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108/108

108 最終回 少女の成長を見守る物語

 ――バァァァァン


「わひゃっ!?」


 大きな音立てて部屋の扉が開かれ、俺たち二人は思いっきり体を震わせた。


「な、なんだ!?」


「あ、間に合いましたか? どうやらギリギリセーフのようですね。よかったです」


 幼い声の主。開かれた扉の外には10歳くらいの小さな女の子が立っていたのだ。


「えっと……」


 誰? どこの子?


 天空城に俺とキッテ以外の人間はいない。免罪プログラム中の方々は城の下部にある免罪空間内にいて外には出れないし……。


「あぁ、初めまして、ですかね、()()


「ぱ、パパぁ!?」


「ぐ、ぐえちゃん!? 隠し子? 浮気!?」


「ち、違う!」


「パパの言う通りですよ、ママ。私はママとパパの娘。愛情を込めてつけてもらった名前はキーディン」


「キーディン……」


「はい! 私はキーディン・シャルルベルン。初夜に失敗したことがトラウマになったママに言われて未来からやってきました!」


 ちょ、ちょっと待った! 情報量が多すぎるぞ!


「見たところ、まだ子作りしてないみたいですね。間に合ってよかったです」


「ちょっとまて、子作りって!」


「そ、そうよ。まださっきちゅっちゅ始めたばかりで、子供ができるちゅっちゅはしてないから!」


「ん?」


「なに?」


 俺はキッテの顔を見る。

 キッテはそんな俺の意図が掴めず、はてなマークを浮かべている。


「あぁ、やっぱりですね。子作りの何たるかを理解してないママのままですね」


「えっ? 夜中の間ずっと二人で話をしながらちゅっちゅし続けたらいいんじゃないの? ニーヤはそう言ってたんだけど!?」


 あぁ、純粋培養。驚きなのは子供キッテの記憶を持ってるはずなのにそう思っているということで、つまりは知識が豊富な子供キッテもそれを知らなかったということだ。


「なるほどなるほど。ママから教わった情報によりますと、この後、ママが子作りしようとするんですが、方法を知らなかったから失敗してしまって、パパもそこで奥手に逆戻りして、見事に初夜は失敗。お互いがぎくしゃくしてしまうという話でした」


「ってぇ! 一体こんな小さな子供に何を話してるんだよキッテは!」


「まあ、私もそこについてはどうかと思いますが、聞いてしまったものは仕方がありません。それに、娘としてもパパとママは仲良くしてほしいじゃないですか」


 偉く達観した娘だな……。


「そういうわけで、こちら、未来のママからのお届け物。素敵な初夜の過ごしかたが書かれた本です。あ、私は中を見てないですよ? なにやら子供は禁止(R18)らしいので」


 トコトコトコと歩いてきた自称娘のキーディンちゃん。自称とは言え、本物だろうとの確信がある。どことなく今のキッテ(ヘレン)に似ている、銀色の髪の褐色肌の女の子。


 それに、以前の世界の歴史として、時間逆行機なるタイムマシンを未来のキッテが作り出したことで、子孫であるテレッサがさらに過去へと赴いてマグナ・ヴィンエッタを作り出したことを知っている。だから娘が未来からやってきてもおかしくはない。


「えっ、こんな、はうっ……」


 などと考えてる間に、キッテはその本を取って顔を赤くしながら内容に見入っていた。


「どうですか?」


「ちょっと、キーディンちゃん、駄目!」


 そんなキッテの様子に興味を抱いたのか、本の中身を覗き込もうとするキーディン。

 俺は慌てて抱きかかえてそこから引きはがす。


 その本は10歳の子供が見ていい内容じゃないに違いないっ!


 ――バァァァァン


 そんな混乱の中、扉が開いた。


「私の名前はキーディン! 技を覚えたお母さんに搾り取られすぎたので、自らを絶倫にする秘薬を持って行けってお父さんに言われてやってきました!」


 ――バァァァァン


「ママ、大丈夫ですか! キーディンがやってきましたよ! 絶倫になったパパから一週間連続で襲われ続けて涙目のママに言われて、ちゃんと禁欲剤持ってきましたから、これで安心です!」


 ――バァァァァン


「お父様、会いたかった! ずっと会いたかった。死んじゃってからずっとお父様に会いたくて、抱っこしてもらって添い寝してもらって、ちゅーもしてもらいたかった!」


 ――バァァァァン


「間に合った? あ、初夜の前ばっちりね。あ、パパ? キーディンの事、ママより愛して欲しいの! だからママより先に子作りしよ?」


 ……何かがおかしい。

 いや、何かどころじゃなくて、本当はこの状況がおかしすぎるのだが、そうじゃない。


 まず、この自称娘たちが連続してやってくる現象は、未来が変わってるから起こっていることだっていうのはわかる。


 初夜失敗→悲鳴を上げた俺→逆に悲鳴を上げたキッテ→死んだ俺?→寝取られる俺????


 というように、最初のキーディンちゃんがやってきたことで次々と未来のスイッチが変わっていって、続々と違う未来のキーディンちゃんがやってきているのだろう。


 まあそこまではいい。未来は無限大だ。俺とキッテが仲良くやっているということだろうし、キーディンちゃんが来たことでさらにこの後も未来が変わるのだろう。 

 

 ()()()()()()()()()()()()


 目の前にはキーディンちゃんが何人もいる。みんな少しずつ違っていて、俺に似たのか褐色肌ではない娘もいる。

 それは未来が変わっているが故の結果ではあるのだが、今、それを同時に確認出来てしまうのはおかしいのだ。


 キッテがヘレンになったように、変化後の未来になれば変化前の未来は消えてなくなるはずだ。

 つまり、二人目のキーディンちゃんがやってきた時点で、一人目のキーディンちゃんは消えているはずなのだ。

 同時に複数いるってことは連続した時の流れに逆らっていて、ありえないんだ!


 ――ピシッ


 俺の考えを邪魔するかのように、何かがひび割れる音がした。

 そう思った瞬間――


 ――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 耳を塞ぎたくなるような爆音が発生し、目の前の空間がまるで透明なガラスにひびが入って割れ広がっていくかのように割れ弾けていく。


「キッテ! キーディンちゃんたち! 下がって!」


 すぐに危険回避に向けた行動をとるが遅かった。


 ――バリィィィィン


「くっ!」


 空間が割れた衝撃が走る。


 何が起こったのか把握しようとしていた俺の視界に飛び込んできたのは――


「やった! 成功!」


 なんだかとっても見たことのある、首から下を真っ白な全身タイツを身に着けて胸元はオレンジ色のチューブトップ、下にはオレンジ色のミニスカートを履いた女の子。


「あっ! きゃあっ!」


 ボムッという音と共に、女の子と一緒に現れたヘンテコな機械が爆発して……押し出された女の子はべたりと地面に倒れ込んだ。


「あぁもう……これはもう直せないね」


 機械の惨状を見た女の子のセリフ。


「き、キッテ……?」


 そう言わずにはいられなかった。

 目の前の女の子は、俺が小さな竜として長い間相棒を務めたキーティアナ・ヘレン・シャルルベルンその人だったからだ。


「あっ、もしかして!」


 キッテ(?)がアンテナのようなものを俺に向ける。


「やっぱり! あなた、ぐえちゃんね! 会いたかったよ!」


 ぴょいんと飛びつくように俺の方に向かって抱き着いてくる。


 だが――


 俺の体はスッと(ちからまかせに)その軌道から逸らされてキッテ、ややこしいからヘレンと呼ぶが、ヘレンの体の後ろに隠される。


「きゃうっ!」


 ボスんと顔からベッドの上に飛び込んだキッテ。


「ちょっと、何するのよ! って、アナタ、この世界の私ね?」


「キーティアナ……。もう一人のあたし……。よく知っている」


 二人のキッテが見つめあう。


 あ、お母さんだ、と言っているキーディンちゃんもいる。

 いったいどういう事なんだ。


「本当にキッテなのか?」


 もはや何が何だか分からない。説明を要求する。


「そうだよぐえちゃん。もう少し正確に言うと、私は幼いころからぐえちゃんと一緒に過ごした世界のキーティアナ。あの時、ぐえちゃんを助けられなかったキーティアナ」


 あの時というのは、不死鳥の灰を探しに行ったとき、竜の咢で俺が巨大植物に食われた時のことだろう。


「未来時空理論は正しくて、あのとき未来は変わって分岐した。そして変わった未来によってできた世界がここ。

 変わらなかった私の世界はそのあとずっとぐえちゃんの存在しない世界。たとえ私が時間を行き来できる魔法道具を作って過去に戻ったとしても、それは過去のぐえちゃん。仮に過去から連れて帰ったとしても、そこでまた未来は分岐してしまう。

 だから私は()()()()()()()を探すしかなかった。きっとどこかにいるって信じてね。

 でも、これ、ぐえちゃんレーダーなんだけど、これで自分の世界にはぐえちゃんがもういないことが改めて分かっちゃったんだ。そうだっていうのは分かってたけどすごく悲しかった。

 だけど、自分の世界じゃない別の世界。分岐した本筋の世界にぐえちゃんがいるかもしれないと思って、必死になって開発したんだよね、この、次元跳躍君108号を!」


 残骸となったものを指し示すキッテ。

 いろいろよくわからないが、時間軸が縦軸だとすると次元軸は横軸で。未来が分岐して、それぞれの世界に自称娘のキーディンちゃんが存在して、未来のキッテは時間も時空も超える機械を作っているのだということであれば、横軸と縦軸が重なったことでキーディンちゃんが消えずにずっといるのもうなずける。


「作ったのはいいけど、次元を超えるのに必要なエネルギーを溜めるのも時間がかかって、結局3年もたっちゃった」


「3年。そう言われると……」


 つまりこのキッテは18歳ということだ。身長はあれからあまり伸びてないようだが、それ以外の所は成長してる。


「やだっ、じろじろ見ないでよぐえちゃん。太ったんだから」


 大きく成長した胸と尻を手で隠すキッテ。

 身長が低いままでそんな成長を遂げるとは……。


「それで? 別の世界の私は何の用なの? 用が終わったらはやく帰ってほしいな」


 俺を取られると思っているのか、渡すまいとして俺の体をぎゅっと抱きしめるヘレン。


「もちろんぐえちゃんに会いにきたんだよ」


「じゃあもう会ったからいいね。どうぞお帰りください」


「あぁー、残念だけど、ほら、次元跳躍君108号は壊れちゃったし、直したとしても、戻るエネルギーを溜めるのに2年くらいはかかっちゃうかな。だから、それまでは一緒だよ」


 そう言って、キッテは俺の逆サイドにやってきて、俺の体に手を伸ばしてぎゅっとしてくる。


「ちょっと! だめ、だめよ!」


「何が駄目なの? ぐえちゃんと私は相棒なのよ。それはアナタ(わたし)も同じでしょ?」


「ぐえちゃんはあたしの!」


 ヘレンのほうに引っ張られる。


「つまり私のってことじゃない」


 キッテの方に引っ張られる。


「ダメ、今のぐえちゃんはあたしのなの! あなたがあたしだからって渡さない!」


「ちょっと、二人で喧嘩しないの」


「そうそう、私は別に独り占めしようとしてるわけじゃないよ。だってわたしもアナタもキッテだし」


「がるるるる! 私もうぐえちゃんと子供つくったんだから! 一晩中愛し合ってちゅっちゅしたんだから!」


「えっ、なにずるい! 私もする」


 ぐえっ! こらキッテ、無理やり俺の首を回して自分の方に向けるんじゃない。


「あのう、お母さま、キスしただけでは子供はできないんですが……」


 ヤンデレNTR時空からやってきたキーディンちゃんがおませな知識を投下する。


「そ、そうだったわ、物の本にそう書いてあったんだった」

「えっ! 一人だけずるい! それ私にも読ませて!」


 二人は俺からバッと離れて、一緒に倒れ込むように、物の本へと突っ込み奪い合いを始めた。


「お、おい、二人とも……」


「ねえ、お父様、今のうちにキーディンと……」


 いつの間にかヤンデレキーディンちゃんが俺の服を脱がそうとしてる!


「あっ! いいな! 私もパパとスモウする!」


 私も私もといって、やってきたキーディンちゃんズが俺に群がってくる。ていうか、相撲を知ってるのか? 未来の俺が教えた?


「あ、ちょっと、脱がさないで、キーディンちゃんたち」


 小さな子たちを力任せに振り払うことも出来ずに、複数のキーディンちゃんに成すがままとなってしまう。


 ――バァァァァン


 既視感のあるこの音は……


「娘に寝取られて嫉妬に狂ったママが差し向けたキーディンです! パパをせっかんしますのでお覚悟を!」


「そして私も同じ理由のキーディンです。今更一人増えようが二人増えようが関係ないですよね、お父様。それではお覚悟を!」


 二人同時に現れたキーディンちゃん。

 いったいどうなってるんだぁぁぁぁぁぁあ!


「だめよ、だめよ! 娘は健全に育てないと!」


「そうよ、わたし。子作りできるのは大人だけなんだから!」


 二人のキッテが戻ってきて俺の上に乗る。

 左右にキッテ、頭上も両手も両足もキーディンちゃんに固められている。もはや逃げられない。


「ほら、背の高くて引き締まった体、好きなんでしょ」


 はい。


「あーっ、私だって背は伸びなかったけど、成長してるんだから。ほら、昔はそんなになかったけど、どう?」


 はい。しっかりと成長してます。やわらかく重いです。


「きゃぁーっ、これが大人の営みなのね。ほら見て、ああやって私たちが生まれてくるのよ」


 自称娘に見られながらのプレイとか、高度すぎやしませんかね。


「ほら、ぐえちゃん! どっちからと子作りするの?」


 どっちから、ときましたか。もはや二人ともがやることに異論はないのね。


「さあ、わたし? それともわたし?」


 ニンマリと笑みを浮かべるキッテ。


 キッテは言い出したら意見を曲げない。ヘレンだってそうだ。それに娘たちが見てる前で俺が逃げ続けるかっこ悪い姿を見せたくもない。


 誰か一人だけだったなら俺は乗り切っただろう。

 だけどニンマリとしたあの笑みを浮かべるキッテが、現れるタイミングからなにからなにまで計算してこの状況を作ったというのなら、もう俺に逃げ場はない。


 もはや覚悟を決めるしかない。


「分かった! 俺も男だぐえちゃんだ! 相棒の願いは全部聞き入れるのがぐえちゃんってもんだ!」


「やったー! じゃあまずどっちから?」


「まずは……」


 俺の言葉でどっちが先かが決まるこの状態に、ごくりと唾をのむ二人のキッテ。


「まずは、部屋の片づけからです! キッテが乗ってきた残骸を片付けなさい! キーディンちゃんもですよ! どうせ部屋の外には乗ってきた何台ものタイムマシンの残骸があるんでしょ!」


 ええーーーーーーーーと大ブーイングが起こった。





 俺の名前は衛藤鷹取(えとうたかとり)、いや、ぐえちゃんだ。

 このお話は小さな錬金術師の女の子の成長を見守っていくお話。


 そしてそれはどうやら娘の成長を見守るお話になりそうだ。




 ――完――




作者のセレンUKです。

本作、「キッテのアトリエとご先祖様の不思議な本 ~小さな竜に転生したので病弱な少女が立派な錬金術師になるのを見守ります~」を最後までお読みいただきありがとうございました!


途中からすごく路線が変わったのに最後までお読みいただけて嬉しい限りです。

色々書くつもりではありましたが、結果としてすべての風呂敷を畳むことができませんでした。


・バザー姉ちゃんやリィンザーはどうなったのか。

・クララセント嬢は不埒なチール(転生者)を捕まえることができたのか。

・アルベールと一緒に行くことを決意したディクトは壁の外に出たのか。


等々(アトリエで雇ったリューサルマ(歪んだシスコン)の妹ちゃん(幽霊のエミールに操られている)も気になる)。


何らかの機会がありましたら書ければいいなと思います。


さて、大切な事なので二度言いますが、最後までお読みいただきありがとうございました!


よろしければ、ブクマ、感想、レビュー、評価の応援をお待ちしております。

応援はこの下の☆ ☆ ☆ ☆ ☆を★ ★ ★ ★ ★に変えて頂ければ完了です!


是非ともよろしくお願いします。



宣伝となりますが、私の作品「ヤダヤダヤダと泣かれても俺スライムなんで -お嬢様と過ごすモンスターライフ-」https://ncode.syosetu.com/n9081ga/ をお読みでない読者様は、ぜひ読んでみてください。



それでは皆様どうもありがとうございました。

次回作でまたお会いしましょう!

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