第122話 (カールハインツ視点) バカクズ太子は破滅への道をひた走る
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
うぅ…何事だ…一体、何が起こったんだ…?
レオによるオスカー…否、あのような薄汚い裏切り者など名を呼んでやるに値せぬな…あの、シスコンの愚か者への制裁の真っ最中、いきなりレオが何かに吹き飛ばされ、その後俺も腹部に激しい衝撃を受けた。その後マルクスも悲鳴をあげていたから、俺たちと同様の目に遭ったのだろう。
そして、俺の顔に強い衝撃を受け…俺は意識を失っていた。気を失う前に、何か既視感のようなものを感じた気がするが…
そして、気が付いたら俺たちの周りを兵士どもが取り囲んでいた。奴らは、一様に俺たちに抜き身の剣を突き付けている。のみならずいつの間にか、俺もマルクスもレオも、手枷まで付けられている。
…無礼な!次期国王に剣を突き付けて手枷を付けるなど、不敬の所業にも程があるぞ!貴様ら、纏めて不敬罪でその首を跳ね飛ばしてやる!!
「み…身の程を弁えろ!私やジュークス公子ばかりでなく、王太子殿下にまで剣を向けて手枷を付け奉るなど、不敬にも程があるぞ!お前たちの所業、必ずや国王陛下に言上申し上げて然るべき罰を与えて頂くからな!!」
「そ…そうだ!マルクス…いや、バインツ公子の言う通りだ!無礼者どもが!!」
そこに、兵士どもの長と思しき壮年の男が俺たちの前に立った。歳のころは40代後半くらい、短く切り整えられた茶色の頭髪と、精悍な顔に加えられた刀傷の痕。長身は鍛え上げられた筋肉によって分厚く、幾度も修羅場を潜り抜けてきた者が持つ貫禄と威圧感、それに凄みが感ぜられた。
「糞クズメガネ、腐れクズ脳筋、その臭い口を閉じろ。お前たちの捕縛は、その国王陛下の勅命によるものだ。…それともう一つ、腐れクズ脳筋。糞クズメガネを、姓で呼ぶことを禁じる。それは、私の娘が世界で最も尊敬しているお方への最低最悪の侮辱であり、冒涜だ」
なっ…!父上が、俺たちの捕縛を命じただと…!それに、その呼び方…!!
「…バカクズ太子、と呼んでやりたいところだが、一応その身体に流れる王家の血に敬意を表しよう。カールハインツ廃太子殿下、お初にお目にかかる。私は、王宮剣士団副団長、ジークフリード・フォン・ブレイエス男爵だ」
「…!ブレイエス、だと!?貴様、あの裏切り者の小娘の父親か!」
ブレイエス男爵を名乗った男は、俺の難詰に対し鼻で嗤った。…無礼な!
「廃太子殿下、冗談を言われては困る。私の娘は、誰も裏切ってはおらぬ。殿下が勝手に、娘を愚行の共犯者だと思い込んだだけだ。アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット様に対する、卑劣で醜悪で愚劣極まりないいじめの、な」
ふ…ふざけたことを言うな!あれは、あの女に対する正当な懲罰だ!いじめなどと、そのようなものではない!!
「…やれやれ、娘にあれほど言われたのにまだ自覚していないのか…自分がどれほどおぞましい行為をしてきたか、そしてこれからしようとしていたか」
な、何だと!?き、貴様、どういうことだ!?
「とぼけてもムダだ。殿下とこのクズどもが、アナスタシア様や私の娘に対して何をしようとしていたか、そしてまたウィムレット公子様に対して何をしたか、全て判っている。アナスタシア様や私の娘に対しては、強姦の謀議。ウィムレット公子様に対しては、殺人未遂行為。公人としても私人としても、到底許せぬ…!!」
「ひ…ひッ…!」
男の怒気に中てられたか、レオが咽喉の奥から引き攣ったような悲鳴を上げた。
「た…たかが新興男爵家の当主の分際で…!お、王太子殿下や名門貴族の嫡男に対し…な、何をしようとする…つ、つもりだ…ッ!!」
マルクスの顎先を、奴は渾身の力で蹴り上げた。…貴様ァッ!!平民と殆ど変らぬ卑賎の身で、名門バインツ伯爵家の嫡男に対し、何て事を…ぐはぁっ!!き、貴様…俺に対し、手を上げるなど…!!
「…殿下、先にも言った筈だ。この糞クズメガネを姓で呼ぶなと。それは、私の娘が世界で最も尊敬しているお方に対する、最低最悪の侮辱であり冒涜だとな。そのような事も理解できぬから、私の娘にバカクズ太子と呼ばれるのだ」
ひ…卑賎の身の分際で…次期国王たる身に…がはぁッ!!き、貴様…この俺を…足蹴にしやがったな…身分卑しい新興貴族の分際で…!!
「…さっき私が何と言ったか、理解していないようだな。私は、確かに『廃太子殿下』と言ったつもりだったが…」
裏切り者の小娘、その父親がほざいた言葉。…何だと!『廃太子』だと!!
「ご同道頂こう。王城にて、殿下に弁明の機会が与えられる。…おい!この愚か者どもを馬車に乗せろ!」「畏まりました」
奴のその言葉に、俺は言い知れぬ恐怖を感じた。この馬車に乗ってしまえば、取り返しのつかないことになる…!理由もなく、そう感じた。…血路を切り開いてでも、逃げなくてはならない!!
「…退けぇッ!!…マナよ、万物の根源たるマナよ!汝、獰猛なる炎の獣となりて、我が前に立ちはだかる者どもを焼き喰らい滅ぼせ!!」
俺は、手持ちの炎魔法の中で最大の威力を持つA級炎魔法を発動した。…筈だった。しかし、兵士どもに襲いかかる筈の炎は、全く出てこなかった。
「腐れクズ脳筋はともかく、殿下と糞クズメガネの魔法は厄介だからな。その手枷には、魔法封じの術が施してある。さぁ、無駄な抵抗はやめて頂こう」
◇◆◇
王城に入るや、俺たちは一人一人バラバラにされて地下室に収監された。魔法封じの術が施されているという、手枷は嵌められたままである。
糞ッ!どういうことなんだ!?
あの小賢しい女と憎むべき裏切り者への制裁の謀議、それに俺たちと同様の立場に置かれながら裏切ろうとした愚か者への制裁を、あの裏切り者の小娘の父親という男は全て知っていた!何故だ、何故奴がそのことを知っている!?
あの時、他に誰も人はいなかった筈だ!
…待てよ…レオがあの愚か者に制裁を加えている最中、いきなりレオが吹っ飛んだことがあった。その後すぐに煙幕が立ち上り、視界が完全に遮られて、俺とマルクスがノックアウトされた…これは、あの忌々しい決闘の時と同じだ!
まさか…まさか、あの場にあの、八つ裂きにしても飽き足らぬ、怨憎骨髄に入る賎民がいたとでも言うのか!?
◇◆◇
地下室での扱いは、まさに罪人に対するそれであった。食事は三度三度が馬鹿みたいに硬い黒パンと、野菜クズに僅かな干し肉が入ったスープだけ。ベッドはやたらと硬くて寝心地は最悪である。トイレは剥き出しになっていて、饐えた汚物の臭いが地下室全体に漂っている。
ふざけるな!俺は、将来この国の国王になる人間だぞ!このような、罪人に対するような扱いをされるべきではない筈だというに、何を考えていやがる!?
「おいッ!雑兵ッ!何故俺がこのような扱いを受けねばならぬッ!?答えろ!」
俺が何を言おうとも牢番の雑兵は俺に声を向けることはせず、三度三度の食事を地下室内に運び込み、空いた食器を受け取る以外には俺に注意を払おうともしない。
誰とも会話ができず、やることと言えばまずい食事を口に運ぶのみ。ちゃんと一日に三度出るため、ここに収監された日数を数えることができるのはまだしもだが。
これで、11回目か。となると、ここに収監された日には一度だけ食事が出たから、ここに収監されてから、5日目になるのか…そんなことを考えているうちに。
「廃太子殿下。大広間に来て頂こう。しかし…自業自得とは言え…臭うな」
憎むべき裏切り者の小娘。奴の父親という男が、顔を顰めながら俺に声をかけた。
…ふざけるな!湯浴みもさせずに、何を言いやがる!!
◇◆◇
手枷を嵌められたまま俺とマルクス、そしてレオが連行された王城の大広間には、父上と母上、ラムズレット公爵、ウィムレット侯爵、バインツ伯爵、ジュークス子爵がいた。俺たち三人を見る彼らの目に、好意的なものは全くない。誰も一言も発せず、俺たちを険悪な様相で睨みつけている。
永遠にも思える沈黙の後、嘆息とともに父上が言葉を発した。
「まさかとは思ったが、本当に反省しておらなんだとはな」
母上が、ハンカチを目に遣りながら嘆きの言葉を口にする。
「アナスタシア嬢やエイミー・フォン・ブレイエス嬢に対し、あのようなおぞましいことを企てるとは…お前など、もう妾の子ではありません」
「ち、父上!母上!お待ち下さい!何のことを仰っているのですか!?私には、何が何だかさっぱり判りません!」
ラムズレット公爵が腕を組み、その厳つい口を開いた。
「廃太子殿下、本当に判らないと仰るのですな?」
ふざけるな!俺は廃太子などではない!!
「ラムズレット公、何故俺が廃太子されねばならぬのだ!?」
「…その理由は、国王陛下からお聞き致しました。此度の決闘騒ぎでの殿下の愚挙、殿下に反省の色が見られずば廃太子もやむなしと。私の目から見ても、殿下には反省の色は全く見られませんな」
と…当然だ!貴様こそ、あの魔女の父親であることを恥じて反省するがいい!!
「そ、そのようなことはない!俺は、反省している!!」
「ほう、左様でございましたか。とてもとても、そのようには見えませんがな」
ぐっ…忌々しい言い草だ!やはり、貴様はあの女の父親だな!!
「その、反省している筈の者の発言がこれですかな?…アレン、あれを」
「公爵閣下、畏まりました。両陛下、ウィムレット侯爵閣下、バインツ伯爵閣下、ジュークス子爵様、もう一度こちらをご清聴下さい」
…そこに現れたのは、あの、生きたまま全身の生皮を剥いでも飽き足らぬ、俺の怨憎骨髄に至る賎民だった。…何故だ!?何故、貴様がここにいる!?高貴なる者のみが踏むことを許される筈の、王城大広間の深紅の絨毯を、何故貴様のような卑賎の身が踏みしめているのだ!?
悪役令嬢は、原作で「風呂に入ってなくて臭い」とか言われて
いじめられたんだから、バカクズ太子だって、同じ目に遭ってもいいですよね?
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