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(原作コミカライズ7巻発売記念) 後日談 その1 (アレン視点) 元町人Aは元悪役令嬢と新婚旅行に出かける (第17話)

このエピソードは、本編終了後の物語になります。

ヒロインが悪役令嬢の味方に付いた場合の

本編終了後のストーリーを、お楽しみ頂けたら幸いです。

ちょうど、義母上の部屋でのお茶会がはけた頃合いだったようだ。


「エリザヴェータ様、アナ様、ご馳走様でした。また、お邪魔させて頂きます」

「エイミーさん、今日はようこそ来て下さいました。また、いらして下さいね」

「エイミー女史、今日はいきなり呼び付けたようなものなのに快くおいで頂き、ありがとうございました。また、何時でも遠慮なく遊びにいらして下さい」


そして、このラムズレットの王都邸をエイミーが辞しようとしたところに。


「…エイミー女史、あなたがさっき言っていた『例のペナルティ』を続けるべきではない、と思う出来事とは、どのようなものだったのですか?」


アナが思い出したようにその疑問をエイミーに向けた。…そういえば、エイミーはさっきそんなことを俺に対しても言っていたな…


「あ、そのことですね。先日マーガレット様やイザベラ様と一緒に、課されたペナルティを払いに行ったんです。そしたら…」


エイミーの話によると、彼女がマーガレットやイザベラに伴われて(引き摺られて)『三点セット』を最低最悪の土饅頭に手向けるべくその場に赴いた際に、王妃陛下がその土饅頭に花束を手向けている姿を確認したそうである。


『…カールハインツ…お前は “英雄” と “炎魔法” の、世にも稀な二つの加護を授かった、このセントラーレン王国開闢以来の英主名君となり得る器であったのに…妾が愚かで、お前の教育を誤ったから、このような事になってしまいました…お前には、詫びても詫びきれませぬ…そして、悔いても…悔いきれませぬ…』


王妃陛下が、遠方からでもよく判る涙声で土饅頭に詫びていたそうだ。


「…それで、ですね…こんな、あいつを嘲笑うようなことしちゃダメなんじゃないかって思ったんです…あいつがアナ様にした仕打ちは、到底赦せないんですけど…王妃陛下にとっては、お腹を痛めて産んだ長男をこんな風にバカにされて嘲笑されるなんて、とても耐えられないことですよね…」


…エイミーの言葉に、アナも義母上も一言もなく俯いてしまった。


…俺も、何も言葉を発することができない。確かに、あの最低最悪の罪は到底赦せないものであり、奴はその下劣極まる品性に相応しい苦痛と恥辱に満ち満ちた罰を未来永劫受け続け、また末代に至るまで嘲笑され続けるべきだと思うが…


国王陛下や王妃陛下、またルートヴィッヒ再太子殿下をそれに巻き込むべきではない。それでは、俺の嫌いな連座刑と全く同じではないか。


「…お母様、アレン、どう思いますか?私は、エイミー女史の言葉に対し反駁する言葉を見つけることができないのですが…」

「…そう、ですね。それに、そのようなことを懲罰として用いるのは、今にして考えれば非常に悪趣味なことです。私たちも、つい悪ノリしてしまいましたが…」


言われてみればその通りだ。あの最低最悪の遺言が衝撃的すぎて、『そんなに貴族令嬢が素肌に付けていたものの匂いを嗅ぎたければ、墓前に手向けてやる。但し、その令嬢たちがやらかしてしまった失態に対する懲罰としてだがな!』という嘲笑の意が先に立っていたことは否定できない。


「…そうですね。俺も、エイミー様のお言葉に異存はありません」

「…アナ様、エリザヴェータ様、アレンさん、ありがとうございます。実は、マーガレット様もイザベラ様も、わたしの意見に賛成して下さったんです」


そう言って、エイミーは愛らしい顔を安堵に笑ませた。


◇◆◇


斯くて、エイミーは最低最悪の墓前に彼女の『三点セット』を手向けることなく、俺とアナの新婚旅行の手土産であるエルフの蜂蜜を得ることができたのであった。そして同時に、その懲罰はこれを機に廃止されることとなったのである。


それはいいのだが、アナを中心とする俺たちのグループでかの懲罰を課された回数は、エイミーがトップで僅差でイザベラが続き、その後に大きく水を開けられて俺、そしてマーガレットの順であった。


先にも言ったが、アナとオスカーは、この淑女にとっては純潔を確かめられる次くらいには恥辱的な、そして男としても嫌すぎるこの懲罰を受けた経験はない。


オスカーに関しては、彼の妙なところでの危機回避能力の高さが理由として挙げられる。…え?何でアナはこの懲罰を課されなかったかって?


…お前ら、そんなにサイガの散弾どてっ腹にご馳走して欲しいのか?


…それはともかく、上記の統計結果を鑑みるにこの懲罰の被害を最も(こうむ)っていたのはエイミーであると、こう結論付けることができる。


…エイミーさん、まさかあなたこれ以上自分の着用済み靴下と着用済み女性用胸当て、そして着用済み下着をあの最低最悪の墓前に手向けるのが嫌だから、そんなこと言い出したんじゃないでしょうね?


◇◆◇


「それじゃ、わたしは戻ります。ありがとうございました」


そう言って、まだ被っていた猫が抜けないのか普段よりも遥かに丁寧な淑女の礼を執ったエイミーに、義母上が声を向けた。


「エイミーさん、もし宜しかったら馬車をお出ししますから、それに乗って東部冒険者ギルドまで戻られては如何ですか?」

「そ、それはちょっとご好意に甘えすぎです。この王都邸から東部までは歩いても10分くらいしかないから、それくらい歩きますよ」


恐縮を露にしたエイミーに、アナが追い討ちをかける。


「エイミー女史にはこちらの都合でご足労頂いたのですから、それくらいせねばラムズレットとドラゴラントの沽券に関わります。何卒、馬車をお使い下さいまし」


そこまで言われては、流石に断るわけにはいかない。恐縮を更に増幅させ、エイミーは何度も桃色の髪の毛を擁する頭を下げた。


「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて馬車を使わせて頂きます」


…ところが、困った事態が生じた。


◇◆◇


ラムズレットの王都邸の御者さんが急に昏倒してしまったため、エイミーを東部冒険者ギルドまで送る馬車を操る御者さんがいなくなってしまったのだ。


「困りましたわね…エイミーさんに乗って頂く馬車はあっても、その馬車を操る御者がいなくては、エイミーさんをお送りすることができませんわ…」


その義母上の慨嘆に、エイミーが文字通り間髪入れずに答えた。


「どうか、その儀はご懸念なきようにお願い致します。当初の予定通り、わたしが歩いて東部冒険者ギルドに戻ればいいだけのことですから」

「それこそ、ラムズレットとドラゴラントの鼎の軽重を問われます。当初に約束したことを、こちらの都合で反故にしてしまうようなものですから」


()くして義母上とアナ、そしてエイミーの間で口論が生じかけたところだったが。


「あ、あの…もしも私でよかったら、エイミー様を東部冒険者ギルドまでお送りする馬車の御者を務めさせて頂くことができますが」


そう言って、俺は手を挙げた。それに対し、困惑の声を向けたのはアナ。


「アレンが…ですか?」「うん。エイミー様さえ宜しければ、だけど」


◇◆◇


嘗て俺は、ラムズレット公爵家の家中を務めていたことがある。その際に、義父上―当時は公爵閣下とお呼びしていた―が搭乗される馬車に基本的に同乗させて頂いていたのだが、時々今回のように御者の都合が付かないこともあった。その時には、俺がその馬車の御者を務めさせて頂いた経験がある。


そのことを義母上やアナ、またエイミーに言うと、義母上やアナは「「そういうことなら、アレン (さん) にお願いします (ね) 」と言ってくれた。


一方で、恐縮を更に増幅増強させたエイミーが「そ、そんなこと、新興男爵家の小娘の分際で、ドラゴラント伯爵閣下に御者を務めて頂くなんて、畏れ多いにも程があります!」と、件の導きの杖のレプリカを抱き締めながら語気を強めるが、俺はそれに対してこう答えてやった。


「エイミー様、当世屈指の凄腕のヒーラーたる『癒しの姫御子』が搭乗される馬車の御者を務めさせて頂く光栄を、どうか俺にお与え下さいませ」

「アレンの言う通りです。それに、先にも言いましたが一度馬車を用意する、と言っておきながらこちらの都合でそれを覆すなど、ラムズレットの面子もドラゴラントの面子も丸潰れになります。エイミー女史、どうか馬車をお使い下さい」


二方面作戦を強いられ、救いを求めるようにエイミーは義母上の方を見た。…だが、そこには彼女が求めるものは存在しなかった。


「エイミーさん、アナやアレンさんの言う通りです。どうか、馬車をお使い下さいまし。それに、アレンさんは嘗て夫が乗る馬車の御者を務めたこともございます。馬車の扱いも手慣れたもので、全く問題ありませんわ」


完全に逃げ道を塞がれたエイミーは、おろおろと周りを見回した後、観念したように天を仰いで…そして、俺に頭を下げた。


「そういうことでしたら…アレンさん、お願い致します。…何だか、お茶とケーキをご馳走して頂いただけじゃなくって馬車まで出して頂いて…申し訳ないです」


エイミーがラムズレット公爵家の家紋の入った馬車に乗り込んだ後で、俺はその馬車の御者席に座し、そしてアナと義母上に挨拶した。


「アナ、義母上、それでは行って参ります」「「行っていらっしゃい」」


母子(おやこ)らしい息の合った女声二部合唱を背に、馬車はゆっくりと動き出した。


◇◆◇


間の悪いことに本来の御者さんが急に昏倒した…というわけではない。


まず大前提として、アナと義母上の性格的に、確実に二人はエイミーに馬車を使うことを勧める。そして、エイミーは二人の()しに抗しきれずその厚意を受けて恐縮しつつも馬車を使って東部冒険者ギルドに戻る。


その馬車に、俺も同乗したかったのだ。まさか馬車の中に乗ることはできないが、御者として乗ることは問題ないだろう。


(いささ)かならず良心が咎めたが、エイミーが乗る馬車の御者を俺が務めるために、少しからず小賢(こざか)しい策謀を弄し、それに基づいた行動を取らせて貰った。


アナや義母上、そしてエイミーが別れる際に再会を約していた、その場からこっそりと “隠密” のスキルを使って離れ、そして御者さんの詰所(つめしょ)で彼が飲んでいたお茶に、 “錬金” で作った眠り薬を一服盛らせて貰ったのだ。


剣と魔法の世界もチートスキルもつくづく便利なもので、本来ならどんな眠り薬でも摂取後効果が顕れるまである程度時間はかかる筈だが、俺が作った眠り薬はあり得ないほどの即効性を示し、御者さんは昏倒するように寝入ってしまったのだ。


その後で何食わぬ顔をして三人の淑女―いや、一人は違ったな―が挨拶を交わしている場に戻り、急に昏倒した御者さんの心配をする振りをしていたのである。


俺が何故そのような行動を取ったか―それは、変態がエイミーの覚悟について評した言葉がどうしても気にかかってしまったためだ。


そのことについて、エイミーに是非とも言っておきたい―否、絶対に言ってやらねばならない言葉を、俺は見出(みいだ)したのである。

本編第124話の時点では、『急病死』当確の

イケメン廃太子が貴族令嬢の『三点セット』を

墓前に手向けるを希う、という思いつきに

「これだ!」と思い、かつその構図にインパクトを

感じたため本編ストーリーに採用致しましたが、

考えてみれば悪趣味な話でした。

現在は、水溜まりよりかは、深く反省致しております。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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