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第171話 ヒロインはいともあっさりと町人Aに爵位で抜かれる

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

王都ルールデンが二体のスカイドラゴンの襲撃―この表現は正しくねぇな、人的物的被害は全く出なかったんだから―を受けた日の一週間後、近衛騎士団本部にてアレンさんの騎士爵授与式が行われた。


…え?アレンさんが上げた功績は伯爵叙爵相当なのに、何で騎士爵授与かって?


これは、国王陛下とラムズレット公爵閣下、それにアレンさんの三人で話し合って決めたことらしい。前に言ったように、平民からいきなり子爵叙爵というのは建国期に一例あっただけである。伯爵叙爵に至っては、その例すらない。


そして、男爵以上の叙爵や陞爵となると、それに伴って家名や領土をどのように扱うかが問題になってくる。それを決めるのが、結構面倒臭(めんどくさ)くて時間もかかるのだ。


そしてその間、アレンさんはただの平民のまま、ということになる。それじゃまずいってんで、とりあえず騎士爵を授与して貴族の一員ということにしてしまおう、ということのようであった。


◇◆◇


それはいいのだが、アレンさんが最終的にゲットできる爵位と彼に与えられる領土の話で揉めているらしい。アレンさんの庇護者である公爵閣下は、ブルゼーニ地方を領土として認めさせ、伯爵位を授与するように要求しているのだが、国王陛下は子爵位授与に留めることとラムズレット公爵領の一部を割譲して彼の領土にすることを要求しているそうだ。


「どっちも、交渉術としてそんなことを言っているんですけどね」


アレンさんはそう言っていた。公爵閣下の要求は国王陛下にとって、また国王陛下の要求は公爵閣下にとって決して認められないものだ。そこから、適切な落とし所を探っていくということらしい。


まず、陛下が公爵閣下の要求を認められない理由として、アレンさんは既にラムズレット公爵家の寄子になることが決定されてしまっている。ブルゼーニ全土奪還の立役者となった強力な青年貴族がラムズレット閥に入るという一事だけで、国内のパワーバランスが不安定なものになってしまうことは想像に難くない。


その上に伯爵位まで授与して、おまけに広大かつ肥沃な穀倉地帯であるブルゼーニ地方まで領土にくれてやるわけにはいかないというのが国王陛下の本音だ。


一方で、公爵閣下の言い分はこうだ。


国王陛下がアレンに下した勅命は、『戦況を一変させろ。そしたら、子爵陞爵させたる』というものだったじゃんか。アレンの功績は、戦況を一変させただけでなく、ブルゼーニ全土奪還に絶大な寄与を齎したものだから子爵陞爵だけじゃ足りねぇだろ?それだけじゃなくって、アレンは特大花火をブチ上げてきたんだぞ?


◇◆◇


何と、アレンさんはブルゼーニの中心都市である要塞都市カルダチアを陥落させた後であのグライダーのようなもので空を飛んでエスト帝国の帝都に赴き、皇宮を重点的に爆撃して焼け焦げた瓦礫の山にしてきたらしい。


何でも、帝都の住民を巻き添えにするのはちょっとアレだと思ったから皇宮だけ爆撃したということだ。そのことをわたしたちに教えてくれたのはアナだが、彼女はその時に「強いだけでなく、民草のことを(おもんばか)る優しさもある。私は、素晴らしい男性に愛して貰えた」とか言ってた。…せやから、惚気んでいいですから!


しかしながらその結果エスト帝国の重鎮連中が軒並み『不幸な事故』で逝っちゃったため、結果的に帝国全土の治安を維持する者がいなくなってしまい、その結果帝都はお察し下さい状態に、また広大なエスト帝国全域が戦国時代状態になってしまったことでアレンさんが自己嫌悪に陥っていた。


「殺さなくっても、リアル北○の拳状態の渦中に叩き込んでしまっては意味ないですよね…はぁ、俺はあほだ」


そう言って落ち込んでしまったアレンさんを、懸命にアナが慰めて元気付け、最終的には二人はお互いの優しさを称え合った挙句抱き合って熱いベーゼを交わしていた。ちなみに、その場にいたわたしやマーガレット、イザベラやオスカーは途中で逃げ出している。お邪魔虫になるのが嫌だ、というわけじゃなくって…その、ね…何か、あの二人のラブシーンには()てられるんよ…


まぁそれはどうでもいい。大事なことは、エスト帝国が空中分解、四分五裂、バラバラになってしまった結果セントラーレン建国以来の安全保障上の懸念事項が綺麗にすっ飛んじまったということである。


そのことについて、公爵閣下は『この功績は、一代に限っての侯爵…いや、公爵陞爵ですらおかしくねぇレベルだぞ?それほどのクソデカ功績上げたのに、何で子爵陞爵に留めとくねん?』と言っているのだ。


おまけに、ラムズレット公爵領を削って領地を与えるとか、何考えとんねん?アレンはお国のために戦って功績を上げたんやぞ?せやから、お国が領地を与えるのがスジってもんやあれへんのんか?


…これが、公爵閣下の言い分だ。それに対して国王陛下は、それはもうぐぬぬっていたらしい。それでも最終的な爵位と領地について、決定的な言質を与えなかったんだからやはり一国の国王は違うわ。


◇◆◇


まぁそんなところで協議は難航しているのだが、とにかく子爵までは上げよう、それ以降はその後で考えようということで決まったらしい。


そんなわけで、昨日アレンさんは近衛騎士団長のジュークス子爵様から騎士爵授与の辞令と騎士爵被授与者が胸に付けるメダルを受け取ってきた。騎士爵授与式では、近衛騎士団長がそれらを被授与者に与えるそうである。


これが男爵や子爵であれば、宰相閣下が辞令と謁見用の正装及び装飾具を与えるのだ。伯爵以上であれば、国王陛下がそれらを手ずから授与することになる。


なお、与えられる装飾具は、男爵は何もなく、子爵には飾緒、伯爵は加えてモール付きの肩章である。侯爵はそれに加えて右肩から左肋にかけるサッシュを、また公爵は更に肩章で止めるマントを与えられる。


それはともかく、アレンさんが貰ってきたメダルを肴にしていつものメンバーで教室で休み時間にくっ(たべ)っていると、先生が入ってきてアレンさんを呼んだ。


「アレン卿、宰相閣下がお呼びです。王城に向かって下さい。迎えの馬車も、用意されています」「…?承知致しました。今すぐ伺います」


宰相閣下がアレンさんを呼んだの?何でだろ?


◇◆◇


答えは翌日に出た。アレンさんが、男爵叙爵の辞令を見せてくれたのである。


「…騎士爵を得て一日で男爵叙爵ですか…」


オスカーが、半ば呆れたような声を出した。アレンさんの話によると、やはり平民から一足飛びでの男爵叙爵というのは色々と問題があるらしい。それで、こんな一種型破りなことをやったのだろうと。


そう言えば、わたしの父方の祖父は男爵叙爵を受ける前は一山当てた冒険者で、そのお金に飽かせて騎士爵を買っていたそうだ。だからエスト帝国との戦いで大功を上げた際に、問題なく男爵叙爵を受けることができたそうだ。


まぁとにかく朗報である。わたしはアレンさんに向き直り、祝福の拍手を送った。


「アレンさん、男爵叙爵おめでとうございます」

「あぁ、そうだな。まずはそのことをお祝いするべきだ。アレン、おめでとう」

「アレン君、おめでとう」

「アレンさん、おめでとう」

「アレンさん、おめでとうございます」


皆に祝福の言葉と拍手を送られ、アレンさんはどこか恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうにお礼を返してくれた。


「皆さん、ありがとうございます」


◇◆◇


…その一週間後、アレンさんは子爵陞爵の辞令と飾緒を宰相閣下から受け取った。


「…朗報は、朗報だ。アレン、おめでとう」

「…あ、うん…アナ、ありがとう…」


その類稀な美貌に無数の縦線を引いたアナから祝福の言葉を受け、どこか掠れた声でアレンさんはお礼を返した。


「…面倒臭いことはさっさとやってしまおうってことかしら?…まぁとにかく、アナ様が仰る通り朗報は朗報よね。アレン君、おめでとう」

「…マーガレット様、ありがとうございます…」


呆れたような引き笑いに口元をひくつかせたマーガレットの祝福に応えたアレンさんの声は、更に掠れていた。


「…家名も領地も持たない子爵なんて、前代未聞ですね…でも、確かに朗報は朗報です…アレンさん、おめでとう」

「…イザベラ様、ありがとうございます…」


爵位で並ばれてしまったイザベラの祝福に、コップの中の水を飲み干して声の掠れを漸く癒したアレンさんがお礼を返した。


「…ちょっと扱いが雑すぎませんかね…でもまぁ、皆さんの言う通り朗報は朗報です。アレンさん、おめでとうございます」

「…こんなあっさり爵位で抜かれるとか…爵位って、こんなにいい加減な扱いでいいんですか…?でも、確かに朗報ですね…アレンさん、おめでとうございます」

「…ウィムレット公子様、エイミー様、ありがとうございます…」


どうしてこうなったかというと、アレンさんの子爵陞爵は前にも言った通り既定路線だったためである。…つまり、最終的な爵位と領地はまだ未定だが、あれだけの大功を上げた人物をそのまま平民として放っておくのはまずいので、既定路線をさっさと走らせちまおうとお偉いさん方が考えたのだ。


その結果、このように黒髪のペテン師の昇進を彷彿とさせる陞爵の前例ができ上がっちまったのである。…アレンさん、お気持ちは如何ですか?


「…何だか、実感が湧かないってのもありますけど、騎士爵位と男爵位に奇妙な愛着を感じるというか…もっと騎士爵や男爵でいたかったような気がするんです…」


…黒髪のペテン師と同じようなこと言うとる…


◇◆◇


さてアレンさんは無事に貴族の仲間入りを果たすことができたのだが、さっきイザベラが言ったように家名も領地も持っていない。理由は簡単で、家名は領地の地名に直結するためである。


アナの実家であるラムズレット公爵家が治める領地は、ラムズレット州と呼ばれる広大な穀倉地帯である。


オスカーの実家であるウィムレット侯爵家は、ウィムレット地方と呼ばれる一大商工業地域を領地としている。この国最大の商会であるウィムレット商会の本部も、そのウィムレット地方にある。ちなみにウィムレット地方には、この国最大の鉄鉱山が存在し、ウィムレット地方は鉄鉱石の一大産地として有名である。


マーガレットの実家であるアルトムント伯爵家の領地は、アルトムント市と呼ばれる都市を中心としたアルトムント郡である。ちなみに、アルトムント郡はオーク肉の一大産地であることは前に述べたが、ラムズレット州の中にある。


イザベラの実家であるリュインベルグ子爵家は、リュインベルグ市と言われる都市の領主様である。これもアルトムント市同様、ラムズレット州の中にある。


まぁバインツ伯爵家やジュークス子爵家、そして我がブレイエス男爵家のように領地を持たない貴族家もあるのだが、前の二者はこの国の政治を差配する、言わば政治家貴族であり、ブレイエス男爵家は新興貴族であるためだ。


基本的に男爵家や子爵家は村や町や都市を、伯爵家はそれらを中心とする郡を、侯爵家は郡が幾つか集まった地方を、そして公爵家は地方が幾つか集まった州を領地とするのだが、今回アレン無双でセントラーレンが手に入れたブルゼーニ地方はまさにその『地方』の呼称に値する広大な土地だ。おまけに肥沃な穀倉地帯でもあり、その面積も領地としての価値も侯爵家の領地級のものを有している。


そんなもんを何ぼ大功を上げたからって伯爵家、それも新興貴族の領地にしろと言うのは、確かに無理がある。更に言えば、寄子貴族の領地は先にも述べたように寄親貴族の領地内に存在しているため、ラムズレット公爵領の一部をアレンさんの領地にしろ、という国王陛下の主張には相応の理がある。


だが、お国のために戦って功績を上げた者の領地を、何でラムズレットが自腹を切って用意してやらにゃあかんのや、という公爵閣下の主張もまた理屈だ。


「だから、ブルゼーニを丸ごと俺の領地にする、という要求は通らないでしょうね。公爵閣下も俺も、そこは諦めて伯爵陞爵をメインのターゲットにしてます」


アレンさんはそう言っていた。それじゃぁ、ラムズレット公爵領の一部を切り取ってアレンさんの領地にするんですか?


「それは流石に公爵閣下に申し訳ないですよ。俺が領地としたい場所は、他にあるんです。その場所でいいかどうか公爵閣下に聞いてみたら、『そこなら陛下も首を縦に振るだろう』って仰って下さいました」


そこが何処かは教えてくれなかった。残念。まぁいずれ判るだろう。

爵位に伴う正装や装飾具、また領地の扱いは

独自設定をブチ込んでみました。


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本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


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頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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