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077 なんでもかんでも触ろうとしない

 アトリエ運営はしないといけないけど情報も集めなければならない。

 今日も今日とて図書館に来たわけだが、どうやら様子がおかしい。


「やだ、もう」

「怖いわ」


 女性客が足早に図書館を後にしている。


「何かあったんですか?」


 入口の司書さんに尋ねると――


「それがね、数日前からポルターガイストとか奇妙な音とかがするようになっちゃってね。このまえ何十年も開けられてない倉庫を掃除したのが原因かもしれないわ」


「幽霊なんですか?」


「封印されていた魔物かもしれないわね。今のところ被害はないんだけど、人気(ひとけ)のない棚に行くときは注意してね」


 ――とのこと。


「ぐええ」


 まあ実害が出てないなら俺たちは調べものを続けるだけだな。念のため精神体用のアミ持ってきとくか? あのデュークガストと戦った時に使ったやつ。


「そうだね。念には念を。ぐえちゃんを守るためには慎重に慎重を重ねないと」


 うーん。ちょっと過保護なんじゃないか。

 確かに俺は弱っちいけど作ってもらった大風の腕輪もあるし。


「ほらぐえちゃん、奥に行こうとしない。一回帰るよ!」


 ふよふよと浮かんでいた俺は、ぐいっとキッテに引っ張られて胸の中へと収められて抱きすくめられてしまった。


 どこにも逃がさないぞという意思を感じる抱っこのままアトリエへと戻り、目的のアミといろいろなゴースト対策魔法道具をカバンにセットして再び図書館へ。


 引き続き目的の本を探し始めたのだが。


 これ、どうにかならないのか……


「ぐえちゃん、はがしちゃだめだよ」


 そうは言うがなキッテ……ピラピラして落ち着かないんだが。


 俺の体には霊体を弾くというお(ふだ)が何枚も貼られている。おでこや背中、尻尾にまで。


 キッテがどーーーーしても、って言うから貼ってみたものの、飛ぶときに風の抵抗でビラビラビラビラするし、剥がれてしまわないかも気になる。


 なあったらキッテ。


「だーめっ!」


 はぁ。しばらくはこの姿で調べものか。


『ダ……テ……』


「ぐええ?」


 ん? キッテ、なんか言ったか?


「どうしたのぐえちゃん? おなかすいたの? でも駄目だよ、図書館は飲食禁止なんだから」


 いや、違うくて……


『ダ……テ……。ココ……ラ……』


 !?


 気のせいじゃない。声が聞こえる。

 キッテの声じゃない。他の客か?


 俺は天井すれすれまで上昇してみたが、近くにまったく人はおらず、こそこそ話が届いてくるようなこともなさそうだった。


『ダシテ……』


 何かいる!


「ぐえっ、ぐえっ!」


「うん。私にも聞こえたよ。きっと司書さんが言ってた魔物だよ!」


 それらしきものは……おっ、怪しい書物を発見だ。

 本棚の上のほう。一見すると革製の表紙をした高価そうな本が、黒いもやに包まれていた。


 ……ああいう煙、この前見た気がするぞ。確かキッテが本を開いて……。


「ぐえちゃん? 何か見つけた?」


 おっと、それは後だ。今は報連相(ほうれんそう)。キッテに伝えないとな。


 キッテ、原因はあれに違いないぞ。あれあれ。


 すると相棒は阿吽の呼吸でターゲットを見つけてくれる。


「魔物? なのかな?」


 あ、ちょっと、キッテ、やみくもに触ろうとしない!


 棚の上のほうにあったのでキッテの背丈では届かない。とはいうものの頑張って、うーんうーんと背伸びしてその本に手を伸ばしているキッテ。

 もちろん俺はそれを止める。


「大丈夫だよ、手袋してるし、ほら、ぐえちゃん、どいてどいて」


 上のほうの棚にある本を取るために用意されている梯子(はしご)を持ってきて、再びチャレンジしようとするキッテ。


 確かにキッテの手には悪の力を弾いてしまうゴム手袋のような魔法道具がはめられているのだが、っと!


 伸びてきたキッテの手をよけようとした俺はふらついてしまい、問題の本へとぶつかってしまった。


 すると、本を中心に渦巻いていた黒いもやが、さーっと本から抜けていくと空中へと集まって……再びもやの塊を作り出した。


『ダシテ。ココカラ。ダシテ』


 今度は確かに聞こえた。声の主はこの黒いもやで間違いない。


「出してってことは、どこかに入って出れないのかな? 自由に空を飛んでるように見えるけど」


 封印されてるんじゃないか? よくあるパターンだろ。甘い言葉で人を引き付けて封印を解かせるやつ。


 ちょ、ちょっとキッテさん、なんでもかんでも触らない!


「この本、ふつうの本みたいだ。封印されてるのは別の本なのかな?」


 ちょっと目を離した隙に、先ほどまで黒いもやが集まっていた本を手に取っていたのだ。

 まったくもう。


 そんなやり取りをしていると、黒いもやがすーっと移動し始めた。


 ゴーストにしろ封印された魔物にしろ、そのままにしておくわけにはいかない。

 俺たちは、黒いもやを追いかける。


 司書さんを呼んでおいたほうがよかったなと思ったものの後の祭り。

 このまま手がかりを失ってはいけないと思って、俺たちは追跡を続行する。


 部屋を移動して階を上がったり下りたり。

 いくつかの書庫を通ってたどり着いたのはこれまた人気のない書庫の棚。

 でもここは以前に来たことがある場所だ。


 そして黒いもやは、とある場所で動かなくなる。


「あれ、この前ほこりが出てきた本だ!」


 あー、やっぱりか……。もしかしてキッテが開いたあの時に何かの封印が解けたんじゃ……。


『ダシテ。ココカラダシテ』


「うーん、どうやったら出れるの?」


『デレナイ。デレナイ。ダシテ』


 おっと返事があったぞ。意思疎通可能なタイプか。


「えっと、あなたはだれ? どうして本の中にいるの?」


『ワカラナイ。ワタシハ……ダレ。ズットクライナカニイル』


 これだけじゃ邪悪な存在かどうか分からないな。

 本に触れるのも危険だし、とりあえず司書さんに伝えにいくか?


「そうしよっか」


 図書館の本を勝手にあれこれするのもはばかられるので、責任者に伝えようと思った俺たちが踵を返すと――


「ぐえっ!」

「きゃあっ!」


 黒いもやが俺たちにまとわりついてきた。


『マッテ。イカナイデ。ダシテ。ココカラ』


 俺はすぐさま自分のおでこに貼られていたお札を剥がして、キッテの額に貼る。


 このもやはどうやら霊体らしく、札の周囲には近づけないようだ。

 それでも目の前10センチもするともやが渦巻いているのだが。


「こまったね。どうしよっか」


 うーん。このまま移動しても、このもやを引き連れていくだけだしな。


「そうだ。名前を付けよう」

「ぐええ?」


 急にどうしたんだよ。


「んーとね、たしか名前を付けると支配下におけるとかどうとか、本で読んだことがあるんだ。支配下においたら危険だっても制御できるでしょ」


 いやまあ確かにそうだけど。


「よーし、あなたの名前はモヤ子」


『モヤコ……』


「そう。女の子な感じがするからモヤ子だよ!」


『ださいのでお断りします。断固拒否します』


「ええっ!?」


 急に流暢にしゃべりだしたぞ!?


『あまりにもダサい名前を付けられそうになって自分の名前を思い出しました。私の名前はエミール。モヤ子ではありません』


「モヤ子ってダサい名前なんだ……」


 キッテの驚きは、モヤ子改めエミールが流暢に話し出したことに対しての驚きではなかった……。


 まあ俺もエミールと同意見だ。悲しいが現実を見ようぜキッテ。

お読みいただきありがとうございます。

次回、自称エミールさんの正体とは。

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