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光差す海  作者: 長谷川真美
5/6

太陽のぬくもり

群から離れて晴れて独り立ちした二人

生きることを大切にし始める

思い出をたくさん作っておこう

時間は有限なのだから

晴れて(ひかり)と付き合うようになった。引っ越し作業の合間にデートをする。ランニングサークルのメンバーからは可愛らしいカップルと言われている。群から離れて一緒にランニングをしたり、光の影響で始めたトレッキングをしたりなど第一印象では大人しい光からは思いつかないようなアクティブさだ。ランニングは心臓の動きと呼吸で生きていることを実感する。トレッキングは自然への畏怖と時折見せる美しさに魅了される。光といると世界が明るくなる。新しい世界を見せられる。ここまで世界はすばらしく寛容なことを知らなかった。少しでも光と過ごした世界の跡を残したくてアパートの部屋から探り出したカメラを始めることにした。被写体は主に光だった。あとは風景が主だった。トレッキングでは良い写真がたくさん撮れた。光がカメラをじっくり観察した。私が撮った写真を見せると星空と月の写真を光が気に入った。額縁に入れてプレゼントをすると光はそれを大切そうに扱った。アルバムをみて「泰臣さんは橋が好きなんだね。」無自覚の内に集められた写真を見て光が微笑む。「好きだよ。だから医者にならずに土木工学を勉強してきて気がついたら研究者になっていた」


 光はよく食べる。その細身の体のどこに入るのか分からないぐらいだ。ランニング後は肉を食べる事が多いが男性用の大盛りの焼肉と大盛りライスをぺろりと平らげる。ラーメン、餃子、チャーハンは鉄板だ。光はいろいろな意味で生きる事に貪欲だ。「美味しいものを食べていると生きててよかったと実感するんです。」食後のデザートのジェラートを幸せそうに頬張る。

 

 ひかりに誘われて富士山のご来光を見にいった。日が無い事がこれ程までに身を凍らせるような寒さだとは思わなかった。冬の装備に身を纏い光に寄り添う。光が指を差す。闇から一筋の光が差し込む。太陽が登っていく。太陽の光のぬくもりを感じる。暖かな光。一日の始まりを告げる。お鉢巡りをしてカップラーメンを食べる。気圧の影響でいつもよりもぬるいラーメン。だけど美味しかった。二人で笑い合う。同じカップでコーヒーを一緒に飲み合う。光と一緒にいる時間は楽しかった。このまま時間が止まればいいのにとつい思う。光にその事を話すと光は首を横に振った。「私は泰臣(やすおみ)さんともっとたくさん思い出を作りたいから一緒にいられる時間をもっともっと増やしたい。」この時の筆談のメモは結婚した今も大事にとってある。


 研究室生の研究が一段落した後に引っ越し作業が佳境を迎える。引き継ぎ作業の量がとてつもない。新しく助手に着任する他大学のポスドクに時間が許す限りレクチャーを続ける。本も図書館の本と研究室の本、私物に分けていく。写真が出てくる。写真の中の私は若かった。34歳で助手に着任した時の写真だった。38歳の私は白髪とシワが増えた。思わず光の年齢を考える。光からは年齢を感じさせない。文学博士号持ちでポスドク歴を考えると30はいっているが明るい性格の光は年齢不詳だ。大学の博士過程の同期の結婚式の写真が出てきた。写真の中では二人は幸せそうに見えた。光は白無垢とドレスのどちらが好きか。思わず妄想が膨らむ。私は次男坊だ。光も家を継いだ兄がいるらしい。だから家のことは考えなくても良かった。図書館まで軽トラを借りて大量の本を持っていく。図書館までの道中に光が台車で本を持ってきていた。車中から手を振り軽くクラクションを鳴らす。光の台車の本を車に載せる。光を助手席に乗せ図書館に向かう。「ありがとうございました。助かりました。」頭をペコリと下げる。二人して図書館に大量の本を持ち込む。大半が書庫行きだった。人気のない書庫で二人きりになった。「光、好きだよ。」手話で伝える。唇を重ねる。最初は固いが次第に柔らかくなっていく。「私まだ生きていたい」光が小声で囁く。あまりに愛おしくて体を抱き寄せる。光を抱きしめていると不安が消えていく。暖かな体温が洋服越しに伝わる。「私も生きていたい」太陽のような光のぬくもりを感じていった。FIN.

光が麻生教授を明るい世界に連れて行っています。

光には音がありません。だからこそ余計に生きることに貪欲なのかもしれません。

私の作品に図書館が多いのは学生時代だけではなく社会人になってからも通いつめているおなじみの場所だと思います。とくに書庫は甘酸っぱい青春の場所です。


2017/8/5 

サイダーが弾ける夏の夜

長谷川真美

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