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第148話 (アレン視点) 町人Aは悪役令嬢への想いを確かめる

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

…ふざけるな!!


エスト帝国の第四皇子とかいう何処ぞの馬の骨と、アナを婚約させるだと!!?


そんな真似、絶対に許さない!こんなふざけた話、絶対にぶっ潰してやる!!


◇◆◇


…俺が、自身のアナへの想いに気付いたのは、シェリルラルラさんに誘われてエルフの夏祭りに参加する、その途中のフライトの時だった。


その夏祭りにアナも参加する、と言い出した時には面食らったし、正直閉口した。


だが、アナがいなければシェリルラルラさんは王都から外に出ることができない。そして、アナにシェリルラルラさんが王都を出る際に便宜を図って貰う以上、王都の門を潜って外に出てはい、さようなら、ではあまりに人としてアレすぎる。


つまり、シェリルラルラさんが王都に永住でもしない限り、アナをエルフの里に連れて行く以外の選択肢はないのだ。


『それじゃぁ、アナスタシアさんはアレンの婚約者、ということでエルフの里に入って貰うわ。そういうことでいいかしら?』


そのシェリルラルラさんの言葉を聞いた時、アナは顔だけでなく全身真っ赤になって硬直し、俺は思考停止に陥った。…今にして思えば、すげぇことをアナも俺もやらかしたんだよなぁ…公爵閣下も、よく許してくれたわ。縛られて殴られたけど。


そして、ブイトールでエルフの里に向かう途中。子どものようにはしゃぐアナと密着していた―そうしないと安全上大いに問題があるんだ!下心があったわけじゃないぞ!!―ため、彼女の体重と体温、更には全幅の信倚すら感じることができた。


すると、俺の心ノ臓の鼓動が早まり、そして心の中がほかほかと暖かく、そしてこの上なく心地よいもので満たされていくのを感じた。


その時に気付いたのだ。俺が、アナのことを本当に好きなことを。


最初は、運命(シナリオ)の都合上あまりにも酷すぎる目に遭わされ続け、最後は元婚約者とそれを奪った女に殺される、そんな理不尽極まりない悪役令嬢の立場を押し付けられた女の子がかわいそうすぎると思い、王都の壊滅を防ぐついでに救ってあげられたら、と思っていただけだった。


ワンチャンもないと思っていた。俺は王都の貧民街に住む一介の平民で、アナは超名門貴族のご令嬢様。身分が違いすぎる。彼女を救うことができて、そして王都壊滅阻止のために力を尽くしてくれたらそれでいい、そう思っていただけだった。


だが、こうして身近に相対してみると、ただ超絶美形でスタイル抜群なだけではない、アナがどれだけ魅力的な女の子であるかイヤというほど思い知らされたのだ。


とても責任感が強く、また頑張り屋で、見たことも会ったこともない民草のために自分を犠牲にして死に物狂いの努力を続けて、でも本当は恥ずかしがり屋で不器用で、感情を表すのが苦手で、でも嬉しい時には本当に素敵な笑顔で笑っていて。


…決して好きになっては、愛してはいけない相手なのに。俺はそんな女の子を、アナを…愛してしまったのだ。


◇◆◇


そして、俺はアナに光の精霊神様(あのへんたい)と、奴と契約したミリィちゃんを紹介した。え?何で『あの』って付いてるかって?変態は、もう一人いたからな。もう死んだ…というか、俺が殺したんだけど。


だが…それにしても…あの変態…俺のアナに対する想いを見透かしたのは、まぁかつての大賢者で今は光の精霊神様だからそれくらいお手の物だろうが…散々人のことを煽りやがって!糞ったれが、変態の分際で、本当に、本ッ当に忌々しい!!


…その時は、アナも俺に対して恋愛感情を抱いてくれているなんて思っても見なかった。まぁ好意的な感情は抱いてくれていただろう。だが、それは貴婦人の、自分の騎士に対する信頼を超えるものではない、そう思っていた。


それでも構わない、俺は強引にそう思い込むことにした。忍ぶ恋こそ真の恋、そんな言葉を何処かで聞いたことがある。騎士の、貴婦人に対する恋としては理想的なものだ、そんな厨二病じみた感慨で本音を強引に、抑え込むことにした。


だが、エルフの夏祭りのイベントーカップルが精霊の祝福を授かり、結ばれるために試練を受けるイベントだ―にアナと参加することになって、そして首尾よくその試練を超えることができた時。


俺はアナの想いを理解し、そして俺も彼女に対する想いを再確認したのだった。最後までアナを守り切った時に彼女が俺に「ありがとう、私のナイト様」と言ってくれた時の恥ずかしそうな、そしてとても嬉しそうな、至上の美を体現したような顔を、俺は死ぬまで―否、死んでも―忘れることはできない。


そして、俺とアナは想いを確かめ合うようにベーゼを交わし、そしてアナは…あの変態の祝福を受けた。その様子を目の当たりにした俺の感情は…曰く言い難い代物であったことは、諸賢のご想像に難くないだろう。


感動の涙に咽ぶ超絶美少女の周りを精霊たちが飛び回って祝福し、周囲を幻想的な光がきらきらと舞い踊る。そして、精霊たちの中でも一際美しい光の精霊神様が、その美少女の額に手を遣って聖なる祝福を授けるのだ。巨匠の絵画のような、素晴らしく美しい光景である。…だが、だが!


エルフたちも、アナも騙されてる!この光の精霊神様の中身は、かの神話級ド変態廃太子とはまた全く別なベクトルで突き抜けたド変態なんだぞ!!


◇◆◇


アナに聞いたが、彼女はエルフの女王様に諭されたらしい。そして、自分を殺すのはもうやめることにした、と言っていた。また、エルフの里がとても好きだとも。


彼女の言うことはよく判る。この里には、身分制度がない。シェリルラルラさんは女王様の娘、人間の世界で言うところの王女殿下だが、そんなことは関係なく周囲に接し、また周囲もそれを当然と受け止めている。


「何故、人間にはそれができないのだろう…」


アナは悲しげに呟き、「貴族とは、身分とは、一体何なのだろう…」と続けた。


その姿が愛おしくて。俺は彼女の肩を優しく抱いて支えた。


「ここなら、このエルフの里なら、私はラムズレット公爵令嬢ではない、ただのアナスタシアでいられるのだろうか…そして、アレンも平民アレンではなく、ただのアレンでいてくれるのか?」


大切にしたい。命に替えてでも守りたい。俺の横に座る最愛の女性の潤んだ瞳を見て、俺はたまらずアナを抱き締めた。彼女の蒼氷色の瞳から、涙が溢れて頬を伝う。俺はそれを拭うように、その頬に口付けた。


◇◆◇


ここまでの仲になったら、その夜に一線を超えた、と諸賢は思うだろう。だが、俺はそうしなかった。…え?ヘタレ?据え膳食わずば男の恥?うるせぇ何とでも言いやがれ。まだ早い、そう俺が言うとアナは悲しげに(かぶり)を振った。


「私はアレンになら純潔を捧げてもいい…否、純潔をアレンにこそ捧げたいと思っているのだが…私に魅力がないから、アレンは私を…抱いてくれないのか?」


それは違う!アナは、俺なんかには勿体ない、世界で一番魅力的な、素敵な女の子だ!本当は、今すぐにでも抱きたい!でも、それじゃダメなんだ!!


万人がアナと俺を祝福してくれなければ、一線を越えてはいけない!そして、現段階では、アナの父親は、ラムズレット公爵閣下は絶対に祝福してくれない!!


俺が、アナを娶ることができる、それだけの地位に就くまで、そんなことになってはいけない!一時の欲望と衝動に、決して負けてはいけないんだ!!


「…そうか、その通りだな。やっぱり、アレンは私なんかには勿体ない男性だ」


…そこまで言われたらこっ恥ずかしい。寧ろ、さっき言ったようにアナこそが俺なんかには勿体ない、素晴らしい女性なんだから。


◇◆◇


さてそうなると、寝る場所が問題になる。何しろ、ベッドが一つしかないのだ。…と言うのも、先のイベントに参加するということはパートナーとの子供を生したい、という意思表示になるそうで、つまりイベントに参加してしかも試練をクリアしてしまった俺たちは…まぁそういうことだ。


…そういう大事なことは、先に言ってくれ!!


「さ、流石に一線を超えないのに一つのベッドで寝るのはまずいよな。私が床で寝るから、アレンはベッドを使ってくれ」


アナにそんなことさせられるか!俺が床で寝るから、アナがベッドを使ってくれ!


「バカッ!アレンに、そんなことさせるわけにはいかないだろう!」


そんなわけで暫く口論になったのだが、ふと大事なことに気付いた。


「べ、別に何もしなかったら、同じベッドで寝てもいいよね?」

「い…言われてみれば、その通りだな」


…ということで、一つのベッドを二人で使うことになったのだが…


…マヂでヤバい。俺の横で、アナが横たわっている。そう思うだけで、その、ね、男の生理現象がね…収まれ、収まれ…こんなことになってるのをアナに知られたら…俺のその願いも虚しく、それは猛り立つばかりで収まる気配は全くない。おまけに、爆発的に放出の渇望が高まってきやがった…


…と、アナが俺の後ろから抱き付いてきた!俺のシャツ越しに、アナの、その、豊かな胸の膨らみと何やらぼっちりとしたもの…え!?アナ、何も身に着けてないの!?…を背中に知覚した俺は…!!


「…ゔぅッ!!」「ど、どうしたんだ!?」「あ…ごめん…ちょっと…」

「す…済まない…アレンの温もりを、素肌に感じたかったんだ…」


いや…いいんです。一回暴発したら、悟りを開けました。悟りを開けたのはいいんだけど…下着の前がぬるぬるして気色悪い…


…その後、一糸纏わぬままのアナとシャツに下着を着けただけの俺は、正面から抱き合って眠った。…え?ンなことして、 "回復" しなかったのかって?…いや、何つぅかね、最初の『暴発』で、あり得ねぇくらい大量に『出て』ね…それをアナに悟られやしねぇかと気が気じゃなくって…煩悩に身を任せるほどの余裕がなかったんです…まぁ、ンなこと考えてるうちに意識が途切れたのは勿怪(もっけ)の幸いだったわ。


◇◆◇


そんな、あまりにも恥ずかしくて、情けなさすぎて、誰にも、特に光の精霊神様(あのへんたい)には絶ッ対に言えないような一夜が明けて。


俺は、アナよりも早く目を覚ました。右腕が痺れて、感覚がなくなっている。何よりも大切な、俺の命に替えてでも守りたい存在が、俺の右腕を枕に安らかな寝息を立てていた。その寝顔はあまりにも美しくて愛らしく、いつまでも見ていたいがあまり遅くなるのもよくなくて…


そんな葛藤を覚えているうちに、アナが目を覚ました。俺と視線が合った瞬間に顔を赤らめつつも、「お、おはよう、アレン…」と挨拶してくれた。


俺はそれに「おはよう、アナ」と返すと、彼女を驚かさないようにそ、と痺れた右腕を抜いた。怪訝そうな、そして悲しそうな視線に心が痛んだが。


「服を着替えたいでしょ?俺は外で待ってるから、着替えてよ」

「あ、あぁ、そうだな。気を遣ってくれて済まない…ありがとう」


…そうは言ったが、真相は下着の前に汚点(シミ)ができているのを見られたくなかった、ということである。…あーあ、カピカピになっちゃってるよ…


◇◆◇


その後、里の離れにある神秘的な美しい泉で。


俺はアナの望みに応えられなかったことを詫び、身代わりの指輪を差し出した。


「いつになるかは判らないけど、必ず手柄を立てて、公爵閣下に認めて頂けるだけの爵位に就きます。そして、一生アナを守ります。だから…俺と結婚して下さい」

「…ッ、はい…でしたら…この手の薬指に…その指輪を…」


俺の最愛の女性は、ボロボロと涙を流しながら左手を差し出してくれた。


◇◆◇


その後、その指輪を公爵閣下が見咎めて俺はラムズレット騎士団の皆様に剣を突き付けられながら囚人服に着替えさせられ、魔法封じの首輪を付けられて縄で縛られ、激怒した公爵閣下に杖でブン殴られて難詰されることになった。


まぁそれは覚悟の範囲内だったが、マーガレットやイザベラ、それにエイミーまで巻き込んでしまったのは本当に申し訳なかった。特にエイミーは、アナの心情まで慮ってくれてお詫びの言葉も感謝の言葉も出てこない。おまけに、エイミーはそれに加えて公爵閣下に杖でブン殴られたんだから。


これだけ多くの人を巻き込んでしまったのだ。マーガレットやイザベラ、それに誰よりもエイミーが言ってくれたように、絶対にアナを幸せにしなくてはならない。俺の命と引き換えにしても…否、何があっても俺とアナが生き延びて、だ。


それを、エスト帝国如きに邪魔されてたまるか!

絶対に、絶ッ対にお前たちからアナを守り抜いてやる!!

おかしいな…町人Aが悪役令嬢への想いを確かめる、

シリアスなエピソードにする筈だったんだけどな…


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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