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第178話 ヒロインたちは話を脱線させた挙句 “聖女” の加護を秘匿する

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

期せずして “無私の聖女” の加護を授かっちまったものの、それでわたしの生活が何か変わるわけではなかった。何しろ、聖なる祝福とやらを授かっていないなんちゃって聖女である。新しくわたしにスキルが与えられたわけではない。アナが授かった、 “氷の聖女” の加護とは全く物が違うのだ。


それでもまぁ聖女特有の能力である、”聖女の祝福” を他者に授けるということはできるみたいだ。この “聖女の祝福” であるが、かつて光の精霊神様がアナに授けたような強烈なものではないらしい。…あれは怖かったなぁ…


何でも、子どもの健やかな成長を促したり生命を脅かすような大病から少しだけ守ってくれるというような程度のものでしかないらしい。まぁ言うなれば、お守りに毛が生えたようなものだそうだ。…ちなみにこのことは、人様に教えて貰ったものではない。 “無私の聖女” の加護を授かったと同時に、何故かわたしの中に入ってきた知識の中にあったものである。


ともあれそんなわけで、わたしはとりあえずその場に居合わせた他の5人にその祝福を授けさせて貰った。「どこか心身が癒されるような気がするわね」とは、その祝福を授けた時のマーガレットの感想だ。


また、アナも “氷の聖女” の加護を授かったので、彼女もわたしを含む5人に祝福を授けてくれた。彼女の祝福は、何だか前世日本の真夏の時期に、ずーと屋外にいた後でクーラーの効いた部屋に入ったような、心地よい涼しさがあった。


◇◆◇


その後で、アレンさんがアナとわたしに “餡蜜” のスクロールを作ってくれた。そのスクロールで得られる “餡蜜” のスキルで、アナとわたしに授けられた "聖女" の加護を秘匿することを彼は提案してくれたのである。


何しろ、聖女と言えばセントラーレン王国国教会の教義にも関わってくる存在である。わたしはなんちゃってでアナはガチモンだが、聖女になっちまったとしたら国教会から要らんちょっかいをかけられかねない。


要は、教会に入って聖女としての修業を積み、そして身に付けた力を終生セントラーレン王国の民草のために活かせ、と要求される恐れがあるということだ。そしてそれは、アナにとってもわたしにとっても到底受け入れられない要求である。


アナが教会に入るということは、彼女がアレンさんと生木を引き裂くかの如く別れさせられ、かの最低最悪の (ry との婚約が成立した後のように振舞うことを強制されることと同義である。


またわたしがそうなるということは、今後の治癒魔法研鑽と魔力増強の機会を奪われ、後世に「聖女エイミー・フォン・ブレイエスは、かつてレオンハルト・フォン・バインツ侯爵の薫陶を受けたヒーラーでもあった」なぞと称せらる、嫌すぎるフラグを立てられてしまうことになる。…


ふ ざ け る な !!


そんな、バインツ侯爵閣下のお望みを無理やりに裏切らせられるような真似、させられてたまるか!!…え?閣下のことを「かの聖女エイミー・フォン・ブレイエスの師匠であったレオンハルト・フォン・バインツ侯爵」って呼んで頂くことはできるからいいじゃねぇかって?…


笑 わ せ る の も 大 概 に し ろ ボ ケ が!!


閣下はな、わたしに聖女になることを望んで下さったんじゃねぇんだ!!ヒーラーとして、高みの至りをわたしの足で踏み締めることを望んで下さったんだよ!!


◇◆◇


「…エイミー様、落ち着いて下さい。俺は、そうなる可能性があるということを示唆しただけです。でも、可能性の芽だけでも摘んでおいた方がいいですよね。この前の、エスト帝国の侵攻も、かの神話級ド変態バカクズ廃太子が蒔いたタネのせいで発生したようなものですから」

「…ごめんなさい、冷静さを欠いちゃいました。でも、アレンさんの仰る通り可能性の芽だけでも摘んでおかなくちゃですね」


…それと、奴の呼称は神話級ド変態バカクズ廃太子じゃないですよ。


「…?まさか、エイミー様ももう反省して改心したんだからバカクズは抜いてやれって仰るんですか?そんなこと…」


するわけがないじゃないですか。奴は、アナみたいな素晴らしく魅力的な女性を、クズ仲間でつるんで寄って集っていじめた挙句、1対5の決闘を強要してボコボコにして、その上で多分自分たちで念仏講にかけた挙句ならず者どもに引き渡して、心身ズタボロにして精神破壊して、敵国に引き渡して人間兵器に仕立て上げようとした、 emperor of クズですよ?


あんな奴、最低最悪のクソバカアホンダラの臭いフェチの神話級ド変態バカクズ廃太子、長すぎるから最低最悪の (ry で十分すぎる程十分です。


「…そうですね。もう、奴のことは最低最悪でいいんじゃないですか?」

「異論はありません。やっぱりアレンさんは頭がいいですね、たった四文字で奴の本性をぴったり言い当てるところは流石です。さすアレです」

「ちょ、ちょっと、アレンもエイミーも待ってくれ」


アレンさんとわたしの間に狼狽した声も露に割り込んだのはアナ。


「私に対してそのような、口の端に上すもおぞましい仕打ちをしようとしたかの者に、強い憤りを抱いてくれるお前たちの気持ちは本当に嬉しく思うのだ。だが、幾ら何でも自分の罪を悔み、反省して改心し罪を己の身命で贖った者に対し、その言い方は余りに惨すぎる」「アナ、それは違うよ」


そう、アレンさんの言う通り、あなたの言うことは間違ってます。奴は幾百千万回おっ()んだんだって償い切れないくらいの大罪を犯したんですよ?たった一回反省して改心して死んだ程度で、奴の罪が赦されてなるものですか!!


「俺も、その件についてはエイミー様に賛成するよ。奴はアナに、俺の生命と引き換えにしてでも護りたい最愛の女性に、そんな酷すぎる、惨すぎる仕打ちをしようとしやがったんだ。アナが赦しても、俺が赦さない。…銃声一発で済ませたのは失敗だったよ。死で贖わせることすら温情に過ぎる、苦痛と屈辱と悲哀と絶望に満ち満ちた生き地獄を延々と味わわせてやればよかった…!!」


それを聞いたアナの表情は、本当に、本当に悲しそうなものだった。


「…かつて、マーガレットやイザベラ、それにエイミーに言ったことがある。罪を犯したにしてもそれを悔い、反省して罪を償おうと努力している者を赦せるような、そんな心を持って欲しいと。だが、アレンさえもそこまで言うとは…」


悲し気に(かぶり)を振るアナに、アレンさんは声を発しようとしてできなかった。


「人間である以上、憎悪とか復讐心とか、そういったものとは無縁ではいられないのだろうか…でもそれでは、余りにも悲しすぎるのではないだろうか…」

「アナ様、ちょっとお待ち下さい」


話のすり替えであることは判っている。だが、わたしは言わずにいられなかった。


「アレンさんを逆怨みして、でも1対1じゃとても敵わないからクズ仲間でつるんで寄って集っていじめた挙句、人間の尊厳も誇りも穢し尽くし破壊し尽くして、自分の欲望を満たすための人間兵器に仕立て上げようとしていた奴がいたとします。アナ様は…そいつを赦せますか?あの最低最悪がアナ様に対してしようとしたことは、それと同じことですよ」


アナの美貌が、雷に打たれたかの如く硬直した。


「マーガレット様やイザベラ様がそうなさっておられるように、わたしもアナ様を尊崇し敬慕しております。アレンさんはそれに留まらず、生命に引き換えてでも、というくらいにアナ様を愛しておられます」


はっ、と息を呑んだアナがアレンさんに視線を向けた。それを受けるアレンさんの茶色の瞳の中に映る感情は、どの様なものかは判らない。


「あの最低最悪がやろうとしたことは、わたしたちにとって絶対に、絶ッ対に赦せないことです。奴が反省しようが後悔しようが、知ったこっちゃありません。アナ様のご信念には心から敬意を表しますけど、わたしたちの心情も汲んで下さい」


…ごめんなさい、言い方がきつくなっちゃいました。でも、あなたの慈愛は奴には勿体なさすぎるんです。


◇◆◇


…後で懐中時計を見たら、1分も経っていなかった。だが、その時の主観では1時間も経ったような気がした重い沈黙の後。


「…私はかの者の婚約者、将来の王妃国母たるを決定付けられてから、脇目も振らずに民草の範たるべく努力を重ねてきた。それが、国王、国家の柱石たるを約定された者の当然の責務だと思っていた」


アナの独白を、誰も何も言わずに聞き入っている。


「だが、かの者もあれを取り巻く者どもも、怠惰の誘惑に負けてその責務を放擲した。私はそれが到底許せず、かの者たちをありとあらゆる分野で打ちのめして叩きのめし、口を極めて糾弾した。そうすれば、発奮して貴顕の身の責務を果たすべく努力してくれると思ったのだ」


その言葉に、オスカーが痛みを堪えるような表情を見せた。…大丈夫ですよ、あなたはそれこそ罪を悔いて反省し、改心して見事に立ち直ったじゃないですか。


「…だが、それだけではダメだったのだ。加護に見合った努力を奨め、そうする姿を称揚せねばならなかった。王妃たる者には、その慈愛こそが必要だったのだ」


まぁ…あなたがそうしてたら、また話は違ってたかもですね。でも、その慈愛を思春期の少女に求めるのは、それこそ酷ってもんです。まず、自分を高めるので一杯一杯なんですから。それに比べりゃ、バインツ侯爵閣下の指導ですらぬるま湯ですよ。…やりゃできるってのが判ってるんだから。


「私はそのことに反省し、能う限りの慈愛を以てあの者たちに接しようと思った。…一時は、私だけならまだしもエイミーにまでおぞましい逆怨みと穢らわしい劣情を吐露した姿に対して殺意を覚えたがな」


…ありがとうございます。そう思ってくれたってことは、わたしのことを大切な友だちだと思ってくれてたんでしょ?その友だちに対して、酷いことをしようとしてた奴らに対して殺意を覚えてくれたんでしょ?…それと同じですよ。


「だが、かの者は最後には自分の罪を悔い、反省して改心し、自らの身命で罪を贖った。だから、私はかの者に寛容たらんとしたのだ。…だが、それはさぞマーガレットやイザベラ、それにエイミーやアレンにとって歯痒かっただろうな。…済まなかった、独り善がりな寛容に囚われて皆の気持ちを分かってあげられなかった。私の不明を、赦してくれたらありがたい」


そう言ってアナはわたしたちに頭を下げた。それに対し、名指しされた四人がおろおろわたわたしてしまったことは言うまでもない。何も、わたしもアレンさんもアナに謝罪を要求したわけじゃないのだから。


「そんな、謝ったりしないで下さい。さっきも言ったように、アナ様のご信念には心から敬意を表します。でも、ウィムレット公子様みたくそのご信念が通用する方もいれば、あの最低最悪みたく通用しない奴らもいるんです」「…エイミー嬢…」


オスカーの、詰まった声が聞こえた。…大丈夫、あなたはここにいる面子にちゃんと認められていますよ。あの、勘当が解かれた日のあなたの弓術の素晴らしさには、本当(ほんと)度肝を抜かれましたもん。


「…エイミー、私の信念に敬意を表してくれてありがとう。私はその信念に従って、かの者が罪を悔い、反省して自らの身命を以て罪を贖ったのだから赦さねばならない、そう思い込んでいた。だが…そう思うたびに苦しかった。何故、私はあの者を赦さねばならないのか、あのような仕打ちを受け続けていたのに、と…そのような思いを抱くことなど、貴族令嬢に相応しくない挙だとすら思い込んでいた」


そんなもん、赦す必要なんざないですよ。何が悲しゅうて、被害者が加害者に譲歩せにゃならんのですか?言っちゃ失礼ですけど、そんなのあほらしいですよ。大体、あの最低最悪は卑怯ですよ。こっちがレスポンス返せねぇのが判ってて、勝手に謝罪して勝手に逝っちまいやがったんだから。


わたしのその言葉に、アナは苦笑した。


「手厳しいな…だが、エイミーの諫言は心に沁みた。ありがとう。…何やら話が脱線してしまったが、とりあえずエイミーと私の “聖女” の加護を秘匿するとしよう。私たちの意志が無視されてしまわないようにな」


それを合図にアナとわたしは、アレンさんが作ってくれたスクロールを開いて右手を乗せた。すると、スクロールが一瞬眩く光り、その後すぐにその光は消えた。


そのあとわたしは自分のギルドカードで、アナはアレンさんの “寒天” のスキルで、それぞれ “餡蜜” のスキルを身に付けたことを確認すると、そのスキルで “聖女” のスキルと、 "餡蜜" のスキルそのものを秘匿した。…よし、これで余程のことでもねぇ限りわたしが聖女だってバレるこたぁねぇだろう。


…でも、このギルドカードのスキル欄に書かれていた “隠密” って文字、どう考えても餡蜜、って読めなかったんだよなぁ…

加害者と被害者の関係について、思うところを書いてみました。

最近の風潮は、「加害者が反省したら被害者は赦すべきだ」と

いう風潮に流れすぎちゃいないでしょうか?


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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