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第188話 ヒロインはもう一人のヒロインとレスバする

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

…あれ?…わたし、寝とったよね?


いつものように東部冒険者ギルドのバイトから帰ってきて、湯浴みして晩ご飯頂いて、その後でいつもと同じようにアナとマーガレット、イザベラと自習室で夜の勉強会やって、ある程度一段落したから自室に戻って、メイドさんに就寝の挨拶して寝室に入ってベッドに入って…


何か、その時のネグリジェ姿のままわたしはぼけーと立っていた。それだけでなく、わたしの目の前に誰かいるのを確認していた。


◇◆◇


そこにいるのは、桃色の髪と緑色の瞳を持ち、王立高等学園の制服を身に付けた可憐で小柄で庇護欲を唆る、癒し系の雰囲気を有する美少女。この顔を、わたしはよく知っている。…つか、毎日姿見の中に確認している。わたしと異なり、彼女は眼鏡をかけていなかったが。


しかしわたしの前に立ち、わたしを睨み付けるその視線は怒りと敵意に満ち満ちている。…やがて彼女はその小作りな口を開き、糾弾の言葉を発した。…その言葉は、わたしに理解を齎した。つまり彼女は、『本来の』エイミー・フォン・ブレイエスであるという理解を。


【…何故カール様を、助けて差し上げてくれなかったんですか?】


…はぁ?カール様って、あの最低最悪のクソバカアホンダラの神話級ド変態バカクズ廃太子、略して最低最悪のことか?


【…!何て…何て酷い呼び方をするんですかッ!!】


他に呼び方がねぇだろうがよ?そもあの最低最悪、アナにどんな惨い仕打ちしてやがったと思うよ?事あるごとにアナを怒鳴りつけたり、アナが挨拶しても無視したり、聞くに堪えねぇ酷い罵声を浴びせたりしてやがったんだぞ?それも、一対一じゃ絶対に勝てねぇから、クズ仲間でつるんでアナをいじめてやがったんだ。最低最悪、以外にどう表現したらいいんだよ?


【…アナって…アナスタシア様のことですか?】


それだけじゃねぇぞ?あの最低最悪、わたしが履いてた靴下の臭いを執拗に嗅ぎ散らかすに留まらず、自分の墓前にわたしの着用済み靴下と女性用胸当て、おまけに下着まで手向けてくれとか遺言しやがったんだぞ?もう、神話級のド変態としか言いようがないじゃねぇか?


【…人の質問に答えて下さいッ!アナって、アナスタシア様のことですかって、わたしは質問したんですッ!!】


…あぁそうか。お前さん、アナと親しくして貰えなかったからそう呼ばせて貰えなかったんだな。そりゃぁまた、おかわいそうなこって。


【どうして…あんな意地悪な方と親しくしなくちゃいけないんですか!?】


はぁ?意地悪ぅ?アナのどこが意地悪だよ?そりゃ、わたしのやらかしとか、淑女じゃないとか淑女の礼がヘタだとかいじってくることはあるけど、彼女は基本的にわたしのことをめたくそにリスペクトしてくれてるぞ?こんな、治癒魔法以外に何らの取り柄もねぇあほ娘をよ?


そして、彼女がわたしのことをいじる時には必ずわたしに対する敬意や称賛とセットにしてくれるぞ?わたしの心根を、『聖女の称号に相応しい』とまで言ってくれるぞ?そんな彼女がどこが意地悪なんだよ?


【で…でも、カール様もクロード様も、マルクス様もレオ様も仰ってました…あんな性格の悪い、性根の腐った女などいないって!カール様やクロード様や、マルクス様やレオ様に、意地悪なことばっかり言っていたって!!】


…そいつら、どいつもこいつも手の施しようのねぇクズばっかりじゃねぇか。おいお前さん、あいつらの言うことは無条件に信じるのか?あいつらがそう言ったら、白い雪でも黒くって、赤い夕陽も青いのか?


【…でも、アナスタシア様はあのお方たちのことを、怠けてばっかりでどうしようもないって、面と向かって悪し様に罵っていたんですよ!カール様もクロード様も、マルクス様もレオ様も、あの方々なりに頑張っていらしたのに!!】


…事実じゃねぇか。自分が加護を授かった分野ですら、碌に成長させられなかったんだから。加護を受けた分野について、まともに努力してみたらどうだよ?わたし如きですら、この歳でS級治癒魔法を使いこなせるんだぞ?アナみたく全ての分野で激烈な努力をしろとまでは言わねぇけどよ、せめて自分が加護を授かった分野くらいA級の実力を身に付けろや?わたしですらできたことなんだからよ?


【…だ…だからって…愚物とか…怠惰の悪魔とか…幾ら何でも酷すぎます!】


いやだから事実じゃねぇかって。それに、その態度を反省して不断の努力を続ければアナは高く評価してくれるぞ?オスカーなんか見てみろよ?彼女は、最初は彼のことをボロクソに言ってたけど、オスカーが反省して一生懸命努力して、 “弓王” の加護に相応しい実力を見せたらちゃんと評価したぞ?おまけに、『昔は酷いこと言っちゃってごめんちゃい』って謝ってたぞ?


そんなアナのどこが意地悪だってんだよ?彼女はただ単に、誰よりも自分自身に対して厳しすぎるくらい厳しくて、その余波が他人に及んでるだけだ。よくある事なんだよなぁ、そーゆー怠惰で自堕落で無能で愚劣でケツの穴の狭い奴らはアナみたくな人間を逆怨みして、一生懸命貶めようとしやがるんだ。…その執念をもっと建設的な方向に活かせよなぁ…


【…そんな…あなたも、アナスタシア様みたいな意地悪なこと言うんですか!?】


この上なく光栄だね。わたしのことを、アナみたい、とか言ってくれるなんて。…いや、それは寧ろアナに対するこの上ない侮辱だな。事もあろうに、わたし如きとアナを同類扱いしてるんだから。おい、今の発言撤回してアナに謝罪しろ。


◇◆◇


あともう一つ教えてやる。あのクズどもはな、アナを学園から追放することができたら彼女をならず者どもに引き渡して、奴らの慰み者にしようとしてやがったんだぞ?おまけに、彼女の実家のラムズレット公爵家も族滅して、彼女を絶望のどん底に叩き落して精神を崩壊させようとすらしてやがったんだ。


【…う…嘘です…!カール様が…そんな酷いことをなさるなんて…!!】


嘘じゃねぇよ。あの最低最悪自身そうほざいていやがったし、奴がそうしようとしていた証拠だってあるんだよ。…そうなったら、最終的にどうなると思う?


…アナはな、エスト帝国に渡された魔剣に精神を支配されて、闇堕ちして暗黒騎士になって、帝国の尖兵となって王都ルールデンを壊滅に追い込んで、王都に住んでいた人たち全員をな…鏖殺しちまうんだよ。


…てめぇの下らねぇ逆怨みで、護り導くべき民草を全滅に至らしめる、そんなクズを何が悲しゅうて助けてやらなくちゃならねぇんだ、あぁ!?


【…そ…そんな…嘘です…嘘…!!】


何へたり込んでやがるんだ?大体よ、お前さん自分がそういう目に遭わないとか、思い込んでるんじゃねぇだろな?


【…な…何を…言いたいんですか…?】


てめぇの下らねぇ逆怨みで、婚約者にそんな惨すぎる仕打ちをしようとするような奴だ。お前さんが奴の、あの最低最悪の機嫌を損ねちまったら、同じ仕打ちがお前さんに返ってくるんだよ。…お前さんがな、奴らに輪姦(まわ)された挙句ならず者どもに引き渡されて…ならず者どもの慰み者にされちまうんだよ。


【…う…嘘です…嘘ですッ!…そ…そんな…酷いこと…ッ!!】


嘘じゃねぇよ。実際、奴はわたしにもそーゆーことしてやるってほざいてやがったもん。面と向かってじゃないがね。もう本当(ほんと)、おぞましい限りだったわ。奴がそうほざいてるところを聞いて、ゲロ()いちまったよ。


…さっきも言ったけど、お前さんがそうならない保証なんてどこにもねぇぞ?まぁ精々想像してみろや。お前さんの『乙女が命に引き替えてでも護るべき秘所』と『不浄の秘所』、あと口の中にまで奴らの、そしてならず者どものアレが無理やりに突っ込まれ続けるんだ。そして、お前さんは延々と輪姦(まわ)され続けた挙句…ズタボロに心身を穢し尽くされ、精神を崩壊させられちまうんだ…


【…い…嫌…嫌あああああァァァァァッ!!】


◇◆◇


…何か、変な夢見た。…脳内お花畑の姉ちゃんが出てきて、変な言いがかり付けてきた、そんな内容だった気がする。


あんまりにも荒唐無稽な言いがかりだったからムカついて、めたくそに反論しちまった、そんな記憶がある。それこそ、ヒロインにも貴族令嬢にもあるまじき(きッたね)ぇ言葉を(つか)って。…何て言ったかなぁ…ちっとも覚えてねぇや…


…それにしても、今何時だよ…まだ外暗いぞ…でも、二度寝したら確実に寝坊してメイドさんの怒りを買うことは必定だし…まぁ横になってるか…


…その日の朝、わたしは案の定そのまま二度寝した挙句寝坊してしまい、朝食を摂る余裕もまともに身だしなみを整える余裕もなくメイドさんにド叱られながら部屋を飛び出し、玄関でかなり長いこと待ってくれていたアナとマーガレット、イザベラにも叱られながら学園に通学するハメに陥った。


◇◆◇


その日の放課後、いつものメンバーで自習していると、オスカーが顔をにまつかせながらわたしに声を向けた。


「エイミー嬢、今日『も』寝坊したそうで。マーガレット嬢から聞きましたよ」


その言い種に、マーガレットとイザベラが噴き出した。…おいこらちょっと待ったれ。わたしはそんなしょっちゅう寝坊しとりませんぜ?


「そうですよ、ウィムレット公子様。エイミー様は、1週間のうち7日『しか』寝坊しないし、1ヶ月のうち30日ないし31日『しか』寝坊しないし、1年のうち365日『しか』寝坊してませんよ。そんなしょっちゅう寝坊してるように言ったら、エイミー様がかわいそうです。エイミー様は、『毎日』寝坊なさってるだけです」

「ぷっ…ぷはははっ…!」「ぷっ…あはははは!!」


ドラゴラント伯爵になってから、とみに悪役令息の笑みが板についてきたアレンさんが混ぜっ返す。とうとう耐えきれず、マーガレットとイザベラが笑い声を上げた。…余計言い方が酷いわこん畜生。


「アレン、あまりそのようにいじめてやるものではない。何やら、エイミーは夢見が悪くて変な時間に目が覚めてしまったそうだ。…エイミー、言いたくなかったら無理にとは聞かぬが、もしよかったらどのような夢だったか聞かせてくれぬか?」


優しい苦笑を美貌に浮かべ、アナがわたしに話の水を向けた。何やら、アレンさんとの婚約が公になってから、彼女の優しさに拍車がかかったような気がする。


「アナ様、ありがとうございます。…アナ様の優しさに比べて、ウィムレット公子様もドラゴラント伯爵閣下も意地悪すぎやしませんか?」


ジト目で()めつけると、アレンさんもオスカーもあらぬ方に視線を遣った。…わざわざ『ドラゴラント伯爵閣下』と呼んだ、わたしの憤りをご理解頂けましたか?


それはそれと、さっき自分で発した単語でわたしはその妙な夢の内容を唐突に思い出した。…そう、『本来の』エイミー・フォン・ブレイエスに、『なぜあの最低最悪を救ってやらなかった』と責められる、不条理で理不尽な夢を。


「そうですね…何か、もの(っそ)い妙チキな夢だったんです。…何だか夢の話を人様に聞いて貰うのもアレな話ですけど、聞いて頂いてもいいですか?」


わたしの口調に何か尋常ではないものを感じたのか、アナをはじめとする皆は妙に真面目な顔をわたしに向けた。

ヒロインの口調が酷い変り方をしているのは、いきなり

訳の判らんことで責められてムカついたため、ということにしといて下さい。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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