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(総合評価500pt到達記念) おまけその1 (???視点) バカクズ太子は反省 (?) して改心 (?) する

総合評価500pt到達記念に、おまけ第一話を投稿致します。

本編第124話の裏話 (?) になります。

肩の力を抜いて、お楽しみ下さい。

…ここはどこだ?


自分は子供達や孫達、それと友人達、そして誰よりも大切な妻に看取られて75年余の天寿を全うした筈だが…気が付いたら、ある若者の精神の一部に間借りしていたようだ。彼は、何やら貴婦人と思しき女性に責められて驚愕しているらしい。


『そなたたち!この穢らわしい愚か者を、妾の視界に入らぬ場所に連れて行ってたもれ!斯様(かよう)な愚物、顔も見とうない!!』『は、母上!お待ち下さい!!』

『黙りゃれ!妾は、そなたのような愚劣な子を持った覚えはない!!』


その貴婦人の声を受け、自分が間借りした若者は絶望のあまり意識を手放したようだ。彼ががっくりと項垂れると同時に、自分の意識が彼の感覚を知覚する。項垂(うなだ)れたままの視覚は床を確認し、聴覚は『両陛下もお(いたわ)しい…』『廃太子殿下が、これほどの愚物であったとは…』との、その場に居合わせた者達の声を聞いている。


左右の腕を屈強な、まるで中世西洋の騎士と思しき恰好をした男2人にしっかり掴まれるのを知覚しながら、自分は強制的に回れ右させられ、危うく引き摺られるようにその部屋を出させられた。その部屋を出て、扉が閉まるか閉まらぬかのうちに、自分の鼓膜を叩く声がする。


『…陛下、妾に死をお賜り下さいませ』


◇◆◇


「廃太子殿下、これが今生最後の湯浴みであると思し召し下さいませ」


古式ゆかしいメイド服を着た中年女性にそう言われ、湯舟を使わせて貰った。正直ありがたかった。この若者はここ近い数日間、ずっと風呂に入れさせて貰えなかったようで体中が(かゆ)かったし、また不潔な臭いもした。…はっきり言って、男の臭いなんぞ願い下げだ。美しい女性の臭いなら、大歓迎もいい所なのだが。風呂に入ったか入っていないかは問題ではない。(むし)ろ、風呂に入っていない方が好もしい。


それにしても今生最後とは…どうやら自分は一度死んだはずなのにもう一度、それも間もなく死ぬことになるらしい。なかなか皮肉の効いた話だ。閻魔様にこの話を披瀝(ひれき)したら、さぞやウケてくれることだろう。それを賄賂と思し召して、死後のお裁きにお目溢しを頂きたいものだ。


風呂を使わせて貰い、脱衣場代わりに使わせて貰った場所に置かれていた姿見で自分の―と言うよりも自分が間借りし、乗っ取った風情になってしまったこの若者の―姿を確認した途端。自分は、急激な理解と大海嘯の如く流し込まれた記憶に精神が追い付かず、その場にへたり込んでしまった。


赤い髪に青い瞳の、剽悍で秀麗な顔の造り。下着のみを身に付けた肢体は、細身ながら鍛え上げられているようでかなり筋肉質だ。この姿には見覚えがある。かつて、孫娘のユカリが遊んでいた 『乙女ゲーム』 のメイン攻略対象だ。名前は何だったか…そうだ。カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレンだ。


この『乙女ゲーム』、ユカリによると最初は面白かったけど、お話が進むにつれて見ているだけで嫌になる場面が多くなり、途中で断念したそうだ。何でも、このゲーム中の敵役の、『悪役令嬢』とかいう女の子の扱いが余りに酷すぎて、嫌気が差してしまったらしい。


『あたしにこのゲームを教えてくれた子は、【悪役令嬢ざまぁ】とか言っていたんだけど、あたしはとてもそんな気になれなかったわ』と、ユカリが言っていた。どうやら、その悪役令嬢とやらは、この若者の記憶の中にある薄金色の髪と蒼氷色の瞳を持つ、ドン引くほど美しい少女のようだ。


この若者の記憶を辿ってみると、彼はこの『悪役令嬢』に、それは酷い仕打ちをしていたらしい。事あるごとに彼女を怒鳴り付けたり、挨拶を無視したり、挙句の果てには友人達とつるんで聞くに堪えない悪口を言ったりしていたようだ。


何と惨たらしい、そして愚かしい真似をするものだろうか。どうやら、この『悪役令嬢』は、絶世の美少女であるに留まらず、精神面でも気高く美しい、素晴らしい女性であるようだ。


それほど素晴らしい女性を婚約者に得ることができたのだ。自分であれば、下にも置かず大切に扱っていただろう。…まぁ、その『悪役令嬢』ことアナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレットであっても、自分の主観的には前世の妻であった女性には敵わないけどね。


もしも自分がそのアナスタシアを娶ることができたとしたらだ。夜な夜な、彼女の腋の下やお(へそ)、また爪先や足裏の匂いを嗅ぎ回してしまうであろう自覚はある。…風呂に入った後で?そんな訳なかろうが?


…とまれ、入浴を済ませた後で用意されていた白いローブを身に着けた。…何やら、死に装束を彷彿(ほうふつ)とさせる衣装である。その上で、何人もの屈強な騎士達に囲まれた上で先ほど出てきたメイド服を着た中年女性に手枷を嵌められた。


「廃太子殿下、この手枷には魔法封じの術が施されております。無用の暴挙はお控え頂きたく、お願い致します」


彼女の言葉には、何やら詰まったものが感ぜられる。…ひょっとしたら、この身体の本来の持ち主、カールハインツと深い関係にあった女性ではないだろうか?…いや、いかがわしい意味じゃないよ?彼女は、カールハインツの乳母とかそういう立場にあったんじゃないかって、そう思っただけだ。


そうだとしたら、彼女に対して一言あるべきだ。


「…判っている。今日まで、よくしてくれた。礼を言う。ありがとう」


その言葉に対し…彼女は顔を伏せて、「…失礼致します」と涙声で言った。


◇◆◇


どうやら、自分が乗っ取ったこの身体に残った知識を、自分は存分に理解することができるらしい。入浴を済ませた後でこの立派なお城の北の塔の最上階に拘束され、ユカリの言うところによる『異世界転生』によってカールハインツの『中の人』となり(おお)せた自分は、彼の記憶を十全に把握することができた。


(いく)ら何でも酷すぎる。神様は何だってこのような、糞みたいな人格の男に自分の精神を『憑依』させたやら。このカールハインツ、先に言ったアナスタシアを逆怨みしていじめていただけでなく、通っていた学園から追放した挙句ヤクザ者どもに襲わせ、慰み者にさせようとしていたらしい。


それだけではない。カールハインツは、アナスタシアを貶めるためにエイミー・フォン・ブレイエスなる少女を殊更に寵愛していた、言うなればアナスタシアを貶めるための『ダシ』にしていたようだ。


…それって、アナスタシアばかりでなくエイミーに対する侮辱でもあるよなぁ?そんなことも気付かない愚か者に自分を『憑依』させるなどと、神様も惨い仕打ちをなさるもんだ。そんな仕打ちを受けなくてはならぬほどの罪を自分は…犯したのかもしれないな。


かつて、前世の自分の妻が、自分に対して言ったことがある。


『あなたは、この匂いフェチさえなければ理想の旦那様なんですけどね』


自分は、前世にあって彼女と『夫婦の営み』をする際に、事前に入浴を許したことが一度もなかった。…いやだってさ、そーゆー営みに当たってはさ、相手の体臭を存分に堪能したいじゃんか?…ンなことない?…そりゃぁ、失礼致しました。


彼女は、それがとても嫌だったらしい。…申し訳ないことをしてしまった。


こんな、最低最悪な男に『憑依』させられたのも、そんな思いを自分の伴侶にさせてしまったことへの罰なのだろう。


そう言えば、彼女はこの若者の記憶の中にあるエイミーと雰囲気がよく似ていた。小柄で華奢で、所謂 "癒し系" と呼ばれる雰囲気の持ち主であった。尤も、彼女はエイミーとは異なり、ブチ切れて周囲に悪罵を飛ばすことは決してなかったが。


本当に、彼女は自分には勿体ない、理想の伴侶であった。


◇◆◇


カールハインツの記憶を辿っていくうちに、自分はカールハインツに対して殺意にも紛うほどの嫌悪と憎悪、そして侮蔑すらも感じていた。


どうやら、カールハインツはアナスタシアだけでなく、エイミーに対しても逆怨み丸出しの憎悪と劣情を感じていたらしい。そして、アナスタシアとエイミーに対し…何がどうあろうとも、女性に対して決して男がしてはならない挙を為そうとしていたようだ。


…信じられない。カールハインツはこの国の王太子だったそうだが、これでは高貴な身に相応しくない、全くヤクザ者の挙ではないか。


自分がやろうとしたわけではないが、この身体の持ち主となった身としては、アナスタシアとエイミーに謝っておくのが筋だろう。


◇◆◇


自分が幽閉されたお城の北の塔、その最上階の部屋。そこで、自分は白いローブに身を包み、その裾から出た素足の爪先に視線を遣っていた。


…最早一度死んだ身だ。死ぬのは怖くない。元々カールハインツはこの国の王太子だった。そして、今やその地位を廃されている。そのカールハインツを生かしておいては、(ろく)なことにならないことは自分だって判っている。きっと、自分の命を絶ちに来る者がいるのだろう。せめて、苦痛と無縁の最期を迎えたいものだ。


…そんなことを考えているうちに。この部屋の扉をノックする音がした。


「…誰だ」「廃太子殿下、後顧の憂いを絶たせて頂きます」


男性としても高めの、耳に心地よいテノール。カールハインツが、アナスタシアやエイミーに対して向けていたものと匹敵するほど…いや、それをも超えるほどの怨憎を向けていた、アレンという平民の若者だ。


…まぁそりゃ憎いわなぁ。彼は、カールハインツとその取り巻きを決闘で叩きのめし、あまつさえカールハインツの下衆な怨憎と下劣な欲情を暴いた男だ。…所詮は逆怨みに過ぎないんだけどね。


「…あの平民か。アレンと言ったな、入れ」


自分は、アレンに対する怨憎は全く感じていない。彼が、カールハインツの生命、今では自分のものとなっている生命を奪う、と考えたら些か思うところはあるが。


外鍵が開く音がして、清潔感に満ちた端正な容姿を持つ若者が入ってきた。この若者、決闘にあっては1対5という圧倒的不利な立場に置かれながらカールハインツとその取り巻きを一方的に叩きのめした強者であるに留まらず、学業優秀でおまけにその識見の凡ならざるを学園の夏休みの自由研究で示したという。


それほどの男であれば、カールハインツなど足元にも及ばぬだろう。


自分は、座ったまま彼を見上げて口を開いた。


「話は判っている。こうなっては助からんこともな。だが、一つ頼みがある」

「…頼み、でございますか?」


最早アナスタシアとエイミーに直接謝罪することは無理だろう。ならば、彼に(ことづけ)を頼まねばならない。


「アナスタシア嬢とエイミー嬢に、伝えてくれ。申し訳なかったと」


アナスタシアさんとエイミーさん、と言ったつもりだったのだが、この世界では歳若の未婚女性に対する軽い敬称は『嬢』というものらしい。


「…廃太子殿下におかれましては、何やら悪いものをお召し上がりになられましたか?…あるいは、本来ならば死の恐怖で正気を失うところが、マイマイがプラの数理でまともになられましたか?」


…つい苦笑が漏れてしまった。酷い言い種だな…


「…まぁ、そんなところだ。全く、エイミー嬢の言う通りだ。俺が全部悪いのに、アナスタシア嬢を逆怨みして、幾らでも後戻りすることはできたのに、結局行き着くところまで行ってしまった」


そこで、また笑いが漏れる。カールハインツに対する嘲笑だ。


「まさに、エイミー嬢の言う通りだな。他の何者でもない、クソバカアホンダラの匂いフェチのド変態のバカクズ太子だよ」

「…匂いフェチの自覚が、おありだったのですか」


…前世で、妻に言われたからな。


「アナスタシア嬢とエイミー嬢には、叶うことなら直接会って詫びたかった。だが、もうそれは叶わぬ夢だ。故に、お前に伝言を頼みたい。本当に済まなかったと、そのように彼女たちに伝えてくれ」

「…承知致しました。確かに、殿下がそう仰っておられたと、アナスタシア様とエイミー様にお伝え致します」「感謝する」


これだけは、伝えておきたかった。この身体の持ち主として、アナスタシアとエイミーに対する謝罪だけはしておきたかった。…他に伝えたいことは…あった。


エイミー・フォン・ブレイエス、自分の前世の妻に酷似した雰囲気を持つ少女。


自分の余命が幾許もないことが判った時に、自分の墓前に手向けて欲しいものを妻に(こいねが)ったら、ド叱られてしまった。彼女なら、あるいは自分が欲しいものをカールハインツの、自分が持ち主となった身体の墓前に手向けてくれるかもしれない。


「あと、できればでいいのだがエイミー嬢に伝えて欲しいことがある」


叶うことなら妻の残り香に包まれて永遠の眠りに就きたかったが、それが無理なら彼女と似た雰囲気を持つ女性の残り香に包まれて眠りたい。


「君の着用済み靴下、着用済み女性用胸当て、着用済み下着を俺の墓前に手向けて欲しい…彼女に、そう伝えてくれ」


着用済みブラジャー、と言ったつもりだが、この世界ではそう表現するようだ。


…数瞬の空白。その後、アレンは口を開いた。


「…殿下の名誉のためにも、聞かなかったことに致します。お(たわむ)れは、ほどほどになさいませ。…そろそろ、宜しゅうございましょうか?」


戯れなどではなかったのだがな。


「一発で()ってくれ。痛いのも苦しいのも嫌だ。…後、俺は本気だ」

「承知致しました…それから、本気言うなボケ」


その数秒後、銃声が響いて自分は頭部に衝撃を受けると共に意識を手放した。

実はバカクズ太子が死ぬ間際に改心 (笑)したのは(バカクズ太子以上の)

臭いフェチのじいちゃんが『いせかいてんせい』したなんてアホなオチでした。

(尚、これは本編と関連があるか否かは皆様のご想像にお任せ致します)


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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