第170話 悪役令嬢の父親は町人Aの “親友” を利用する
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
事情をアナとアレンさんから聞いたオスカーは、女性的ながら最近とみに精悍さを増してきた美貌を引き攣らせて口を開いた。
「…スカイドラゴンが親友だなんて…アレンさん、あなた一体何者なんですか…」
…うん。イザベラも同じこと言うとったけど、あなたもそう思いますよね…そのオスカーの疑問に対し、アレンさんは両掌を天に向けて戯けてみせた。
「人を化け物みたく言わないで下さい。俺はこの通り、ただのモブの平民ですよ?それに比べたら、ウィムレット公子様は攻略対象で、エイミー様はヒロインで、アナは悪役令嬢ですよ?マーガレット様やイザベラ様は、取り巻き令嬢ですよ?…メリッサちゃん、ジェローム君、こちらはオスカー・フォン・ウィムレット公子様だよ。ウィムレット公子様も、アナや俺の友だちなんだ」
メタい発言はやめて下さい。みんな訳が判らなくて、首捻ってるじゃないですか。…そこに、メリッサさんが巨体を割り込ませて会話に入った。
「オスカーさん、初めまして。スカイドラゴンのメリッサです。こっちはあたしの夫で、ジェロームって言うの。ほらジェリー、あんたもご挨拶しなさい」
「こ、こんにちは。じぇ、ジェロームです。す、スカイドラゴンです」
…さっきも言うたけど、見たら判ります。
◇◆◇
メリッサさんが、詳しい事情を説明してくれた。元々二体ともワイバーンロードで、番になることによって風の神様の加護を受けてスカイドラゴンになったらしい。そして、アレンさんがその婚活のお手伝いをしたそうだ。
アレンさんは「俺は何もしてないんですけどね…」と言って苦笑していたが、二体ともそうは思っていないようである。
「だから、あたしもジェリーもアレンさんには大きな恩義があるの。その恩義を返す機会を伺っていたんだけど、漸くその機会が来たってことね。あ、それとアナちゃんを守るお手伝いも、喜んでさせて貰うわね」
「ありがとう!お礼に、こいつを用意したんだ。たくさん食べてくれ」
アレンさんはマジックバッグを取り出し、封を開けて逆さにした。すると…あり得ない量の牛肉とオーク肉がそこに積み重なる。…いや、マジックバッグはその容量からはあり得ないくらいの物を収納することができるのは知ってますけどね…
「ありがとう!さすがアレンさん、気が利くわね!さすアレね!!」
そう言って、メリッサさんが嬉々として齧り付く。それを物欲しげに見ていたジェロームさんに、アレンさんが苦笑とともにもう一つのマジックバッグを向けた。
「ジェローム君も、欲しかったら言いなよ?ほら、これはジェローム君の分だ」
「あ、ありがとう!あ、アレンさん、ぼ、僕もメリッサちゃんと一緒に、あ、アナさんを守るお手伝いをさせて貰うから、ど、泥舟に乗ったつもりでいてよね!」
…「そこは泥舟やなくって大舟や」って、ツッコんだ方がいいんだろか。
◇◆◇
そこに多くの護衛騎士様を従えて、セントラーレン王家の家紋が入った馬車がやってきた。その場にいた全員が、臣下の礼もしくは淑女の礼を執る。その光景に、メリッサさんが跪くような臣下の礼を示しているアレンさんに問いかけた。
「アレンさん、どうしたの?」「この国の王様がやってきたんだ」
やがて馬車が止まり、そこから国王・王妃両陛下とラムズレット公爵閣下が下車した。国王陛下と公爵閣下は臣下の礼を執り、王妃陛下は淑女の礼を執る。護衛騎士様たちも、臣下の礼を執っていた。…やがて、国王陛下の戯けたような声がした。
「臣下の礼など、久しぶりに執るな。先王陛下がご存命の時以来だ」
「陛下、おちゃらけはお控えなさりませ。神獣の御前ですぞ」
やがて、陛下は端然たる臣下の礼を執ったまま、礼儀正しくも威厳に満ちた声で、メリッサさんとジェロームさんに挨拶の声を向けた。
「セントラーレン王国国王、バルティーユ・マンフレート・フォン・セントラーレンにございます。此度は、神獣と名高きスカイドラゴンのお二方様を当国王都にお迎えできましたこと誠に光栄至極、心からご歓迎申し上げます」
それに、王妃陛下の挨拶が続く。
「バルティーユ・マンフレートが妻、クラリスにござります。妾どもは無知にして神獣に在らせられるお方に対する礼を知らず、貴人を迎えるの礼を以てご挨拶させて頂きます。非礼の段これありましたら、お許し下されましたら幸甚に存じます」
それに対して、メリッサさんは平常運転のような答えを返した。
「…やっぱり長いわね。そんな、しゃっちょこ張った挨拶しなくてもいいわよ。スカイドラゴンのメリッサです。こっちがあたしの夫の、ジェローム。ジェリー、あんたも王様とお妃様にご挨拶しなさい」
「う、うん。じぇ、ジェロームです。す、スカイドラゴンです」
…いやだから、見りゃ判りますから。
◇◆◇
そして、全員が臣下の礼もしくは淑女の礼を解いた後。
国王陛下に対して、メリッサさんが今回ルールデンを訪問した理由を述べている。アレンさんが彼女とジェロームさんを招待したのではなく、彼女たちがアレンさんに会いたくてルールデンに来た、という形にしたのだ。
「アレンさんが普段住んでる場所がどんなところか知りたかったのもあるし、人間たちがどんな風に暮らしてるかも見てみたかったのよ。だから、アレンさんは悪くないわ。王様、お妃様、みんなをびっくりさせちゃったみたいでごめんなさい」
「そ、そのような謝罪などご無用に願います。神獣と名高きお方を目の当たりにするは、ここに暮らしおる民草は言うに及ばず予どもも経験がございませなんだ故」
国王陛下が敬語を使う光景なんて、かなしレアケースだよな。
「あ、あと王様とお妃様、あ、アレンさんは、め、メリッサちゃんと僕の、だ、大事な友達なんです。だ、だからアレンさんが、あ、危ない目に遭わされることがあったら、ぜ、絶対に許さないんで、お、覚えておいて下さい」
「そうね。王様、お妃様、あと他の皆さんもそれだけは覚えておいてね」
ジェロームさんの言葉に、メリッサさんが大きく頷いている。一方で両陛下や護衛騎士様たちの顔は強張っていた。…言うまでもない、恐怖のためにである。
「む、無論にございます。アレン卿は我が国にあってもかけがえのない大英雄、その大英雄を遇するの道は、予どもも十分に承知致しおります」
「お、夫が申しますこと、嘘偽りはございません。ど、どうかアレン卿のこと、ジェローム様とメリッサ様にはご安心下されたく、お願い申し上げます」
その様子を見たメリッサさんの様子が変わる。どうやら、苦笑したようだ。
「あたしは何も、アレンさんを依怙贔屓しろって言ってるわけじゃないのよ。ただ、アレンさんが不当に貶められたり、危害を加えられるようなことがあったら黙っていないってだけで、ね」
「そ、そうです、あ、アレンさんが悪いことしたら、ば、罰してもいいんです」
「おいジェローム君、俺はそんなことしねぇよ」
アレンさんが苦笑混じりにジェロームさんにツッコミを入れた。それに少し遅れてメリッサさんの尻尾がジェロームさんの頭部に命中し、ずん、と重い音が辺りに響く。…これは、漫才で言うところの「なんでやねん」という奴だろうか?
「全くあんたは、何バカなこと言ってるのよ。アレンさんが悪いことなんて、するわけがないでしょう?」「い、痛い!」
そうやって戯れ合う神獣二人に、ラムズレット公爵閣下が声をかけた。
「ジェローム様、メリッサ様、先ほども申しましたるように、私はアレン殿と愚女の仲を認め、婚約の儀を進める予定です。更に申し上げれば、アレン殿は先の敵国との戦で大功を上げ、貴族に列せられることが確定しております。そこで、彼を我がラムズレット公爵家の直系寄子として迎えたいのですが、お二方のお許しを頂きたく、伏してお願い申し上げる次第にございます」
…一瞬、公爵閣下が何を言ったのかよく判らなかった。何で、貴族としてのアレンさんを、ラムズレットの直系寄子にするためにメリッサさんやジェロームさんの許可を取ろうとしてるの?本来、それは国王陛下から貰うもんじゃねぇの?
…あ、そっか!強力すぎる力を持つアレンさんを、国王陛下はラムズレットの寄子にしたくねぇんだった!片や、公爵閣下はどうしてもアレンさんを寄子として取り込みたい!だとしたら、ここでメリッサさんやジェロームさんに認めて貰ってしまって、それを切り札にしちまうつもりなんだ!!
…つくづくパネェ!本当の貴族、マヂパネェ!!
国王陛下の権力よりも、スカイドラゴン二体の純粋な力の方がここでは圧倒的にモノを言う。おまけに、神獣のお墨付きともなれば神様にお許しを頂いたようなものだ。わたしのその推察を証明するように、国王陛下は苦い視線を公爵閣下に送っている。それを受ける公爵閣下は、ニヤつきが止まらない様子だ。
「えっと…よく判んないんだけど、ヨリコって何なの?」
「アナのお父さんはね、貴族としての俺を子分にしたいって言ってくれてるんだ。俺もアナのお父さんの子分になりたいから、許可を出してあげてくれるかな?」
「ふーん…アレンさんがそうしたいってんなら、そうしたらいいんじゃない?」
あっさりとメリッサさんのお許しが出て、国王陛下の顔が更に苦くなった。一方で、公爵閣下はその場に跪いて臣下の礼を執り、メリッサさんとジェロームさんにお礼を述べている。頭を垂れているため見ることはできないが、多分その顔はしてやったりと悪い笑みを浮かべていることだろう。
◇◆◇
そろそろメリッサさんとジェロームさんが飛竜の谷に帰る、というのでアナとアレンさんが二人と別れの挨拶を交わしている。
「メリッサちゃん、ジェローム君、今日は来てくれてありがとう。また俺たちも、飛竜の谷に遊びに行かせて貰うよ」
「私からも礼を言わせてくれ。メリッサ、ジェローム、今日は来てくれてありがとう。また遊びに来てくれ…とは軽々しく言うことはできないな…また、ルールデンが大騒ぎになってしまうからな」
その二人の挨拶に、メリッサさんとジェロームさんがにこやかに答えている。
「こちらこそ、今日はお役に立てて嬉しいわ。またきっと、遊びに来てね」
「あ、アレンさんも、あ、アナさんもまた来て下さい」
その傍では、国王陛下と公爵閣下がちょっと険悪な会話を繰り広げていた。国王陛下の表情には苦い怒りが滲み出て、公爵閣下は悪い笑みを絶やそうとしていない。
「ラムズレット公…そなた、上手いことやりおったな…神獣を盾に取られては、予も認めざるを得ぬではないか…いつもそうだ、予は、何につけそなたの後塵を拝し続けて参った…何とも、忌々しいことよ」
「畏れながら陛下、臣が先にアレンに目を付けてございます。後から来て横取りは、一天万乗の君のなさることではございませぬぞ」
ぶぁさっ!!
そこに、強い風圧がかかり、その場にいた全員がよろめいた。…わたし以外は。わたしは、その強い風圧に抗すること適わず、すっ転んでしまったのである。…全部この、矮躯痩身が悪いんだ。畜生。
メリッサさんとジェロームさんがその巨大な翼で空に舞い上がり、それによって強い風圧が生じたのであった。
「アレンさん、アナちゃん、また来てね!」
「あ、アレンさん、アナさん、こ、これからも宜しく!」
「メリッサちゃん、ジェローム君、今日はありがとう!」
「メリッサ、ジェローム、向後もよしなにな!」
種族を超えた友情を別れの挨拶に示し、二体の神獣は天空に舞った。
その様子に、皆が好意的な視線を送っている。さっきまでちょっと険悪そうに見えた国王陛下や公爵閣下も例外ではなかった。
と、国王陛下が悪戯っぽく笑い、「アレンよ、ちょっと近うに」とアレンさんに声をかけた。少し慌てて国王陛下の前に進み出、臣下の礼を執ったアレンさんの前に屈み込んで笑いを含んだ声を向ける。
「アレンよ、公の婿いびりが辛かったら遠慮なく予や王妃に申すがよいぞ」
「…陛下ッ!お戯れは、おやめなさいませッ!!」
その、国王陛下と公爵閣下の会話に、その場にいた全員が笑ってしまった。すっ転んだ挙句尻餅をついていたわたしも、例外ではなかった。
原作でもスカイドラゴンの守護を得ていることを
利用していたので、拙作でも利用させて頂きました。
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