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第166話 ヒロインたちはお邪魔虫と化した挙句散歩する

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

アレンさんが、ブルゼーニ方面軍の最高責任者という将軍様に伴われて王都に凱旋する姿を、王都住民の悉くが歓声と喝采を上げて出迎えていた。


…アレンさんとその将軍様が騎乗している騎馬の後ろに、何かグライダーのようなものが大きな大八車のような荷車に乗せられて牽引している。アナの話によるとあれでアレンさんが空を飛んで敵軍を空爆し、一方的に蹂躙したらしい。


たった一人で、圧倒的不利というよりも最早敗勢に近い形勢であった戦況を引っけら返し、ブルゼーニ地方からのエスト帝国勢力の完全駆逐という大捷の立役者となった人物。アナが言っていた、「アレンがいなければ、我が国の勢力がブルゼーニ地方から完全駆逐されていただろうな」と言う台詞には、説得力しかなかった。


さてわたしたちは、そんなアレンさんの凱旋パレードが王城に近づいてくる様子を、王城内のアナに()てがわれた部屋から見ている。


「国王陛下も、ブルゼーニ地方の完全奪還までは想定しておられなかった筈だ。陛下がアレンに与えられた命令書には、『戦況を一変させよ、さすれば子爵陞爵を以て報いる』とのみ記載されていたからな。想定を超えた大功を挙げるとは…やはりアレンは私には勿体無い、素晴らしい男性だ」


…あぁ、そこは惚気(のろけ)んでいいですから。…それはそれと、功績が想定を超えたとなると、当然、褒賞も想定を超えますよね?


「…それはどうか判らぬ。伯爵と言えば上位貴族だ。平民から一足飛びに伯爵叙爵という例は、この国の歴史上存在しない」

「アレンさんが立てた功績も前例がないレベルですよね。それに、アレンさんはもう平民じゃないですよ?男爵叙爵が内定してるんじゃなかったんですか?」


それに苦笑しながら、ティーカップを手に取ったのはマーガレット。


「あくまでも『内定』なのよ。決まったわけじゃないわ。だから、アレン君の身分はまだ平民なの。家名をどうするか、領地をどうするか、色々と決めなくちゃならないことがたくさんあって、それを決めてから叙爵されるから…少なくとも、あと二ヶ月はかかるんじゃないかしら」


そんなにかかるもんかいな。ブレイエス家が男爵叙爵された時には、どれくらい時間がかかったんやろ?今度、お父様に聞いてみよう。


「そして、さっきアナ様も仰いましたけど、平民からの一足飛びの伯爵叙爵は前例がないんです。子爵叙爵なら、建国時に大功を立てた人がいて、その人が平民から子爵に一足飛びに叙爵された例が一例だけあるんですけど」


イザベラがクッキーに手を遣りながら会話に加わった。建国の英雄って奴か…でも、アレンさんの功績はそれをも凌ぎますよね?何しろ、半世紀の長きに亘り過半領域をエスト帝国に支配されていたブルゼーニ地方全域をセントラーレンの支配領域にする、その立役者になったんだから。


そして、そのことによってセントラーレン王国が得られる裨益は莫大なものになる。まず第一に、ブルゼーニ地方はラムズレット公爵領にも匹敵するほどの肥沃な穀倉地帯だ。そこで得られる小麦の収穫は、セントラーレン国内の食糧事情を大きく改善させるだろう。…今が悪いってわけじゃないんだけどね。


そして第二に、そのブルゼーニ地方の中心都市たるカルダチアの軍事的価値はべらぼうに大きい。カルダチア自体が難攻不落の要塞、軍事的拠点なのだ。実際、過去のエスト帝国によるセントラーレンへの侵攻は、カルダチアを拠点として行われている。それが丸ごと引っけら返るのだ。


…何か、イ○ル○ーン要塞を思い浮かべてしまったのはわたしだけだろうか?


そんなことを思いながら、お茶とお菓子を頂いていた時に。


こん、こん。


部屋の扉についたノッカーが、外部から来訪者の存在を告げた。


「はい」「アナスタシア様、お客様がお見えです」


メイドさんの声に、少しの間をおいてアナが「会おう。お通ししてくれ」と答えた。そして、メイドさんが扉を開けるとそこには。


「!…アレン…!!」「アナ、ただいま」


兵卒用の軍服を着たアレンさんが、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべて立っていた。


◇◆◇


…がたっ!!


「アレン…あぁ、アレン!!」


その姿を見たアナが、貴族令嬢の嗜みもへったくれもかなぐり捨てて椅子を蹴立てるように立ち上がり、アレンさんに駆け寄ると思い切り抱き付いた。アレンさんは一瞬面食らったようだが、すぐにアナを優しく抱き返す。…その体勢のまま、二人がベーゼを交わすまで大した時間はかからなかった。


「…マーガレット様、イザベラ様、お邪魔虫は消えましょう」

「…そうね、エイミー」「エイミー嬢、判りました」


マーガレットとイザベラのドレスの袖を引っ張りながらのわたしの提案を、彼女たちは諾ってくれた。三人してそっと席を立ち、音を立てないように静かに扉を開けて部屋の外に出た。…っと、張り紙しとかなくちゃ。


「…マーガレット様、イザベラ様、紙とペンありますか?」

「…そんなもの、何に使うのよ?」

「この扉に、張り紙しとくんです。絶対入室禁止って」


マーガレットもイザベラも、わたしの提案に苦笑で答えた。何がおかしいねん。


「そんなもの、私たちは持ってないわよ。そもそも人に聞く前に、あなた自身が用意しておくものではなくって?」


うぉぅ、マーガレットさん、容赦ないっす。でも、正論ご(もっと)も。次から、アナと同席する時には紙とペンを常備しておこう。


「でも、二人っきりにしておくと一線を越えちゃいませんか?」


イザベラの心配も判らんでもないが、同時に杞憂でもある。彼女たちは知らん話だが、わたしはエルフの夏祭りの顛末をアナから教えて貰っていた。


わたしが東部冒険者ギルドに誂えて貰っている私室、所謂『治癒室』をエルフのお姫様とアレンさん、それにアナの三人の密談用に開けたことを彼女は恩義に思ってくれて、それで概要を教えてくれた、ということだ。…ちなみに、そのことについて口止めはされていない。口の堅さを信頼されているというよりも、わたしが何を言っても皆ヨタ話としか受け取らないだろう、と彼女(アナ)は計算しているのだ。


…ムカつく。否定できねぇのが、また余計にムカつく。


…とまれ、アナの話によると、エルフの夏祭りのイベントで二人はカップルとして見事に試練を乗り越えたそうだが、その試練は子供を作りたいカップルが受けるものだそうで、その試練を乗り越えた二人は…まぁそーゆーことだ。


そんな試練を乗り越えた後でも、アナの純潔は保たれていたのだ。…アレンさん、何というヘタr…もとい!何という自制心!!


結果的に、アレンさんの自制は正解だった。もしそこで一線を越えちまってたら、最悪ガチ切れした公爵閣下によって、アレンさんは物理的に首にされてアナは修道院にブチ込まれていてもおかしくはなかったから。


まぁそんなわけで、この室内で二人が一線を越える懸念は無用である。だって、この室内はそのエルフの夏祭りよりも遥かにムードねぇと思われるし。…それは、ただ単にアナの好みで質実な内装にしている、というだけのことなのだが。


◇◆◇


そこに、アレンさんと連れ立って凱旋パレードに参加していた将軍様が現れた。


「失礼、ご令嬢様方。アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様のお部屋はこちらで宜しいか?」


ガチムチの外見に相応しい、剛性の強さが顕れた声。その将軍様は、パウル・フォン・グラガスと名乗ってくれた。


「将軍様、アナさ…アナスタシア様にご用がおありでしたら、今少しお待ち下さい。今室内に入っては、馬に蹴られて犬に喰われて蝮に当たります」


マーガレットがそう伝えるも、グラガス将軍様は引き下がってはくれなかった。…その表現、わたしが言い始めたんです。使用料を払って下さい。


「もとより私も斯様な無粋を為すは好みではないが、畏れ多くも国王陛下のお召しだ。アナスタシア様と、アレン卿に謁見の間においで頂きたいとお伝え願いたい」


わたしたち三人は顔を見合わせ、同時に溜め息を吐いた。国王陛下のお召しとあっては、無粋の挙を為すも致し方ない。


部屋のノッカーを叩くと、室内からあたふたした雰囲気が漂ってきた。…まさか、一線を越えようとしてたんじゃないでしょうね!?


…懸念に反して、幸い部屋の扉を開けたアナのドレスは一糸の乱れもなかった。彼女の極上の絹のような(すべ)らかな頬に、涙の跡が残っていたのはまぁご愛嬌だ。


「アナスタシア様、お初にお目にかかります。ブルゼーニ方面軍司令官、パウル・フォン・グラガスと申します」


グラガス将軍様の臣下の礼を執りながらの挨拶に、アナは美しい淑女の礼を以て応えた。普段の制服姿と違い、ドレス姿だから淑女の礼がより映える。


「グラガス様、お初にお目もじ致します。ラムズレット公ゲルハルト・クライネルが第二子、アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレットにございます」


そう言って、アナは美しい右手の甲を差し出した。グラガス将軍様は臣下の礼を執ったままその手を取り、甲に口付けを落とす。その様子を後ろで見ていたアレンさんが、ムッとした様子を見せた。…アレンさん、これは挨拶ですぜ?ケッケッケ。


「アレン卿との逢瀬の最中の無粋、(ひとえ)にお詫び申し上げます。なれど、国王陛下がお二人をお召しでございます。お二人でご応召頂きたく、お願い致します」


グラガス将軍様のその言葉に、アナとアレンさんは顔を見合わせた。


◇◆◇


とにかく、国王陛下のお召しとあれば受けなくてはならない。グラガス将軍様の先導を受け、アナとアレンさんは謁見の間に向かった。


「…マーガレット様、イザベラ様、わたしたちどうしましょう?」

「…何もできることはないわね。三人で、お散歩しましょ」


そのマーガレットの提案にイザベラもわたしも異議はなく、わたしたち三人は王城内の庭園をぷらぷらとほっつき歩くことにした。


夏の猛暑はとうに過去のものとなり、秋の晴天と風が心地いい。庭園内は秋の花々に彩られ、秋桜や金木犀、彼岸花などが鮮やかな色彩を誇っている。


その中を快活可憐なマーガレット、癒し系のイザベラがドレス姿で歩いているのだ。実に絵になる光景である。…制服姿のわたしはおみそである。だって、ドレスなんざ持ってねぇんだからしょうがねぇだろ。畜生。


「エイミーは、いつも制服姿ね。ドレスや装飾品は持っていないの?」

「持ってないですね。あまり、そういうのは興味ないんです」


マーガレットに答えた言葉に嘘はない。正直、ドレスや装飾品には全く…と言っては嘘になるが、あまり興味はないのだ。そんなもんに血道を上げるくらいなら、とにかく新たなるS級治癒魔法の発動機序を確立したい。


「エイミー嬢も、ドレスを何着か用意しておいた方がいいですよ?何しろエイミー嬢は、治癒魔法の若き権威者だって(もっぱ)らの噂なんですから」


イザベラの言葉には、正直驚いた。わたし如きが治癒魔法の若き権威者だって?財○五郎?いやそれ以前に、この国の治癒魔法界隈、大丈夫かいな?


唖然としたわたしの顔が面白かったのか、マーガレットも笑いを浮かべながらそれに付け加える。そこには、悪意は見られない。


「そうよ。あなたほどのヒーラーなら、これから国王陛下主催の晩餐会とかにも招聘される機会が出てくる筈よ。そのために、ドレスを何着か(あつら)えておいた方がいいんじゃない?あなたさえよかったら、私とイザベラで見立てさせて頂くわよ?」


マーガレットに言われ、わたしは無意識に腕を組んで考え込んでしまった。


…ドレスかぁ…やっぱり、一着ぐらいは持っておかなくちゃだよなぁ…でも、はっきり言って晩餐会に着ていくようなドレスって、べらぼうに高価なんだよなぁ…東部冒険者ギルドで専属ヒーラーとかバイトヒーラーとかやって、ちまちま貯めたお金が一発ですっ飛ぶんだよなぁ…それになぁ…


「…マーガレット様、イザベラ様、わたしのこんなザマでお二人が着ていらっしゃるドレスが映えるとお思いですか?」


わたしは苦笑しつつもそう言って、制服のブローチとリボンを外し、ブラウスの第二ボタンまで外してデコルテを二人に見せた。そこにあるのは谷間ではなく、はっきりと浮き出た骨。…何故か、デコルテに肉が付いてくれねぇんだよなぁ…せめて、骨が浮き出ない程度には付いてくれねぇと…


そのザマを見たイザベラは明らかにドン引きしていた。「…え、エイミー嬢、それは幾ら何でも痩せすぎではないですか…」と呻き声を上げた傍らで…!!


「…え…エイミー…あなたは…ここまで酷く痩せ細るまでアナ様の御為(おんため)に尽くしてくれたのに…私は…あなたに…あんなに酷いことをしてしまった…!!…ごめんなさい…本当に、ごめんなさい!!」


…しまった!やっちまった!!『マーガレットの罪悪感』という熱核地雷を踏んじまった!…こうなると、話が進まなくなっちまうんだ!!


「…マーガレット様!その儀は、どうぞお忘れ下さいッ!!わたしの行動について、マーガレット様が嫌悪感とか反感とか侮蔑とか、そう思ってもしゃぁない、寧ろそう思って当然なことは以前にも申し上げた筈ですッ!!…イザベラ様も、マーガレット様を(なだ)めてあげて下さい!!」


罪悪感でぼろぼろと泣き出してしまったマーガレット、それをおろおろと宥めるイザベラとわたし、この構図は険しい顔をしたアナと、その横で負けず劣らず苦い表情をしたアレンさんが来るまで続いていた。

幼児体型と言うよりも、寧ろ難民の子供体型なヒロインに

似合うドレスって、どんなでしょうか?


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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