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(原作コミカライズ第34話アップ記念) おまけその3 (マーガレット視点) 取り巻き令嬢1号は親友について語る (前編)

このおまけは、第197話と最終話の間の時間帯のお話になります。

取り巻き令嬢1号によるヒロインの人物評を、お楽しみ頂けたら幸いです。

え?1ヶ月先に、『癒しの姫御子』こと、エイミー・フォン・ブレイエス女史の特集号を貴誌 "ヒーラーズジャーナル" 様が出版なさるので、それでわたくしの話を聞きたいと、そういうことですか?


そうですね…確かにエイミー女史は、わたくしが王立高等学園で得る事のできた、わたくしの分に過ぎた素晴らしい親友です。彼女とのエピソードを語るとなると、かなり長くなりますがそれでも(よろ)しゅうございますか?


…それでも構わないと?では、お言葉に甘えて、存分にお話させて頂きますね。


◇◆◇


わたくしと彼女との出会いは、お世辞にもいいものとは言えない代物でした。その発端は、彼女とアレン君―そう、あの救国の大英雄であるアレン・フォン・ドラゴラント伯爵閣下が王立高等学園の入学式の後に、市井の広場でもあるまいに教室内でお喋りしていたのをわたくしが咎めたことに起因致します。


その様子を確認したわたくしは、彼らをかなり手厳しく糾弾致しました。そして…これはわたくしが今でも後悔している事なのですが、生まれつきの身分という彼らにはどうしようもないものまで引き合いに出して彼らを指弾してしまいました。


後に、そのことをわたくしはエイミーとアレン君…っと、失礼致しました。エイミー女史とドラゴラント伯爵閣下でしたね…え?そのままの呼び方でも構わないと?普段通り、気の置けない親友としての視線で、彼女を評して欲しい、と。


承知致しました。それでは、そうさせて頂きますね。


後になって、そのことをわたくしはエイミーとアレン君に謝罪致しました。そうしたら、二人とも『そのことは自分たちに責められる部分があったから、マーガレット様が謝罪なさる必要はありませんよ』と、そう答えてくれました。


尤も、エイミーに対してはそのこととは比較にならないほど後悔と罪悪感を抱くようなことを、後にわたくしは彼女に対してしてしまったのですけど…


◇◆◇


そのような事態に陥ってしまったのは、わたくしが幼少の頃から親しくお付き合いさせて頂いているあるお方が絡んでいるのです。


そのお方とは、わたくしの実家であるアルトムント伯爵家の寄親たるラムズレット公爵家のご令嬢様、アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様―もうじき、ドラゴラント伯爵令夫人様になられますが―のことでございます。


そのアナスタシア様とは、アルトムント伯爵家がラムズレット公爵家の筆頭寄子を永きに亘り勤めさせて頂いている縁で、幼少の頃より学友、市井の言葉で言うなれば幼馴染みとして、お友だちとしてお付き合いさせて頂いておりました。


そして、アナスタシア様はかつてこのセントラーレン王家の王太子でいらしたカールハインツ殿下の婚約者でいらしたのです。…え?口の端がひね曲っているって?


…何ともはしたない姿をお見せしてしまいました。お許し下さいまし。…事情は判っているし、いなかったことになってしまった人間をどのように呼んでも不敬には当たらないから、呼びたいように呼んでも宜しいと?


ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、そのように呼ばせて頂きます。


…あの、その名を呼ぶだけで口が穢れそうな、アナスタシア様の婚約者に値しない愚物、最低最悪のクソバカアホンダラの匂いフェチの神話級ド変態バカクズ廃太子、略して最低最悪に対して、幾ら体裁を保つためとは言え敬語を使うハメに陥ったわたくしの苦渋と憤懣をお察し下さいまし。


あの最低最悪は、アナスタシア様という素晴らしい婚約者に対して、事あるごとに怒鳴りつけたり、挨拶を無視したり、他の取り巻きのクズどもとつるんで聞くに耐えない悪口を言ったり、とにかくまぁそのようにしていじめ続けてきたのです。


そして、奴がアナスタシア様に対して行った仕打ちは、それだけではありませんでした。あのクズ野郎はアナスタシア様を蔑ろにして、他の女子に目移りして、殊更に、そしてあからさまにその女子とベタベタイチャイチャと逢瀬を交わしていたのです。それも、その女子に懸想したわけでもなく、唯々(ただただ)アナスタシア様を貶めようとしていた、それだけの理由でです。


…汚い言葉を使ってしまいました。はしたない姿を幾度も見せてしまいましたこと、お許し下さいませ。そして、その女子というのがエイミーだったのです。


見ようによっては、エイミーがあの最低最悪に言い寄って奴を籠絡していた、という見方もできますわね。…否、わたくしをはじめとする当時の王立高等学園の生徒たちは皆そのように見てしまっていました。


そのせいで、わたくしは彼女をアレン君とのお喋りの際とは比較にならぬほど厳しく糾弾し、また貴族令嬢にあるまじき悪罵を浴びせ、あまつさえ剣技の授業の試合に事寄せて彼女をボコボコに叩きのめしてしまったこともございました。


勿論、今ではそのようなことをしてしまったことをこの上なく後悔しています。罪悪感に駆られるまま、何度もエイミーに謝罪致しました。


エイミーは心の優しい女性ですので、『その当時はマーガレット様がわたしのやったことに嫌悪や反発、侮蔑を感じるのも当たり前のことです。どうか、罪悪感なんて抱かないで下さい』と何度も言ってくれたのですが、なかなかそういう感情は払拭できないものなのですね。


◇◆◇


…勿論、エイミーがそのようなことをしていたのには理由がございます。彼女は、アナスタシア様があの最低最悪との婚約とそれに起因する諸々で、どれだけ傷付き辛く苦しく悲しい思いをなさっていたか、それを見抜いていたのです。


それで、彼女はアナスタシア様をお救い申し上げたくて、あの愚物との婚約からアナスタシア様に解放されて頂きたくて、そのためにあの最低最悪を籠絡し、堕落させてアナスタシア様との婚約破棄を宣告させようとしていた、ということでした。


そのようなことをするくらいだから、エイミーもあの愚物どもに対して強い…いや、そのような程度の言葉では軽すぎますね…激甚な侮蔑と嫌悪、また憎悪と忌避感を抱いていたのです。


そのエイミーが、あの最低最悪どもを籠絡するハメになってしまったのです。彼女の心身が、どれほど蝕まれたことでしょう…


アナスタシア様も仰っておられ、本人からも聞かせて貰ったのですが、その当時彼女は心身をストレスに苛まれて髪と肌にトラブルを抱え、また骨と皮ばかりに痩せ細ってしまったそうです。


アナスタシア様はエイミーの様子を見ていただけでそのことにお気付きになられたのに、わたくしはそうとも気付かずにエイミーを糾弾し、悪罵し、手酷く殴打してしまったのです。…本当に、彼女には申し訳ないことをしてしまいました…


◇◆◇


申し訳ありません、人前で涙を流すなど、貴族令嬢にあるまじきことでしたね。


それらの諸事情をわたくしが理解したのは、1年次の卒業進級祝賀パーティーの際、あの口にするもおぞましく穢らわしい出来事に触れたのがきっかけでした。


あの最低最悪とその取り巻きどもがアナスタシア様を訳の判らぬ理由で断罪し、一方的かつ理不尽に婚約破棄を宣告し、挙句の果てには耳が腐るような穢らわしい言葉で侮辱し、あの腐れクズ脳筋―名前を呼ぶのはご容赦下さいましね、わたくしの口が穢れますから―に対してアナスタシア様に決闘を申し込ませた挙句、奴らが共闘して1対5でアナスタシア様に対しようとしたその場で。


いきなりエイミーが右のローファーと靴下を脱ぎ、その脱いだ靴下をあの最低最悪の顔に投げつけたのです。…その靴下をあの最低最悪は執拗に嗅ぎ散らしていたのです。もう、本当に気持ち悪い光景でございました…


なぜ彼女がそのようなことをしたかって?わたくしたちが最も重んじるものはご存知ですね。それを穢され、傷付けられた際には、嗜みとして決闘を申し込むものです。そして、その際には相手に手袋を投げ付けるものなのですが…


事もあろうに、エイミーはその際に常時携行すべき手袋を忘れてしまっていたそうです。それで、身に付けていた物を脱いで投げ付けることによってアナスタシア様の共闘者に立つ意思を表示した、と後に彼女は弁明していました。


…そもそも、決闘に当たって代理人や共闘者に立つ時には、手袋を投げ付ける必要すらないのですけどね。名乗りを上げて、立候補すればいいだけのことです。


…そのようにお笑いにならないであげて下さいまし。確かにエイミーのその時の行動は奇矯なことこの上ありませんでしたが、彼女の行動とその後の最低最悪とその取り巻きどもに対する激烈な弾劾は、本当に胸のすく思いをわたくしにさせてくれたのですから。…その言葉は恐ろしく汚い悪口雑言罵詈讒謗と言うべきものであり、その姿は正に淑女の対極と言うべきものでしたが。


その後、エイミーの不敬の挙をアナスタシア様がお咎めになり、彼女は学園の反省室送りになってしまったのです。


その後でアレン君がアナスタシア様の代理人として決闘に立ち、そしてあの最低最悪とその取り巻きどもを一方的に叩きのめしてしまいました。


彼の見かけによらぬ強さには驚かされましたが、それは本筋ではないので端折(はしょ)らせて頂きますね。それよりも、真相を知ったわたくしはエイミーに対する罪悪感によって、打ち(ひし)がれたような思いでいっぱいでした。


◇◆◇


その後暫くわたくしの感情はぐちゃぐちゃの状態であったこと、お判り頂けるかと存じます。知らなかったこととは言え、汚名を背負うことも自らの心身を損なうことも無数の悪意に晒されることも厭わず、わたくしの大切な方をお救いするために行動を起こしてくれた人物に対し、辛く当たり続けてしまったのですから。


エイミーに謝罪したい、謝罪しなくてはならない、でも会いたくない、彼女に合わせる顔がない。それに、そのパーティーの翌日から学園は長い冬休みに入り、わたくしと彼女が会う機会もなくなってしまったのです。


そして、わたくしは…誠に恥ずべきことなのですが、そのまま自身の精神状態を落ち着かせた上でエイミーに対せねばならない、という愚にもつかぬ口実のもと、エイミーへの対応を先送りしてしまったのです。


…貴族令嬢にあるまじき、恥ずかしい振る舞いであったことは自覚しております。精神状態が安定する前に、エイミーと再会することになってしまったのは、その愚挙に対する(バチ)があたったのでしょうね。


その年が明けて間もなく行われた、ラムズレット公爵家の直系寄子がラムズレットの王都邸に一堂に会して親ラムズレット閥の結束を確かめる、その新年決起集会で―わたくしは、エイミーと出会ってしまったのです。


アナスタシア様のお父上のラムズレット公爵閣下が、エイミーのアナスタシア様に対する献身を(よみ)して彼女の実家であるブレイエス男爵家をラムズレットの直系寄子にお迎えになられた、ということでした。


ブレイエス男爵様と思しき壮年の偉丈夫にエスコートされながら馬車を降りたエイミーの姿を見た際に…わたくしは情けないことに、彼女に気付かれないように懸命に身を隠そうとしてしまったのです。


その後の新年決起集会で公爵閣下が挨拶しておられる間にも、わたくしは気まずげな視線を彼女に向けてしまう有様でした。その際に、エイミーから視線を向けられて、視線を逸らしてしまったこともございます。返す返すも、情けない話ですね。


そして、公爵閣下がブレイエス男爵家を直系寄子に迎えた理由として、エイミーがアナスタシア様やラムズレット公爵家に対し為した献身に報いるためと説明し、そしてエイミーに挨拶をお願いなさったのです。


当初はそれに驚愕と逡巡の色を浮かべていたエイミーも、最後には挨拶の言葉を述べることを諾い、どこか諦念じみたものを漂わせて挨拶の言葉を発しました。その際に、彼女が最前列にいらしたアナスタシア様に対して向けた視線が、微妙に険悪だった記憶がございます。


その際に、彼女はアナスタシア様のためにあの最低最悪とその取り巻きどもを誘惑し、籠絡して堕落させたと説明しました。また、そのような姿を若様やご令嬢様方にお見せしてしまったことについて、『見苦しいものをお見せしてしまったことをお詫び致します』と謝罪すらしたのです。


違う!エイミーが謝罪する必要なんて、どこにもない!寧ろ、わたくしこそが彼女に謝罪しなくてはならない!!


その激情の赴くまま、わたくしはエイミーの挨拶を(さえぎ)ってしまいました。貴族令嬢にあるまじき、はしたなくまた浅ましい言動です。本当に、今にして思えば穴を掘って埋まりたい思いです。


そのことも併せて、わたくしは彼女へのこれまでの仕打ちをその場で謝罪致しました。そしてその後に、彼女が何度もわたくしに言ってくれた言葉をその場で初めて聞くことになったのです。


つまり、彼女がこれまでやってきたことについて、わたくしが彼女のことを誤解し、不快感を惹起させられ、嫌悪や反感、侮蔑を感じるのは当たり前のことだと。だから、どうか気にしないで頂きたいと。


そして、エイミーはわたくしがアナスタシア様を大切にお思い申し上げることは、彼女自身がアナスタシア様を大切にお思い申し上げていることと全く変わらない、そう言ってくれました。そして、最後にこう付け加えたのです。


『わたくしの思いとマーガレット様のお思いを同列に論ずるは、マーガレット様に対して失礼千万とは存じますが』


…とんでもないことです。わたくしは確かにアナスタシア様を大切にお思い申し上げておりました。ですが、エイミーと異なり長くアナスタシア様とお付き合いさせて頂いていたにも(かかわ)らず、あの最低最悪との婚約のせいでアナスタシア様がどれほど辛く、苦しく、悲しい思いをされてきたか、そのことに気付くことができなかったのです。エイミーの慧眼に比して、自身の魯鈍に唯々恥じ入るばかりです。


後にそのことをエイミーに懺悔すると、『わたしだって確証があったわけじゃないんですけど、あの陳滓野郎のアナ様に対する態度を見てたら、この婚約は絶対にアナ様にとって不幸しか(もたら)さねぇだろうな、って思ったんです。だから、ブッ壊してやろうと思いました』と言っていました。


…貴族令嬢にあるまじき下賎な物言いですが、これはエイミー自身の言葉です。わたくしは、何一つ加筆修正しておりませんよ?


…あら?もうこんな時間になってしまいましたわね。あなた方、お時間は大丈夫ですか?まだ十分余裕がおありで?では、少し休憩致しましょう。今お茶とお菓子を用意させますので、ごゆっくりお寛ぎ下さいまし。このお茶とお菓子のセットは、隠れたアルトムント名物ですのよ?

ここに出てきた雑誌は、普段は治癒魔法についての論文を

掲載するようなお堅い学術雑誌のようなものですが、

時々こんなトチ狂った…ゲフンガフン、アイドル雑誌のような

特集を組むこともあります。

何しろヒロインは黙っていれば美少女ですからね、仕方ないですね。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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