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080 キッテって呼ばないでくれます?

今回は作者大好きなギャグ回。

ちょっと長いですが、勢いのまま読み切ってください!

「だ、だめだったー!」


 閉店後。反省以外の何物も存在しない反省会。


『なんていうか、人間として動くことを想定されてないボディでしたぁ……』


 なんという弱点。姿形を似せただけの人形ではアトリエアルバイトという過酷な業務をこなすことが不可能だったのだ。


 まあ普通はエミールが乗り移って最初に動いてもらった時に分かりそうなものなんだが……俺もあの時は大地に立つ的な喜びでそんな事目に入ってなかったからなぁ。反省。


「こうなったら翁に改造依頼を出すしかっ!」


 ぐぐっと意気込むキッテ。


 でもなぁ、俺が人間だった時に、歩いたり走ったりする人型ロボットをテレビで見たことあるけど、動いていない通常時も関節とか曲がったままで到底完全な人型とは言い難かったぞ? さすがにテクノロジー(人形造形術)の限界では?


「話は聞かせてもらった!」


「だ、誰っ?」


 急に会話に割り込んできた男の声。

 どこから聞こえてきたのかと思いきや、アトリエの裏口の扉から。


 そこにいたのは、開いた扉の枠に背中を付けてもたれながら、片足を逆側の枠へと伸ばして、腕を組んだポーズの男。

 こんなポーズ普通はやらんぞ……。


「あ、あなた、なんでここに!」


 キッテが驚くのも無理はない。なぜならこの男はここにいるはずがない男だからだ。


「俺を呼んでいる声がしたからだ」


 何を言ってるんだこいつ。


「おいっ、リューサルマ! 逃亡は重罪だぞ!」


 声と共に現れたのは王宮騎士のジョシュアさん。

 マグナ・ヴィンエッタを襲ったレグニアの一人であるこの男、リューサルマを牢屋に放り込んで監禁しているはずの責任者である。


「逃亡ではない。未来への投資だ。俺のではない。妹のな」


 何を言ってるんだこいつ。


「妹さん? あなた確か……報告書には、妹にいじめられて性格がひん曲がった情けない兄、って書いてあったけど」


「ほう、お前も妹としての才能がありそうだな、キーティアナ・シャルルベルン。いいぞ。俺をもっとなじるがいい」


「え……、ちょっと……。

 ジョシュアさん、この人、早くお引き取りいただけますか?」


「ああすまない。囚役労働中に急に走り出したと思ったらこのありさまだ。さあ帰るぞリューサルマ。今なら明日のデザート抜きだけで許してやる」


「待て、大事な話なんだ。キーティアナ、いや、キッテよ。俺にはお前が抱えている問題を解決する策がある」


「えっと……馴れ馴れしくキッテって呼ばないでくれます?」


 キッテが冷たい目をしている。

 元々悪は大っ嫌いな上に、性格が相いれないものだからやむなしか。


「いいぞ、その目。俺の妹としてふさわしいようだな」


「そんなことは許さんぞリューサルマ! キッテは私の妹だ。勝手に兄を名乗るのであればその命奪わねばならぬ」


 こっちはこっちで目がマジだ。おいおい、人の家の中で真剣を抜くな。

 大の大人が二人そろって、キッテの教育に悪いじゃないか。


「そうはいかない。ジョシュアよ。おまえは妹のためであればどんなことでもする系の兄であろう?」


「無論だ。そして今まさに妹に害をなそうとしている男を排除しようとしているところだが?」


「ふん、視野が狭すぎる。お前の妹は一人ではない」


「なん、だと!?」


 いや……なん、だと!? じゃねえよ。そもそもジョシュアさんに妹はいないからな。


「聞かせてもらおう」


 …………。もう好きにさせておこう。


 不毛なシスコンたちの会話をまとめるとこういうことだった。


 ジョシュアさんが助けたというリューサルマの妹ミリシャ。

 マグナ・ヴィンエッタの (コフィン) 内に満たされているリビルジェン・メタルジアの中で保護しているという話だったが、長い間魂が抜けていると体の機能が落ちていくというお告げがあったらしい。(リューサルマ談

 そこで、リハビリがてら誰かに動かしてもらったほうがいいのでは、と思い立ったのだという。


「というわけで、ミリシャの体に乗り移って、アルバイトをさせればいい。そうすればミリシャが復活したときのためにもなるし、お前のためにもなるというわけだ」


 リューサルマのお告げ(夢)に出てきたという女性の姿は、テレッサの友達エルフのデルハイケさんにそっくりな容姿だったようなので、夢ではなくマグナ・ヴィンエッタの機能を使って通信したのだろうと予想している。


「分かった」


 キッテが抑揚のない声で答える。

 シスコンたちの会話に疲れてしまったのもあるが、それ以上にこの二人にミリシャを任せておけないので自分が保護しなくては、という想いが強そうだ。


 そして数日後。

 デルハイケさんによって、ミリシャ(体)が届けられた。


「さて、お姉さんはこれで失礼するわね」


 と言って、マグナ・ヴィンエッタに戻っていった。忙しい中ありがとうございます。


「じゃあエミール、やってみて」


 早速ミリシャ(体)に憑依する黒いもや型霊体エミール。

 モヤモヤがミリシャの口に吸いこまれるように中へと入っていくと――


「おお、ミリシャの目が! 今まで開くことのなかった目が!」


 ゆっくりとミリシャの目が開いた。


「Aa~、Aあ~、あー」


「おぉ! 声まで! いいぞ! ミリシャの声だ! さあ、いつもみたいに俺をののしってくれ! さあ! さあ!」


「え、えっと……」


 やたらとテンションの高いM兄のリューサルマに対して、おとなしめの性格であるエミールは怯えているようだ。


「ちょっと、変態悪人兄! エミールがおびえてるでしょ!」


「あふん……。いい。お前もなかなかの腕前じゃないか。キッテ」


「だから、キッテって呼ばないで! それよりも」


「あぁ、分かってる。今からミリシャらしさを出す修行をするぞ!」


「え゛っ?」


 このM兄、何もわかっちゃいないぞ。


「今のままではミリシャの姿をした偽物だ。貴様に妹とは何かを徹底的に教え込んでやる! まずは声出しだ! 俺の後に続け! 「キモイんだよ、このクソ兄貴」さんはい!」


「すまない、公務が立て込んでいて遅れてしまった。新しい妹の誕生に立ち会えないなどと、兄の名折れ!」


 ややこしいところにシスコンの王宮騎士がやってきたぞ。


「遅かったなジョシュア。すでに俺の妹は復活した。そして妹としての能力を着々と伸ばしているところだ」


 いや、伸びてないからな。


「なるほど。おお、ミリシャちゃんだね。私はジョシュア。キミを虐待する兄から救った真の兄だ。お兄ちゃんと呼んでもらえると嬉しい」


 いや、中身はエミールだから。この前会った時に自己紹介しただろあんた。


「二人ともっ! エミールが怯えてるでしょ。はいはい、自称兄の人たちはいったんエミールから半径5mは離れてください」


「あ、ちょ、キッテ。すまない、押さないで欲しい」

「横暴だ! 兄より優れた妹などいない!」


 ぐいぐいと力づくで押していくキッテ。大の男を二人押すパワーは、パワーグローブ(026話参照)の力であって、華憐なキッテがゴリラのようなパワーを持っているわけではないのであしからず。


 などという仕切り直しがあって。


 エミールはなんとかミリシャの体を扱えることが実証され、これならアトリエのアルバイトも問題ないという事になった。

 身長と見た目がS学生であることがネックだが、法の守護者である王宮騎士が容認しているのだから大丈夫だろう。しばらくは【王宮騎士承認 実年齢140歳アルバイト】という札をつけて働いてもらうかな。


「それで? 妹はどこに住むんだ?」


「うーん、考えてなかったけど、アトリエに住み込みかな」


「だったら俺もここに住むぜ。妹が住んでいるのに兄が住まないわけにはいかん」


「そ、そんなこと許可できるか! 可憐な妹キッテの傍に野獣をのさばらせておけるわけがないっ!」


 そっちが理由か。この人犯罪者ですよね? 王宮騎士ならそちらを咎めるべき。


「ふん。俺はミリシャの保護者だぞ。その権利はある」


「ぐぬぬ、だったら私もここに住んでお前を監視する! 二人の妹を守らなければ!」


「ぐえええええええええええええっ!」


 あほかーーーーーーーーっ!

 リューサルマは牢屋だろ! ジョシュアも家に帰れ!


 ここまで黙っていたが、さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。

 いったい全体何を言ってるんだこの二人はっ!


「ぐえちゃんの言う通りだよ、犯罪者は犯罪者らしく収監されてなくちゃ。ジョシュアさんもちゃんと仕事してくださいね」


「だったらなにか? 妹も牢屋だってのか?」


「待ちたまえ、それは困る! あんな牢屋では光り輝く妹の存在価値が図れない!」


 何を言ってるんだ王宮騎士。


「ひらめいた。このジョシュア・ノルクロス。全てを解決できる案を思いついたぞ!」


「ほう? 言ってみろ。貴様の兄力(あにりょく)を見定めてやろう」


「ふふふ。その案とは、宿舎だ! 宿舎を作ろうじゃないか。ノルクロス家の財産で! 確かここの横の家が売りに出されていたはず。そこを買い取って増改築! 妹ちゃんと、仕方ないけどその愚兄、そして私も住もう!」


 お、おい、キッテ! あんな事言ってるぞ?


「え、あ、うん、いいね、宿舎……。そのうえ無料……」


 あかん、キッテの目から光が失われて、判断力が落ちてる!

 おい、キッテ、戻って来い!


 ぺちぺちとキッテの頬を叩く。


「はっ! ぐえちゃん、宿舎……宿舎立てよう! ほら、妹ちゃんだけだったとしてもさ、よくよく考えたら寝る部屋ないし。ねっ!」


 覚醒したものの、ぶっ飛んでイッてしまってる!


「そうだぞ赤ドラ。妹には最高の寝所を用意すべきだ」

「その通りだぐえちゃんよ。反対なのは君だけだ。さあ、さあ」


 ええい、これは人助け! ミリシャの体のためだ。宿舎は受け入れよう! だけど! 宿舎に住むんなら働いてもらうぞ!


 俺はぐえぐえーっと鳴いて、キッテに翻訳を促す。


「いいだろう! 出所後の資金を貯めないといけないからな。就職先が見つかってラッキーだ」


「犯罪者が市井に出るなら監視が必要だ。必然的に私も住むことになる。これは法律で決まっていることなのだ。無論私も非番の時は働こうじゃないか」


「ジョシュアさんも働いてくれる……。いい……。二人の共同作業……。それいい……」


 頬を赤らめながら意識は遠くへ飛んでいってしまっているキッテ。

 いったいどんな妄想をしているんだか……。

 

 ああもう! こんなんでアトリエは大丈夫なのか!?


「あの……、私の意見は……。いえ、……なんでもないです……」


 盛り上がる3人の輪に入れず、小さくなっていたエミールの姿に俺が気づくのはかなり後の事だった。


 ◆◆◆


 はぁ、なんでこんなことになったのか。


 俺はアトリエの隣の家が職人たちの手によって増築工事をされている様子を見てため息をついた。


 昨日の今日。宿舎建設を押し切られてからまだ1日もたっていない。その間に、横の家の売買契約は済んで、工事が始まっている。

 工事は日中に行われて、朝晩は住むことができるため、ミリシャ(エミール)はアルバイトが終わったら隣に戻るという感じとなる。


 そして月に一度はボディチェックを受けなくてはならないそうで、風の棺(ウインド・コフィン)まで行くことになるため、その日はアルバイトはお休み。キッテが接客する日となる。

 つまり、その日以外はキッテは魔法道具を作りまくれるわけであり、素材採取に行く目途も付いたというわけだ。


 というわけで、行くぞ、不死鳥の住処へ!(やけくそ

お読みいただきありがとうございました。

ここまでが第7話の前半になります。後半は錬金術師らしく素材集めになります!

もちろん一筋縄ではいかない展開が待っていますので、お楽しみに!

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