、元々冒険者をやっていて荒事にも慣れている。好んで他者を傷付けたり痛め付けたりするような人間では決して彼はないが、その必要があれば人を傷付けることも痛め付けることも…果ては(あや)めることだって躊躇(ためら)わない。


嘗てアナが学園から追放されるのを阻止できたことについて祝杯を上げた際に、アレンさんはわたしに『手を敵対者の血で赤くペイントする覚悟はあるか』と問う形で、裏の仕事にも通暁した暗器としての覚悟をわたしに示してくれた。


元々前世世界指折りの平和国家である日本に住んでいたアレンさんが、そこまでの覚悟を決めるに至るまでは、相当に衝撃的な出来事があった筈だ。その出来事を匂わす程度に教えてくれた際に、彼は『幸いにして結果的に最悪の事態には至らなかったが、決して思い出したくない苦い記憶だ』と語っていた。


その際に、彼は先輩冒険者に相当厳しく叱責されたようなことも言っていた。何でも、『惚れた女性や彼のお母さんが酷いことをされて売られた後で後悔しても遅い』といった趣旨のことまで言われたそうである。


わたしは東部冒険者ギルドの専属ヒーラーとして―今はバイトヒーラーだが―、またブレイエス男爵家のご令嬢様として東部の皆さんに大切にして貰っているが、それは裏を返せば甘やかされている、ということでもある。


…嘗てアレンさんに言われたように、わたしも手を敵対者の血で赤くペイントする覚悟を決めた方がいいのかもしれない。


◇◆◇


話がズレたが、現在アレンさんはかのイカレポンチ令嬢がアナに対し面と向かって『今頃学園を追放されて、ならず者どもに集団レイプされて、エスト帝国に売り飛ばされている筈だのに、何故まだルールデンに居座っているのか』と公然と言い放ったことの裏にある事情を確かめるために、ラムズレット公爵閣下の暗器としてそいつの尋問に当たっているのだ。


アナが優雅な所作でスープを味わいながら教えてくれた話によると、アレンさんは彼自身がそいつの尋問の任に当たりたいと公爵閣下に申し出たそうである。


「その際に、『殺しさえしなければ、何をやってもよい。…そういうことで、宜しゅうございましょうか?』と、お父様に聞いていた」


うわぁ…アレンさん、(すげ)ぇこと言いましたね…まぁ、あのエンガチョの戯言(たわごと)を聞かされて、アレンさんがガチ切れするのも無理からぬことやけどな…何しろアナが『そうなってしまう』ことは、彼や彼のお母さん、また彼の大切な人たちがエスト帝国軍の侵攻によって殺されてしまうことと同義なのだから。


「それに対するお父様の返答もまた、尋常ではなかったな…『どの道その者が永らえることは叶わぬのだ、アレンの好きなようにするがいい』と仰っておられた」


…流石はこの国指折りの広域指定団体(名門貴族家)会長(当主)様である。舐めた腐った態度を取った奴は(ことごと)く死すべし慈悲はなし、といったところだろうか。


「お父様は、『あの孺子(こぞう)どもといい、ここ最近はラムズレットをコケにした態度を取るのが貴族家の子女たちの中で流行(はや)っているのか…?ならば、伯爵家の一つも血祭りに上げて【教育】してやらねばならぬな…』とも仰っておられた」


…うわぁやっぱり。こりゃぁもう、あのイカレポンチの実家の、フォイエルハウト伯爵家とかいう貴族家の命運はアレだな。風前の灯、ってやつだ。


◇◆◇


…と、この王都邸の玄関ホールがやたらと騒がしくなった。わたしたちがお昼ご飯を頂いている食堂は玄関ホールのすぐ横にあるため、そこで大声での会話が交わされていたらその会話が食堂まで聞こえてくることもある。


そして、狼狽と驚愕、そして何よりも恐怖に彩られた中年男性と中年女性の声は、アナとわたしが充分に知覚することができるくらいには大きかった。


「し、執事殿、どうか私どもの話をお聞き下さい!え、エミリーは、愚女は決してそのような、ラムズレット公爵家ご令嬢様のことを悪し様に罵ったりするような真似は致しません!何卒(なにとぞ)、何卒公爵閣下にお取り次ぎ下さい!!」

「お、夫の申し上げる通りにございます!わ、わたくしどもの娘は、そ、そのような不敬極まりない真似をするような娘ではございません!どうか、どうか公爵閣下に弁明申し上げるをお許し下さいまし!!」


その、悲惨な懸命に満ちた声に冷厳たる様子で応えるのは、嘗てアレンさんをこの王都邸内で案内していた執事さんの声だ。その内容から、執事さんの対話相手があのイカレポンチの両親であるフォイエルハウト伯爵夫妻であることが判る。


「畏れながら伯爵閣下に令夫人様、エミリー・フォン・フォイエルハウト伯爵家ご令嬢様が確かにわたくしの主家たるラムズレット公爵家の第二子、アナスタシア様に対し不敬極まりない言辞を弄しておられましたこと、当のアナスタシア様とエイミー・フォン・ブレイエス男爵ご令嬢様がご自身の耳で確かめておられます」


食堂内は快適な室温に保たれている筈だのに、執事さんの声からは体の芯から凍り付くような酷寒の凍気が感ぜられた。それを受けて、アナが発した言葉は。


「これは…セバスも、相当に憤っているな」


あの執事さんの名前、セバスさんっていうのか。そういえば、公爵閣下も先の夕食会で彼のことをそんな風に呼んでたな。


「何でもアナスタシア様のことを、学園から追放されてならず者どもの慰み者にされて、今頃はエスト帝国に売り飛ばされている筈だ、とエミリー様は仰ったそうで。何故エミリー様がそのように仰ったか…伯爵閣下がそのような陰謀に関与しておられ、エミリー様がその陰謀をご存知であったと考えれば、辻褄(つじつま)が合いますな」


その辺は、アナが言った言葉と同じだ。…まぁそういう結論に達することは、そう難しくないことは諸賢にはお分かり頂けることと思う。


そして、その言葉をセバスさんに向けられたフォイエルハウト伯爵夫妻の反応も、アナにその言葉を向けられた際のあのエンガチョを護衛していた騎士様たちと、全く同等のものだった。曰く、限りなく絶望に近い驚愕と恐怖である。


「…なッ…!!…そ、そのような陰謀に当家が関与していたことなど、断じてございませんッ!!ど、どうか、執事殿には、当家は全くの無実でございますこと、ラムズレット公爵閣下によしなにお伝え頂きたく…!!」

「それはわたくしの任ではございません。伯爵閣下ご夫妻で、わたくしどもの主人(あるじ)にお伝え下さいますよう、ご進言させて頂くのみにございます」


それから暫くして、セバスさんの変わらぬトーンが響いた。


「伯爵閣下、令夫人様、わたくしどもの主人がお二方のお話を聞きたいと申しております。わたくしが主人の部屋にご案内致しますので、ご同道をお願い致します」

「は、はい、よ、よしなにお願い致します」


玄関ホールの声が遠ざかっていくのを確認したわたしは、スープに浸したパンの美味を存分に堪能した後でアナに声を向けた。


「アレンさんを案内してた時には穏やかな雰囲気しか感じなかったですけど、セバスさんって怒ったらめちゃくちゃおっかないんですね。セバスさんの声を聞いてるだけで、背筋が凍り付くかと思っちゃいました」


優雅な所作で口に運んだサラダを充分に咀嚼(そしゃく)して、嚥下(えんげ)した後でアナが発した声は、弱い呆れの色を孕んでいた。


「…彼の本名は、セバスチャンだ。セバスではない」


アナの言葉に、わたしは少しく驚いた。…ということは、セバスチャンさんは公爵閣下やアナから愛称で呼ばれるほどに信頼されてるってことだな。


「セバスは、学業が非常に優秀だったそうでな。若い頃には、お父様が幼少だった頃に家庭教師を務めていたそうだ。そして後にはラムズレットの執事長として、この王都邸の一切を差配してくれている」


何でも、幼少の頃のフリードリヒ公子様やアナの遊び相手にもなっていたそうだ。特に、アナはしょっちゅう彼に『お馬さんごっこ』をせがんでいたらしい。


「…アナ様って、お転婆だったんですね…」

「…エイミーに言われるのも、(いささ)かならず心外だな…」


お互いにパン皿の上に置かれたパンに手を伸ばし、ジト目で睨み付け合ったアナとわたしだが、それ以上の非難の応酬には至らなかった。取ったパンを自分の取り皿に置いたアナが、そのパンの上に溜め息を落としたためである。


「…それにしても…何やら妙チキな話に巻き込まれてしまったな…」

「…本当ですね…一体全体、何がどうしてこうなったのやら…」


わたしも、自分の取り皿の上に置いたパンに溜め息を落とした。

ヒロインにとって、件のスープは

『激痩せから自分を救ってくれた、救済の味』でもあります。

てなわけで、彼女にとってはこのスープは

他のどれほどの贅を凝らした美食よりも

一格上のご馳走になっている、ということにしておいて下さい。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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