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(原作コミカライズ7巻発売記念) 後日談 その1 (アレン視点) 元町人Aは元悪役令嬢と新婚旅行に出かける (第5話)

このエピソードは、本編終了後の物語になります。

ヒロインが悪役令嬢の味方に付いた場合の

本編終了後のストーリーを、お楽しみ頂けたら幸いです。

変態の依頼を湯屋で受けた後、俺は湯浴みを終えたアナと合流した。彼女は、湯浴みの前とはまた別な柄の浴衣を身に付け、その上に薄手の羽織を羽織っている。温泉宿の宿泊客みたいな出立ちだが、その姿はアナの湯上がりで上気した姿の魅力を(いや)増している。はっきり言って、反則的に…と言うよりも犯罪的に色っぽい。


…いや、どのような姿をしていようとも俺の奥さんは三千世界一可愛くて愛らしく、また美しいのだ。異論は認めない。


「アレン、お待たせしました」「いや、俺も出たばかりだから」


歌の文句に出てきそうな会話を交わし、二人でエルフの里を散歩することにした。


◇◆◇


去年の夏、俺とアナはこのエルフの里のそこいら中を走り回り、逃げ回ったことがある。夏祭りのイベントで、カップルが光の精霊神様の祝福を受けるため、試練を受ける過程での話だ。俺たちは、手を繋いでお揃いの素足にサンダル履きの体で、散歩をしながらその時のことをタネに、話の花を咲かせていた。


「ここで、アレンが私を横抱きにして村人たちの追撃から逃げてくれましたね」

「あの時は、いきなり抱き上げてしまってごめんね。嫌じゃなかった?」

「そんなこと、ありません。わ、私こそ…お、重くなかったですか?」

「…そ、そんなことないよ。君は軽いから…」


昨日の夜はあれほど『良い子のみんなは知らなくていい姿態や声』を見せてくれたり聞かせてくれたりした一方で、このように初々しく恥じらう姿も極悪に可愛いのだから、やっぱり俺の奥さんは三千世界一可愛くて愛らしく、また美しい。大切なことだから幾百千万回でも言うし、異論は認めない。


「ここの袋小路で、アレンが私に覆い被さるようにして盾になってくれて、村人たちの攻撃から私を庇ってくれましたね」

「その後で、アナが氷魔法を駆使して、俺たちを包み込むような形の氷の棺桶を作ってくれたよね?そのお蔭で、俺も果物をぶつけられずに済んだんだ。あの時は、本当にありがとう。お陰で、ケガをせずに済んだんだ」

「そ…そう言って貰えるととても嬉しいです。私が無事でも、アレンが果物をボコボコにぶつけられてケガをしてしまっては、意味がありませんから」


そう言って少し恥ずかしそうに、そして確かにとても嬉しそうに微笑むアナは、もう凶悪に可愛い。やっぱり俺の奥さんは三千世界一可愛くて愛らしく、また美しい。大切なことだから幾百千万回でも言うし、異論は認めない。


「それで、そのまま時間まで何とか凌ぎ切ったんだけど、時間切れになったことを女王様が合図してくれて、それでアナが氷魔法を解いた途端にシェリルラルラさんが思い切り果物を投げ付けてきたんだよね」

「その果物を、アレンが顔面で受け止めて私を庇ってくれたんです」

「本当、シェリルラルラさんも容赦ないよね」


もう本当に、シェリルラルラさんも容赦ねぇよな…あの時、顔面に受けた衝撃の大きさはマヂ半端なかった。まだ柔らかい果物だったから直後にくしゃみを連発するくらいで済んだけど、あれが堅いものだったら…下手したら鼻骨が折れてたぞ…


…と。アナが、俺が着ていたブラウスの胸倉を両手で掴み、恐怖すら覚えるほどに苛烈な視線を俺に向けた。…そして言うことには。


「…今日、湯浴みしていた時にシェリルラルラ殿下に言われました。『…アナスタシアさん、万が一にもあなたがアレンを不幸にしたら、あなたを殺してあたしも死ぬわ。その覚悟は、持っておいてね』と。…アレン、あなたはシェリルラルラ殿下にそこまで言われるような…そういう関係だったのですか!?」


…ええぇぇっ!?ちょ、ちょっと待って!お、俺は、シェリルラルラさんとそんな関係だったことは全くなかったんですよ!?


「…なっ…ないない!そんなこと、絶対にないから安心して!俺は、これまでも今でも、そしてこれからもアナ一筋ですから!!」


…一瞬、心ノ臓が口から飛び出るかと思った。シェリルラルラさん、あなたいきなり何てこと言い出すんですか…


俺の衝撃に頓着することなく、アナは安堵の溜息を吐いた。


「それだったらいいのですが…アレンに心惹かれている女性は、多くいるのです。そういう女性たちの諸々(もろもろ)手管(てくだ)に引っ掛からないように、気を付けて下さいね」


…へ?そうなの?俺みたいなのに想いを寄せてくれるのはアナみたいなものず…ゲフンガフン、慈愛の精神に満ちた聖女のような女性くらいだと思ったんだが…あ、アナは実際に “氷の聖女” の加護を授かってたからガチモンの聖女だったわ。


世の中には、(たで)食う虫が結構多いようだ。


◇◆◇


俺とアナは手を繋ぎ合いながら散歩を進め、やがて(かつ)て俺が彼女にプロポーズした、里のはずれにある美しい泉に至った。


そこは泉の底まで目視できるような美しく澄み切った水を満々と湛え、その周囲は華やかに咲き乱れる種々の草花を擁し、その周りを精霊たちが静かに、(しか)して楽しそうに飛び回っている。幻想的で、神秘的な美しさに満ち満ちた場所だ。


「この場所で、アレンが私にプロポーズしてくれたんでしたね」


極上の象牙細工のような美しい右手で薄金色の髪をかき上げながら、アナが俺に笑顔を向けてくれた。(ちな)みに、彼女の左手は俺の右手と繋がれている。


アナの左手薬指に嵌められた身代わりの指輪を右手薬指の腹で撫でながら、俺はしみじみとその時の様子を懐かしく思い出した。


「本当にもう、あの時勇気を振り絞ってよかったよ。本当はね、あの時君に断られてしまったらどうしようかと、怖くて怖くて気が気じゃなかったんだ」


俺がそう言うと、アナは笑顔のまま俺の顔をじっと見据えた。…何か怖い。…と、彼女は不意に右手の人差し指を立て、それで俺の上唇をつん、と突っ突いた。


「私のことを、あなたの愛と誠意を理解できぬような女だと言う悪い口はこの口ですか?そのような口、もう一度(つね)り上げてやらなくてはいけませんね?」


…うわ…それだけはマヂで勘弁して下さい…あれは、本当に痛かったんだから…


…ってか、考えてみればあの時既に俺とアナは心を通わせ合ってたんじゃねぇか…何だって、プロポーズを断られるような心配してたんだよ…あほか俺は…


「ご、ごめんなさい。俺は君のことを誰よりも大切に想っているし、君も俺のことを大切に想ってくれているのに、何をバカなことを言ってるんだろね…」

「ふふ、判ってくれればいいんです」


優しく微笑んでくれたアナの前に改めて対峙し、俺は彼女の右手を取って(ひざまず)き、そして彼女の手の甲に口付けを落とした。


「アナ、あの時俺のプロポーズを受けてくれて、そして俺と結婚してくれて、本当にありがとうございました。俺は、俺の全てをかけて君を護り、そして君を幸せにすることを、終生―いや、来世でも誓います」


それに対し、アナは何ともおかしそうに噴き出した。…様になってなかった?折角エイミーにも練習台になって貰ったのになぁ…少しからず(へこ)んだ。


ところが、アナが笑ったのはそういう理由ではなかった。彼女はもう一度右手の人差し指で俺の上唇を(つっつ)き、「アレン、不合格ですよ」と言ったのである。


…え?不合格?何ぞそれ?


…要領を得ない俺の顔を見て、彼女はもう一度さもおかしそうに噴き出した。


「かつてお父様が仰っていたではありませんか。私だけが幸せになるのでも、アレンだけが幸せになるのでもない、私とアレン、二人で幸せになるのだと」


…あ、そういえばそんなことをアナの誕生日パーティーで義父上に言われたなぁ…何だか、このエルフの里に来てから失言ばっかりしてねぇか俺?


穴を掘って埋まりたい思いを懸命に堪え、俺は立ち上がってアナに謝罪した。


「アナ、ごめんね。確かに、その通りだった。二人で、幸せになろう」

「はい、アレン。私の、三千世界一愛おしい旦那様」


そう言って、アナは俺を柔らかく抱き締めてくれた。俺も、それに応えてアナを能う限り優しく抱き返す。アナの柔らかい抱き心地と、彼女の身体から発せられる微かな芳香を感じ取り、俺はこの上ない幸せを感じていた。


◇◆◇


お昼時になったので里の中心にある広場に戻ると、ミリィちゃんがとてとて歩いていた。俺を見つけ、「あ、アレンだ。抱っこぉー」と言って駆け寄ってくる。走ったら危ないよ…と言う間もなく、転がっていた石に()(つまず)いた。


「あ、危ない!」とアナが手を差し伸べようとするまでもなく。


ミリィちゃんは地面に転ぶことなく愛らしい頭を中心にして円を描くように蹴っ躓いた足を回転させ、何事もなかったかのようにその足を地面に着地させた。言うまでもないが、ミリィちゃんの身体にはケガ一つとてない。一方で、物理法則をガン無視したその動きに、アナは唖然としている。


どうしてこうなったのか…これは、変態と契約したことによってミリィちゃんに働くようになったオート防御機能だろう。変態に授けられた聖なる祝福によって、アナが物理的な危害を加えらえることがなくなったのと似たようなものだ。


…いや、寧ろそれが強化されたものかもしれないな。


と、そこに変態がその美しくも愛らしい姿を顕した。


「アナスタシア、よく来てくれましたね。アレンとの結婚、心からお祝い申し上げます。おめでとうございます」「ろ…ロー様…ありがとうございます!」


かつて聖なる祝福を授けた時のように、変態はでかい猫を被った余所(よそ)行き言葉と共にアナの額に手を遣っていた。この変態の本質を知らないアナは、感極まったのか嬉し涙を流しながら変態にお礼を言っている。


「アナスタシア、先ほどアレンにもお願いしたのですが、あなたたちがルールデンに戻る際に私とミリルレルラを伴って欲しいのです。少し、ルールデンで調べたいことがあるので、宜しくお願い致します」「?…それは、構いませんが…」


…あ、しもた。アナに、その事を言っておくのを忘れてた。


「アナ、ごめんね。伝え忘れていたんだ。この後で、アルトムントと飛竜の谷に行くでしょ?飛竜の谷から戻るときに、もう一度ここに寄りたいんだ。ロー様がさ、ルールデンで会いたい人がいるって言うから」


アナが機嫌を傾けちまったかな、と危惧したが、そのようなことはなかった。


「そんなことはありませんよ。アレンが決めたことに、間違いはありませんから」


…そんなこと、決してないですよ?結構、俺も昨日のこととかさっきみたく、失敗やら失言やら色々とやらかしちゃってます。何だかこっ恥ずかしくなってしまって、肘下までブラウスの袖を捲った右の前腕部をつい搔いてしまった俺に、変態は俺にしか聞こえない声と口調で問うた。


『アレン氏、二人でどこに行ってたんだお?さぞかし、人目につかない場所に行っていたと推察するんだお?』「そんなところに行って、何するんだよ?」


さっき、湯浴みをしていた時に見せた、人差し指を親指と中指の間からはみ出させた握り拳を、変態は俺に示した。


『決まってるお!發槓(アオ〇ン)だお!!』「黙れ変態」


◇◆◇


その日の夜、俺とアナは湯浴みした後で女王様が約束してくれていた祝宴に、主賓として出席させて貰った。昨日の小宴で頂いた料理も美味しかったが、今日の料理も美味しい。何でも、今日の料理はよりフォーマルな宴席で出されるそうだ。


それを聞いた時、俺の心が暖かいもので満たされた。このエルフの里の人たちは、みんな俺を歓迎してくれる。…否、俺だけじゃなくてアナも歓迎してくれて、俺たちの結婚を心から祝福してくれている。ふとアナの方を見ると、彼女も俺と同じ思いを抱いてくれていたようで、優しい笑みを見せてくれた。


「やっほー!アレン、アナスタシアさん、楽しんでる!?」


そこに、テンション爆上げ状態のシェリルラルラさんが乱入してきた。


「あ…シェリルラルラさん、お陰様で楽しませて貰ってます」

「シェリルラルラ殿下、今日はアレンとわたくしをこのように盛大に歓待して頂きましたこと、心からお礼申し上げます。ありがとうございます。女王陛下や殿下、また皆様のお蔭を以て、楽しませて頂いております」


俺たちのコップが何杯も入るようなでかい盃を口に付けて傾け、中に入った蜂蜜酒を一気に飲み干して、シェリルラルラさんはご機嫌な声を上げた。


「アレンもアナスタシアさんも、たくさん飲み食いしてね!この蜂蜜酒、本当に美味しいんだから!あなたたちが飲まなかったら、あたしが飲んじゃうわよ!!」


そう言うが早いか、シェリルラルラさんは俺とアナのテーブルに置かれた蜂蜜酒の入った瓶を自分の盃に傾けた。見る見る、彼女の盃が蜂蜜酒で満たされていく。


瞬く間に俺たちのために用意された筈の蜂蜜酒は、シェリルラルラさんに飲み干されてしまった。…彼女がこんな酒豪だとは知らんかった…


まぁ、俺もアナも殆どお酒は飲まないからいいんだけどね…


「…シェリー、ほどほどになさいな。アレン様もアナスタシアさんも、呆れておられますよ?アレン様、アナスタシアさん、どうぞ楽しんで行って下さいね」


そこに、女王様がやってきて俺たちのコップに蜂蜜酒を注いでくれた。俺もアナも、シェリルラルラさんのような無茶苦茶な飲み方はできないので少しずつ頂いている。そんな飲み方した日には、二日酔い待ったなしだ。


明日はこのエルフの里を()って、アルトムントに向かうから(まか)り間違っても二日酔いなんぞになるわけにはいかないのだ。


この蜂蜜酒、先にも言ったが口当たりが優しいくせに相当アルコール度数は高いようだ。前世日本で、毎年夏になると婆ちゃんが漬けていた梅酒に匹敵する。


「「女王様 (陛下) 、ありがとうございます。楽しませて頂いています」」


俺とアナの声が、息ぴったりに合ってしまった。このことで、俺たちはしょっちゅう他の人たちに揶揄(からか)われている。国王陛下、王妃陛下、義父上と義母上や義兄上、そして俺たちの分に過ぎた、得難い親友たち。その一人であるエイミーにすら揶揄われたのは、少しからず心外っちゃぁ心外であったが。


女王様はそれを揶揄うことなく、穏やかな笑みをその美貌に浮かべて俺とアナに祝福の言葉を向けてくれた。


「お二人とも仲が良いのですね。末永く、お幸せに」


他のエルフの里の住人の皆さんも、俺たちを祝福してくれた。


◇◆◇


その日の夜も、俺とアナは…いいだろ別に。夫婦なんだから。


それに、昨日の轍を踏まないように俺は注意して、(ただ)只管(ひたすら)にアナに満足して貰えるように心掛けて、(つたな)いながらも手練手管(てれんてくだ)を尽くした。結果、アナは幾度も達してくれて、そして彼女が最後に達してくれると同時に俺も達した。


彼女を傷付けないように、俺はその一回だけで済ませることにした。俺は、失敗とか蹉跌(さてつ)とか、そういったものから学ぶ男なのだ。

このエピでは、元町人Aと元悪役令嬢がかつて

試練を乗り越えたエピを、二人の回想と言う形で

振り返って貰いました。

読者の皆様のお気に召して頂けたら、

応援を宜しくお願い致します。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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