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第197話 ヒロインは結婚式の招待状を受け取る

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

王立高等学園の卒業式も卒業進級祝賀パーティーも恙なく終わり、わたしたちは王立高等学園を無事に卒業した。国王陛下がパーティーの冒頭で発表した件については、多少の驚きを以て受け止められたものの、不行状の挙句『急病死』した人間を除籍したわけなので大した影響があるわけではない。


少なくともわたしは、あの最低最悪はそれくらいされてもしょうがない、寧ろ当たり前くらいに考えていたし、きっとアレンさんやマーガレット、それにイザベラだってそう考えていた筈だ。


多分アナとオスカーはちょっと違うだろうけどね。アナはわたしなんぞ比較にならんくらい優しいから、きっとその決断をした国王陛下とそれを肯った王妃陛下に感謝はしつつもお二方の心中を慮っただろうし、オスカーはかつての親友にして主君と仰ごうとした人間が『いなかった』ことにされてしまったのだ。


…事実、彼の表情は複雑なものを映し出していた。


少なくともそれ以外には、昨年度の卒業進級祝賀パーティーのような醜態も惨状も起きることなく、パーティーは冷めていても美味しい料理と飲み物、また穏やかで和やかな談笑のうちに終始進み、そしてわたしたち卒業生は学園における最後の思い出を無事に作ることができたのである。


◇◆◇


そして、学園を卒業したわたしは…ちっとも進路が決まっておらず、危うく履歴に空白ができる事態に陥ってしまうところだった。いや、とにかく悪役令嬢アナスタシアへの贖罪、そのために彼女の救済と幸せになって貰うことに全振りしてたもんだから、卒業後の進路とか全く考えてなかったんよ。


卒業してから数日後、お父様とお母さんに進路のことを改めて聞かれて、初めて進路について何も考えてなかったことに気が付かされたのであった。…我ながら、マヂあほすぎる。穴掘って埋まりたい。


「そうかね。…そういうことなら、東部冒険者ギルドの専属ヒーラーに戻るというのはどうだね?ヨハネスさんから、是非そうして欲しいと言付かっているんだ」


…そうだ!その手があった!学園に入学する前にも専属ヒーラーをやってたこともあるし、あそこなら気心も知れてるし!


「お父様、是非そうさせて下さいってヨハネスさんにお伝え下さい!」

「そうかね。それでは、明日にでもそう伝えておくよ」


よっしゃ!これで、履歴に空白が生じずに済むぜ!


…そんなわけで、わたしは実に3年振りに冒険者ギルドの専属ヒーラーに舞い戻ったのであった。…え?学園は2年制じゃなかったのかって?1年間、入学考査を受けるための準備期間があって、その間はパートヒーラーやってたからね。


そんな事情により、学園の貴族用女子寮からブレイエス男爵邸に住居地を移したわたしは、それ以降朝から東部冒険者ギルドに行ってケガ人や急病人の治癒に従事し、月一程度の頻度でヨハネスさんや冒険者さんたちの健康診断を行い、ケガ人が出ない時にはひたすらバインツ侯爵閣下の蔵書を読み耽って新たなS級治癒魔法のインスピレーションを探すことに専念する生活を送るようになったのである。


ちなみに、ヨハネスさんが専属ヒーラーたるわたしに確約してくれたお給料は、月額で50万セント、しかも6月と12月の2回、2ケ月分のボーナス付きであった。…ぶっちゃけ、破格である。オスカーが教えてくれたけど、この国最大の商会であるウィムレット商会の新入職員のお給料が月額で17万セントなのである。


ちなみに、これは王立大学の経済学部や商科専門学校を卒業した、つまり商会で働く上で必要な専門知識を身に着けた新入職員のお給料である。中学校を卒業してすぐの新入職員であれば、当然ながらもっと安くなる。下手すりゃ月額にして手取り10万セントを切るそうである。


そんなに貰うわけにはいかない、と言って断ったのだが、ヨハネスさんにまたもや押し切られてしまった。ほんまこの人押しが強い。


「エイミー様は大陸全土でも並ぶ者がいるかどうかってぇくれぇの超凄腕のヒーラー、『癒しの姫御子』ってぇ二つ名を持つほどのお方ですぜ?それほどのヒーラーをうちのギルドだけで囲い込むことができてるんだ、最低でも月に50くれぇ出さなくちゃバチが当たるってもんでさぁ」


そう言って、(びた)一銭負けようとしないのだ。ほんまこの人頑固やわ。


◇◆◇


冬の寒さが少しずつ和らいでいき、春の匂いが少しずつ色濃くなってきたある日。


例によって例の如く、『治癒室』に引き籠ってバインツ侯爵閣下の蔵書の中から新たなるS級治癒魔法のインスピレーションを探していたわたしの耳を、治癒室の扉をノックする音が叩いた。「はい」と答えたわたしに更に応えるは、ヨハネスさんの魁偉にして重厚なバスバリトンである。


「エイミー様、失礼致しやす。ドラゴラント伯爵閣下と奥方様…じゃまだねぇな、ラムズレットのお嬢様がいらっしゃいやした。お入り頂いてもよござんすかい?」

「…うへッ!?ぜ、是非お入り頂いて下さい!」


ドラゴラント伯爵閣下とその令夫人様になることが内定してるラムズレット公爵家のご令嬢様は、『治癒室』に入るなり穏やかな微笑を浮かべつつもジトついた視線をわたしに向けて、唇を開いた。


…尤も、驚かされたのはご令嬢様の口調である。


「エイミー様、お久し振りです。…またやっておられたんですか…」

「エイミー女史、ご無沙汰しております。…本当にあなたはアレンの言う通り、病膏肓(やまいこうこう)に入っているようですね…制服でなくても『自己完結』するとは…」

「アナ様、ご無沙汰しております。…口調、変えられたんですね…て言うか、病膏肓ってどういう意味ですか?」


学園時代から全く変わらない…寧ろ、磨きがかかった美貌に微苦笑を加え、彼女はわたしの姿を頭の天辺から爪先まで眺めた。


…今わたしが身に着けているものは、袖を肘下まで捲り上げて第一ボタンを外したブラウスと膝丈のタイトスカート、あとどうせ見えねぇけど女性用胸当てと下着、それにショートパンツである。タイトスカートはスーツの片割れで、もう一方の片割れである上着は脱いでハンガーにかけてある。このスーツ、学園の卒業祝いにお父様とお母さんが仕立ててくれたものだ。


靴下は…例によって例の如く履いてない。…いや、履いてきたんだが脱いだ。今では、学園時代から変わらず履いているローファーの中にそれらを突っ込んである。


…いやもう何か、フォーマルな場ではしょうことなしに履くけどさ、裸足でおるとすっげぇリラックスできるんよ。…つか、何か靴下とかストッキングとか履いてると煩わしいんです。そう言うと、アレンさんは端正な顔を苦笑させた。


「エイミー様の制服裸足フェチも、相変わらずですね…ある意味、安心ですよ」


そんなことを言っているアレンさんの姿は、かつて何度か見た冒険者の格好である。百戦錬磨の冒険者の貫禄と凄みが、やや線の細い端正な容姿から漂ってくる。


一方でアナは、白を基調としたアレンさんと同じような冒険者の恰好をしている。質実だが、どこか神聖な雰囲気が漂っているのはやっぱり “氷の聖女” の加護を授かっているためだろう。その腰間にはあの『空騎士の剣』を佩いている。特徴的な、格好よくも美しいデザインの鍔を持っているからすぐ判る。


そのアナは、苦笑しながら口調についての説明をしてくれた。


「前にも言ったが、母親になってもこのままだとまずいと思ってな…っと、情けないことですが、ちょっと油断するとすぐさっきのように元に戻ってしまうんです」


そう言って、美しい右の繊手で握り拳を作り、それを自分のこめかみにこつん、と当てて見せた。一分の隙だにない超絶美人だのに、そんなキュートな仕草も似合うとか、もうほんまにずるいわ。


…てか、母親になってもこのままだとまずいっていうことは…まさか、アナのお腹に赤ちゃんができたんですか!?


わたしのその質問に、アナもアレンさんも笑いながら否定した。


「俺の価値観では、そういう『実質が形式に優先してしまう』のは何と言うか…ものすごくみっともない、格好悪いことだって思ってしまうんですね。…誤解しないで頂きたいんですが、あくまでも俺の主観、偏見ですよ?」


いやよく判ります。わたしも、アレンさんと同じことを思っていたし。…せやけど、言うは(やす)くして行うは(かた)しですぜ?ほんま、アレンさんは自制心の化け物や。…それとも、それだけアナのことを大切に思っているということかな?


◇◆◇


そして、今日わたしを2人が訪れてくれた理由である。アレンさんに促されて、アナが一通の書簡をわたしに差し出してくれた。


「アナ様、改めさせて頂いていいですか?」「どうぞ。お改め下さい」


ペーパーナイフで封を切り、封書を確認する。それは、結婚式の招待状だった。今年6月の第1週の日曜日、ドラゴラント伯爵閣下とラムズレット公爵ご令嬢様の結婚式が王都ルールデンのラムズレット公爵家王都邸にて行われる、その結婚式への招待状である。…おぉぅ、ジューンブライドとは、アレンさんもやりますのぅ。


わたしはその文面を眼鏡越しに確認し、改めてアナに確認した。


「…アナ様、この結婚式の出欠確認はマーガレット様やイザベラ様にも?」


そのわたしの問いに、アナは優しい微笑みをその美貌に湛えて答えてくれた。


「マーガレット女史もイザベラ女史も、喜んで出席すると仰ってくれました」


もとより、わたしに出席しない理由はない。


「アナ様、アレンさん、是非わたしも出席させて下さい」


わたしはそう答えてペンを取り、招待状の返信部分の『ご欠席』と書かれた部分と、『ご出席』と書かれた部分の『ご』の部分に二重打ち消し線を加えた上で、その後ろに『させて頂きます』と書き添えたものをアナに手渡した。


「アナ様、アレンさん、ご招待ありがとうございます」

「エイミー様、ありがとうございます」

「エイミー女史、ありがとう。式でお会いできるのを、楽しみにしております」


そういえば、最近アナやアレンさんと会わなかったけどどうしていたんですか?そのわたしの問いに、アナもアレンさんも苦笑とともに答えた。


「私とアレンが、ドラゴラント郡で冒険立国を考えているということは、エイミー女史にはお話ししたと思います。それで、そのための資金を貯めるべく、冒険者稼業に(いそ)しんでいるところなのです」


そうだ、ンなこと言うてましたね。昨年度の夏休みの自由研究のレポートに纏めた内容を、アレンさんがドラゴラント伯爵領を統治する際に活用するって話。これが上手くいったら、冒険者に安定した生計を齎すことができるってアナが言ってた。


わたしも冒険者の人たちとは(えにし)が深いから、是非上手く行かせて欲しい。


「お金だけじゃなくって、組織や施設も作らなくちゃいけないんですけどね」


そう。まぁギルドがあって、大掛かりなクエスト時にはパーティーを組んで当たることもあるものの、基本的に冒険者は一匹狼の気質を持ち、組織に所属するを好まない。そういった性格の者たちをどのようにして組織に所属させるか。まぁそれは、アナやアレンさんの腕の見せ所だろう。


ひょっとしたら、冒険者としてのアレンさんの名声を役に立てるつもりなのかもである。何しろ、最年少Bランク記録保持者だからね。


それに、流れの冒険者がドラゴラント郡に来たときの宿泊施設、またドラゴラント郡に定着してくれた冒険者たちの居住施設も作らねばならない。少し先走ってはいるが、(いず)れ必要になるものだ。


「今のところ、幸いにしてエイミー様がアナや俺にプレゼントして下さった魔力水をオークションに出さずに済むペースで資金は貯まっています。やっぱり、あの魔力水は大事に取っておきたいんですよ。『癒しの姫御子』が俺たちに示してくれた、かけがえのない友情の証ですからね」


そんなこと、気にしなくたっていいんですよ?あれはわたしがアナやアレンさんにプレゼントしたものだから、お二人が好きにしていいものです。どうぞ、好きなように使ってやって下さい。…でも、アレンさんがそう言ってくれたのは本当(ほんと)嬉しいな…いけねぇ、涙出てきちまったよ。


「それで、エイミー女史に招待状をお渡しするついでに、これまでの冒険者稼業で集まった魔物資源や魔石を換金しにこちらに寄ったんです」


そう言って、アナがマジックバッグの中から『戦利品』の一部をわたしに見せてくれた。…すげぇな…何でこんなにたくさんブリザードフェニックスの尾羽と風切り羽があるんだよ…ってか、ワイバーンの魔物素材は不味いんじゃないですか?ワイバーンっつったら、メリッサさんとジェロームさんの身内でしょ?


「それなんですが、ワイバーンの中にはメリッサやジェロームの言うことを聞かない者もいるそうです。まぁ、ならず者のようなものですね。そういった連中を、メリッサの許可を得て狩らせて貰っているんです」


ジェロームさんの許可は要らんのかい…まぁ見た感じ、彼はメリッサさんの座布団って感じだからなぁ…そのココロは、『尻に敷かれてます』。


「そのお蔭であの二人の婚活が上手くいったこともあったんですけどね。若いワイバーンたちが、寄って集ってメリッサちゃんを手籠めにしようとしていたところをジェローム君が助けて、それであの二人が恋人同士になったんです」


…何ぞそれ。種族を問わず、クズってものはおるもんやなぁ。


「俺が何もやっていない、と言ったのは、そういう事情があったからなんですよ」


アレンさんが苦笑しながら言った。いいんじゃないですか?あの2人がアレンさんに対して恩義に感じているっていうのは、アレンさんの人格の賜物ですよ。


それにしてもこの超大量の魔石と魔物素材、これだけで立派な一財産やぞ…アナとアレンさん、貴族稼業よりも冒険者稼業の方が儲かるんじゃないですか?


わたしが飛ばしたその冗談に応えるアナの笑顔は、変わらぬ美しさと(つよ)さ、そして温かい優しさを保っていた。

次話で本編は最終話となります。

読者の皆様には、このクソ長い二次創作にお付き合い頂き、

本当にありがとうございました。


これまでブックマークといいね評価、また星の評価で応援して下さった

皆様には、本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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