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第173話 ヒロインは口をスコップにして墓穴を掘る

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

オスカーのプレゼントの次は、わたしの番だ。わたしは、ハードカバーの単行本くらいの大きさの箱を取り出し、アナに差し出した。


「アナ様、お誕生日おめでとうございます。これ、わたしからのプレゼントです」

「ありがとう、エイミー。開けさせて貰ってもいいか?」「どうぞ」


箱の中に入っていたのは、無色透明の液体の入ったポーション瓶が10本。アナが、少し困惑したような表情でわたしに問うた。


「…エイミー…これは?」「わたしが作った、魔力回復用の魔力水です」


それを聞いたアレンさんが、驚愕の視線をわたしに向けた。


「…エイミー様、これって俺が最初にエスト帝国に行った時に差し入れして下さった、あの魔力水ですか?あの、めちゃくちゃ魔力が回復した…」

「アレンさんのお役に立てたんですね。差し入れした甲斐がありました」


アレンさんの端正な顔に、幾本も縦線が引かれた。彼は無言で自分のギルドカードを出すと、「…皆様、これをご覧下さい」と言って、自身のステータスを示した。


◇◆◇


名前 : アレン

ランク : B

年齢 : 16

加護 : 風神

スキル : 隠密、鑑定、錬金、S級風魔法、多重詠唱、無詠唱

居住地 : ルールデン

所持金 : 38,526,783

レベル : 49

体力 : C

魔力 : S+

実績 : 最年少Bランク他多数


…ゔえぇっ!?アレンさん、 “風神” の加護を授かってたんですか!?おまけに、魔力がSプラスとか!?しかも、レベル49って何ですよ!?…おまけに、このスキルの多さ!しかも、実績が多すぎて省略されてるし!!


前に見たときは、こんなにスキルなかったですよね!?何で!!?


「 "隠密" のスキルで、隠していたんですよ」


…あ、そっか。 "餡蜜" のスキルを持ってたら、そーゆーこともできるんですね。


「…もう "餡蜜" でいいです。俺が、かつてエスト帝国に潜伏行したことは皆様もご存じだとは思うんですが…その時に、エイミー様がアナを介してこの魔力水を差し入れて下さったんです。その時に、1本使わせて頂いたんですが…」


使って下さったんですね。結構、魔力が回復できたでしょ?


「…結構、なんてもんじゃなかったですよ…その時の俺の魔力は、最大値の四分の一程度しかなかったのに、これ一本で全回復したんですよ?…自慢するようでこっ恥ずかしいんですけど、Sプラスの魔力がですよ?」


その場にいた全員の顔に、アレンさんの顔に引かれていた縦線が伝染(うつ)った。その後アナが発した声は、本来の聴き心地のいいメゾソプラノとは程遠い掠れた声。


「…それほどの魔力回復力がある魔力水をいとも容易(たやす)く作るとは…エイミー、お前はどれだけ魔力の化け物なのだ…」


わたし如きで、魔力の化け物言うたら本当の魔力の化け物に失礼ですよ?…そう、レオンハルト・フォン・バインツ侯爵閣下にね。


「…エイミー様、失礼とは思いますが、ちょっとステータスを確認させて頂きたいのですが、宜しいですか?」


アレンさんが呻くような声をわたしに向けた。いいですよ?今、ステータスカードを出すからちょっと待ってて下さいね。


「…いや、大丈夫です。こっちでできますんで…」


そう言って、アレンさんはマジックバッグの中から美しい蒼氷色の魔石を取り出した。この魔石には、見覚えがある。かつて、わたしがマーガレットやイザベラと一緒に囚人コスプレをさせられた時にアレンさんが見せてくれた、ブリザードフェニックスの魔石だ。…あ、そう言やぁアレンさんも囚人コスプレさせられて、おまけに縄で縛られてたなぁ…なかなかに妄想の(はかど)る絵面だった。…それはともかく。


「あ、これ…ブリザードフェニックスの魔石ですよね。あの、わたしが公爵閣下に顔をブン殴られた時にアレンさんが見せてくれた」

「…エイミーさん、それはどういうことですか?」


エリザヴェータ様が、地獄の底から響くような声を発した。そのすぐ横の公爵閣下の端正ながらも厳つい顔から、凄まじい勢いで血の気が失せていく。


あ…しもた。旦那さんが女の子をブン殴ったなんて話、やるべきじゃなかった。


「…ゲルハルト様、エイミーさんをブン殴ったって話、本当なのですか…?よりによって、女の子の、それもこんなに可愛らしい女の子の顔を…!?」

「…え、エリザヴェータ様、お待ち下さいまし。あれは、わたくしにも落ち度があったんです。当時の公爵閣下のお立場からすれば、わたくしはブン殴られて当然のことをやらかしたんですから…」


平生は穏やかで優しい雰囲気を持っているエリザヴェータ様が、その時は周囲に酷寒の凍気を産み出していた。…エリザヴェータ様も “氷魔法” のスキルの持ち主なんやな…しかもこの強烈な凍気から見ると、 “氷魔法” の加護を授かっておられるのかもだわ。…その加護が、アナに遺伝したと考えたら…うん。すげぇ納得だ。


◇◆◇


そのエリザヴェータ様は、お祝いの場に相応しくないブリザードを食堂内に席巻させ、冷たい激怒を以て公爵閣下を詰めていた。


「…ゲルハルト様…質問に答えて下さい…エイミーさんを、ブン殴ったというのは、本当のことなんですか!?」

「り…リザ、待ってくれ。わ、私の話を聞いてくれ」


そ、そうです!さっきも言ったけど、その時の公爵閣下はわたしをブン殴る正当な理由があったんです!だから、お怒りを鎮めて下さい!!


わたしだけでなく、アナやアレンさん、マーガレットにイザベラ、事情をアナから聞いていたオスカー、またアレンさんから事情を聞いていたであろうカテリナさんも混じって懸命にエリザヴェータ様を宥め、何とか事情を理解して貰った。


「…確かに、その指輪を見た時には私もアナを叱りました。貴族令嬢の自覚がないと…でもまさか、女の子の顔をブン殴るなんて…エイミーさん、仰って下さればよかったのに。あなたのご両親に、お詫びしなくてはなりませんでした」


まだ完全に怒りが収まり切っていないのか、エリザヴェータ様の優雅な肢体からは冷気が僅かに漏れ出ている。…いえ、それができない理由があったんです。


「それはまた、何故ですか?」

「最悪…いや確実に、東部冒険者ギルドとラムズレット騎士団との間で戦闘が起きると思ったためです」


公爵閣下がわたしをブン殴ったことを私のお父様が知った場合…その思考実験をわたしはエリザヴェータ様に説明した。


確実に、理性を飛ばしたお父様が公爵閣下に手袋を投げつけます。でもって、ヨハネスさん―東部冒険者ギルドのギルド長さんです―をはじめとする東部冒険者ギルドの皆さんがお父様の共闘者に立候補します。決闘の要求は、わたしに対する公爵閣下の三跪九叩頭レベルの謝罪です。


でもって、ラムズレット騎士団の騎士様たちはみんなそんなことをご主人様にさせるわけにいかないので、状況は決闘というよりも集団による戦闘になっちゃいます。最悪…いや、確実に人死(ひとじに)が出ます。


…その説明を聞いたエリザヴェータ様は、溜め息を吐いて立ち上がり、わたしに対して優雅な淑女の礼を執った。


「エイミー・フォン・ブレイエス嬢、あなたに対しわたくしの夫ゲルハルト・クライネル・フォン・ラムズレットが執った貴族にあるまじき挙、この通りお詫び申し上げます。お赦し頂けましたら、幸甚に存じます」

「と、とんでもございません!幾らアナ様のお幸せのためとはいえ、わたくしだって寄子の子弟にあるまじき挙を為してしまったんです!その不逞、この通りお詫び申し上げます!どうか、どうか、お赦し下さいませ!!」


わたしも慌てて立ち上がったかと思うと跪き、罪人の礼を執った。そこに発せられたるは、マーガレットとイザベラの苦り切った糾弾の声。そしてそれに続く、公爵閣下の恨みがましい声。


「…エイミー、他にも詫びるべきことがあるんじゃなくって?…あなたの失言のせいで、せっかくのアナ様のお誕生日パーティーが台無しになるところだったのよ」

「そうですよ?こんなところで、公爵閣下にブン殴られたことを言う必要なんか、どこにもないじゃないですか」

「…エイミー嬢、マーガレット嬢とイザベラ嬢の言う通りだ。…恨むぞ…」


うぎッ…返す言葉もございません…罪人の礼を解くことも叶わぬわたしを更に打ちのめしたのは、アレンさんの無慈悲なチャーハ…もとい、無慈悲な一撃。


「此度のエイミー様の失言に対する罰として、エイミー様の着用済み3点セットをかの神話級ド変態バカクズ廃太子の墓前に手向けて頂くを提唱致します。ご賛同下さる方は、ご起立を以て意思表明をお願い致します」


その場で、わたしを除く全員が立ち上がった。カテリナさんや公爵閣下にフリードリヒ公子様、エリザヴェータ様も例外ではない。…エリザヴェータ様、わたしってば、公爵閣下にブン殴られた被害者ですよね…?…ってか、カテリナさんやエリザヴェータ様、フリードリヒ公子様は3点セットの何たるかをご存知なんですか?


「それはそれ、これはこれです。エイミーさん、マーガレットさんの言う通りあなたの失言のせいでアナのお誕生日パーティーが台無しになってしまうところでしたのよ?…あと、3点セットの何たるかは夫から聞きました。…何と穢らわしい…そのような変態が、娘の婚約者だったなんて…」

「エイミー嬢、母の言う通りだ。私も、3点セットの何たるかは父から聞いた。しかし…全くおぞましい…斯様な変態を義弟に持つところだったとは…」

「エイミー様、私はアレンから聞きました。それにしても…気持ち悪い…そんな変態が王太子殿下だったなんて…」


3点セットの何たるかを知らなかった筈の3人の言葉に、その場の全員が頷いている。…そんな変態喜ばせてやる必要ないですよ…やめましょうよ…


「エイミー…済まないが、それはしてやれない。マーガレットの言う通り、お前の発言は大きな失言だったからな」


アナのその発言を受け、もはやわたしは罪人の礼を執ってるんだか頽れてるんだか判らない状態に陥ってしまっていた。しかし。


そこからトーンの変わったアナの声が、わたしの顔を上げさせた。


「だが…それほど素晴らしい魔力回復力を持つ魔力水をプレゼントしてくれて、ありがとう。ただ惜しむらくは、今の私の魔力ではそれほどの回復力がなくても枯渇状態から全回復してしまう。今の私の魔力では、この魔力水は宝の持ち腐れだ」


そこに、アナは強い決意を両の蒼氷色の瞳に美しく光らせ、凛然と言った。


「エイミー、私はお前がプレゼントしてくれたこの魔力水に恥じぬ魔力を、必ずや身に付けてみせる。この素晴らしい魔力回復力を以てしても、枯渇寸前状態から全回復できぬだけの魔力をな」


その言葉に伴って、アナはその絶世の美貌を不敵に笑ませた。…上等です。その宣戦布告(くつした)、受けて立ちましょう。ならば、わたしはあなたのその増強した魔力をも上回る回復力を持つ魔力水を作る、そのために更に魔力を高めてやりますよ。


◇◆◇


…何だか派手に話が脱線したが、その後でアレンさんがブリザードフェニックスの魔石を用いてわたしのステータスを確認した。それによると、わたしの魔力はSダブルプラスだったそうで、その場にいたみんながドン引きしていた。


…まぁ、暇にかまけてS級治癒魔法複数回分の治癒力を持つ魔力回復用の魔力水を作ったりとか、新しいS級治癒魔法の確立のために色々実験やったりとか、E級ピンポン玉をE級ビーズの大きさまで圧縮したりしてたしなぁ…あれ、めたくそ魔力を消費するし時間もかかるんよ。治癒魔法の威力を増強するための内服薬の材料としてならともかく、S級治癒魔法の『触媒』としては残念ながら使えねぇ。


毎日そないなことやっとったら、そらぁ毎日魔力枯渇ギリになって、魔力も超回復でガンガン増強されるわ。…それにしてもアレンさん、他者のステータスも確認できるんですね。ほんともう、何でもありですね。


「…エイミー様、あなたヒロ…ゲフンガフン。昔ちょっとしたことで身に付けたスキルで、アイテムの価値や他者のステータスを見ることができるんです。…エイミー様なら、ご存知だと思ったんですが…」


アレンさんの呆れ果てたようなジト目を向けられて、殆ど忘れかけていた、そしてもはや無用の長物になってしまったゲームの知識を再確認した。…あぁ、言われてみりゃぁそんなんあったわ。確か、 “餡蜜” や “蓮根” と同じ、スクロールをゲットすることで得られるチートスキルですよね。アレンさん、そのチートスキル、名前何てぇんでしたっけ?何か、ゼリーとかの材料みたくな名前でしたよね?


「…エイミー様が何と勘違いしておられるのか判りませんが、 “鑑定” のスキルです。ゼリーの材料とは関係ないですよ」


…そう!それだ! “寒天” のスキルだ!!


「… “鑑定” です。エイミー様、絶対わざとやっておられますよね?」

口は禍の元です。あと、いい塩梅にチートスキルを全部、

食材ないし食べ物で揃えることができました。

…あ、全部じゃねぇや。『多重詠唱』と、『無詠唱』が残ってた。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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