あとがき
皆様には、拙作『町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい 二次創作 〜ヒロインも悪役令嬢をどうしても救いたい〜』をお読み頂き、誠にありがとうございました。
これまで、幾つもweb小説を読んだことはありました。確かに良作というべきものにも数多出会うことができましたが、拙作の原作『町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい』は、私に強烈な衝撃を与えました。
この作品の魅力については、多くの方々が述べておられるので私如きがぐちゃぐちゃ言う必要もないと思います。ただ、あくまでも個人的な見解ですが、物語の最大の魅力は「この世界観で俺なりの別な物語を作ってみたい!」と思わせる、言うなれば読者の創作意欲を猛烈に掻き立てる内的なエネルギーだと考えております。
そういう意味では、この作品は私にとってドストライクの作品でした。この作品を読んでから、「こんなシーンを描写してみたい!」「このキャラにこんな台詞を言わせてみたい、こんな行動も取らせてみたい!」というリビドーが凄まじい勢いで溢れ出て、居ても立ってもいられなくなってしまったのです。
そういう訳の判らぬ衝動に突き動かされるままに、「小説家になろう」のアカウントも取らずに物語を書き進め、気が付けば80話近く書き溜めてしまいました。
物語を書かれた経験のある方なら同意して頂けると思いますが、誰にも見せずに1人でちまちま物語を書き続けるという行動は、かなり精神的に『来る』ものがあります。そういう意味で、物語を完結させてから投稿を始める方を、私は心から尊敬致します。
そこで、まぁこれだけ書けばエタることはねぇだろうと楽観し、見切り発車で投稿を開始致しました。結果的に、一日一話のペースを完結まで保つことができて安堵しております。また、皆様が読んで下さったお蔭でモチベーションを保つことができた、ということも申し添えておきます。改めて、篤くお礼申し上げます。
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拙作は、一色孝太郎様が書かれた作品の二次創作という立ち位置であり、『町人Aが悪役令嬢と結ばれる』という基本プロットは同じですが、全く同じストーリーをなぞっても面白くないということもあり、ある程度の差別化を図りました。
第一の、そして最大の差別化として『二人が結ばれるために、ヒロインが助力する』というものがあります。
ヒロインの中の人は、原作では「悪役令嬢が学園を追放されてならず者どもに輪姦されて挙句の果てには元婚約者とそれを奪った女に殺されてざまぁ」と考える人間でしたが、拙作では町人Aの中の人と同様に「幾ら何でも悪役令嬢がかわいそうすぎる」と考える人間であったという設定にしました。
それなら、町人Aの中の人と同様に『絶対に逆らえない女性に無理やり元ネタの乙女ゲーをやらされた』という設定にしても良かったのですが、それだけでは悪役令嬢救済へのモチベが弱いのではないか、と考えたのです。
そこで、ブラック企業に勤めててそこでパワハラ受けて心身を病み、その病んだ精神の求めるままに「ムカつく女が悲惨この上ない目に遭う創作物」に触れさせて、「悪役令嬢ざまぁ」と一旦思わせてみました。
その後で精神的に立ち直り、その後で自分の罪を自覚させられて後悔と自己嫌悪と悪役令嬢に対する罪悪感に苛まれていたところ、ヒロインの中の人になったという設定にしたのです。こちらの方が、よりモチベが強くなると思いました。
その強くなったモチベの赴くところ、彼…もとい、彼女は治癒魔法の研鑽と魔力の増強にひたすら努め、二つ名を持つほどの凄腕のヒーラーになることができたのは嬉しい副産物でした。
また、「全ては悪役令嬢への贖罪と救済、更には彼女の幸福のため」という行動基準ができた結果、攻略対象キャラたちを籠絡して堕落させるために彼らとイチャコラするという行動に対する動機を作ることができ、『シナリオの強制力』を演出することができたのもめっけものでした。
そして、ヒロインが悪役令嬢自身も気付いていなかった彼女の町人Aへの想いを知り、悪役令嬢の幸せのために必要だと思って町人Aと悪役令嬢をくっつけるために奔走する、という物語にしたのです。
余談ですが、上述のヒロインの中の人の経験は私自身の経験でもあります。ブラック企業に勤めてたとかパワハラ受けてたわけではないのですが、学生時代にちっとも勉強が判らず、何かをしなくてはならないけど何をしたらいいかも判らない、そんな状況の下、最悪の精神状態でいたことがあります。
その時に創作活動にハマり、ヒロインの中の人と同じような行動を取っていたことがありました。今にして思えば、汗顔の至りです。
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また、原作との差別化は町人Aの中の人と悪役令嬢の父親の行動に対しても図りました。この世界は、剣と魔法の世界であり、即ち中世ヨーロッパを準えています。であったれば、その当時の貴族が面子を潰されて大人しくしている道理がありません。そこで、悪役令嬢の父親に、攻略対象への報復的な行動を取らせてみました。
その一方で、原作では (拙作でもその描写は出しましたが) メイン攻略対象キャラである王太子は町人Aにボコされた挙句、ウエメセでぼろくそに説教されています。そのような醜態を晒させられるハメに陥った王太子が、町人Aにヘイトを向けない道理がありません。そこで町人Aに、その認識を持たせてみました。
なお、町人Aがその認識を持つに至ったのは、ヒロインが町人Aの説教よりも遥かに酷い悪口雑言罵詈讒謗を攻略対象キャラたちにぶつける、その姿を目の当たりにしたためです。町人Aがヒロインに覚悟を問う、という形で町人Aのその認識を出すことができたのはめっけものでした。
面子を潰された悪役令嬢の父親と、攻略対象キャラたちのヘイトを買ってしまったため「報復される前に息の根を止める」という覚悟を決めた町人Aが手を結んで攻略対象キャラたちを破滅させる、という構図は個人的に気に入っています。
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また、原作では途中で悪役令嬢と町人Aは一線を越えましたが、拙作では越えさせませんでした。そうすることによって、町人Aの自制心の強さと、町人Aが悪役令嬢を本当に大切に想っているということを表現したかったのです。
無論、一線を越えさせることによって生まれる説得力もあります。町人Aが悪役令嬢を『抱く』ことによって、「悪役令嬢は俺の女だ、俺の生命に替えても護る」という認識を強くしたことは想像に難くありません。原作ではその選択肢を取り、拙作では取らなかった、それだけのことではあります。
もう一つ、ヒロインが治癒関連魔法の一環として体内の病変を知覚できる診断魔法を確立していたことも、悪役令嬢と町人Aに一線を越えさせない理由になりました。その診断魔法によって一線を越えてしまったことが判明したら、確実に町人Aの首が飛んで悪役令嬢が修道院にブチ込まれるハメになっていたためです。
…今更気付いたのですが、拙作中で悪役令嬢と町人Aが一線を越えてしまった上でヒロインがそのことを知ってしまったら…その時にヒロインが感じる葛藤で、物語に幅と深みを持たせることができたかもしれませんね…
…あ、でも私にはそんな葛藤を上手く描写できる自信がないので、やっぱり『私としては』一線を越えさせなかったのが正解だったような気が致します。
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また、原作ではセントラーレン国王は昏主暗君の代名詞でしたが、拙作ではそれなりの器量を持たせてみました。理由は簡単で、何ぼ何でも一国のトップがそこまであほだってのはどうかと思ったためです。
原作では、セントラーレン王家から打診があって悪役令嬢は王太子の婚約者になっています。つまり、王太子の後ろ盾に悪役令嬢の実家を利用しようとする、それだけの計算ができる王がそんなバカだろうか?と私は思いました。
南部諸侯を悉く寄子として抱え、仮想敵国であるザウス王国に対する盾として精強な私軍を持ち、あまつさえセントラーレン王国内随一の穀倉地帯を領地として持つ悪役令嬢の実家に王太子を支えさせる、そのために王太子と悪役令嬢を婚約させたはずだのに、それを一方的かつ理不尽にブチ壊した王太子に対し、然るべきペナルティを与えないというのはどうかと思いました。
従って、拙作ではセントラーレン国王自身が王太子の廃太子を宣告し、のみならず勘当をも上回る除籍という処分を下しています。本当は除籍という処分があったかどうかは私は知らないのですが…
もう一つ、王太子をちゃっちゃと破滅させたのは、玉璽の私的盗用に起因する悪役令嬢の受難を避けたかったという事情もあります。…だって、エスト帝国が絡む悪役令嬢の受難、あれはあんまりかわいそうすぎやしませんか…?
…尤も、悪役令嬢がエロい格好させられて『白い拷問』にかけられるシーンはめたくそ衝撃的ながらも興奮させられましたし、 “身体が衰弱したけど気丈に頑張る美少女萌え” という禁断の扉を開いちまったこともまた事実ですが…ゲフンガフン…
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あと、私的な事情ですが、家族の誰にもバレないように書いていた拙作を、何か気が付いたら6年生のJSが読んでいました。それ以来、彼女は何故か知らんが拙作を読みたがり、そして編集作業にも携わるようになったのです。
彼女の手によって、大きく物語が変化することもありました。
まず、ヒロインはボロクソに罵倒したことを攻略対象者三人に逆怨みされて酷いことをされ、おまけにならず者どもに下げ渡されて慰み者にされる (つまり、ゲーム中の悪役令嬢と同じ扱いを受けて、ヒロインの中の人が己の罪を一番酷い形で再確認させられる) 予定だったのですが、「かわいそうすぎることは絶対にダメ」と言われてその設定は没にしました。
尤も、それは先にも書いた『悪役令嬢と町人Aが一線を超えてしまったとヒロインが知った時の葛藤』と同様に、性的凌辱を受けた少女が心に深い傷を負いながらも何とか立ち直るという、その描写をできる自信がなかったということもあります。
更にもう一つ、チャラ男は途中で腐れクズ脳筋に撲殺される予定でした。それを、「生かして使うことはできないか」と娘に言われて、そっちの方がいいと考え、物語を変えています。
結果的にヒーラーとしてのヒロインの見せ場も作ることができ、チャラ男もその後の物語に絡むことができたので、この改変により物語は格段に良くなりました。
モチベーションが続いたのは、間近で読み、そして感想をくれる読者がいてくれたためでもあります。私ごとで恐縮ですが、この場を拝借して娘に感謝の言葉を述べさせて頂いたら幸甚です。
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伏線を回収しないままにしておいた部分もあります。隣国のイキリクズ王子はどうなったのか、またヒロインの下に生まれたのは弟なのか妹なのか、はたまたヒロインは一体誰と結ばれるのか…その辺については、後日談やおまけとして書いていくことがあるかもしれません。
また、アラフィフのおっさんがよりによって乙女ゲーのヒロインの中に転生憑依する、という設定を、十全に活かし切れたかどうかも疑問です。まぁアラフィフのおっさんの感性は悪役令嬢へのセクハラ行為 (いきなり抱き付いて感触をがっつり確かめる、制服裸足姿への視姦など) で証明できた自信はありますが…
あと、ヒロインが町人Aに対して抱いていたほのかな想いに対する説明については、「ヒロインの肉体がアラフィフオヤヂの魂を逆浸食し、思春期の少女の意識や感覚で塗り潰してしまった」という理屈で押し切りました。…まぁ何つーか、そういうことにしておいて下さい。
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まぁ何と言いますか、えらい熱く語らってしまいました。原作に対する批判じみたことも書いてしまいましたが、とりあえず私が言いたいことは「俺はこの『町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい』という作品が大好きだ!だから、その世界を拝借して俺が書きたい物語を書いたんだ!!」ということです。
そのリビドーの赴くところ、198話、84万文字超という膨大な (もっと話数や文字数が多い物語はたくさんありますが) 物語を書いてしまいました。
衝動と妄想を暴走させてやってしまいました、反省も後悔もしておりません。
最後になりますが、私の自己満足にお付き合い頂いてこの物語『町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい 二次創作 〜ヒロインも悪役令嬢をどうしても救いたい〜』をお読み下さった皆様、またこの二次創作の投稿をお許し下さった一色孝太郎様に、深甚な感謝の弁を述べさせて頂いて、このあとがきの締めとさせて頂きます。
本当に、ありがとうございました。