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第168話 ヒロインは町人Aの “親友” の素性にもう一度驚く

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

アナとアレンさんが、ヴィーヒェンから帰ってきた。二人とも、昨日の国王陛下への謁見直後の苦く険しく難しい顔とは打って変わって、側から見ているだけでも幸せなことが判る満面の笑顔である。


殊に、アナの笑顔はもう見ているこっちまで幸せになれそうな美しさと愛らしさを兼ね備えた、わたしに絵心があったらその場で肖像画を描いていてもおかしくないほどの素晴らしい笑顔だった。


…おい知ってるか!?この素晴らしい笑顔を、全世界のG D Pをかき集めても贖えない宝物を泥中に投げ捨て、挙句の果てにはわんこの落とし物を踏んだ靴で踏み躙ろうとした神話級ド変態バカクズ廃太子がいたらしいぞ!?


…まぁとにかく、公爵閣下との面談でアナとアレンさんが何か愁眉を開くようなことがあったのは間違いない。それがどんななのかは判らんが。


そして、ヴィーヒェンから帰ってきた翌日にアレンさんは国王陛下に謁見し、アレンさんの大功に対する褒賞の扱いについては、アレンさんは『ラムズレット公爵家お抱えの冒険者』であるため庇護者であるラムズレット公爵閣下の意向を無視できないことを陛下に伝えたということだ。


従って、その扱いは公爵閣下がルールデンに戻ってから、陛下と公爵閣下の話し合いによって決めて頂きたい。アレンさんは、そう国王陛下に言上申し上げたそうだ。それを聞いた国王陛下の顔は、苦々しく引き攣っていたそうである。


ちなみに、おそらくより肝心な事案である、公爵閣下がアナとアレンさんの仲を認めるか否かについては、全く問題なかった。何しろアレンさんは、ブルゼーニ地方全土奪還の立役者である。


そのことを知った公爵閣下は、『ラムズレット公爵家の名誉にかけて』アナとアレンさんの婚約を認め、しかも彼をお抱え冒険者として庇護するラムズレット公爵家当主として、アレンさんの功績に対する褒賞についてのセントラーレン王家との交渉を引き受けると宣告したそうだ。満額回答の、極彩色の見本である。


そのことをアナから聞いたマーガレットとイザベラ、そしてわたしが黄色い歓声を上げたのは言うまでもなく、そしてその話をわたしたちに教えてくれたアナが本当に幸せそうな、美しくも愛らしい笑顔でいたことも言うまでもない。


…おい知ってるか!?…って、もういいや。こんないい話に、神話級ド変態バカクズ廃太子の話を入れて穢したりしたら勿体ない。


しかもそれだけではない、もう一つ強烈な特大花火をアレンさんはエスト帝国内でブチ上げてきたらしい。その花火の内容は、国王陛下には話さなかったけど公爵閣下には話したと、アレンさんは言っていた。


その花火が何であるかは、公爵閣下とアナの二人だけが知っている様子だった。少なからず興味はあるが、まぁいいや。いずれ、教えてもいいってことになったらアレンさんが教えてくれるだろう。


◇◆◇


その十日後に、ラムズレット公爵閣下がルールデンに戻ってきた。それも、かつて本国に帰っていたザウス王国の在セントラーレン大使を伴って、である。


ザウス王国はエスト帝国と同盟を結んでいたため、セントラーレン王国にエストが侵攻すると同時に大使を帰国させていた。どうやら、エストがブルゼーニ地域全土を陥としてセントラーレン本土に侵攻する、そのタイミングでザウスもセントラーレンに侵攻する予定だったらしい。


しかし、その予定は見事にブッ潰れた。…つーか、アレンさんがブッ潰した。


十日前にアナとアレンさんによって齎された捷報を、公爵閣下はムダにしなかった。カルダチアを含むブルゼーニ地方全土をセントラーレン王国が奪還したことと、アレンさんがブチ上げた強烈な特大花火の話を、公爵閣下はザウス王国の王都フラーヴィに特使を送って伝えたそうである。


これで、エストとザウスが目論んでいたセントラーレン侵攻計画はパァになってしまった。おまけに、アレンさんの特大花火に伴ってエスト帝国の皇帝や皇族をはじめとした最高重鎮連中が悉く『不幸な事故』に遭ってしまったらしく、エスト帝国は対外侵略戦争どころか国内も碌にまとまらない、まるでゲーム本編のセントラーレンのような状態に陥ってしまったらしい。


こうなっては、ザウスもエストと手を結ぶメリットなんぞ全くない。寧ろ矛を逆しまにして、エストを切り取り次第にした方がいい。そこで、本国に帰国していた在セントラーレン大使を慌ててセントラーレンに戻すことにした、ということだ。


ついでに、過去にエストとつるんで要らんちょっかいをセントラーレンにかけ続けていたことへの謝罪と賠償も要求したらしい。さもなくば、エストを切り取り次第にしている隙を突いてセントラーレンがザウスへ空き巣に入りかねないと。


「無論私はそのようなことをするつもりはないが、我が国の国王陛下がどう思われるか、ですな。エスト程ではないにせよ、貴国は我が国に相当な量の煮え湯をご馳走して下さいましたからな」


ルールデンへの帰途で、公爵閣下はニコニコ笑ってザウスの大使にそう言ったらしい。それに対し、ザウスの大使は冷や汗で服をぐしょぐしょに濡らして吃りまくりつつも以下のように答えたそうだ。


「ま、真に…も、申し訳なく…こ、心よりお詫び申し上げます。な、何しろ、わ、私の身内に不幸がございまして…きゅ、急なことでしたので、き、貴国の国王陛下にも、ろ、碌にご挨拶ができませず…」


そりゃおかわいそうに。その、実在するかどうか判らないけど、お身内の方のご冥福を心からお祈り申し上げます。


◇◆◇


さてそんな今、わたしたちは王立高等学園の食堂でランチを楽しんでいる。…へ?戦時体制移行とそれに伴う期限未定の休校はどうなったって?…それがねぇ…何か、なし崩し的に解かれちゃったのよ。


まず、国王陛下はブルゼーニ地方全域を支配した時点でエスト帝国に特使を送って降伏勧告をしたんよ。そしたらさ?エスト帝国の帝都が無政府状態に陥って、モヒカンがバイクでヒャッハー状態だったらしいんよ。


その報を受けたアレンさんが頭を抱えて、「エストの皇族を一人くらい生かしておけばよかった…」って言ってたから、多分彼がブチ上げた特大花火のせいなんだろうと思うけど、まぁとにかく降伏勧告をする相手もいない有様だったらしい。


おまけに、帝国の領地持ち貴族はみんな本領に戻ってしまい、自領を安泰にするのが一杯一杯で、他領や況して他国の事情に構っていられなくなってしまった。帰ってきた特使によると、帝都の現状はヨハネスブルグコピペの900%増しの状況で、特使一行はほうほうの体で逃げ帰ってきたらしい。


これではしょうがないので、セントラーレン王国は勝手に今回の戦争の勝利宣言を宣告した、ということだ。それと同時に戦時体制も期限未定の休校も解かれちまった、ということである。何かグダグダだが、建国以来の安全保障上の懸念が取り除かれたんだからまぁいいや、ということになったらしい。


さてそんな中。学徒動員に応召したものの後方支援の任務に就いてばかりで弓術の腕前を披露することができなかったオスカーが、たった一人で今回の大捷を齎したアレンさんに激賞と尊敬の弁を向けていた。


「アレンさん、私が言うのも何ですが素晴らしい大功を挙げられましたね。ラムズレット公爵閣下がアナスタシア様との仲をお認めになられたのも道理ですよ」

「ウィムレット公子様、ありがとうございます。俺が今回これだけのことをやれたのも、公子様をはじめ後方で支援して下さった皆様のおかげです」


オスカーはその言葉に、面映(おもはゆ)そうな表情を見せた。


「そう仰って頂けると嬉しいですね。アレンさんの活躍に比べたら、何もやってないんじゃないかって思っていましたから」


それにしても、とオスカーは更に称賛の言葉を繋いだ。


「アレンさん、空を飛べるなんて聞いてませんでしたよ。しかも、それで敵軍を一方的に蹂躙したっていうんだから、もうびっくりしましたよ」


しかし、オスカーは素直な賞賛だけで済まさなかった。それまでの笑顔を吹き消し、真顔になってアレンさんに深刻な声を向けたのである。


「でもアレンさん、くれぐれもお気を付け下さい。『高所を飛ぶ鳥を射落とすことのできる弓は、鳥が射尽くされたら折られて焚き付けにされる』と言います」


オスカーの言葉に、アレンさんも、その横にいたアナも、そしてマーガレットやイザベラ、それにわたしも顔を険しくさせられた。…しかし、死蔵されるんじゃなくって折られて焚き付けにされるんかい…まぁ、狡兎が死ねば良狗は煮られて食われるし、敵国が破れれば謀臣も亡ぶからなぁ…


「そんなことになったら、誰よりもアナスタシア様が悲しまれます。勿論、私たちだって悲しみます。国王陛下はあれで、策謀家でいらっしゃいますから」

「…判っています。いや…判っているつもりです」


前世の歴史を紐解いても、そんな例は山ほどある。建国・救国の大英雄は、戦争が終わった途端に叛逆者候補になるのだ。実際に叛逆を企てなくても、宮廷内の陥穽に引っ掛かって破滅させられた事例だって枚挙に暇ない。


「…ウィムレット公子、忠告感謝する。そうならないようにするのが、アレンの庇護者たる私たちラムズレット家の役目だ。…アレン、アレンは私のためにこれまで懸命に戦ってくれた。次は、私やお父様にアレンを守らせて欲しい」

「…アナ、ありがとう。男が女の子に守られるのも何だかアレだけど…」

「そうではない。アレンは、貴族社会の恐ろしさ、そこで渦巻く謀略の凄惨さを知らない。何でもないようなことが、命取りになりかねないのだ」


アレンさんはアナの言葉に、顔を強張らせた。…そんなに、貴族社会って恐ろしいんかい…こちとら、男爵家令嬢だけど初めて知ったぞ…


アレンさんは暫く顔を強張らせていたが、不意に思慮深げな顔をすると「…そうか…そういうことなら、あの二人に事情を説明したら協力してくれるかな…?」と呟き、そして、わたしたちに向き直って言った。


「皆様、ご心配頂いて、ありがとうございます。ですが、俺には謀殺されない自信があります。どうか、ご安心下さい」


へ?なして謀殺されない自信があるのよ?


疑問符を前面に貼り付けたわたしたちに、アレンさんは自信に満ちた力強い笑みを見せながら、恒例の放課後の自習会を休ませて欲しいと言った。


◇◆◇


その翌朝。ルールデンは、大混乱に陥った。…いやだってよ、王立高等学園の貴族用女子寮の前の広場に、いきなり空の王者として知られるスカイドラゴンがその巨体を、それも二体も佇ませてるんだぞ!?


その周囲を、見たこともないような大人数がおっかなびっくり遠巻きに眺めていた。ひょっとしたら、ルールデン中の人間が集まっていたのではなかろうか?


「え、エイミー様ッ!た、大変です!す、スカイドラゴンがッ!!」


○ッテン○イヤーさんなメイドさんが、普段の沈着さをかなぐり捨てて周章狼狽しまくり倒しまくってわたしを叩き起こしてしまったのを責めることはできない。実際、わたしだって自室の窓から確認した時には腰を抜かしたもん。


「あ、あ、あれ…」


そして、そのスカイドラゴン二体の間に知っている人がいたもんだから、わたしは愕然とした。…アレンさん!そんなところにいると、喰われちゃいますよ!!


そこに、制服に着替えたアナがやたら悠々と寮の玄関から出てきたから、更にわたしはビビった。…ダメ!恋人を救うためだからって、自分を犠牲にしちゃダメ!!


…と、いきなりアナはスカイドラゴンたちに対して淑女の礼を執った。それを見るアレンさんはいつも通り穏やかに微笑んでいる。…と、スカイドラゴンのうち一体がアナに顔を近づけた。その顔は、穏やかな笑みを浮かべているように見える。


その様子を見て、わたしも漸くスカイドラゴン二体を観察する余裕が出てきた。


一体は漆黒の鱗を持つ、精悍という単語の具現化。そして、何故かその首に白色のネクタイを締めている。もう一体は白く気品に溢れ、優美という表現がぴったりくる。それでいて尻尾に結んだ、ピンク色のリボンが可愛らしさをも醸し出している。そしていずれも、偉大なる空の王者と呼ぶに相応しい威厳に満ち満ちていた。


黒い方はアレンさんと、白い方はアナとえらく親し気に会話を交わしている、そのような様子が感ぜられた。…と、アナが寮に取って返した。そして暫くして。


わたしの部屋をノックする音が聞こえ、「エイミー、私だ。心配はいらない。あのスカイドラゴンたちは、アレンの親友だ」と、いつも通りの無骨ながら美しい、アナの声が部屋の外から聞こえた。

ザウス王国の王都の名称は、かつて出た南方の風土病と関係があります。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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