第194話 ヒロインは悪役令嬢の実家の新年決起集会に参加する (2年連続2回目)
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
果たして、お母さんのお腹の中には新しい生命が宿っていた。お父様は大喜びし、お母さんも戸惑いながらも歓喜を見せた。そんなわけで、新年が始まってから1週間後に開催が予定されていた、ラムズレット公爵家とその寄子たちの新年決起集会には、お父様とわたしだけ参加することになった。お母さんは、今は一番無理しちゃいけない時期だからね。
その新年決起集会の日、ラムズレット公爵家が用意してくれた馬車にお父様と連れ立って乗り、ラムズレットの王都邸に向かう途上である。お父様もわたしも、背筋を緩めることもできず端然たる姿勢を余儀なくされていた。理由は、わたしたちの前で座っている長身痩躯のお婆さんだ。
そのお婆さん―オーベルシュタインさんは、表情を緩めて声を発した。
「ブレイエス男爵様も、エイミー様も、どうぞお楽にお直り下さいまし」
…そう言ってくれるのはありがたいんですけど、そう言ってくれるんならその貫禄と威圧感を引っ込めて下さい。お願いです。
◇◆◇
ラムズレットの王都邸に到着したわたしたちは、既にしてヘロヘロに疲弊していた。言うまでもなく、オーベルシュタインさんの貫禄と威圧感に圧されてしまったためである。それでもお父様は何とかよろめかずに馬車を降りることができたが、わたしは馬車を降りる際によろめいてしまった。
「エイミー、よく来てくれた。…大丈夫か?」
出迎えてくれたアナの前でよろめいてしまったため、彼女に無用の心配をかけてしまった。何とも情けない話である。
「だ、大丈夫です。醜態をお見せして申し訳ありません」
心配げにわたしを見る視線が、ふ、と優しいものになった。
「そういえば、ブレイエス男爵様の奥方様がおめでただとお聞きした。私からもお祝い申し上げる旨、奥方様にお伝えしてくれ」
「ありがとうございます。そのため、本日母はご無礼させて頂いております。申し訳ありませんと、母から詫びの言葉を言付かっております」
わたしに向ける、アナの優しい視線に悪戯っぽさが加わった。
「今年の秋頃には、お前に弟か妹が生まれるのだな。…エイミーお姉様、お気持ちは如何でございますか?」
アナの笑顔に悪いものが混じり、わたしも苦笑した。…そう言やぁ、アナの誕生日よりもわたしの誕生日の方が早かったんだよなぁ…
「確かに、アナ様よりもわたしの方がお姉さんですね。わたしの誕生日は7月で、アナ様のお誕生日は10月でしたから」
む、とアナの表情が一瞬険しくなった。その後で、彼女がもう一度見せた笑みに混じった悪いものの濃度が濃くなる。悪役令嬢の面目躍如だ。
「言われてみれば、その通りなのだな。私にしてみれば、お前は何をしでかすやら判らぬ、おバカだが憎めない妹のようなのだがな」
失礼な。おバカ言うなし。
「そろそろいい時間だ。講堂に入って、待っていよう」
「そうですね。承知致しました」
◇◆◇
公爵閣下が講堂の壇上に立ち、新年の挨拶をしている。一昨年もそうだったけど、去年も多事多端だったよなぁ…
長い冬休みの期間に最低最悪と腐れクズ脳筋と『あいつ』が破滅して、学園の前期はそんなでもなかったけど、夏休みの初めにはアナとアレンさんが想い合ってたことがお互いに判って、そのことが公爵閣下にバレてみんなして怒られて、その後で亡エスト帝国の侵略があって、それをアレン無双で撃退しただけじゃなくってブルゼーニ地方全域をセントラーレンの手中に納めて、おまけにアレンさんのお陰でエストが無力化して、そのお陰で彼とアナの仲を公爵閣下が認めてくれて…
その合間に、みんなしてレポート作ったり文化祭の展示を作ったりもしたなぁ…何だってこんなにイベント目白押しなんだか。
「それでは諸賢も既にご存じのことと思うが、朗報を報告させて頂きたい。我がラムズレット公爵家の直系寄子として、また愚女の婚約者、将来の私の女婿としてこの上なく頼もしい青年貴族を迎えることができた。アレン・フォン・ドラゴラント伯爵殿、愚女アナスタシアを伴って壇上に上がって頂きたい」
最前列に座っていたアレンさんが立ち上がった。そのすぐ隣に座っていたアナの手を取って、2人して壇上に上がる。公爵閣下は壇上の脇に立ち、寄子諸侯の注目をお2人さんに譲ると、公爵閣下はもう一度口を開いた。
「諸賢には、愚女と当時はラムズレットの一家中に過ぎなかったドラゴラント伯が想い合うようになったと知った時の私の驚愕と憤激をお察し頂きたい。事もあろうに、公爵家の令嬢が平民と恋仲になってしまったのだ」
その言葉に、講堂内が騒めく。そりゃまぁそうでしょう。身分違いの恋にも程がある。以前にも言うたけど、わたしもお2人さんが結ばれるなんて最初は絶対にありえないと思ってたもんなぁ…
「私はそれを知ってすぐにアレン―今のドラゴラント伯だ―と愚女の友人たちを捕縛し、彼らを厳しく糾問した。…だがその際に、彼が正しく凄腕の冒険者であり、また愚女のことを本当に大切に思ってくれていることが判ったのだ。…そのことを確かめるにあたり、エイミー・フォン・ブレイエス嬢には大変な助力を頂いた」
あぁ…公爵閣下に命じられて、アナの純潔を確かめた時の話だな。あの時は公爵閣下にブチ切れちまったけど、こんな感じで話を持って来られたら怒りもすっ飛んじまうわ。…アナの言語能力が優れているのは、公爵閣下からの遺伝かな?
「…それでもすぐに2人の仲を認めるわけにはいかぬこと、諸賢もお判りであろう。故に、常人なら諦めるような条件をアレンに課した。それに対して彼は大言壮語で応えたのみならず、見事に私の出した条件をクリアした。どのような条件をクリアしたかについては、諸賢もよくご存知であろうからここでは触れぬ」
また講堂内が騒めいた。今度は、納得の騒めきである。
「…全く、ブルゼーニ地方全域をほぼ独力で我が国の支配下に置き、エストを完全に無力化してザウス王国までも無害化するなどと、そこまで恐るべき力を示されたら娘でも何でも差し出して直系寄子になって貰うように頼む他ないではないか。能ある鷹は爪を隠すと言うが、幾ら何でも隠しすぎだ」
公爵閣下の言葉に笑いが起き、アレンさんは壇上で顔を赤らめた。確かになぁ…アレンさんは清潔感のあるイケメンだけど、一見普通の人間だ。そこまで化け物じみた力を持ってるとは、とても思えねぇもの。
「おまけに、かの神獣スカイドラゴンの番と親友関係にあるとは…先にも言ったが、それを教えてくれなかったから、私はジェローム殿に険悪に凄まれたのだ。あれは、まこと怖かった。…恨むぞ、将来の女婿殿」
また笑いが起き、公爵閣下の諧謔にアレンさんはもう一度端正な顔を赤らめて「も、申し訳ございません」と返答した。
「この通り、これほどの力を持つ者を直系寄子として、また将来の女婿として得ることが叶ったことを、私はラムズレットの領袖として、また一人の父親としてこの上なく喜ばしく思う。諸賢には、この2人を祝福して頂ければ幸甚である」
そう言って、公爵閣下は挨拶を終えた。それに続くは、講堂内を覆い尽くす拍手。それが収まると公爵閣下は、アナとアレンさんに「ご苦労だった。席に戻ってよいぞ」と声をかけた。…あれ?アナやアレンさんの挨拶はなくっていいの?
「…お、恐れ入ります。アナスタシア様や私の挨拶はなくてもよろしいので?」
そのアレンさんの疑問に対し、公爵閣下は昔日の悪役令息の笑みとともに言葉を返し、寄子諸侯とその子弟に笑いを提供すると同時に壇上のお2人さんの顔色を前世日本における郵便ポストのそれにした。
「君やアナに挨拶させても、どうせ惚気にしかならんからな」
ご説ご尤も。
◇◆◇
その後で簡単な会食があり、大人たちは大人たちで、またわたしたちの世代でも集まって、それぞれ料理と飲み物、それにお喋りを楽しんだ。
そんな中で、マーガレットやイザベラがアナに質問を飛ばしている。その内容が、またなかなかに際どい。
「それにしても、アナ様って本当にアレン君に愛されてますね。どうしたら、婚約者の殿方にそこまで愛して貰えるんですか?」
「そうですね。アナ様、愛される秘訣を教えて下さい」
「…な!?え!?お、お前たち、いきなり何を言い出すのだ!?」
その質問を受けたアナが、美貌の満面を朱に染めてたじろいだ。それを受けてマーガレットがアナとはまた違うタイプの美貌に浮かべたのは、悪役令嬢の笑み。…なかなか似合うじゃないですか、マーガレットさんや。
「成程成程。普段の凛々しい態度と、アレン君の前で見せるその姿のギャップ。それが、愛される秘訣なんですね?」
「判りました。ギャップ萌えって奴ですね。アナ様、私たちも見習わせて頂きます。そして、アレンさんみたいな素敵な婚約者をゲットしなくちゃですね!」
「ちょ…!おま…あ、アレン!ちょっとこの2人に、何とか言ってやってくれ!」
アナが狼狽も露に、アレンさんに助けを求めた。それを受けてアレンさんが声を向けた先は、マーガレットでもイザベラでもなく、そのアナ本人。
「アナ、可愛いよ。俺は世界で一番、君のことを愛してる。大好きだよ」
「ぬあぁっ!?…うぅ…アレンのバカ…こ、こんなところで…でも…私も、アレンのことを…世界で一番…愛してる…私も…アレンのことが…大好きだ」
その、身体中を掻き毟りたくなるような会話に続くのは、マーガレットとイザベラの黄色い歓声。…あら珍しや。めたくそに揶揄われてるのに、アナが三点セットの懲罰を彼女たちに課そうとしてねぇ。
わたしはラヴラヴなバカップルを目の当たりにして平然としていられるほど神経が太くはないので、取り敢えず軽食と飲み物を物色することにした。…それにしても、マーガレットやイザベラも、以前は中てられていたのにどうしたんだろね?
すると、お父様が公爵閣下や他の寄子諸侯に揶揄われて…否、祝福されていた。
「ブレイエス男爵殿、この度は奥方様がおめでただとお聞きした。おめでとうございます。心より、お祝い申し上げる」
「こ、公爵閣下、ありがとうございます。この歳になって子を成すというのも、あまり外聞が宜しいものではございませぬが」
「男爵殿はもうじき50歳になられるということですから、私よりも5、6歳ほど年長でいらっしゃいますな。それだのに奥方様と仲睦まじくて、羨ましい限りです。夫婦円満の秘訣を、お教え下さいますか?」
リュインベルグ子爵様に聞かれて、お父様の精悍な顔が朱に染まった。やっぱり、慶事の対象者は揶揄われるものと相場が決まってるんだよなぁ。
「男爵殿はご令嬢とご令息と、何れをお望みですかな?ご令息であれば、ブレイエス家の後継ができて重畳千万ですが、エイミー嬢のような可憐でかつ、治癒魔法の若き権威者と称されるほどのご令嬢がまた生を享けられたらブレイエス家の名声は天井知らずになりますな」
アルトムント伯爵閣下の言葉は、お父様だけでなくわたしも巻き込んだ。…勘弁してくれ…いつから、難民の子供体型のことを、可憐って評するようになったんや…
あと何度も言われとるけど、わたし如きを治癒魔法の若き権威者とか言うのはやめて下さい。何せ根が調子乗りの小物だから、ンなこと言われたらどっかで治癒を失敗って患者を死なせちまって、裁判を起こされちまいそうな気がするんです。
皆様は、昭和の田〇財〇と平成の〇沢〇前と、はたまた
令和の岡〇財〇と、どれがmost favoriteですか?
ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、
本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。
厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも
頂きたく、心よりお願い申し上げます。