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012 初めての外出

「そうだったね~。あの時はすっごく驚いたよ」


 二人で回想を終えた後のキッテのセリフ。

 キッテはベッドに寝転がったまま両手を伸ばして俺を掲げるように持ち上げて、ゆらゆらと左右に揺らせてくる。

 特に不快でもないので、俺はキッテのなすがままにしている。


「いつも一人だったからお友達が欲しくてね。そしたらご先祖様の本とペンダントが光り出したんだよね」


 あぁ、確かにご先祖様の本(テレッサ大百科)も光っていた気がするな。

 あの時はそんなすごい本だなんて知らなかったんだけどな。


「ぐえちゃんが来てからだったかなぁ。私、すごく元気になったんだよね」


「ぐえぇぇ」


 俺がキッテに出会った頃、キッテの体は弱く、家からも出ることが出来ない状態だったな。

 でも俺はそんなことはつゆ知らず。


 だから、まさかあんなことになるなんて思わなかったのだ。


 ――――――――

 ――――――

 ――――

 ――


 ◆◆◆


 俺が赤い小さなドラゴンになってから数日。つまりキッテと出会ってから数日たった。

 キッテの家にはキッテとパパとママが住んでいる。優しそうな声の二人で、キッテの事をとても愛している二人だ。

 残念ながら俺はまだ二人の姿を見たことが無い。なぜなら二人がやって来ると布団の中に隠れているからだ。


 「お人形さんのフリをしておけばいいよ!」とキッテは言っていたが、愛情ある二人の事だ、買い与えた人形の数と種類なんかは当然覚えているはずで、急に見たことが無い人形があったら怪しまれるに違いない。


 そんなわけで二人からは隠れなくてはならず、結果として俺はキッテの部屋から出たことが無い。

 俺とは違ってキッテは家の中であれば自由に行動できる。食事なんかは食卓で食べているらしい。

 「ママのオムレツおいしいの!」などと自慢げに話してくれる。

 そんな話を聞かされてはこちらも空腹待ったなしになるかと思っていたのだが、ドラゴンは何日も食べなくてもへっちゃらなのか、今の所空腹感はない。

 食べていないから出るものも無いのか、おかげで切羽詰まってキッテの部屋から出る必要が無いのは良かったともいえる。


 家の中とは言え、キッテの部屋は凄く明るい。

 その理由の一つとして、ベッドの横には大きな窓があって、そこから外の景色が見えるのだ。

 庭には花壇があって、色とりどりの綺麗な花が咲いている。この世界にも四季があるらしい。

 キッテが「(シューレ)だからパパとママが沢山お花を咲かせてくれるの!」って言ってたからな。

 最初はしゅーれ?ってなったけど、どうやら季節の事で、(シューレ)(バダ)(クワティッキー)(スワナル)と言うらしい。いろいろとしゃべりたいキッテが絵本を見せて語ってくれた。


 窓から見える景色はそれだけではない。

 庭の先にある門。そしてその先に見えるのは広大な農地。その中にある休耕地では子供たちが遊んでいるようだが、遠すぎて具体的に何をしているのかを見て取ることは出来ない。

 その様子をキッテは羨ましそうに眺めていた。


 俺には外で遊べない程にキッテが病弱であるとは思えない。

 ただの病弱だというわけではなく、根本的な病気があるのかと言われると、パパとママの会話から察するにそうでもないようだ。


 現にキッテは元気いっぱいなのだ。

 俺を抱きかかえてグルングルンと回転するのはもちろんのこと、浮いている俺を捕まえようと飛び跳ねたり、逃げる俺に追いつこうとドタバタと駆けまわったり。

 さすがにベッドの上でトランポリンのように飛び跳ねていた時はママに怒られていた。

 幼児ってのは元気だというのは知識で知っていたが、一緒にいるとすごく体感できるというものだ。


 だから反対はしなかったのだ。

 ある日パパとママが二人そろってお出かけで、家にはキッテしかいない、っていう日に「ねえぐえちゃん、外に行こうよ!」って言いだしたキッテの提案を。


 俺とて外には興味があった。外だけじゃない。この家の中がどうなっているのかにも興味があった。

 キッテがガチャリと部屋の扉を開けてトタトタトタと駆けて行く。

 俺はぐえーと言いながらその後を追いかけるのだが、キッテの足が早い! というよりか俺の飛ぶスピードが遅いのか。

 今まで部屋の中だけだったから分からなかったが、幼児の全力疾走に負けてるぞ。


 キッテの家はそれなりの豪邸だった。

 家の外に出ようとして全速力で玄関に向かったキッテがくるりと戻ってきて、「ちゃんと着替えなきゃ」と言っておめかししている間に、ちょっとだけ間取りを探ってみた。

 食卓のある部屋、キッチンのある部屋、風呂、トイレ。1階にはあといくつかの部屋があったが、取っ手の形が握って回すタイプの部屋の扉を開くことはできずに中は未確認。

 2階への階段もあって、途中にはキッテの侵入を防ぐためか、柵のようなものが取り付けられていたが、これで防げるのは2歳児くらいまでだろう。

 どうやらその先には仕事部屋があるらしかったが、家の中にしては珍しく鍵がかかっていた。


 だいたいの探検を終えたらキッテの部屋に戻る。

 キッテはオレンジ色のワンピーススカートを着て、同じくオレンジ色のお帽子をかぶっていた。

 うんうん。可愛いぞ。


「ぐえー」


 しっかりと愛らしさを伝えてあげる。


「早く外に行きたい? もうちょっと待ってね」


 どうやら俺の想いは伝わらなかったようだ。


 白の靴下をはいて準備が完了。

 テテテと駆けだして玄関へ。そこで小さな靴を履く。

 この世界も日本と同じく土足厳禁なのか、それともキッテの家だけなのか。


「ぐえちゃん、はやくはやくー!」


 靴を履き終えたキッテが手を振って呼んでいる。


「ぐえぇ」


 申し訳ないが、俺もドラゴンになりたてで飛ぶのに慣れてないのだ。ちょっと待ってね。


 早く早くとせかすキッテに合流して。玄関ドアを開いて外へと旅立つ。

 庭に出て石詰みの塀を超えた先、そこには広い世界が広がっていた。

お読みいただきありがとうございます。

異世界感ある季節名をお届けしました。

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― 新着の感想 ―
キッテちゃんは、両親に愛されているのですね♪ 主人公が、お人形さんの中にまみれても、 気付かれてしまうのですから!
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