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075  生ける金属を作り出せ!

「お手上げだよーっ!」


 キッテの叫びがアトリエにこだまする。


 まあ、キッテが声をあげたくなるのも無理はない。

 なぜかというと、俺たちはリビルジェン・メタルジアを作ることにしたのだが、肝心のレシピと製法が分からないからだ。


 テレッサ大百科に記載があるんじゃないかと思って隅から隅まで読んでみたが、なんの情報も見つけられなかった。

 もちろん白紙のページは数多く残されている。つまり、今見れるページに情報が無かったというわけだ。


 前当主であるママに聞いてみたけど、ママでも分からないとのこと。いっそのことテレッサに聞いたらいいのではと思うところではあるが、確かテレッサ自身が製法が失われたって言ってたし、それこそ今マグナ・ヴィンエッタは完全防御状態。(コフィン)の中にも入れない状態になっていてヒントを聞くことすらできない。


「私が当主として未熟だから? まだ白いページが多いからダメなの?

 そうだ、当主レベルを上げる秘薬の作り方、作り方……、あ、それよりもまずは当主レベルを数値化する魔法道具(マジックアイテム)を作らないと……、ええと、当主レベル、当主レベル……」


 煮詰まっておかしなことを言いだしたキッテがばらばらとテレッサ大百科のページをめくっていく。


「ぐええ」


 落ち着けキッテ。焦ってもいい効果は生まれないぞ。成長っていうのは一歩ずつ着実に進んでいくものなんだ。


「でもさ、急いで作らないといけないんだよ? そんな亀のごとき歩みじゃ私、おばあちゃんになってもリビルジェン・メタルジアを作れてない気がするよ!」


 おばあちゃんのキッテか。あまり想像がつかないけど、いつまでたっても怪しげな薬品を作ってる感じかな。いいーっひっひとか言いながら嬉々として毒々しい色の薬品が入った錬金が間を混ぜてるような?


「ええと、成長、成長……。

 これは筋肉ムキムキになる薬、これは俊足になる薬……。

 背を高くする薬、背を高くする薬は……きっとあるはず! まだ私が未熟なだけ。私が背が低いのも未熟だから。あああああああああああああああ」


「ぐえっ!」


 もはや目的も見失うほどに狼狽しているキッテからテレッサ大百科を取り上げる。

 とりあえず頭を冷やそうなキッテ。


「ああっ、返してよぐえちゃん」


 腕を伸ばして大百科を取り返そうとするキッテ。

 そうはいくかと俺は大百科を持ったままフワリと浮かび上がり、キッテの手の届かない位置へと脱出する。


「ねえぐえちゃーん、ほら、返して。えい、えいっ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて俺を捕まえようとするキッテだが、そうはいかない。


「分かったよぐえちゃん。落ち着くから。すーはーすーはー」


 手を広げたり閉じたりしながら大きく深呼吸を始めたキッテ。

 本当にもう……。子供みたいなことするんだから。やれやれ。


「と見せかけて、やーっ!」


「ぐええええっ!?」


 争いに終止符を打ったと見せかけてのキッテの頭脳プレイ。

 油断した俺は跳ね跳んできたキッテの腕につかまれて、そのまま二人でベッドへとダイブすることになった。


 こら、キッテ! 危ないじゃないか! って、ええっ!?


 驚いた。

 なぜかと言うと、俺とキッテの間に挟まっているテレッサ大百科が光を放ち始めたのだ。


「ぐえぐえっ!」


 どういうことだ。今のでキッテが成長したのか? いや、絶対にそんなわけはないと断言できる。

 つまりは何か違う条件があるってことか? 俺と一緒に触るとかいう条件があるのか?


 おっと、それよりも今は新しいページだ!


「当主必見。壁の修復の仕方?」


 キッテが声を出して読んでくれる。


「壁の修復に必要なリビルジェン・メタルジアが無くなってきたら作りましょう。材料は、不死鳥の灰、悟りの気配などが必要です。詳しくは金属の章13項へ。って、ええーっ、そのページ見れないよ!?」


 だめかーっ、とベッドに仰向けに倒れこんだキッテ。

 ぼふっと言う音と共に風が巻き起こって、それに合わせて机の上に置いていた紙が舞い上がる。


 ひらひらと舞い落ちてきた一枚を手に取ったキッテは、それを一瞥してからくしゃくしゃに丸めるとゴミ箱へと投げ捨てた。


「ぐえっ?」


 捨てていいのか?


「あれ、実家に来てたチラシ。ほら、錬金術師のお子さん育てます。夏期(バダ)講習開催中。ってやつ」


 あれか。キッテには必要ないってのにな。


「ううーん。こういう時は図書館だよ。本は全てを解決してくれる! アダマント著の【実録 上流階級の嗜み】にもそう書いてあったし」


 まあそうだな。さっそく行ってみるか。


 ◆◆◆


 王都ゼノシュレーゲンにある王立図書館。250年以上も前から存在する由緒正しい巨大図書館だ。

 入館にはわずかばかりのお金が必要なんだけど、俺たちは王様から許可をもらっているので支払う必要は無い。

 許可というのはお仕事のための許可。シャルルベルン家が担う、外の記載のある書物の修正のために必要だからだ。

 調べもののために何度も通うとなるとそのわずかばかりの出費もかさんでくるから、それが無くなるのは嬉しいものだ。


 それなりに広い図書館内へと足を踏み入れる。

 司書さんはいるものの古い書物が整理されていない区画も多いので、まだ見ぬ情報も眠っているに違いない。


「とりあえず鳥類図鑑さがそっか」


 今分かっている情報は、リビルジェン・メタルジアの作成には不死鳥の灰と悟りの気配、あとその他の素材が必要ということだけだ。

 まずは判明している二つの中から簡単そうな不死鳥の灰をの情報探すことにしたので、キッテがこう言っているわけだ。


 俺は本棚の上のほうを担当していく。役割分担だ。大人の背丈でも棚の上のほうは届かない。ちっちゃめのキッテではなおさらだしな。


 本を手に取ってはペラペラとページをめくっていくが、文字ばかりの本が多くて鳥の挿絵はなかなか見つからない。


 どうだキッテ? ありそうか。


「げほ、げほっ」


 キッテのほうに視線を向けた瞬間のこと。キッテの開いた本からぼふりと黒いほこりが巻き上がって、キッテはむせ返っていた。


「なんで本にほこりが挟まってるのさぁ。もう」


 大丈夫か? 古い本だったのか? 災難だったな。


「ぐえちゃんの方はどう? 何か見つかった?」


 俺のほうもさっぱりだ。もうちょっと表のほうの棚なんじゃないか?

 ここは奥過ぎるかもしれないな。


「図鑑だもんね。いこっか」


 などとそれからもしばらく探したものの有効な手掛かりは見つからず。

 明日も探しに来ることにして図書館を後にしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

第7話が始まりました。まずは、ほのぼの成分をお楽しみいただければと思います。

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