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第191話 ヒロインたちは期末試験で悪戦苦闘する

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

12月25日から26日にかけて行われた後期期末試験は、まさに2年次の2クラスに阿鼻叫喚の地獄絵図を現出せしめた。…何つーか、全教科の試験問題が「何故そこまでやる!?」と絶叫したくなるくらい難しかったのだ。


25日、3教科の試験を終えていつもの自習室にやってきたメンバーの顔は、一様に蒼白を通り越して最早土気色だった。マーガレットが、本来の快活さを全く奪い取られた、力ない涙声をアナに向け、それに付随するように普段の癒し系の魅力を剥ぎ取られた泣き声をイザベラが続ける。


「アナ様…申し訳ありません…あんな難しい試験…満点なんて無理です…」

「私もです…アナ様…ご期待に添えなくて、申し訳ありません…」


アナの絶世の美貌も、暗鬱な影に支配されている。そんなでもアナだから美しいのだが、そんな悲惨な美しさ要らねぇ。


「…いや…私が…思い上がっていたのだ…これまで、たまさか自分が理解できていて、皆に指導できる内容だった、というだけのことだったのだ…このような傲慢なことでは…公爵家令嬢失格だな…」


辛気臭すぎる光景だが、誰もそれを改善しようとしない、いやできない。


「地理・歴史も文章読解も、論述ばっかりでしたよ…それも、『クライネル陛下の改革の功罪について、1,000文字以内で述べよ』って…かの賢王クライネル陛下の改革で、セントラーレン全土の小麦の収穫量が大幅に増えたんですよね…功はわかりやすいけど、罪ってあったんですか…?」


オスカーの呻き声の中に出てきた、クライネルという名前に見覚えのある方もおられよう。クライネル陛下は、現国王のバルティーユ陛下の3代前の国王で、農地改革によって小麦の収穫量を大幅に増やした事績により『賢王』と呼ばれている。


ついでに言うと、クライネル陛下の第二王子がその農地改革によってセントラーレン最大の穀倉地帯となり果せたラムズレット州に封ぜられてアナの実家であるラムズレット公爵家の開祖となったのだ。だから、ラムズレット公爵家の出身者はみんな『クライネル』というミドルネームを名乗ることになる。


他の3大公爵家の2家であるシュレースタイン公爵家やインノブルグ公爵家の出身者も、同様なミドルネームを名乗っているのだが、それはこの際()く。


「高等算術の問題…何なんだよあれ…あんなの、前世のTKB大付属KMB中の入試問題よりも難しかったぞ…」


アレンさんが机に突っ伏し、頭を抱え込んで呻き声を上げていた。TDN表記で、前世日本指折りの進学校の名称を出している。…アレンさん、前世でTKB大付属KMB中を受験したことがあるんですか?


「受けましたよぉ…落ちたんですけどね…」

「…やっぱり、前世から頭よかったんですね…」

「…いや、記念受験みたくなもんでしたから…国立だったから、受験料も安かったし…せっかくだから受けてみるかって、親が言ってくれたから…」


そんなことを言ってるアレンさんは、少し悔しそうだったりする。やっぱりそこに行きたかったんだろうか…


彼が名前を出した学校は男子校だけど、文化祭で女装して可愛さを競う『ミスTKKM』というイベをやったりしている。頭のいい人が全力でかつ真面目にバカをやると、これほど面白いものはない、という極彩色の見本だ。…彼もそういうのに参加したかったのだろうか…前世でもイケメンで、女装が似合っていたのかな…?


◇◆◇


その翌日、26日に2教科の試験を終えた面々は、更に鬱々とした様相を呈していた。自習室に入るなり、マーガレットとイザベラは抱き合って泣き出し、アナとアレンさん、それにオスカーの顔色はまるで死人のそれである。おそらく、わたしの顔色も彼らと似たり寄ったりだろう。


「どうしよう…こんなじゃ、卒業もできないかもしれない…」

「本当です…留年なんてことになっちゃったら…勘当されちゃいます…」


抱き合って涙混じりの言葉を漏らすマーガレットとイザベラを宥めるアナの横で、わたしは死んだ魚の目をして今日行われた魔法理論の問題用紙を眺めていた。


…正直、どれもこれもちんぷんかんぷんだったが、ただ一問だけ解答欄を埋めることができた問題があったのだ。…つか、この問題を解けなかったらバインツ侯爵閣下に夢枕に立たれてめたくそにド叱られる。わたしのただ2つの取り柄のうち1つ、魔力の増強方法についての問題だ。


『魔法などによって魔力を枯渇ギリギリまで消費した上で栄養を摂取し休息を取ると、魔力が増強される、その原理について説明せよ』


わたしは、この方法一本でひたすら魔力を増強してきた。もちろん、その原理に興味を持ってバインツ侯爵閣下が遺された蔵書を漁ってみたことがある。その原理についての論述は、以下のようなものであった。


『自身が保有する魔力を枯渇寸前まで消費し、その後栄養と休養を摂取することによって超回復により魔力の増強が望めることは(かね)てより知られていたが、その原理には諸説あってこれという定説はない』


『本来であれば基礎代謝などの身体の維持に回されるべき栄養や休養が、魔力の回復に過剰に回されるためであるという説が有力である』


『しかしながら、魔力の枯渇寸前までの消費により一時的に体調を崩した例は数多あるものの、後遺症まで残るほどの深刻なダメージが齎されたという報告はない』


『身体維持に回されるべき栄養や休養までもが魔力回復に優先的に回されるのであれば、一度の魔力枯渇により深刻な体調の悪化が確認されるべきだが、それがないということは上記の説には小さからざる瑕疵があるものと言わざるを得ない』


『また有力な説として、筋肉を鍛えることによってより強靭な筋肉を得ることができるのと同様である、という説がある。筋肉を鍛えることにより筋肉が損傷を受け、それが自然回復する際により強化されるのと同様だ、という説だ』


『しかしながら、枯渇寸前の状態から回復する際に魔力が増強される原理は、筋肉が強化される原理では説明がつかない。魔力が枯渇寸前に至る、即ち魔力の飢餓状態に至ることによりその者の魔力の容量が強化されると考えることも可能だが、それもまたなぜそうなるかの説明が必要である。…』


◇◆◇


…!ちょっと待てよ!こーゆー試験の問題って、必ずこれといった明確な答えがあるもんじゃねぇのか!?それだのに、バインツ侯爵閣下の論文では『諸説あってこれといった定説はない』って書かれてたぞ!? そんな、定説のない原理を説明させるなんて、そんな問題、はっきり言って欠陥問題じゃねぇか!!


…他の教科だって、論述で回答させる形式ばっかりの文章読解や地理・歴史とそれに自然科学全般、それに前世日本の超名門進学校の入試問題よりも難しい高等算術!はっきり言って、難易度エクストラどころの騒ぎじゃねぇぞ!これじゃ、難易度ルナティック…いや、それよりも遥かに上だ!強いて言うたら、難易度ダブル…いや、トリプルルナティックだ!!


こんなじゃ、全教科0点続出で成績なんぞ付けられねぇぞ!一体、このテストを作った奴らは何を考えてやがるんだ!!


「…あ、アナ様、ちょっといいですか!?」


思わずでかい声で叫んでしまい、その場にいた全員をビクゥッ!と震え上がらせてしまった。…いかんいかん、つい興奮すると声がでかくなっちまう。


「…え、エイミー…いきなり大きな声を出して、一体どうしたのだ?」


アナの驚き咎めるような声に対し、わたしは謝罪と共に気付いたことを伝えた。


「も、申し訳ありません。ですが、今回の期末試験なんですけど、難易度が常軌を逸してますよね?おまけにこの魔法理論の問題ですけど…」


わたしは問題用紙を全員に見せ、その問題には明確な答えがないことを説明した。バインツ侯爵閣下が著された論文でも、諸説あってこれといった定説がない、と説明されていたこと―つまり、明確な答えがないということを。


「…明確な答えがない、だと?それはつまり、どういうことだ?」

「明確な答えがないんだから、何を書いても不正解にできるってことです」


…はっきりそうと言い切ってしまうのは早計かもしれない。だが、わたしの中には一つの仮説が作り上げられ、それはいつしか高い蓋然性を示していた。


「…ま、待ってくれ。そのような問題を作ることで、一体どのようなメリットがあるというのだ?」「全教科満点者が出て来なくなりますね」


わたしの、アナに対する返事に、その場にいた全員が首を捻った。


◇◆◇


全教科満点者が出て来なくなる…つまり、これまで3期連続で期末試験満点の快挙を成してきた2人のどちらか―あるいは両方―に、嫌がらせしてやろうというのだ。そのわたしの仮説に、ある者は唖然とし、ある者は瞋恚(しんに)の色を示している。


「…な、何故そのようなことを…」


アナの薄桃色の唇から、呻き声が漏れた。おそらく、今からわたしが言うことはアナにとって信じ難く、また耐え難い話だと思う。絶え間なき努力によって己を高め、その結果得られた多くの知見によって高貴なる者の義務を果たすことを貴族たる身の絶対使命と任じている彼女には。


「アナ様には理解も許容もできない話だと思うんですけど、努力によって自分を高めるのではなく他者を貶めて自分が優位に立とうとする奴らってのは、どこにでもいるんですよ。例えば、こんな試験問題を作った奴らとかですね」


わたしはそう言って、魔法理論の試験問題をひらひらと振ってみせた。


「…わ…判らない…そのようなことをして何になるというのだ…」


机を前にして頭を抱え込むアナは、おそらくこのふざけた愚行のターゲットではない。ターゲットは、もう一人の3期連続期末試験満点者だろう。


「お…俺、ですか…?…何故…?」


アナの呻き声が、アレンさんに伝染(うつ)った。何故って…ねぇ?


「アレンさん、くれぐれも誤解なさらないで下さい。わたしは、あなたを尊敬しています。その認識の上で、聞いて下さいね」


つまり、こういうことだ。平民出、それもその日のおまんまにも事欠くような生活をしていたような貧民出に、4期連続で満点を取られて卒業されるのがそいつらには到底許せない、耐えられないことなのだ。


おまけに、その貧民出は同じ貴族出身であっても自身には影も踏めないような貴顕の方々を決闘でボコし、更には諜報に戦闘にとあらゆる分野で大功を上げ、その功績によって上位貴族である伯爵位の陞爵を受け、トドメには超名門貴族のご令嬢様の婚約者にまでなり果せた人物である。


「自分に確たる自信を持ってない奴らってのは、そういう人を妬むんですよ」


他ならぬ、前世の『俺』がそうだった。…今は違うよ?


「それで、ちったぁ痛い目見せてやろうと思って、こんなことしたんです。いやはや、すげぇ執念ですよね。てめぇのつまんねぇ逆怨みのために、全教科こんなクソ難しい問題作るとか…その執念、もっと別な方向に活かせ、って思いませんか?」


わたしも前世は小物だったからね…そういう小物どもの気持ちはよく判るんよ。

筆者の知人にめたくそ勉強のできる奴がいて、そいつは公立の

トップ高に進学したのですが、その学校の定期試験問題が当たり前のように

旧帝大の入試問題から出てきてたそうです。

その時の平均点が9点だったそうで (10点満点や20点満点ではありません) 、

そいつは16点だったって粋がってました。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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